英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第106話 人間の性(さが)

~エルモ村 紅葉亭~

 

ルドガーが二人を起こして着替え、休憩室に戻ってくると……そこにいたのは

 

「おう、シオンにリィン。」

「ふふ、お邪魔してるわよ。」

スコールと別れたはずのジンとサラであった。二人の様子からするにどうやら酒盛りで盛り上がっていたようだ。

 

「お前らまで来たのかよ……というか、大統領の護衛は?」

「トヴァルに押し付けちゃった♪」

「いや、それでいいんですか……」

「はぁ……(トビー、ご愁傷様……)」

シオンがその辺りを尋ねると、一段落してグランセルに来ていたトヴァルにその辺りを丸投げしてきたようだ。これにはリィンだけでなく、流石のシオンも頭を抱えたくなった。その光景を見たジンが補足するように言い始めた。

 

「お前さん達の言いたいことも解る。その代り、こっちもキリカの奴から仕事を頼まれたんだ。」

「へぇ、珍しいな。キリカさんが頼みごととは……」

「そんなに珍しいのか?」

「まあな。」

ツァイス支部の受付を務めるキリカが支援要請を頼むこと自体少なく、大抵は所属している遊撃士だけで回せているために他の地方と比べるとその処理速度の差は歴然である。尤も、その要因としてはキリカ自らが出向いて処理している案件も少なからずあるだろうが、それを差し引いても支援要請があまりないのだ……あるということは、ある意味『大事』なのであろうが。

 

「おや、そういえば……お前さんとは以前会ったことがあるな。遊撃士のジン・ヴァセックだ。」

「どうも。ルドガー・ローゼスレイヴといいます。ジンさんとは共和国で以前お会いして以来ですね。」

「珍しい繋がりだな。」

「珍しいかな……」

ルドガーとジンの出会いは六年前。その時丁度いたカシウスとも顔を合わせる羽目となった。ちなみに、ジンにはバレていないが、カシウスには一発で『執行者』であることを見抜かれた。というのも、カシウスは以前にも『身喰らう蛇』と戦ったことがあり、その中で最たるものは『執行者』のブルブランを打ち負かしたとのことだ。実力的な意味でと謎かけ的な意味で。

 

その当時のルドガーはようやく『修羅』の領域に踏み込んでいたので、何とか引き分けにまで持ち込めたが、本人曰く『次戦ったら、間違いなく負ける確率が高い』と言わしめたらしい。

 

「で、その仕事とジンさんらがここにいる理由……護衛ですか?」

「あら。流石トップクラスの遊撃士ね。御褒美にキスでもあげようかしら♪」

「そんなにしたかったら、スコールさんにでもしてください。」

「確かに。」

「納得だな。」

「何よ、その態度ー!」

シオンの推測が入った言葉にサラは酒に酔っているのか大胆な発言が飛び出したが……三人はジト目でサラの方を見つめ、それに納得いかないのか、サラは手足をバタバタさせて駄々をこねるかのようにしていた。

 

誰も好き好んで地雷原に踏み込んでいくような真似はしたくない。ましてや、彼女の旦那は“光の剣匠”に追随しうる実力を有していることを知っているだけに、彼の怒りを買うようなことは避けたいのが本音であった。

 

「で、一体誰……(あれ、この感じの気配は……)」

ともかく、話を進めようとしたリィンであったが、その時覚えのある気配を感じてその方向を見やると……三人の内、シオンとリィンが……とりわけリィンがよく知っている人物がそこにいた。その人物もリィンの姿に気づき、声を上げた。

 

「!?」

「に、兄様!?どうしてここに!?」

「気配に覚えがあったからまさかとは思ったけれど……その、エリゼはどうしてここに?」

その人物―――リィンの妹であるエリゼの登場には流石にリィンも驚きを隠せず、エリゼもリィンに驚いていた。

 

「私は護衛みたいなものです。その……“姫様”が駄々をこねまして。」

「へ………ああ、成程。エリゼも大変だな」

ため息が出そうな表情を浮かべつつ説明したエリゼの言葉にリィンは大方の事情を察し、労うようにエリゼの頭を撫でた。

 

