~エルモ村~
魔獣らと戦闘を繰り広げたロイドらだったが、何とか無事に目的地であるエルモ村にたどり着いた。
「へぇ~、なんつーかこじんまりとした感じだな。」
「確かにそうだけれど……そういえば、お祖父様達は先に来ているのかしら?」
率直な感想を述べるランディ、そして先に行ったであろう自分の祖父の事が気がかりなエリィ。それも無理はないだろう。先程自分たちが遭遇した大型の魔獣の一団……それらの襲撃がなかったとは言えないだけにロイドらも心配したが、彼等の姿を見て声をかける少女がいた。
「あれ?エリィにスコールじゃない。」
「え?」
「おお、エステルか。無事だったか?」
少女―――エステルの声にエリィは自分の名前を呼ばれたことに首を傾げ、スコールは視線の先にエステルの姿を見つけ、声をかけた。
「無事って……あたしやシェラ姉、リンさんや市長さんも問題なくたどり着いたわ。」
「そっか…ん?シオンとエオリアは何かあったのか?」
「……シオンはエオリアさんに抱き着かれてるわ。シオンも諦めちゃったみたい。」
「わぁお」
エステルの言葉から察するに……どうやら、エオリアの毒牙にシオンが根負けした形となったようだ。というか、エルナンあたりはこの状況を内心楽しんでそうしたに違いないと思った。でなければ、シオンとエオリアを同席させようなどとは考えないはずだろう……変わってやりたいとは思わないが。
「ま、それはそれとして……エステル、さっきアビスワームの変異種みたいなものに襲われたんだが……そっちは何ともなかったのか?」
「変異種というか、七色に光るアビスワームに出会ったわ……気色悪すぎて全力で吹き飛ばしちゃったけれど。」
「レ、レインボーに光るアビスワームって……」
「想像するだけで気色わりぃな、オイ。」
「悍(おぞ)ましいことこの上ないですね、その魔獣。というか、何なんですかこの国。」
「あははは………」
エステルの言葉に対する各々の反応も尤もだろう。恐らくは『結社』の『実験』による影響であると思われるのだが、それにしたとしても……正直気分が悪くなるのは誰にだって同じだろう。
「ま、それはともかく……そっちの四人は初対面よね。あたしはエステル。エステル・ブライトっていうの。こう見えても遊撃士よ。よろしくね!」
「どうも……ロイド・バニングスという。よろしくな。」
「ティオ・プラトーです。よろしく。」
「ニコル・ヴェルヌです。よろしくお願いします。」
「ランディ・オルランドだ。よろしくな、エステルちゃん……って、ブライト?ひょっとして、カシウスのオッサンの?」
自己紹介をする四人……ランディはエステルの名字に気付いて彼女に尋ねた。
「あ、うん。その、ウチの父さん、何か失礼なことしなかった?ああ見えていい加減なところがあるし。」
「そこら辺は問題なかったぜ。寧ろ、レイアのほうが……」
「レイア……ひょっとして、レイアのお兄さんなの?」
「へ……俺の妹だが、レイアを知ってるのか?」
「勿論よ。あたしにしてみれば棒術や遊撃士の『先輩』というか『師匠』だしね。」
「成程……(レイアが教えたとなると、エステルちゃんもそれなりの膂力があるのか?)」
ランディとエステルのやり取りで出てきた事実にランディは頭を抱えたくなった。実の妹の『弟子』ということは、自分の叔父すら投げ飛ばした膂力の一端が彼女にも引き継がれていると思うと、冷や汗が止まらなかった。
「ま、ここで話し込むのもアレだし、宿に行きましょ。」
「そうだな。」
エステルの提案にスコールは頷き、一行は宿へと向かった………
そこから十分後、二人の女性が姿を見せた。一人は帽子と眼鏡をかけ、カジュアルな格好に身を包んだ女性。もう一人は、清楚な感じがにじみ出た感じの服(イメージ的にはセシルの私服に近い感じ)で身を包んだ女性の姿だった。眼鏡をかけた女性はエルモの光景に笑みを浮かべ、もう一人の女性は顔を俯かせたままだった。
「へ~、ここがエルモね。長閑で良さそうな場所……って、『アリア』はいつまで黙ってるのかしら?」
