英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第11話 帝国の想定外

―エレボニア南部 ハーメル村郊外―

 

マリクらによる『芝居』で襲撃部隊は駆逐され、レオンとヨシュアを除く村人たちが集まり今後の事を話した際、マリクの言った提案に強い口調で話したカリン・アストレイの背中に発現した琥珀色の紋章、そしてほぼ同時にアスベルの背中にも発現した青紫の紋章……

二人に現れたその紋章……いや、刻印とも言うべき力の源<聖痕>が発現したのだ。

 

「え、この力は……」

込み上げてくる力にカリンは驚き、

 

「え、え?本当だ……」

戸惑いつつも聖痕の発現の事実を受け入れるアスベルと、

 

「何でこうなるのよ……」

ため息混じりに呟くシルフィアがいた。

 

「おっ、羨ましい限りだぜ。そんな力を手にするなんてな。」

「羨ましくない力だから!………また、面倒なことになりそうね。」

一方、マリクは羨ましそうに呟き、シルフィアは文句を言いため息をつく。<聖痕>を発現した者は一つの例外もなく聖杯騎士団“守護騎士”の一人として迎え入れられる。自分の義姉である総長はともかく、枢機卿の御耳に入れるのはまずい……そう思っていた矢先だった。

 

「おや、これは面白い出来事だな。」

「な、何しに来ているんですか義姉上!?」

赤い髪の女性が姿を現す。その姿を見たシルフィアは怒りと驚きを含んだ声で叫んだ。その人物は“守護騎士”のトップ、第一位“紅耀石”の渾名を持つアイン・セルナート総長だった。

 

「何、愛しい妹の様子を見に来たのだが…どうやら、シルフィアは無意識の内に所持者を引き付ける力でもあるのかな?」

「んなわけないでしょう。」

どこぞの能力者のように惹かれあうということなど正直非科学的すぎてどうしようもない。何はともあれ、困惑する村人に説明し、アスベルとシルフィア、カリン、そしてアインが周囲に誰もいない場所に移動し、話を始めた。ちなみに、村人に対しては<聖痕>の事を黙するように法術を施している。

 

「さて……私がここに来たのは枢機卿絡みで『改革』をしたことも含めてなんだが……」

「枢機卿の改革って……何やったんですか?」

「欲の凝り固まった連中を“断罪”したのさ。“破門”絡みで問題を起こしていたことが法王の耳に入ったそうだ。それを受けて、私が処理したのだが……その絡みでこの村の存在を耳にした。一足遅かったのかもしれないが、人の命には代えられないからな。だが、“守護騎士”は今までよりもかなり動きやすくなった。」

“破門”という言葉には首を傾げるが、推測するとあの『蛇』絡みという可能性が大きい。

 

「書類整理は一人でやってくださいね。」

「私は何も言っていないのだが……」

先に釘を刺されるということは、過去にも似たようなことをしでかしていたのだろう。そういった意味では、色々と気苦労の多い人間を相手にしてきたのならば、シルフィアがああいった性格になるのも何ら不思議ではない。

 

「さて…カリン・アストレイ、それにアスベル・フォストレイトといったな。略式ではあるが、アスベル・フォストレイトを『第三位』、カリン・アストレイを『第六位』として迎える。渾名についてはおいおい決めてくれ。」

まさかの急展開に驚きを隠せない。発現した<聖痕>……そして、星杯騎士団“守護騎士”への拝命。だが、何らかの形での立場の明確化、そして明確なバックアップ体制。それらが必要だっただけに今回の出来事はいろんな意味でありがたかったのである。

 

「私のような非力の身にそのような……謹んで、拝命いたします。」

「守護騎士の拝命、確かに受け取りました。」

「ふむ……さて、カリン・アストレイ。貴女には訓練を受けてもらう必要があるな……」

元々戦闘力のあるアスベルとは異なり、ただの一般人だったカリンが<聖痕>を発現させたのだ。となれば、己を守るための技術は必要不可欠である。

 

