~遊撃士協会 グランセル支部~
「さて、皆さんには色々仕事をこなしていただく形となるのですが……その前に二日ほど各地に行っていただき、リベール通信の依頼をこなしていただきたいのです。」
「リベール通信となると……ナイアルが?」
「ええ。」
エステルの問いかけにエルナンは頷き、その依頼内容を話し始めた。
依頼者はナイアル。何でも、生誕祭の開催に合わせて特別号を出す予定であり、遊撃士協会に“巷の有名人お薦めの一品”依頼と各地方の観光スポットを探してきてほしいとのことだった。
「前者の依頼に関しては……ここにいる人たちで言うと、エステルさん、シェラザードさん、アガットさん、ジンさん、サラさん、クローディア王太女殿下、ティータさん……それに、リィンさんとスコールさんもですね。」
「あはは……リィンやスコールはともかく、あたしなんかが有名人だとは思えないんだけれど……」
「そんなこと言ったら、私だって同じだよエステルお姉ちゃん。」
「先生の影響もあるかもしれないけれど……僅か一ヶ月でB級に昇格したエステルが言えた台詞ではないと思うわよ?それに、ティータだってラッセル博士絡みである意味“有名人”なのだし……」
苦笑を浮かべるエステルとティータにツッコミを入れるシェラザード。色んな意味で枠にとらわれないエステルの存在と、あの天才博士の孫娘という肩書は否応にも目立つ……それを知らぬのは本人達だけである。
「あはは……となると、あたしとシェラ姉はロレントかな。」
「自ずとそうなるでしょうね。」
「フッ、ならば同行させてもらうとしよう。」
「……(オリビエ、自ら死地に飛び込むだなんて……)」
「エステル君………その生暖かい目は何だね?」
エステル、シェラザード、オリビエはロレントに
「俺はツァイスだな。キリカの奴が色々言ってきそうだ……」
「あはは……」
ジンとティータはツァイスに
「俺はボースだな。ミーシャの奴が家に帰ってるらしいから、会いに行かねえとな……」
「なら、俺も同行させてもらいます。」
「ああ。オッサンやアスベル仕込みの腕前、期待してるぜ。」
アガットとリィンはボースに
「アタシはルーアンね。お薦めと言えばあそこしかないでしょ。」
「そう言って、本当は飲みたいくせに……」
「てへっ♪」
「笑って誤魔化さないの。」
「その、道中の護衛お願いします。」
サラとスコール、クローゼはルーアンに行くこととなった。
「決まりましたね。グランセル、アルトハイムとレグラムの方は他の遊撃士の方にお願いしておきます。」
1.ロレント~エステル・シェラザードの場合~
「あたしは何と言っても『十段重ねクレープ』!程よく酸味と甘味が上手くマッチングしててすごく美味しいのよ。顔馴染になれば裏メニュー的の二十段重ねクレープが食べられるしね。」
「……冗談だと思いたいが、エステル君の食べっぷりからするとありえない話ではないね。」
「どういう意味よ、オリビエ……シェラ姉は?」
「アタシは『天々テンプラー』ね。素朴かつシンプルなのに素材がいいだけあって単品でも確かに美味しいけれど、酒のつまみとしても結構イケるのよね♪」
「何と言うか、やっぱりシェラ姉らしい感じなのね……って、オリビエ?」
「ガクガクブルブル……」
「あ、トラウマが再発しちゃったのね……」
2.ボース~アガット・リィンの場合~
「色々あるにはあるが……『豪華飲料<楽園>』だな。疲れた時に飲めば、この先も頑張ろうって気にさせてくれるからな。」
「俺は以前ハーケン門で食べた『グルグル熱視線』ですね。辛みがありながらもその旨みはなかなか味わえません……アガットさん?」
「……アレを美味いと言った奴はお前が初めてだろうな。何せ、日によって辛さが違うらしい。俺が食べた時は一番辛い時に当たってな……」
「あはは……ご愁傷様です。」
3.ルーアン~サラ・スコール・クローゼの場合~
「ルーアンは魚料理がおいしいけれど……アタシは『潮風のスープパスタ』ね。あの魚介類が凝縮した旨み……海の男たちの料理って感じが最高で、酒も進むのよ!」
「お前が絡むと全部酒にしかならないな……『厳選ハラス焼き』も捨てがたいが、俺はエア=レッテンで食べれる『塩釜の甲羅焼き』だな。ああいったシンプルさが素材の味を存分に引き出していて、こっちにきたらよく通ってるよ。」
「何と言うかアダルティですね。私は『魅惑の魚介畑』です。料理のおいしさもさることながら、マリノア村のロケーションを楽しみながら美味しい料理を頂けるのがよいところですね。」
「……言ってることは至極まともなんだが、それ普通の2倍以上の量じゃないか?」
「え?シオンもこれぐらい食べますし、普通ですが?」
「いやいや、シオンはともかくとして……アタシですら、王太女様の胃袋が謎に思えて来たわ……」