「“深淵”殿、何故に私はこのような格好をせねばならないのですか……」
「こーら、今の私は『ミスティ』だって言ったでしょ、“聖女”殿♪それに、貴方のいつもの格好だと周りから不審がられるでしょう?こんなところに鎧の状態で来たら大騒ぎになっちゃうわ。」
「うっ………」
そう、この女性らは『結社』の『使徒』が第二柱“蒼の深淵”ヴィータ・クロチルダ、第七柱“鋼の聖女”アリアンロードであった。なぜ、二人がこの場所にいるかと言うと……
『そうですね……私の予測ですと、エルモあたりが怪しいのではないかと。もし“白面”殿が妨害したら、遠慮なくお仕置きしても構いません。あくまでも、計画に支障の出ない範囲でお願いします。』
盟主の“予言”を信じ、私服に身を包んで二人は来たのだ。最初、アリアンロードに関しては鎧で行こうとしたため、ヴィータがその危険性を説明してやっとこさ私服に着替えさせたのだが……着慣れない服に戸惑っているようだ。
「にしても、いろんな人の気配がするわね……ま、今回の目的は『彼』だけだしね。」
「はぁ……早く行きましょう。」
呑気な様子のミスティにため息しか出ないアリア……二人も宿に向かった。
その更に十分後……蒼の髪を持つ男性と金髪の女性、そして蒼の長い髪を後ろで束ねている少女の姿があった。
「長閑な場所ですね……このような場所があったとは驚きです。」
女性―――アリシア・A・アルゼイドが感想を述べ、
「まるでユミルのような場所だな……尤も、向こうはこちらよりも寒いが。」
男性―――ヴィクター・S・アルゼイドは帝国にある温泉郷ユミルの事を思い出しつつ呟き、
「にしても、父上がエルモに行こうと提案なされたのには驚きましたが……」
少女―――ラウラ・S・アルゼイドは今回ここに来るきっかけとなったヴィクターに話しかけた。
「フッ、私とて人の子ということだ。それに、スコールもこっちに来ているらしいからな……少なくとも、道中で見た『あの残骸』はスコールと彼の付き添いによるものだろう。」
ヴィクターはそう言って自分の息子であるスコールの腕前を率直に評価していた。彼が『結社』に所属していたことは驚きだったが、今では遊撃士である彼の妻の手伝いというには、それに止まらない実力を身に付けていることに驚きを通り越して感心していた。
「あ、あれを兄上がですか?」
「ふふ、男の子というものは、女の子に負けられない一線がありますしね、あなた?」
「それは否定しない……さて、行こうか。」
ヴィクターらも話を切り上げ、宿へと向かった。
~エルモ村 紅葉亭~
スコールらが到着する前……宿である紅葉亭の一室にいるアスベル、シオン、ルドガー。ふと、ルドガーは何かを感じ取った。
「!?」
「ルドガー?」
「どうかしたか?」
「いや、一瞬怖気が……(この感じ……まさか、アイツらが近くにいるのか?)」
青ざめた顔色を浮かべるルドガーにアスベルとシオンは問いかけるが、振り払うかのようにルドガーは笑って答えたが、内心は冷や汗が止まらなかった。
「にしても、使徒二人がかり+盟主の助長とは……やっぱ、何か持って生まれてるんじゃないのか?」
「勘弁してくれよ……とりあえず、飯を食べたら温泉に行くぞ。」
「だな……」
だが、折角の温泉というからにはのんびりしたい……それには同意だった。
ちなみに、部屋割りはどんな感じかというと……先程のアスベル、シオン、ルドガー……その部屋にオリビエが加わる形となる。それと、
「へぇ~……何かいいことがあったみたいね?」
「シェ、シェラザードさん!?」
「ふふふ、夜は長いからの、じっくり話を聞こうではないか。」
「エステルまで!?」
「……頑張ってください、エリィさん」
シェラザード、エリィ、エステル、ティオの部屋、
「ほう……できれば詳しい話を聞きたいものですな。」
「ふふ……年寄りのたわごとでよければの。」
「是非お願いしたい。」
「これはいい夜になりそうだ。」
マリクとヘンリー、スコールとレヴァイスの部屋、
「くそっ、羨ましすぎるだろ!ロイドのこともそうだが、その歳で婚約者だとぉ!?」
