英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第103話 秘められたもの

 

~トラット平原~

 

平原道を進み、分岐からエルモ方面へと歩いていたスコール達。その間、お互いのことについて話していた。

 

「それにしても、ティオすけが局長たぁ……そんなに人材不足なのかよ?」

「ランディさん、その呼び方は何ですか。」

「いいじゃねえか。その方が愛着湧きそうだしな。」

「ティオっち、諦めろ。コイツの呼び方にツッコミ入れてたら日が暮れるぞ。」

「ですね……はぁ……」

ランディの呼び方に些か不服だったようで、ティオはジト目で睨みつつ不満を漏らしたが……ランディのあっさりとした物言いに加え、スコールの言葉に諦めた表情を浮かべてため息を吐く。

 

「私の場合、確かに人材不足ということもありますが……それ以上に、私はラッセル博士の直弟子の一人ですので、その点での抜擢というべきですね。」

「ラッセル博士と言いますと……」

「アルバート・ラッセル博士……エプスタイン博士の直弟子にあたる人ね。」

導力革命を齎したエプスタイン博士の直弟子であるラッセル博士。ティオはその人に師事し、直弟子の一人として認められている。その過程で彼の孫娘であるティータとも知り合った。同い年ということもあって、互いに親友とも呼べる間柄でもある。彼に師事するきっかけは偶然だったにしろ、ティオにとっては一つの『転機』であったことには違いない。

 

「それに、私自身アルバート大公に何かと世話になった身ですので。局長への打診も大公からのものですし。」

「成程……というか、同じ名前だから混同しやすいな。」

「それは僕も思いましたよ。」

同じ『アルバート』の名前を持つ二人。しかも、双方著名人なだけに呼称をきちんとしないと間違えそうだということをスコールが呟き、ニコルも同意した。

 

「それにしても、ロイドさんはどうしてニコルさんと一緒に?」

「ああ……ニコルとは叔父さんの紹介で知り合ってさ。尤も、そのお蔭でいろいろ苦労してるけれど……」

話を変えるようにティオがロイドに問いかけると、ロイドはその問いに答えつつも疲れた表情を浮かべていた。

 

「ん?どういうことなのかしら?」

「実はですね……以前、演奏会の手伝いをお願いしたのです。幸いにもギターの演奏ができるということでその辺りもお願いしたのですが……その際に、ロイドのファンクラブができたんですよ。」

「ファンクラブって……コイツ、そんなに有名人なのか?」

「五人とも……どうやら、話はお預けのようだ。」

首を傾げるエリィとランディ……ニコルの説明でも納得できずにいた。まぁ、尤もだろう。この三人と会ってからまだロイドの『真骨頂』は披露されていないのだから。だが、その疑問を感じている暇はないと察したのはスコールだった。

 

その言葉にロイドらが眼前を見ると、大型の魔獣:オーバーアビスワームに中型の魔獣:アビスワームが七体いた。

 

「なっ……」

「あの大型、なんつーでかさだよ!?」

(あれは……もしかして、ヴァルターの奴がここで実験してた時の影響で変化した奴か?)

とりわけ、その中に居る大型の魔獣―――アビスワームの三倍以上の大きさを有する魔獣にロイドとランディは驚きの声を上げるが、スコールは元身内がしていた『実験』の話を思い出し、彼によるものではないかと推測した。おそらくは他の五人でも厳しいと思われるレベル……スコールは一歩前に出て、『エグゼクスレイン』のブレードを展開する。

 

「ロイド達、あのデカブツは俺が引き受ける。残りの連中でも厳しいと思うが、何とか耐えてくれ。」

「スコールさん!?」

「オイオイ……アンタ一人でアレと対峙するって、正気か!?」

スコールの言葉に慌てふためくニコルとランディ。だが……

 

「……解りました。スコールさん、お願いします。」

「ロイド!?」

「ニコル、この中に居る人たちの中でも、恐らくスコールさんが一番の手練れ。それに、あの大物をここで仕留めないと街に被害が出かねない……その意味でもスコールさんが適任だと思う。」

ロイドは冷静に事態を分析し、スコールの提案を呑んだ。あの大型の魔獣:オーバーアビスワームをここで捕捉できたのは偶然だが、ここで逃がせばツァイス市やエルモに甚大な被害を及ぼすようなことにも繋がる。それと、スコールから放たれる闘気を感じ取り、その印象からしても彼に任せるほかないというのが現時点での選択であった。

 

