英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第109話 静けさの宴

 

鬼ごっこから二日後。女王生誕祭も大詰めを迎え……迫る不戦条約の調印式。その一角である帝国大使館には錚々たる面々が集っていた。

 

 

~王都グランセル 帝国大使館~

 

「フッ、それにしても、御供一人でこの国に来るとは……父様には話を通したのかい?」

「ええ。セドリックは猛反対しましたけれど、無理矢理押し切りましたわ♪」

「ふふっ、流石は兄の子ですね。そういったお茶目さは昔の兄そっくりです。」

笑みを浮かべながらそう話しているのは、オリビエ・レンハイムもといオリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子、アルフィン・ライゼ・アルノール皇女、そしてアリシア・A・アルゼイド……旧名アリシア・ライゼ・アルノール皇女と呼ばれた、エレボニア皇家の面々であった。

 

「ということは、調印式にはアルフィンが参加するということでいいのかな?」

「ええ。私としては、もっと呑気な気持ちで来たかったのですが、お父様から交換条件として言いつけられまして……」

「心配ないですよ、オリビエ。いざという時は、私もフォローいたしますので。」

ため息を吐くアルフィン。皇家の人間とは言え、まだ社交界デビューすらしていない13歳の人間が政治の表舞台に立つことには周囲から色々言われるであろうが……そこら辺は特に問題ないと切り捨てていた。

 

「そういえばお兄様。調印式の後に会食パーティーがあるそうですね。」

「フフ、その通りだよアルフィン。あと、僕の事はオリビエ・レンハイムで頼むよ。」

「はぁ……知名度のお蔭で自由闊達に振る舞えるお兄様が羨ましいですわね。こうなったら、私も『アルフィ・レンハイム』と名乗って、エステルさん達と旅をしようかしら?」

「やめてください、皇女殿下。これ以上の苦労はご勘弁願いたい。それに、エリゼ嬢の心労が嵩むようなことは控えていただきたいものです。」

アルフィンの冗談とも思えぬ言葉にミュラーが反応し、冷や汗を流しつつもそれを諌めた。

 

「僕に関しては皇室ではなく、『演奏家』として招待されているからね。各国の首脳の心を射抜くような演奏を披露しようではないか。」

「お前、何時の間に招待されていたんだ?」

「ああ、公国大使館に行った後さ。図らずもエステル君やシェラ君のお墨付きも頂いたことだしね。」

会食パーティーの演奏……各国首脳が集う前で『演奏家』として皇室の人間が演奏する……事情を知る者が見たら、どう考えても『おかしい』状況であることには違いないが。

 

「オリビエの演奏ですか……以前聞かせていただきましたが、ゼムリアの中でも五指に入りそうな腕前でした。」

「フ……アリシア殿のお墨付きを頂けるとは、僕にとっても鼻が高いことです。当日はもっと素晴らしき演奏を披露させていただきましょう。」

「流石、お兄様ですわね。」

「………」

色々な思いを抱いている面々……それは、帝国だけではなく、共和国や公国、当事者であるリベールも同じであった。

 

 

~グランセル城 空中庭園~

 

「……嵐の前の静けさ、だな。」

そう呟いたのは、アスベル・フォストレイト。彼は、遊撃士としての仕事着でなく、王国軍としての仕事着に身を包み、眼前に映るヴァレリア湖を見つめていた。

すると、そこに現れたのはワインレッドの髪の女性―――シルフィア・セルナートであった。

 

「……全く、アスベルも色々突っ走るんだから……ま、前の時からそうだったし、今更って感じだけれど。」

「悪かったな……」

シルフィアの言葉に対してバツが悪そうな表情を浮かべて返した後、真剣な表情を浮かべてシルフィアの方を向いた。

 

「そういえば、この前のオルグイユの停止……あれは何だったの?」

「ああ、アレか?連中がオルグイユを隠していたことは掴んでいたから、もしもの時の為にエンジンに細工しておいた。アレを使って起動させた際、一定時間後に回路がショートするように仕込んでいたのさ。」

とはいえ、連中が導力技術に対してどれほどの知識を持っているか解らなかったため、新型回路の試作品を無理矢理組み込んだのだ。そして、一定出力以上の導力を一定時間流し続けると、回路がショートするように仕込んだのだ。これも、新型エンジンに向けての『実験』であったことを情報部の連中はおろか、『結社』ですら気づいていないであろう。

 

「だが、本題はここからだ。“教授”との化かし合い……連中が何の疑いもなく『グロリアス』を“この国”に持ってきたら、こちらの勝利はほぼ揺ぎ無いものとなる。そのために、第二位“翠銀の孤狼”がこちらに来る手筈になっている。」