「意味が解らないんだけど……」
「何で羨ましがるんですか……」
「まぁ、その辺は僕も似たような気持ちだがな。」
「マキアスまで!?」
「ははは……頑張ってくださいね、二人とも」
ランディ、ロイド、リィン、マキアス、ニコルの部屋、
「よろしくね、アリサ。」
「あ、はい。よろしくお願いしますシルフィアさん。」
「これはこれで、中々面白そうだな……エオリア、夜這いは禁止だぞ。」
「そんなことはしないわ。せいぜいシオンと一緒に寝るぐらいよ。」
「それもダメだ。」
「リンのケチ」
「「…………」」
シルフィア、アリサ、リン、エオリアの部屋となった。
各自夕食を取った後、ランディ、オリビエ、シェラザード、スコール、ヘンリーが酒盛りを始めたため、アスベル、リィン、シオン、ルドガーは温泉に行くこととなった。
~紅葉亭 男湯~
「はぁ~、気持ちいい……」
「生き返るよな……」
その気持ちよさにシオンとルドガーは笑みを浮かべて呟いた。その言葉にはアスベルやリィンも同意見だった。
「まったくだな……そういや、ユミルも温泉の名所だったな。」
「ああ。とはいっても、温泉ぐらいしかない辺境の田舎だけれど。」
リィンはそう言うが、大きく変わりつつあるエレボニア帝国の中でも変わらないものがあるというのは非常に希少な存在だろう。
時代の流れというものは光景というものを一瞬にして変えていく。小さな集落が都市へと変わり、それがいつしか国という流れを生み出し、亡んでいく……そういったサイクルの中に在って、変わらないものというのは本当に数えるぐらいだろう。不変なるものはないに等しい……伝承にしろ、お伽話にしろ、語り継ぐ人が代わる時点で不変とは言えないだろう。だが、その本質を違えることがなければ、歴史は不変のものとして語り継がれる。尤も、その歴史の見方によっても変わらないとは必ずしも言えないが……
「そういや……アスベルは恋人とかいないのか?」
「俺か……『恋人』という括りに入るか解らないが、『パートナー』ならばシルフィとレイアだな。あえて順序をつけるならシルフィが一番になるが。」
ふと、リィンから問いかけられた言葉にアスベルは少し考え込んだ後、そう答えた。
「おや、意外とあっさりな答え。」
「変にこじれさすのは嫌いなんだよ、俺は。ただでさえ、身近で色恋沙汰を散々見せられてきた身としては、余計なことで身動きが取れなくなるよりさっさと決着をつけた方がいいと思ったからな。」
シオンの言いたいことも解る……俺自身が色んなところで影響を与えている(菓子的な意味で)のは納得いかないが、色恋沙汰はまた別だ。現にあの二人からは恋愛感情を持たれていたのは知っていたから……一応、二人に対しては“けじめ”と“誠意”を見せているので問題はないと思っている。多分……そういった意味も込めてアスベルが呟いた。
「身近というと……目の前にいるコイツ含めた四人ってことか。」
「アスベルはまだいいほうだろうが……俺は、全員肉食系だぞ………」
ルドガーの言い分も解らなくはない……あの連中に惚れられている時点で、逃げ場などない状態だ。しかも、彼の上司が煽っているだけに性質が悪い。同情はするが、代わりたいとは思わない……それはルドガーだけでなく、シオンやリィンもある意味同義であろうが………
「えと、ルドガーさんってどんな人に惚れられてるんですか?」
「歌バカ、戦バカ、悪戯バカだな。」
「……えと……」
「おいルドガー、対象がバカばっかりじゃねえか!」
「………(ある意味合っているだけに否定できない………)」
オペラスター、『結社』でも髄一の実力者、悪戯好きかつ思考の天才……そう考えると、ルドガーのバカ発言もなまじ間違いではない……彼だからこそ言える言葉ではあるが。
「でも、シオンも大変だな。」
「俺はルドガーと違って既に考えてはいる……正妻をどうしようか考えてる最中だが。」