「それは、こちらからお願いしたいと思っていました。お願いします……!!」

「解った。ただ、ちゃんと別れを済ませてから、な。」

カリンの強い決意にアインは内心笑みを浮かべた。この分だと一人前になるのはそう遠くない話だと感じた。

 

「アスベル・フォストレイト。君の艦である参号機はこちらへ手配した。それと、正騎士一人と方舟のオペレーター三人を君に付ける。その力を“己の信念”のために使ってほしい。」

「てっきり、“空の女神”のためにとか言うと思ったのですが……」

「女神とて、神に崇められる前は大抵人間だったからな。血肉や魂を捧げたら化けて出そうでな。」

女神といっても、最初から神だったわけではなく、それに血肉や魂を捧げると神聖な魂が穢れるどころか、女神自身が怒り心頭になるのでは……アインはそう思ったらしい。

 

「いつもはグータラな人間が何真面目に話しているんだか……」

「フッ、私はいつでも真面目だぞ?アスベル・フォストレイト。この先の戦いへの関与はともかくとして、身の振り方は好きにするがいい。連中の『執行者』のように、特に制限をつけるつもりはない。これは、法王直々のお達しだ。」

「法王直々というのにはありがたいですが……」

ジト目で呟くシルフィアにアインは笑みを浮かべて答えた。だが、この先七耀教会のお顔をわざわざ窺わなくても済むというのは本当にありがたい。だが、『守護騎士』とて星杯騎士団の一人……アーティファクトを回収・管理する任務を負うことには変わりないはずである。その疑問にアインが答えた。

 

「こちらの仕事の方は、無論してもらう形となるが……どこかしら、シルフィアに近しい感じがする君に対しては雁字搦めにするよりもある程度の自由を与えておいた方がいい……それでは答えにならないかな?」

「それだと納得しかねる部分が多いです……何をさせたいんですか?」

その言葉もどこかしら含みを持つような言い方に聞こえてならない……アインは小声でアスベルに尋ねた。

 

「(……その感じ、シルフィアと同じ“転生者”というものかな?)」

「(!?何でそのことを……)」

「(シルフィア本人から聞いた。もしかしたら同じような人間がいるとは思っていたが………半分カマを掛けさせてもらった。)」

「(人が悪いですね、貴女も。)」

驚きとはいえ、“転生者”という存在を知っているアイン……彼女は、続けてこう説明した。

 

「(“白面”と呼ばれる『蛇』―――結社『身喰らう蛇』に関わる人物であり、教会を破門された人物。その兆候が今回のこの一件で見られた。なので、大々的に枢機卿を改革しつつ、内密で此方に来たという訳だ。シルフィアには話しているが、君にも彼の処罰……いや、処刑の任を与える。)」

「(成程。その為にこの国(エレボニア)とあの国(リベール)に関われ、と?)」

「(その程度は君に任せよう。そのための自由であり、彼等に対抗するために雁字搦めにしたのでは対抗するための意味を成さなくなるからな。我々はあくまでも“影”の存在……影は形を持たず、故に何者にもなれるし、掴みどころなどない。)」

今回の一件で姿までとはいかなくとも、その片鱗を見せた人物……その処刑のために、切り札の一つとしてアスベルをここに置くということらしい。事情はどうあれ、これから起こりうることを考えれば都合がよいことに苦笑を浮かべそうになったのは言うまでもない話だ。

 

「……君らに“空の女神(エイドス)”の加護あらんことを。」

 

この後、カリンはアインと同行する形でアルテリア法国へと向かった。カリンは総長であるアインと彼女の親友から手ほどきを受け、一人前の騎士となれるよう研鑽を重ねていくこととなる。

 

 

――この芝居により、ハーメル村の人たちはエレボニアを離れ、グランセル地方に身を寄せることとなる。レオンとヨシュアの二人はエレボニア軍に保護された。そして、ハーメルの人間を殺したと信じたエレボニア軍の主戦派は皇帝にリベール侵攻を強く迫り、皇帝は苦渋の思いでこれを了承した。エレボニア帝国のリベール侵攻……『百日戦役』の開戦が行われるまで、あと2週間のことだった。

 