4.ツァイス~ジン・ティータの場合~
「俺は『漢鍋<山>』だな。山の風味が凝縮したかのような美味さ……カルバードにも美味しい料理はあるが、リベールはそれ以上かもしれない。ティータは?」
「えと、『陸珍味<粋>』です。以前お祖父ちゃんに勧められてからはまっちゃって……あの、ジンさん?どうかしましたか?」
「いや、お前さんの感覚が年相応に思えなくなったのさ……(それ、酒のつまみなんだが……)」
「ジンはある意味当然とも言える感じだけれど、ティータさんは私でも意外だったわ。」
「グッ、容赦ねえな、キリカ……」
「あははは……マードックさんにもそう言われたことはあります。」
5.レグラム~ヴィクター・トヴァルの場合~
「私は『レインボウの塩焼き』だな。エベル湖で釣れるレインボウは身が引き締まっていて、食べ応えがあるからな。」
「何と言うか、魚が聖女様の加護でも受けてるんですかね……俺は『ビターオムレツ』だな。ほろ苦な感じがこれまた癖になるんだよな。」
「それには同意するが、私としてはやはり妻の料理が一番だな。」
「惚気はやめてくださいよ……」
6.アルトハイム~ラグナ・リーゼロッテ・リノアの場合~
「俺は『百戦百勝ステーキ』だな。コイツがねえと人生の半分を損した気分になるからな。」
「何と言うかラグナらしいね。私とリーゼロッテは『ロイヤルジェラート』なんだけれど………」
「~~~♪(十五段重ねを堪能中)」
「リーゼの『これ』には勝てないわ。」
「いや、勝とうとする方が間違ってるから。」
7.グランセル~アスベル・シルフィア・レイア・シオンの場合~
「俺は『ホット海汁』だな。本場となるとルーアンになっちまうが、それに比肩するほどの海鮮の甘味が癖になるのさ。」
「シオンは海鮮系か……私は以前のアレと同じぐらいに気に入っているのは『漢鍋<力>』かな。ああいうガッツリ系じゃないとここぞという時に力が出ないしね。」
「それ、漢の台詞じゃないの、レイア……私は『情熱タマゴ焼き』ですね。シンプルなものほど素材の味というのがダイレクトに出ますし……アスベルは?」
「『完熟ライスカレー』だな。グランセルにきたらよく行ってるし、お蔭で顔を覚えられたよ。尤も、店を除けばウェムラーさんの鍋でも書こうかと思ったんだけれど……」
「アレを食べて無事だったのはお前とルドガーぐらいだぞ……」
「アスベル、人間なの?」
「人間だよ……………多分」
~二日後 リベール通信 編集室~
「………」
「あれ?ナイアル先輩、どうしたんですか?」
「ん?ああ、ドロシーか。今度出す特別号の特集記事の編集だ。」
出されたコメントレポートと睨めっこする形で向き合っていたナイアルの姿にドロシーが首を傾げつつ声をかけ、ナイアルは答えつつもレポートを読み進めていた。
「ほえ~……って、エステルちゃんたちのレポートですか。中身が濃いコメントですね~。」
「流石は遊撃士というべきか……おかげで手間が省けるどころか編集が大変なんだがな。」
遊撃士という職業はここまで事細かにレポートするのかと思いつつ、頭を抱えたくなりながらも編集を進めることになったナイアルであった。
「ほえ~、大変ですね。」
「お前も他人事じゃないんだがな……こいつ等が集めてくれたところの写真を撮ってきてくれ。」
「あ、ハイ!了解しました~!!」
「……その元気が羨ましいぜ。」
ある意味呑気さもこういった時ぐらいは役に立つのだと……ナイアルはほんの少し思った。
~遊撃士協会 グランセル支部~
二日後、報告をするために再び集結したエステル達。なお、クローゼに関しては式典の準備などのために朝一でグランセル城に戻った。
「皆さんご苦労様でした。ただ、先方からもう少し簡潔にしておくよう頼まなかったのはこちらのミスだとか言っておりましたが……」
「あはは……」
「ある意味職業病みたいなものだから、勘弁してほしいわね。」
エルナンから伝えられた言葉にエステルは苦笑し、シェラザードも笑う他なかった。
「報告を見たところ、『塔』の光の事もあるようですが……そちらは王国軍に任せることとします。今日の午後には女王生誕祭の開催式……各国の首脳陣もお目見えします。皆さんにはそちらの警護に当たっていただきます。」
「えっ?」
「それは、遊撃士というよりは軍の仕事なんじゃねえのか?」
エルナンの言葉にリィンは流石に首を傾げ、アガットも疑問を投げかけた。確かに、この場合で言えば王国軍が護衛に就かなければ面目が保てないのでは……その疑問は尤もだとエルナンは答えつつも説明をつづけた。
「先日の件からして同じことが起こらないという保証はありません、ということもあるのですが……『中立』の立場から国賓を護衛するとともに、リベール王国軍と遊撃士協会が友好関係を築いていることで『二重の安全』を内外にアピールする……その狙いもあるようです。」