シオンもそういった意味では、周囲からプレッシャーを浴びていることだろう………尤も、シオンもといシュトレオンが国王となるならばクローディアを側室に、クローディアをそのまま女王として続投させるならばアルフィンが側室に……どっちにしろ、クローディアやアルフィンとの結婚は確定事項なのだが。
「ふう……それじゃ、俺は露天風呂のほうに行くよ。」
「おう、『気を付けて』な。」
「俺らも後で行くぜ。」
「ああ。」
アスベルは三人と別れ、露天風呂へと向かった。
~紅葉亭 露天風呂~
アスベルは露天風呂に浸かった。無論、ここが混浴だということを知っているので、タオルはつけたままだが……
(ここまではほぼ計画通りに事は運んだ……さて、次の一手は既に決めているが、どうしたものかな……)
恐らくは、調印式前後あるいはその後……『結社』が動くだろう。既に拠点の調査にはクルツらが動いてくれているので問題は無いが、その後起こりうる『全ての可能性』……『結社』の強化猟兵や人形兵器、『猟兵団』、そして『リベル=アーク』……その仕込みはすべて終えたが、やはりその後のための仕込みも始めなければならない。
アスベルがそう考えていると、ふと、後ろの方………厳密には女湯の方から歩いてくる人影に気付く。それは……
「え?アスベルさん?」
「君は……アリサ?」
自分が護衛している対象、アリサ・ラインフォルトの姿であった。
「ここ、混浴なんだけれど……とりあえず、入っておきなよ。風邪ひいたら大変だろうし。」
「は、はい……」
話を聞くに、どうやら色々と色恋沙汰の話になったようで……それでいたたまれなくなってこっちに来たらしい。
「成程な……この場にいる度胸よりも、あの場にいる恥ずかしさが勝(まさ)ったみたいだな。」
「それを言わないでください……私だって、恥ずかしいんですよ!」
「はいはい……」
確かに護衛をしている遊撃士相手とはいえ、他人に素肌を見せるのは抵抗がある……至極真っ当な反応だろう。その反応がある意味新鮮に感じてアスベルは笑みを零した。
「にしても、アリサはどうしてこの国に?………まぁ、大方ラッセル博士とのコネクションでも作りに来たのか?」
「!?ど、どうしてそれを……」
「まぁ、ラインフォルトとヴェルヌ……その取締役や会長ではなくその実子が来るとなれば、大方ティータとの繋がりを得て、そこから博士とのコネクションを作る……現に、フュリッセラ―――ティオは博士の直弟子にしてティータの親友だしな。それを手本にしようとしての行動だろうとは思うが。」
そもそも、ZCFの総合博覧会はこれから出される予定の新製品の商談会も兼ねている。そこに実力者を送りこまないということは、今回の博覧会に関してはコネクションづくりを優先……エレボニアにしても、カルバードにしても、高い導力技術を持つリベールを味方に付けたいという魂胆が見え見えだ。だからこそ、妥協案的なものとしてオーバルエンジンのサンプルを提供することに決めたのだ。
「はぁ……あなた、本当に遊撃士なんですか?」
「本当だよ……そういや、グエンさんはどうしてるんだ?」
「お祖父様なら、三年前に会長職をやめてしまいましたが……知り合いなんですか?」
「知り合いというか人生の先輩だな。あの人から道楽をいろいろ教わったし、導力技術の事も教えてもらったのさ。」
グエン・ラインフォルト……ラインフォルト社の前会長にして、現在のラインフォルトの基礎を確立した人。彼には釣りやファッションやらアウトドア系の事を教わった……言動が下系だということを除けば、真っ当な人間だが。いや、真っ当じゃないからこそ、ラインフォルト社を拡大することができたのだろう。
「にしても、会長職を辞めてたのか……何でなんだ?」
「……お祖父様は三年前、母様と株主の裏切りに遭い、会長職を辞した。その時はシャロンも父様もお祖父様が去っていくことに何も言わなかったんです。」
「三年前……ガレリア要塞に配備された『列車砲』のことだな。」
「ええ…今までそんなことがなかっただけに、母様のしたことは私にも解らなかったんです。その後は父様が仲裁してくれたから、特にいざこざは起きなかったのですが……」