「悔しいけれど、お願いします。でも、耐えるぐらいなら打ち勝って見せます。」

「その意気だ……なら、この場でのリーダーはお前だ。いずれ捜査官を……お前が目標としている兄を目指す身ならば、その任を果たして見せろ。」

スコールはそう言って、ロイドの前に立つ。その姿にロイドは兄の姿を一瞬思い起こさせた。

 

―――兄貴、俺は兄貴のようになれるかどうかはわからない。けれども、俺は俺なりのやり方で兄貴を目指す。兄貴は言ってくれたよな?『お前に何があろうとも、俺はお前を信じる。だから、お前はお前自身を信じて貫け。今は解らなくてもいい……ロイドならいつか、その意味を解ってくれる。』って……その答えはまだ解らないけれど、今はそれを見つけるために足掻く。いつだって、どんなときだって……兄貴も、きっとそうだったように。

 

「……了解です!みんな、いくぞ!!」

「おうよ、リーダー!」

「ええ、任せたわ!」

「了解です。」

「了解、ロイド!」

「ああ!」

ロイドの掛け声に味方のメンバーは士気を向上させる。

 

ロイド・バニングス、エリィ・マクダエル、ティオ・プラトー、ランディ・オルランド……カルバード、クロスベル、レミフェリア、エレボニアの公人と縁の深い面々であり、後にクロスベル警察特務支援課として集うこととなる四人の『最初の戦い』が幕を上げる。

 

「それじゃ……お前は俺が相手だ」

「!!」

スコールはそう言って、オーバーアビスワームに近寄り、攻撃を加える。その攻撃に臆することなく反撃をスコールに向けて繰り出すが

 

「おっと……ちっ、流石に図体だけじゃないってことか。」

その攻撃をブレードで流すようにかわしたものの、ブレードから伝わる振動にスコールは舌打ちした。どうやら、単純に大きくなったわけではなく、スピードとパワーをそのまま倍加させたような印象が伝わってきた。

 

「(スコールさんがひきつけてくれている……となると)時の加護を、クロノブースト!!」

その様子を見たニコルは『クロノドライブ』の上位アーツであり、地点指定範囲内の味方の素早さを上げる『クロノブースト』を発動させ、ロイド達の行動速度を向上させる。

 

「―――解析完了。この敵はダメージを受けると、全体に地震攻撃を放つようです。」

ティオはクラフト『アナライザー』を発動させ、アビスワームのデータを詳細に掴み、ロイド達に伝えた。

 

「となると、速攻で行くしかねえか。」

「いや、数がけっこういる……最低でも三手番ぐらいは必要だ。」

ランディの言い分も尤もであるが、一気に片づけるとなるとかなりの高火力と広範囲の代物が必要。少なくとも、そう言った武器を持つのは現状で言えばエリィの銃ぐらいだろう。その中、ティオは『ある手』を使うことを四人に提案した。

 

「……私に考えがあります。ロイドさん、ランディさん。あの魔獣を出来るだけ直線に誘導できますか?」

「え?」

「ああ、それぐらいならお安い御用だが……どうする気だ?」

「魔導杖の機能―――砲撃形態『バスターモード』を使って薙ぎ払います。エリィさんとニコルさんには二人の補助をお願いしてもいいですか?」

「解ったわ。」

「了解しました、ティオちゃん。」

(……何と言いますか、提案した私が言うのもなんですが、皆さん本当のお人好しですね。)

ティオの提案にすんなりと乗った形の四人に内心苦笑したが、今は眼前の魔獣の掃討が先だと気持ちを切り替え、準備を始める。

 

「いくぞ、ランディ!」

「合点承知!」

ロイドとランディは魔獣を挑発するかのように動き回り、魔獣はそれにまんまと乗る形で二人を追いかけ、通常攻撃や落雷を繰り出す。

 

「ぐっ!?」

「ちっ!」

「二人とも、回復します。ホーリーブレス!!」

「ありがとう、ニコル!」

「サンキューだぜ!」

二人でも流石にかわしきれずに傷を負うが、ニコルが『ホーリーブレス』を発動させて二人の体力を回復させた。

 

「チャージ完了。エリィさん!」

「二人とも、離れて!!」

「ああ!」

「おう!!」

そして、ティオの声にエリィは叫び、ロイドとランディが離れる。そして、エリィは銃を構え、ティオは砲撃形態に変形した魔導杖を構える。二人の構える武器の銃口の前に展開される魔法陣……二人のSクラフトが放たれる。

 