「に、兄様…もう、子ども扱いはやめてくださいと……」

「そんなつもりじゃないけれどな。それに、こういうことをするのはエリゼぐらいだし。」

「……まぁ、嬉しかったですけれど。」

「何か言ったか?」

「な、何も言っていません!いいですね、兄様?」

「あ、ああ……?」

その行為に頬を赤く染めつつ、戸惑いがちな口調で窘めるエリゼにリィンは弁明し、エリゼはその言葉を聞いて小さな声で喜びの言葉を述べたが、リィンの問いかけに対して我に返り、慌てて無理矢理取り繕ったエリゼの姿と疑問符が目に見えそうな感じで首を傾げるリィンの姿があった。

 

「ははは、仲がいいな。」

「そうね。(尤も、エリゼは苦労しそうね……)」

「あの馬鹿は……」

「やれやれだな……」

ジンはその微笑ましさに笑い、サラはそれに同意しつつも内心でエリゼの苦労に同情し、シオンは頭を抱え、ルドガーもその光景に溜息を吐いた。すると、そこにエリゼが“姫様”と呼んだ人間が姿を現し……

 

「シーオーンー!!」

「うおっ……って、アルフィン!?エリゼの言っていた“姫様”からしてそうじゃないかと思ってたが……」

「お久しぶりですわね、シオン。およそ一ヶ月ぶりですわね。」

シオンは自分に抱き着いたアルフィンの姿に驚きつつも、あくまでも冷静に取り繕って言葉をかけた。その言葉にアルフィンは笑顔を浮かべてシオンに抱き着く力を強めた。

 

「………」

シオンは、内心冷や汗ものだった。それは何故かというと……アルフィンの成長ぶりだ。大体言いたいことは伝わると思うが、彼女の“ある部分”……まぁ、胸なのだが。確か、原作では同い年のアルフィン、フィー、エリゼ……見た目上(外見上)は変わらないはずだ。それがどうなっているか……大雑把に言うと『=エステル前後』。サイズ的にはアルフィン>フィー>エリゼ……その成長ぶりには、シオンも冷や汗ものであったことは言うまでもない。

 

「あら?どうかしましたか?」

「……成長しすぎなんじゃないか?」

「いやん、シオンったらエッチですわ♪」

「てい」

「はうっ!?」

流石のシオンもアルフィンの積極的な言動には耐えきれなかったようで、彼女の額を小突いた。

 

「ははは……」

「まったく、姫様ったら………」

その光景を傍から見ていたリィンとエリゼは皇族であるアルフィンの行動に内心頭を抱えたくなり、

 

「微笑ましいな……(羨ましい……)」

「若いっていいわね~。」

「お前さんが言うと、俺はとっくにおっさんなんだが……」

その光景に内心羨ましさを漲らせていたルドガー、微笑みを浮かべて見つめるサラ、その彼女の言葉にため息をついて呟くジンの姿があった。

 

「で、何でアルフィンとエリゼがここにいるんだ?」

「私が説明します……」

先日、アルフィンの呼び出しがあり、呼び出されたエリゼが事情を尋ねると、有無を言わさずリベールに行くことを伝えられ、エリゼの反論もむなしく半ば強制的に連れ出されたのだ。で、シオンのことをエルナンに聞き、ツァイスに向かい……そして、護衛の依頼ということでジンとサラにお願いしたとのことだ。

 

「もう、エリゼったら……単なるお茶目じゃない。」

「……罰として、今日は簀巻きで寝てもらいますよ?」

「うっ……ごめんなさい。」

アルフィンの弁明にも耳を貸さない感じの表情を浮かべつつ、笑みを浮かべたエリゼの言葉に『やりすぎた』と思ったのか、アルフィンは思わず謝った。

 