そう……企業であるならば、とりわけ武器を作り、売る側としては客商売……そこに善悪の価値観は生まれない。単に普通の兵器であるならば……
「家族に亀裂が走ったが何とか修復できた……しかし、歪なものに変わってしまった……そんなところか?」
「ええ……」
「………グエンさんは、初めて自分の作ったものに疑問を持ったんじゃないかな?」
「疑問、ですか?」
「あの『列車砲』は一度見たことがあるが……固定された場所から放たれる大量破壊兵器。しかも、攻撃範囲が最長でもクロスベル市……クロスベルの民を殺すためだけの殺戮兵器と言っても過言じゃないと思う。」
本来の『列車砲』は移動式……だが、それを固定式にしてガレリア要塞に配備した時点で『用途』は限定される。ハッキリ言えば殺戮兵器そのものだ。長い視点から見ても、仮に共和国がクロスベルを支配した際に帝国側から仕掛けられる『破壊兵器』ともなりうる。
「だからこそ躊躇った……今まで作ったものを否定するわけではないが、ただ人を殺すためだけの兵器を作ってしまったことに………ま、俺はグエンさんじゃないから、その辺は本人に聞かないと解らないけれど……」
「いえ……あ、その、お祖父様の知り合いとは言え、色々愚痴を零してしまって……すみません。」
「別に気にしないけれどな。それで悩み事が減ってくれたのなら男として冥利に尽きるが……」
「そ、そうですか……じゃ、私は……」
ここで下手に褒め言葉なんて使おうものなら、フラグ成立しかねない……そう思いつつアスベルは言葉を選びながら呟き、アリサは立ち上がって温泉から上がろうとした……その時だった。
「え……きゃあ!!」
「!危ない!!」
滑りやすくなっていた床……それに足を取られたアリサ。それに気づいてフォローに入るアスベル……その結果…
「危ない……大丈夫……か………」
「あ、は……はい………」
互いに正面から密着する形でくっついている二人……アリサの色々柔らかいところがタオル越しに伝わって……それよりも、二人の顔の距離は数cm。
「………」
「………」
気まずい、いろんな意味で気まずい……そう思っていた時、アリサから話しかけられた。
「アスベルさん。そ、その……」
「ん?(え、ま、まさか……)」
アリサのどきまぎとした感じにアスベルは冷や汗をかくが、その次の瞬間……
「んっ………」
「!!!」
唇を塞ぐ感覚……目の前に映るのは目を瞑ったアリサ……ということは……キスってことですよね、これ。
「ふぅ………そ、その、迷惑でしたか?」
「迷惑じゃないんだけれど……その、今に至る理由を教えてください。」
正直、フラグを立てた記憶等ございませんが……ええ、はい、殺し文句とか言ってないし。
「えと、その……私、生まれが生まれなので……貴族からは疎まれ、平民からは特別扱いされてたんです。」
「そうだろうな……」
「その、さっき話してた時、私の事を特別扱いしなかったこと……それが嬉しかったんです。ラインフォルトとか関係なく、アリサとしての私を見てくれたことが。」
……アリサの言葉にアスベルは内心頭を抱えたくなった。確かに考えれてみれば、そういった環境下に置かれた人間だと、そういう色眼鏡なしに見てくれる人間……対等に話せる人間というのはほとんどいなかっただろう……まぁ、過ぎたことにどう足掻こうが意味などないのだが。
「あ~、その……気持ちは素直に受け取るが、アリサは三番目になる……尤も、女性は全員幸せにするのが義務だと心得ているが……あと、言葉遣いはタメ口でいいよ。」
「えっと……シルフィアさんもそうなの?」
「ん?やっぱ、そういう風というか……夫婦みたいな感じに見えたのか?」
「長年付き添っている感じ、かしら。でも、平民なのに一夫多妻とか大丈夫なの?」
アリサのその疑問も尤もであるが……アスベルはため息を吐きながら、呟いた。
「……この国の女王、自分の孫をそうしようと画策してるんだが。」
「え、何それ。教会とかは何も言わないの?」
驚くアリサ……驚きたいのはこちらである、と言わざるを得ないが。そこに至り、アスベルは尋ねた。