 

 

エレボニア軍は数で勝っており、負けるなど微塵にも思っていなかった。それはエレボニアに住む国民も同じで、誰しもが帝国の勝利を確信していた……

 

 

 

だが、百日戦役終結後……彼らはその驕りこそが『過ち』であった、とその身をもって知ることになる。

 

 

 

七耀歴1192年6月下旬の初め、エレボニア帝国はリベール王国に対して宣戦布告と同時攻撃を行った。一発の砲弾がリベール王国の北部に位置するハーケン門を揺るがした。ラインフォルト社製の導力戦車から放たれた導力弾は易々と城壁の一部を粉砕した。そして王国の防壁は、続けざまに浴びせられた砲弾の雨によって瓦礫の山と化したのである。

 

 

帝国軍は電光石火の如く攻め上がり、ルビーヌ川―ヴァレリア湖―レナート川のラインの手前までの領土……ボース地方とルーアン地方を瞬く間に占領した。この速さにカルバードは動くことができず、静観するしかなかったのだ。その一か月後にはロレント地方を占領、残すはツァイス地方とグランセル地方のみ。エレボニアは次の目標をツァイス地方に定めた。

 

 

だが、戦局はここで一変することとなる。ZCF・レイストン要塞で開発された最高速度2200セルジュ…解りやすく言うと時速220㎞と、この時点では最速を誇る26機の最新鋭軍用警備艇が完成し、宿将モルガン将軍の指揮の元、大規模な反攻作戦が実行されたのである。これは、アスベル・シルフィア・マリク、そしてカシウスの行った策の一つだった。

 

 

守護騎士に与えられる特殊作戦艇『メルカバ』……その巡航速度はリベール王国の持つ巡洋艦『アルセイユ』に追随している。だが、最も特徴的なのは『ステルス機能』……レーダーなどを無効化する機能を最大限に活用した。

それと、マリクの持つ『猟兵団』の調達ルートで資材を大量に買い入れ、王国軍に納入する形で運び入れた。その結果、当初は3機しか作れなかった警備艇を26機も用意することができたのだ。傍から見れば『資材のないリベールがあそこまでの飛行艇を揃えたのか!?』と驚愕する内容だが、被害を出来る限り最低限に抑えることを目標に、この策を実行したのである。

その資金源はというと、マリクが全面的に出した。正確に言えば、ここ数年でため込んだ数十億ミラという膨大な金額になるのだが、それを惜しげもなく投入したのだ。マリク曰く『安い投資』だと言いのけていた……この先を考えると確かに安いのだが……

 

リベールは軍用警備艇を使って、精鋭中の精鋭と謳われた独立機動部隊が地方間を結ぶ関所と軍備上の要所を奪還した。そして王国軍の総兵力がレイストン要塞から水上艇で出撃し、各地方で孤立した帝国軍師団を各個撃破したのである。更に、マリクの率いる『翡翠の刃』が各地で帝国の部隊を奇襲した。これらの反攻作戦によるエレボニア側の損失は約四割……リベール国内に侵攻した8個師団のうち3個師団が壊滅状態に陥る。やむなくエレボニア軍はボースに集結して再編成を図ろうとするが、これも彼らとカシウスの描いたシナリオだった。そのシナリオを知ったマリクもそれに呼応した。

 

ボースの北部に潜んでいた『翡翠の刃』の増援と南部からの王国軍の猛攻……これにより、4個師団がほぼ壊滅というエレボニアにとって予期すらしていなかった『最悪の事態』となった。

 

各地にいた残党は各都市で襲撃を行った。だが、その悪あがきすらも彼らにとっては『自分の首を絞めるだけ』の自殺行為でしかないことをその兵士らは知らなかった。

 

 

―ロレント―

 

半ばやけくそ気味であった兵士たちは所構わずに銃を撃ち放った。その光景に市民は恐怖を感じ、逃げ惑う。

 

「おかあさ~ん!」

「に……げ……て……エ……ステル……」

レナは砲撃によって崩れてきた時計台の瓦礫からエステルを庇って重傷を負い、命が風前の灯であった。

 