「気高き女神の息吹……力となりて我が銃に集え!エアリアルカノン!」

「『バスターモード』起動、導力回路(オーバルドライバー)出力最大……エーテル、バスター!」

エリィの大気中のエネルギーを銃に集中させて光弾を放つ『エアリアルカノン』、ティオの魔導杖から放たれる砲撃のクラフト『エーテルバスター』が直線に並ばされたアビスワームらに直撃し、大ダメージを負う。

 

「コイツはどうだい………はあああああ!クリムゾン、ゲイルッ!!」

「これで決める!とう!はぁっ!とう!やぁ!……ライジング、サァーーーン!!」

そして、間髪入れずにランディとロイドがそれぞれ範囲攻撃のSクラフト『クリムゾンゲイル』『ライジングサン』を放ち、魔獣はその攻撃に耐え切れずに崩れ落ち、動かなくなった。

一方、スコールのほうはというと……

 

「……どうした?これで手の内は終いか?」

そう言い放つ“無傷”のスコールに対し、斬撃と銃撃の傷が無数につけられたオーバーアビスワーム。その光景からしても『異常』とも言える実力差。だが、魔獣は相対している相手が元『執行者』だということを知らない。尤も、それを知らずにこの魔獣は倒される運命にある……それを本能的に悟った魔獣は地中に逃れようとするが、

 

「逃がすか!」

スコールの斬り上げによってその巨体は高く打ち上げられる。間髪入れず、スコールは両手に握った片刃剣形態の『エグゼクスレイン』の握っている手に力を籠め、ブレードはその力に呼応するかの如く光り輝く。

 

「………はあっ!!」

そして、ブレードを振り下ろすと、刃から数多の光の刃が打ち出され、オーバーアビスワームの体はその刃によって空中に『固定』される。そして、その時には既にスコールはその場にいなかった……なぜならば、

 

「セイバー、フルアクティブ!」

大剣(セイバーモード)を構え、アビスワームの直上に飛び上ったスコール。そして、重力の慣性に従うかの如くスコールは剣を眼前に突き出し、彼の叫びにその刃は神秘的な光に包まれる。

 

「はああああっ!敵を撃ち砕け、漆黒の雷!」

そして、その剣は魔獣に突き刺さり、スコールは一足先に地面に着地した。

 

「―――ミスティック・エクレール。」

Sクラフト『ミスティック・エクレール』……そう呟いたスコールの言葉と同時に魔獣が光に包まれ、爆発する。そして、その中から回転して彼のもとに落ちてくる『エグゼクスレイン』……彼はそれの柄をしっかりを受け止め、振り下ろした。

 

「………」

その光景に、ロイドらも茫然としていたが、我に返ってスコールのもとに近寄り、スコールも一息ついてロイドらの方を向いた。

 

「お、そっちも無事だったか。多少は傷を負ったみたいだが……」

「ええ……というか、驚きだったんですが。」

「あんな化物を倒すなんてな……アンタ、相当強いな。」

「ははは……とりあえず、少し休んでろ。ちょっとこの先の状況を確認してくる。」

ロイドらにねぎらいの言葉をかけると、スコールはその場を離れた。すると、五人は力が抜けたように座り込んだ。

 

「はぁ……流石に疲れました。」

「今回のようなのは流石に“想定外”だと思うけれど……エリィとランディは見るからに疲れてなさそうだな?」

「そうでもないわよ。ちょっとばかり慣れていたことだし。」

「ハハ、この中じゃスコールを除けば年長者だしな。そういや、ティオすけもそんなに疲れてねえみたいだな?」

「まぁ、ある意味ラッセル博士に鍛えられましたので……あの人について行こうと思ったら、並の体力だと持たないんです。」

戦闘経験がほぼ皆無のニコルとロイドとは異なり、エステルやレイアらと行動を共にしたことがあるエリィ、カシウスらに鍛えられたランディ、そしてラッセル博士に“鍛えられた”ティオ……事情が異なるとはいえ、リベールに鍛えられたと言っても過言ではない三人には『慣れてしまった』ものといえるだろう。

 

(ん?何だ…?)