「………まあな。というか、一つ質問。流石にそれだけだと好意を抱く根拠には足りないんじゃないのか?」
「……よ。」
「え?」
「一目惚れというか……私にとっては、初恋。」
「……もしかして、あの時のか?」
アスベルの問いかけに頷くアリサ……アリサが初恋だという切っ掛けは……今から五年前の話。
遊撃士に転向したカシウスの付き添いという形で帝国に足を運んでいたアスベル……ザクセン鉄鉱山での依頼の手伝いを行っていた時、突如魔獣が発生した。どうやら、発破した先で魔獣の巣に通じてしまったようで……何とか、その元凶を取り除くことに成功したものの……魔獣が起こした振動の影響で坑道の一部が崩れたため、手分けして救護活動を行っていた矢先の事だった。
「おい、お嬢は!?」
「それが、通じている坑道は全て塞がれてしまって……」
「……アスベル」
「ええ。事情をお聞かせ願えませんか?」
話を聞くと、一緒に来ていた少女と坑道の崩落によって分断されてしまったらしい。遠回りながら行けるルートはあるが、多くの魔獣が徘徊している……だが、二次崩落に巻き込まれない保証などない。それを聞いたアスベルはカシウスに救護者の方を任せると、その少女の元に駆け出した。実力と行動の速さ……その点においては、カシウスに引けは取らないと判断した上での行動であった。
アスベルは“神速”を使い、迅速に要救出者へ着くことを優先……そして、視界の先には少女らしき姿と、それを取り囲んでいる魔獣。アスベルは鞘に納められている太刀を構えると、抜き放つ。瞬時に殲滅されていく魔獣の姿に呆然とする少女であったが……太刀を納めたアスベルの姿に安堵したのか、その場に座り込んだ。
「大丈夫?怪我とかしていない?」
「う………わああああああんっ………!!」
怖かったのだろう……自分が死んでしまうかもしれない……その恐怖と戦い、何とか打ち克った。大声を出して泣いていたが……泣き疲れたのか、先程までの緊張が解けたのか、一気に疲れが出たようで静かに寝息を立てていた。アスベルは彼女を起こさないように抱きかかえ、カシウスらがいる場所へと戻った。
その後、彼女の母親を見た時は驚いた。イリーナ・ラインフォルト……その時は会長ではなかったものの、その人物からその少女がアリサ・ラインフォルトだと知った時は……言葉も出なかった。そして、アリサはその時に、アスベルに対してよく解らない感情……後に解る、恋心を抱いた。
「あの時のアスベル、お姫様を助けに来た王子様みたいだった。その時にアスベルのことが好きだって思った……気付いたのは、さっきだけれど。」
「はは……俺としては、死なせたくないと思って助けただけなんだけれど。」
「謙虚ねぇ……そういったところも、貴方らしいってところなのかしらね。」
その後、自分の身分を明かし、シルフィアと、後から来たレイアにも説明はした。三人はすぐに仲良くなっていて、俺としては一安心だろう。俺が『星杯騎士』だということに関しては秘密にするということで約束してもらった。ただ、『転生者』ということについては、シルフィアとレイアに任せることとした。
ちなみに、一夫多妻の事についてあまり口煩く言わなかった理由については……
『アスベルの話からも真剣さが感じられたし、シルフィやレイアからもお墨付きをもらったからね。』
とのことだ………もしかすると、俺の運命を決めるものなのかもな。
そう内心で思ったアスベルの言葉が現実となるか否か……それは、女神(エイドス)のみぞが知ることだろう。
てなわけで、アスベルに原作キャラのアリサをカップリング……
本当は、原作のまま行く予定でしたが、閃Ⅱの公式HPでテンションアガットして、くっつけました。爆ぜろリィン(黒笑)
アスベル、シオン、ルドガーの中でちゃんとした考え(ハッキリと答えを出す)を持っているのはアスベルで、これはある意味身内とも言えるカシウスやヨシュアを反面教師にした結果です。いい意味でも悪い意味でも、ですがw
温泉編はまだまだ続きます。