英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第12話 三倍返し

―ロレント市―

 

数では勝る帝国兵、かたやアスベル達は3人のみ。帝国兵は自らの勝利を疑わなかったが、その常識をまざまざと覆されることとなる。

 

「さあ、いくぞ!ふんっ!!」

マリクは投刃を投げつけ、その場に止まらせるとオーブメントを駆動させる。

「穿て、断罪の刃!ダークネス!!」

放たれた武器は黒きオーラを纏い、縦横無尽に帝国兵の命を刈り取っていく。そこに間髪入れずに準備が完了した導力魔法を発動させる。

「凍てつけ!ダイアモンドダスト!!」

マリクのアーツに帝国兵は身動きが取れずに、凍りつき……彼の操る投刃によって次々と絶命していく。

 

「止めと行こうか……誇りを抱いて永久に眠れ、塵となり無へと還れ、エターナル・セレナーデ!!」

とどめに放ったSクラフト『エターナル・セレナーデ』によって彼の周りにいた帝国兵は絶命した。

 

「さて、他の奴の加勢は……しなくても大丈夫なようだな。」

マリクは二人の様子を見ると、二人もとどめの技を放つところだった。

 

「……シルフィ、覚悟は出来てるな?」

「何を今更、かな。この世界でこういった役割を与えられたってことから、とうに覚悟は決めてる。」

「そっか……いくぞ。」

「ええ。」

敵とはいえ人の命を奪う……それは許されることではない。相手の可能性を奪うこと、未来を奪うこと。だが、二人にその躊躇いなどなかった。普通の人間ならばいざ知らず、『裏』に関してそういった事をよく知るアスベル、そして“星杯騎士”ひいては“守護騎士”の性質をよく知るシルフィア……別に殺したくて殺すわけではない。罪のない人を、平和な街を守るための戦い。一方的な偽善だと言われても反論は出来ない。結局のところ、一生付きまとう問題なのだから……後は、それに対する覚悟を持てるか否か。

 

「撃て!!」

兵士らの放つ銃弾……だが、彼等に届くことはおろか、

 

「……ふっ!」

「やっ!!」

アスベルは“神速”を用いた最小限の動きで躱し、シルフィアは持っていた法剣の刃を展開させて薙ぎ払った。それに驚く兵士らを他所に、アスベルは一気に踏み込み、前にいた兵士を他の兵がいるところ目がける形で

 

「はあっ!!」

「ぐぅ!?」

肉体年齢は8歳でも、神速状態から放たれる蹴りは大人並であり、他の兵士を巻き込む形で吹き飛ばされる。多少筋肉に痛みが走るが、ここで躊躇えば自分の意に血が危ない。歯を食いしばり、更に加速して小太刀を一度鞘に納め、其処から同時に抜き放つ。

 

「手加減はしない、これで終わらせる!斬空陣!無刃衝!」

独自に編み出した『斬空陣無刃衝~二刀の型~』……アスベルが放った技により、兵士の周りを血飛沫が舞う。だが、彼等に待つのは更なる地獄……いつの間にか兵士の周りを取り囲む無数の短刀。それは、シルフィアのSクラフトであると知ったのは、戦いの後だった。

 

「……汝が見る夢、刹那と消える。百花繚乱!!」

シルフィアのSクラフト『百花繚乱』……的確に致命傷となりうる箇所を攻撃し、回復させる暇もなく、残っていた帝国兵は全員絶命した。大人しく降伏していたのであればまだ救いようはあったが、彼らは明らかに明確な殺意をもって襲撃した。ならば、くれてやる慈悲などない。

 

「……!これは………三人とも、無事か!?」

カシウスはロレントの状況に驚くと同時に怒りを覚えた。侵略ならば、何をしても許されるのか……そのことはさておいて、三人に声をかける。

 

「カシウスさん。ええ、我々は無事です。」

「怪我人は少々いたが大方無事だ。貴方の奥さんと娘さんもな。俺の団員が郊外に避難させた。」

「申し訳ない……」

「いえ、オレのような目に遭ってほしくなかった……いわば、偽善です。」

大切な家族を失うこと……マリクにとってみれば、かなり辛い目に遭っている。だからこそ、その思いをカシウスにも背負わせたくなかった。偽善なのかもしれないが、マリクにとってみれば十分すぎるほどの理由だった。

 

「そうでした……王国外のエレボニア軍には、私の『友人』……いわば『援軍』を差し向けています。エレボニア軍の連中は時を置かずに撤退せざるを得なくなるでしょう。暫くは王国軍の兵士も休息の時間は取れるかと。」

マリクの言葉に三人は首を傾げる。それとは対照的に不敵な笑みを浮かべるマリク。やるからには徹底的に。

 

 

――『倍返し』……いや、『3倍返し』の彼の立てた計画を知るのは、この戦いの終結後だった。

 

 

―ハーケン門北―

 

ハーケン門から北に100セルジュ(10km)……エレボニアの5個師団が待機していた。

 

(どういうことだ……精鋭の8個師団との通信が取れない…一体。あの向こうで何が起こっているというのだ……!?)