「エ、エリゼ………」

「随分と逞しくなって………」

「大変だな………」

「あはは…」

「やれやれ、この光景はあの御仁らにそっくりだな。」

皇族に対する口のきき方……帝国では不敬罪に問われても仕方ないであろうその光景にリィンは冷や汗をかき、シオンとルドガーはエリゼの成長に遠い目をし、サラも笑うしかなく、ジンはその光景に以前見たことのあるオリビエとミュラーの光景を思い起こさせるかのような印象を感じた。

 

「そういえば、部屋はどうするんだ?」

「俺はスコールの旦那らの部屋だな。」

「アタシはリン達の部屋だけれど……」

まぁ、その二人は順当だが……アルフィンとエリゼはどうしたものか………そう思っていた矢先、ルドガーからとんでもない提案がなされた。

 

「何だったら、俺らの部屋にリィンを移して、リィンとエリゼ、シオンとアルフィンで寝ればいいんじゃないか?」

 

「「ルドガー!?」」

「それはいい考えですわね。エリゼもお兄様と寝られるのですから、いいのではありませんか?」

「姫様!?」

「やっちゃいなさいよ。むしろ、ヤっちゃいなさいよ♪」

「お前さんはそれでいいのか……」

ルドガーの発言にシオンとリィンは驚きを隠せなかったが、アルフィンとサラのある意味援護射撃にエリゼは顔を赤くして叫び、ジンは疲れた表情を浮かべた。

 

「それでは、いきましょうか♪ルドガーさん、お手伝いしていただけますか?」

「僭越ながら……お手伝いさせていただきましょう、姫様。」

「ルドガー、離せ!離してくれ!!」

「エリゼ、頼む!アルフィン皇女とルドガーを止めるよう………」

「ごめんなさい、兄様。(久々に、一緒に寝たいのです……)」

「エリゼエエエエエエエエェェェェェッ!?」

最後の砦であったエリゼも兄という誘惑に勝てるはずもなく……五人は、というか笑顔の三人と魂が抜けたような表情を浮かべるシオンとリィンはその場を後にした。

 

 

~紅葉亭 渡り廊下~

 

一方その頃、渡り廊下にいたロイドは自分の掌を見つめていた。その表情は物思いにふけった顔であり、彼が考えていたのは先程の戦いの事だった。

 

「…………まだまだだな。」

先程の戦いをそう評する。見えている敵に対しては問題なく動けているが、突発的な対応に関してはまだまだである。ただ、そういった欠点が見えただけでも、この先の事を考えたら大きな収穫であることには違いない。

そう考えていると、浴場があるほうから一人の少女が姿を現した。

 

「あれ、ロイドさん。」

「ティオか。」

少女―――ティオの姿を見て、表情を正す。ティオはそのままロイドの方に近づいてきて、彼の隣に立った。

 

「意外と早かったんだな……他の人はまだ上がってきてないのに。」

「これでも一時間ぐらいは入っていましたが……ロイドさんや男性の風呂の時間が短いだけです。」

「それは否定しないけれど……」

そこら辺に関しては、性別による感覚の違いだろう。尤も、男性でも長く浸かる人もいれば、女性でも短い人がいるだろうと思われるので、一概にとは言えない。

 

「ところで……ロイドさんに聞きたいのですが、ガイ・バニングスという人を知っていますか?」

「!?それって、うちの兄貴だけれど……兄貴と知り合いだったのか?」

「はい。知り合いというよりは命の恩人というべきでしょうが。」

「命の恩人……」

ふと、ティオから尋ねられた人―――ガイの名前が出たことにロイドは驚きつつも自分の身内であることを伝えつつティオとガイの関係を尋ねると、ティオは思い出すだけでも悍ましいことではあるが……勇気を出して言葉を呟く。

 

「今から七年ぐらい前……私は、ある組織に誘拐されました。およそ二年の間……来る日も来る日も実験台にされ、もはや道具扱いの状態でした。」

「………確か、『D∴G教団』とか聞いたことがあるけれど……」

「ええ、その教団です。そこに助けに来てくれたのがガイ・バニングス……ロイドさんのお兄さんです。」

「……そっか、兄貴が助けてくれたんだな。」

ロイドもそのことについては少しばかり調べたことがあった。出てきた情報はほんのわずかではあったが、そのどれもが常軌を逸していて、普通ではない言葉に都市伝説めいたことも言われていた。ガイからも少しだけその話を聞いていたので、ロイドはすんなり信じることができた。