「成程……」
「ほえ~……」
先日の再決起未遂事件……その反省から、カシウスは街道などの警護に軍を充て、そして国賓の警護にはそのプロフェッショナルとも言える遊撃士―――エステル達を抜擢したのだ。幸か不幸か一線級の実力者揃いのリベールの遊撃士協会……実力的にも申し分ないと判断したのだ。
「役割ですが、ジンさんはサラさん、スコールさんとロックスミス大統領ら共和国の方々をお願いします。」
「妥当な役割だな。」
「ま、それがいいでしょうね。」
「了解した。」
カルバード出身のA級遊撃士“不動”ジン・ヴァセック。A級遊撃士の“紫電”サラ・バレスタイン、元『執行者』にして“光の剣匠”の嫡男……“影の霹靂”もとい“黒雷の銃剣士”スコール・S・アルゼイド。
「帝国にはリィンさん……後で来ますが、アスベルさんやシルフィアさんの指示に従ってください。」
「了解です。」
帝国出身者の<五大名門>―――<守護貴族(インペリアル・ガーディアン)>シュバルツァー家の嫡男であるリィン・シュバルツァー、S級遊撃士“紫炎の剣聖”アスベル・フォストレイト、同じくS級“霧奏の狙撃手”シルフィア・セルナート。
「クロスベル自治州……マクダエル市長らはエステルさん、シェラザードさん、オリビエさんにお願いします。あと、シオンさんもそちらに加わっていただきます。」
「ある意味無難ね……オリビエを除いて。」
「全くね……」
「失敬な。この時ばかりは空気を読めないほど愚かではないつもりだよ……というか、大丈夫なのかね?シオン君を入れて……」
「……まぁ、向こうにも遊撃士はいるけれど……大丈夫だと信じたいわね。」
B級遊撃士エステル・ブライト、A級遊撃士“銀閃”改め“陰陽の銀閃”シェラザード・ハーヴェイ、『不世出の天才演奏家』オリビエ・レンハイム………その正体は、『放蕩皇子』オリヴァルト・ライゼ・アルノール、そして『王家』シュトレオン・フォン・アウスレーゼの名を伏せて生きている王室親衛隊大隊長にしてA級遊撃士“紅氷の隼”シオン・シュバルツ。
「公国にはアガットさん、ティータさん……後で来るレイアさんでお願いします。」
「成程、先日の依頼で顔を合わせてるし、ティータはあのガキと知り合いだからな。それと、申し分ねえ実力のレイア……無難な人選ってとこか。」
「そーですね。えへへ、レイアお姉ちゃんやティオちゃんと一緒に行動できるんだ……」
A級遊撃士“重剣”改め“紅蓮の剣”アガット・クロスナー、ラッセル博士の孫娘にしてアスベルらと強い信頼関係を持つ“導力技術の申し子”ティータ・ラッセル、そしてS級遊撃士“赤朱の槍聖”レイア・オルランド。
「そういや、女王陛下やクローゼの方は大丈夫なのか?」
「ええ。そちらに関しては王室親衛隊が受け持ってくれるそうです。後は、カシウス准将も念のためにグランセル城まで来るそうです。」
「父さんが!?」
「西ゼムリアの四か国のトップらが一堂に会しますから……女王陛下としても『英雄』であるカシウスさんの存在感は出しておきたい……そういった狙いかもしれませんね。」
今までになかった四か国の国家元首クラスが一堂に会する………本来であれば、四か国の中間地点……クロスベルでの開催を検討していたのだが、安全上の理由からリベールでの開催となったことを説明に加えつつ、話を続けた。
「それに、今回は条約のみならず、ZCFの総合博覧会もあります。その関連でティータさんの警護は重要……なので、アスベルさんやシルフィアさんの次に実力的に申し分ない方……アガットさんとレイアさんを抜擢しました。」
「そっか、アガットはレーヴェ、レイアはヴァルターって人に勝ってるから……『執行者』と同等だものね。」
報告にあった『戦績』から鑑みても、二人はティータの護衛としては申し分ない……エルナンはそう結論付け、エステルもその実力を目の当たりにしているだけに納得して頷いた。
「ええ。あと、クルル・スヴェンドさんとフィー・クラウゼルさんがティータさんの護衛に就くことになりました。」
「……あれ?クルル・スヴェンドって……」
「スコールが話していた『執行者』の名前と同じだけれど……元ってことなのか?」
そして、更なる名前の中に気になった名前―――エステルはそれが引っ掛かり、同じように引っ掛かりを感じたリィンがクルルについて尋ねる。
「ああ……その二人は強い。特にクルルは“剣帝”以上の実力者だ。」
「………強さって何なのかしらね。」
「全くだな……」
スコールの言葉を聞いたサラとジンは遠い目をして『若者の人間離れ』という現実から目をそむけるような印象を感じさせる佇まいをしていた。
次回、いよいよ生誕祭開幕。
彼とかアイツとかアレとか彼女とか色々はっちゃけます(誰だよ!)