「誰か……助けて!おかあさんが死んじゃう!」

エステルは必死で助けを呼んだが逃げる事に必死な市民達は誰も気付かなかった。無理もないことだ……人間というものは一つの感情に支配されると正常な判断などできるはずもなく、ただ己の命を助けようと必死になっていた。

そこに、エステルの悲痛な叫びを聞いて駆け寄ってきた三人……アスベル、シルフィア、マリクが駆けつけてきた。

 

「エステル!」

「エステル、無事か!」

「アスベル、シルフィ!?お願い、おかあさんを助けて!!」

二人はレナの様子を見る。これは、一刻を争う事態だとすぐに察知した。

 

「マリク、頼めるか?」

「(母と娘、か……)無論だ!そらっ!!」

マリクはいとも簡単に瓦礫を吹き飛ばし、レナを救出した。

 

「回復が俺がやる。シルフィは念のためにフォローを頼む」

「うん」

アスベルはレナの腕に触れ、目を閉じて気を集中させる。

シルフィアは万が一の時のフォローに回り、エステルは心配そうにレナの様子を見守り、マリクは周囲を警戒する。

 

 

――我が深淵にて煌く紫碧(しへき)の刻印よ。

 

 

アスベルの言葉に応じるかのように彼の背中に紋章が発現する。

 

 

――癒の翠耀、治の蒼耀……大いなる息吹を以て、かの者の命を繋ぎとめたまえ。

 

 

アスベルの<聖痕>は一層輝きを増し、レナは青緑の光に包まれ、彼女の傷は瞬く間に消え、顔色も血の気が通うほどにまで回復した。そして、回復を終えるとレナの意識が回復し、目が開いた。

 

「あれ、私……」

「おかあさん!よかった、よかったよー!!」

「エステル……」

先程まで感じていた痛みが、まるで嘘だったかのように消えたことに対して戸惑っていたが、エステルが泣きついて、これが夢ではなく現実だとすぐに理解した。

 

「アスベル君にシルフィアちゃん……どうやら、貴方たちのおかげのようね。ありがとう。」

「ありがとう、アスベル、シルフィ!」

「レナさん、エステル、ここは危険です。早く安全な場所に避難を。」

「団長、市民の避難は完了しました。」

「ご苦労。この母子で最後だ。カシウス大佐のご家族だ、必ず守り抜け。」

「ハッ!わが身命に変えましても、その命令を必ずや!!」

報告に来た団員にマリクは念を入れてレナとエステルの誘導をお願いし、団員の先導でレナとエステルはその場を離れた。少しすると、帝国兵が三人を見つけ、発砲するが、

 

「ふんっ!!」

「はぁっ!!」

「せいっ!!」

マリクは投刃、アスベルは小太刀、シルフィアは法剣でその銃弾を難なく弾き飛ばした。その光景に帝国兵は驚きを隠せない。

 

「ほう……流石、ゼムリアストーンで出来た武器。面白いように馴染む。」

マリクは、アスベルから自分の武器である投刃の武器を強化するようお願いしたのである。アスベルは快諾し、ゼムリアストーンを用いて完成したこの世界では最高クラスの武器『アルテマエッジ』に強化されたのだ。

 

「気に入ってくれて何よりだ。さて、エレボニア帝国……いや、この戦いを主導した汝らを『外法』と認定する。いくぞ!」

「ああ!」

「ええ!」

真剣な表情を浮かべて叫んだアスベルの言葉にマリクとシルフィアも頷き、帝国兵に向かって突撃していく。

 

 

「臆するな!正義は我らにあり!!かかれ!!!」

指揮官らしき人物は自らと相手の技量すら図れない愚か者だった……彼らの恐ろしさも知らずに襲いかかった。

 

 

 

その決断が、エレボニア帝国にとって最悪の結果になるとも知らずに。

 




はい、帝国軍が既にヤバい状態ですw

ですが、更に自分たちの首を絞めまくります。

そしてあんまり描かれなかった原作キャラに活躍してもらいます。

誰なのかはお楽しみにということでw

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