一方、エレボニア軍の師団を率いる将、ゼクス・ヴァンダールは内心冷や汗をかいていた。撤退するはずの8個師団からの通信が途絶した……数と質で圧倒するエレボニアにかかれば、リベールなど簡単に落ちる……この戦いに乗り気ではなかったゼクスですら、エレボニアの勝利はゆるぎないものと確信していた。だが、それはまんまと覆されたのだ。

 

「ほ、報告いたします!8個師団がほぼ壊滅……とのことです。」

「馬鹿な!?何かの間違いだろう!?」

「何度も確認いたしました……しかし、8個師団のいずれとも連絡が取れない状態です!どうやら、新型の警備艇の配備と各地に軍が潜んでいたようです!」

(そんな馬鹿な……王国軍にはそのような余裕や人的資源などないのだぞ!?)

兵士の報告で、ゼクスは焦りの表情を浮かべた。13個師団を投入して、8個師団がほぼ壊滅……半数以上の犠牲を出している時点でこの作戦は『失敗』も同然の状態だ。だが、帝国政府ひいては軍司令部から撤退の命令が出ていない以上進撃するしかない。

 

「……司令部は何と言ってきている?」

「司令部には既に連絡は取りましたが、命令に変更はないとのことです……!」

「そうか……(正気の沙汰か!?クッ、このままリベールに『玉砕』しろとでも言うつもりか……!?)」

 

 

「…………」

本陣からほど遠い場所……そこに現れたのは、一人の少女。見た目は十歳にも満たぬ容姿。だが、目を引くのは彼女の二倍ほどの長さを誇る双刃の十文字槍。

兵の姿を見据えると、彼女は構え、突撃していく。

 

「なっ……敵襲!」

「くっ、リベールの軍か!?」

「撃て、所詮相手は一人だ!!」

帝国兵は突如の襲来に慌てながらも、彼女に向けて銃を放つが、その場所には彼女の姿がいなかった。兵士らが彼女を探そうとするが、兵士が彼女の姿を見ることなどなかった。既に絶命していたからだ。『その槍を見たものは死ぬ』とも言われた傭兵で、あの『闘神』や『戦鬼』すらも一目置く『命を絶する槍』……『絶槍』。それが、彼女に付けられた渾名だ。

 

「………穿て」

闘気を纏い、そう呟いて戦車を槍で突くと、槍先から螺旋状の旋風が巻き起こり、その部分が切り取られたかのように削り取られていた。

 

「ぜ、『絶槍』だー!!」

「に、逃げろー!!」

「………行こうか。」

あまりの恐怖に逃げ出す帝国兵。逃げ出す奴らには目もくれず、今もなお彼女に砲口を向ける戦車群に向かっていく。

 

「な、何故当たらん!!」

「駄目です、速すぎて……」

砲撃士の次の言葉が放たれることなく、彼女の振るった刃が彼ごと真っ二つに斬り、戦車は爆発する。

 

「………彼の敵は、私の敵。」

心酔している彼のため、彼女は刃を振るう。その太刀筋は一瞬の迷いすらない………この戦闘で、エレボニア軍は5個師団の導力戦車の半数を失うこととなる。

 

 

「し、失礼します!『絶槍』が現れました!さらに、猟兵団『翡翠の刃』と『西風の旅団』がこちらに向かってきます!!」

「何だとっ!?(このタイミングでの襲撃……まさか、こちらの手の内をすべて読んだ上での行動か!!)」

ゼクスはこの状況をもはや『詰み』の状態だと悟った。ここで退かなければ、派遣した13もの師団は全滅……そうなれば、最悪帝国は滅び共和国の台頭を許すこととなる。8個師団に関しては、もはや『全滅』と考えて行動するしかないのだと。たとえ軍司令部に『汚名』を被せられようとも、これ以上の損失を避けるのが今のゼクスに出来る最善の選択に他ならなかった。