その時、エリィの後方……かすかに蠢く気配……その気配にロイドは違和感を覚える。

するとその時、倒したアビスワームらの中に蠢く“八体目”がエリィを急襲する。

 

「!!お嬢!後ろだ!」

「……え」

その気配に真っ先に気付いたランディが叫ぶも、エリィは反応が遅れ、

 

「「エリィさん!」」

ニコルとティオが叫んだ。

 

「………っ!」

エリィはその場から動けず、思わず身を庇うように手を翳し、目を瞑る。

 

だが、魔獣は……『彼女を襲わなかった』

 

「…………えっ」

いつまで経っても来ることの無い衝撃……それを不思議に思ったエリィが目を開けると、其処に映ったのは

 

 

「くっ………」

トンファーでアビスワームの突進を防いでいたロイドの姿だった。彼は咄嗟の判断でエリィの前に立ってその攻撃を受け止めた。彼の得物がトンファーだったというのもある意味功を奏した結果とも言える。

 

「この、やらせるかぁぁぁぁっ!!」

そして、自身の中の何かがキレたような感覚……彼の叫びと共に、彼を纏う蒼のオーラ。その呼応と共に髪の一部が空色に染まり、瞳の色が金色に変わる。

 

「ロ、ロイド!?」

「……久しぶりに見ました、ロイドのこんな姿は。」

「コイツは……」

「(この感覚……何故、ロイドさんが!?)」

その変貌に驚く四人……その中でも、ティオはその『力』が自らの持つ能力と同質であることに内心驚いていた。

一方、ロイドは魔獣を防ぐどころか弾き飛ばし、技を放つ構えを取る。

 

「放て、相応の一撃……ゼロ・ブラスター!!」

その叫びと共に放たれた彼のSクラフト……トンファーのインパクトと同時に蓄積された衝撃の威力を全て打ち出すことで甚大なる破壊力を生み出す『ゼロ・ブラスター』が炸裂し、魔獣は吹き飛んで破裂した。

 

「はぁ、はぁ………(くっ、また『使ってしまった』か………)」

その姿を見た後、ロイドの瞳と髪は元に戻り、オーラも収まると膝をついて座り込んだ。ロイドにとっては、ある意味『諸刃の剣』なだけに使いたくなかった『力』……すると、四人がロイドに駆け寄った。

 

「ロイド、大丈夫ですか!?今、回復しますね。」

「やれやれ、無茶しすぎだっつーの。カッコつけもいいところだぜ。」

「ロイドさん……」

「はは……ともあれ、皆に怪我がなくて良かったよ……エリィ?」

ニコル、ランディ、ティオの言葉にロイドは乾いた笑みを浮かべつつ、答えを返した。だが、そこで言葉をかけてこないエリィの存在に気づき、ロイドが声をかける。

 

「その……ロイド、ごめんなさい。私が動けていれば……」

「いや、あれは仕方ないと思う。まさか『八体目』がいたとは思えなかったし……俺も咄嗟に動いただけだし、それに……」

エリィの謝罪の言葉にロイドは彼女の責任ではなく、自分たちの責任だと言い、それに気づけたのは偶然だったと説明した。そして………

 

「それに、偶然とはいえ怪我もなくて何よりだよ。女の子を傷物にするようなことを防げてよかったし、特にエリィのように綺麗な子は、傷一つでもつけたら大変だしな。」

「………」

「………」

「………」

「………はぁ」

笑顔でそう言い放ったロイドの言葉にエリィ、ティオ、ランディは茫然とし、ニコルはため息を吐いた。

 

「(うぅ、この状況でその言葉は反則だわ…気になっちゃうじゃない…)」

「(この人、流石ガイさんの弟なだけはありますね……)」

「(サラッとそんなセリフを吐きやがって……あれか!?他の女性にもそんなこと言ってるのか!?だからファンクラブとかあるのか!?)」

「(ロイド……君は一体何人奥さんを作るつもりなの?)」

先程の言葉にエリィは頬を赤く染めつつ気持ちが揺らぎ、ティオはある意味兄譲りの魔性さにジト目でロイドを睨み、ランディはニコルの言っていたファンクラブがそう言ったことからできたのではないかと推測し、ニコルに至っては遠い目をしていた。

 

「あの~?四人とも?黙り込んでどうしたんだ?」

「おーい、今戻った……何だこの状況………」

四人の表情に何が何だかわからない表情を浮かべるロイド……すると、そこにスコールが戻ってきた。スコールは一通り見回して状況を『把握』した後、ロイドに一言。

 

「ロイド、エリィに対してちゃんと責任を取れよ。」

「え?はい?」

その言葉の意味が解らず、首を傾げるしかなかったロイドであった。その後は先程よりも弱めの魔獣を倒しつつ、エルモに到着した一行であった。

 

 




ロイドの力に関してですが、これは本編で触れていた出来事に関わる話です。
あと、早速フラグ1個目。

スコールの技はエグゼクスバインのT-linkセイバーという技をイメージして書きました。武器の名前『エグゼクスレイン』ですし。

次回、温泉回……の予定。

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