 

「……助け出されたときには弱りきっていたので、半年ほど入院して、その後はレミフェリアへガイさんが送ってくれました。」

「そうだったんだ……しかし、兄貴と繋がりがあったなんて、驚きだよ。」

ロイドは昔、ガイが一度出張と称してレミフェリアに行くと言ったことがあり、その際に女の子をエスコートすると笑って話をしていたが……おそらくはその時に話していた子なのだとロイドは推察した。

 

「そうかもしれませんね……ロイドさん、一つ聞いていいですか?」

「ん?」

「その……昼間の戦闘で見せた『アレ』は一体……?」

ふと、ティオはその流れで思い出した『あること』……ロイドが見せた『変化』について尋ねた。

 

「『アレ』か……正直、俺にも解らないんだ。」

「解らない、ですか?」

「ああ。実はさ、俺自身は全く覚えていないんだけれど、六年前に俺も誘拐されたらしいんだ。それから一年間の記憶が全くない……どこにいたのかも、何をしていたのかも……それと引き換えに手にしたのは、昼間俺が見せた力。」

「………」

「俺自身の感情が昂ると、どうやら現れるんだ。まぁ、その後はかなりの疲労を貰う形になるけれど。……だからこそ、俺自身の力でできることを増やそうという思いで鍛えてるんだ。」

ロイドが言うには、所謂『火事場の馬鹿力』……『リミッター』を外す能力。その反動は凄まじいため、ロイドはそれに依存しない『実力』を身に付けるべく、鍛練に励んでいたことを明かした。

 

「ということは……君も似たような能力を?」

「そうですね……私の場合は感応力と思考の高速化ですが。」

「………なるほど。」

「ロイドさんは、その……辛くないんですか?」

ふと出たティオの質問……その問いかけにロイドは真剣な表情で答えた。

 

「確かに記憶がないってことは辛いかな……けれども、君のように鮮明に覚えていない分、俺はまだ救われたのかもしれない。それをはっきりと覚えているティオのほうがもっと辛いと思う……目を背けるわけじゃないけれど、背けずにいられる分だけ前向きでいられることにさ。」

「ロイドさん……」

「……俺は兄貴のようには出来ないけれど、困ったことがあったら俺を頼ってほしい。困った女の子を助けるのは男の義務だって兄貴も言っていたことだしな。」

「………(無自覚で言うあたり、流石ガイさんの弟ですね)」

自分などまだいい方……その悪夢を未だに思い出せてしまうことの方がよっぽど辛い……そう言った後に言い放った言葉を聞いて、ティオは内心苦笑を浮かべた。

 

「解りました。その時が来たら遠慮なく頼らせてもらいますね。」

「ああ。よろしくな、ティオ。」

「ーーーー!!!(こ、この人……私も、気を付けないといけませんね……)」

そして、満面の笑みを浮かべているロイドに、ティオは図らずもときめきのようなものを感じた。

 

 

こうして、夜は更けていった………

 

 

ちなみに、次の日の朝……シオン、アルフィン、エオリア……そして何故かいたクローゼが同じベッドで眠っており、別のベッドではリィンとエリゼ、話を聞きつけたラウラが眠っていた。

 

「フフ……いい光景だね。」

「笑みがこぼれますね、オリヴァルト。」

「それには同意するが、今の僕はオリビエですよ、アリシア様。」

「やれやれだな……」

その光景に微笑ましい表情を浮かべるオリビエ、アリシアと……内心頭を抱えたくなったアスベルの姿があった。

 

 




温泉編はもうちっとだけ続きます。

そう言えば、88話で出てきたフリッツさんですが……閃で、同性同名の人が初伝クラスにいたことを忘れてました。ま、そのまま行くこととしますがw

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