 

「待機する全師団に通達!パルムに撤退せよ!急げ!」

ゼクスは怒号を放ち、撤退するように促す。

 

 

―ハーケン門北西―

 

「おーおー、軍馬様が蟻の子を散らすかのように逃げていくな。」

「ですね。しかし、“驚天の旅人”が我々に支援を要請するとは……」

「丁度よかっただろ?追撃のような形ではあるが、あの精強なエレボニア帝国軍相手に実戦訓練ができるんだからな。それに、アイツには……マリクにはでか過ぎる借りがある。」

「否定はしませんが。それを受けてしまうあたり、“猟兵王”といわれる貴方は余程の変わり者ですよ、団長。」

エレボニア軍がいる場所から8セルジュ(800m)ほど離れた場所……“猟兵王”と呼ばれた男性は双眼鏡を覗き込んで、楽しそうにエレボニアの惨状を見つめ、傍らにいた女性は呆れた表情で自分の上司である男性を見つめる。

 

「ま、これもアイツなりの策だし、リベールに恩を売れる。いざとなれば移住することも厭わないつもりだ。」

「そんなに気に入ったのですか?」

「ああ。アイツらなら、こういうところは気に入るし、人もいい。いざという時の『道作り』は必要だぞ?俺らのような根無し草はとりわけな。」

マリクからの要請を受けて、『実戦訓練』という形で援軍を出したのは『西風の旅団』……『赤い星座』『翡翠の刃』と並ぶ猟兵団の一つだ。猟兵王と呼ばれた男性は、笑みを浮かべて女性に呟く。

 

 

 

「それに、アイツの作ろうとしている世界……誰しもが笑って暮らせる世界……猟兵である俺も見たくなっちまったのさ。こんな年になって夢を持つだなんて笑われそうだがな。ハハハハッ!!」

 

 

 

 

“猟兵王”レヴァイス・クラウゼル……後に、マリクと共に世界を切り開く一人になる人物は、はるか先の光景を見つめていた。

 

 

 

 

 

結果として、エレボニア帝国軍は13個師団のうち10個師団を失うという大損害を被り、リベール王国に対して完全なる敗北を喫した形となった。これには周辺国や各自治州、帝国と覇権を争うカルバード共和国もリベール王国の底力に驚愕の表情を浮かべた。生き残った帝国軍の部隊は再編、その後も絶えず軍を送り込むが、1192年9月初旬……リベールの高速巡洋艦一番艦『アルセイユ』、二番艦『シャルトルイゼ』、三番艦『サンテミリオン』が相次いで実戦投入され、戦車という圧倒的陸戦力を有するといえども、巡洋艦と飛行艇に制空権を奪われたエレボニア軍は為す術もなかった。

 

本来ならばもう十年かかるであろうと言われていた巡洋艦開発……その十年という時間を一気に推し進めることが出来たのは、他でもない『飛行艇』の運用実績と、開発に携わっていたラッセル博士の先見の明が光ったからである。

 

導力革命によって強大化しうる北のエレボニア帝国……その軍事力を一番肌で感じ取っていたのは導力技術に詳しい博士自身であった。下手に力を持てば警戒されることは明白といえども、その刃の矛先が何時こちらに向いたとしても何ら不思議ではない。過去に何度も帝国の脅威を受けているリベールにしてみれば、その考えに至るのにはさほど時間はかからなかった。

 

船体部分に関してはほぼ形となっていたものの、肝心の推進系統―――心臓部とも言えるオーバルエンジンの開発に難儀していた。そこに襲い掛かってきた『百日戦役』……皮肉にも、この襲撃があったからこそ、その開発が一気に進んだ。軍用飛行艇のオーバルエンジン……その運用実績と、実際に運用して見えてくる課題。それらを基に王国軍全面協力の元で開発が進み、飛行艇投入から間をおかずに巡洋艦投入が出来たという経緯があった。

 

 

更に、猟兵団『西風の旅団』と『翡翠の刃』が南部の都市を相次いで襲撃し、猟兵としては珍しくも極力人的被害や物的被害を避ける形での制圧が行われ、結果としてエレボニアの国土の三分の一強を二つの猟兵団が占領、その脅威はガレリア要塞にまで迫っていた。

 

カルバード共和国への防衛の要となるガレリア要塞が落とされたとなれば共和国の更なる台頭を許すことにも繋がる……この事態を重く見たエレボニア帝国皇帝ユーゲントⅢ世がアリシア女王に会談を要請し、女王がこれを受諾。遊撃士協会と七耀教会の仲裁により1192年11月……戦争は終結した。翌1193年初め、エルベ離宮において二国間での講和条約が結ばれた。

その条件については、

 

・エレボニアの襲撃による人的被害および物的被害に対して全額賠償を行うこと。

・エレボニア南部……リベールと国境を接するサザーラント州全域、クロイツェン州南部およびアルゼイド子爵領の割譲

・リベール移住を希望するエレボニア国民の移住承認

 

という、ほぼリベール側に有利な形での条約締結となった。ただ、エレボニア側から『南部地域の国境線画定』『その戦争の全容解明をしないこと』を突き付けてきたが、これらに関しては賠償金を当初の二倍以上支払うという条件付きで承認した。

 

今回の戦争で味方をした猟兵団に関しては、双方の団長が『リベール防衛は善意によるものであり、エレボニア占領は我々の独断で行ったもの』と国内外に向けて発信し、リベールからの依頼ではないことを強調した。公には良い印象を持たれていない猟兵団……戦争終結後、アリシア女王は『猟兵団たちは王国軍と無関係であり、彼らの行動は我々でも把握できなかった』と国内外に公表している。

事実、団長であるマリクやレヴァイスの命令で動いていたため王国軍は彼らの動向を把握するのが難しかったのだ。だが、彼らがいなければ更なる被害が出ていたのも事実だった……リベール王国は非公式の形で恩赦を与えた。

 

また、レヴァイスとマリクは善意によるリベール復興を申し出、主に裏方での部分での資材調達や物資提供を行った。この行動は一部の人間のみではあったが、リベール国内における『西風の旅団』と『翡翠の刃』の評価は少なくとも良い方に上がったのである。

 

戦争終結後、裏取引により膨大な賠償金と引き換えに二つの猟兵団に占領されていた領土……リベールに割譲された部分を除くラマール州南部と帝国直轄領はエレボニア帝国に返還された。カルバード共和国をはじめとした周辺国からは厳しい目で見られることとなり、エレボニアの西ゼムリアにおける発言権は極端に低下したのだ。

 

猟兵団が王国軍と同調する形での襲撃……リベールが猟兵団を雇い、領土的野心を持っているのではと、周辺国から危惧の声が聞こえるかと思われた…だが、大損害を被ったエレボニアは反論できず、同じ大国のカルバードは国内世論からその力に対して圧力を見せれば二の舞になりうることを危惧する声が大きく、黙認せざるを得なくなった。

 

戦争終結後、アリシア女王はレミフェリア公国・クロスベル自治州・アルテリア法国らを相次いで電撃訪問し、今回の『百日戦役』におけるリベールの立場を説明。あくまでも猟兵団は『彼らは独自の判断で行動していた。リベールの復興協力は、誤解を招くような方法を取って我々の国の心象を悪くしてしまった彼らなりの我々に対する『謝罪』である。』と説明し、それに合わせて互いの経済交流・文化交流の受け入れ促進、ジェニス王立学園への特待留学制度導入など、自国の立場を積極的に外へと発信していくことで領土的野心の声を着実に少なくしていったのだ。

 

さらに、リベール王国への帰属を希望する自治州に対して、アルテリア法国が自治の付託を行い、リベール王国・レミフェリア公国が自治と独立性を承認・担保するという異例の承認方法で自治州の正当性を担保したのだ。これにより、リベールには領土的野心はないことを改めて強調するためだった。これらの動きによってエレボニア帝国は弱体化し、カルバードはエレボニアの二の舞を危惧して、リベールとの不可侵条約を結ぶ運びとなった。ノーザンブリア・オレド・レマンの各自治州はそれに基づき改めて独立性を担保されたが、特殊な統治形態を維持しているクロスベル自治州に関しては宗主国であるエレボニア・カルバード双方の反発が強く、その対象とはならなかった。

 

この事件後、カシウスは軍を引退して遊撃士に転向、娘であるエステルも遊撃士を志し、レナは二人を温かく見守っていた。

 

 

それから数年後……

 

 




ストック開放。暫くは更新速度が遅くなります。

流れとしては『一ヶ月で3/4占領していたはずが、気が付いたら逆に占領されていた』というポルナレフ状態ww

まぁ、そもそも『翡翠の刃』はマリクのせいでヤバいぐらいチートにw

アルセイユ級はオリ設定で増やしました。カレイジャスは四番艦という扱いになります。

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