「え、あの人がこっちに、ってことは……」

「ああ。彼には『グロリアス』を奪取、最悪の場合は破壊してもらう。まぁ、どちらにせよ破壊するけどな。」

アスベルが言った第二位“翠銀の孤狼”……アスベルやシルフィアと同じ守護騎士(ドミニオン)であり、アインと並ぶ守護騎士最古参メンバーの一人である。その彼に『方舟』の破壊の任が下ったということは、つまり……

 

「“教授”の抹殺は第五位にやってもらい、俺らは他の『執行者』を抑える。まぁ、大方はエステル達に任せることになるが。幸いにも“調停”は動かないと確約を貰っているからな。」

尤も、事の次第に絶対という文字などない。この先だってすべて事がうまく運ぶとは限らない……そのためには、使えるものはすべて使っておく必要がある。

 

「第三位のアスベルに第七位の私、第五位のネギに第二位“翠銀の孤狼”……そして、第六位“山吹の神淵”カリン・アストレイ。本当に豪勢だよね。」

「……シルフィ?」

シルフィアはその面々の盛大さにため息をつきつつ、アスベルに抱き着き……アスベルは疑問を浮かべながらもシルフィアを優しく抱き留めた。

 

「アスベルって、本当に弱みとか言わないよね……」

「……弱みを言われる前に、救われてるからだよ。他の連中もそうだが、特にシルフィにはな。」

この言葉に関しては、嘘は言っていない。すべて本当の事だ。確かに弱みを言いたい時ぐらいはある。それを吐き出す前にいろんな奴らから助けてもらっているので、その弱みはいつしか消えてなくなっていた。そう言う意味ではシルフィアに対して感謝してもしきれないぐらいの気持ちを持っている。この世界に転生してから、初めて会った人物であり、俺の幼馴染の中でも一番大切な人なのだから。

 

「………勝とうね。」

「ああ。」

そう言って二人の影が重なる……その姿を夜空に浮かぶ星と月が優しく照らし出していた。

 

 

ZCFの博覧会……そこで執り行われた演奏会は凄まじい有り様となった。

 

「~~~♪」

「………なぁ、ルドガー」

「言わないでくれ……頭が痛い。」

最初はニコルと、彼に頼まれて立候補したオリビエだけであったのだが、ロイドのことがいてもたってもいられずに飛んできた“空の奏人”ルヴィアゼリッタ・ロックスミス、ルドガーを追いかけてきた“蒼の歌姫”ヴィータ・クロチルダ、休暇という形でリベールを訪れていた“炎の舞姫”イリア・プラティエが乱入、更には家族と旅行に来ていたエリオット・クレイグが巻き込まれる形となり、結果的にちょっとしたコンサートというか、ある意味歌劇的なものになってしまったのだ。その後のあいさつで、ルヴィアはエリィの表情を見て一言、

 

「負けないからね。」

「えっ?」

「???」

その言葉にロイドとエリィは揃って首を傾げたのは言うまでもない。

 

不戦条約はエルベ離宮にて執り行われ、リベール王国国家元首アリシア・フォン・アウスレーゼⅡ世、エレボニア皇帝ユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世が名代アルフィン・ライゼ・アルノール皇女、エレボニア帝国宰相名代カール・レーグニッツ帝都知事、カルバード共和国国家元首サミュエル・ロックスミス大統領、レミフェリア公国国家元首アルバート・フォン・バルトロメウス大公、更には特別招待客であるクロスベル自治州共同代表ヘンリー・マクダエル市長といった錚々たる面々が一堂に会し、調印を執り行った。

 

その後、同席したアルバート・ラッセル博士よりニコル・ヴェルヌ、アリサ・ラインフォルト、ティオ・プラトーの三名を通じてZCFのオーバルエンジン『XG-02』が贈呈された。更に、非公式という形でラッセル博士からヴェルヌ社にロイドの持っていたトンファーの改良データや第五世代型戦術オーブメントの基礎データを無償贈呈、ラインフォルト社には『ARCUS』の改良品、レミフェリア総合技術局には『魔導杖』とレミフェリアで開発が進められている『ENIGMAⅡ』の改良品の提供を決定した。尤も、これらのデータはZCF側にしてみれば『お古』を押し付けるようなものではあるのだが……これにより、三国に対するリベールのアドバンテージはさらに増す形となった。

 

その後の記者会見では、今回の条約提唱者であるリベールや共同提唱者であるレミフェリアに質問が集中する形となり、今回の条約における『三大国』のパワーバランスはリベールが一歩抜きん出た形となり、これ以降におけるリベールおよびレミフェリアの発言力は、エレボニアやカルバードにとっても無視できるものではなくなっていたのである。更には、今回招待されたクロスベル自治州の共同代表の存在も大きな意味を果たし、クロスベルにおけるリベールの存在感を印象付ける結果となったのである。

 

 

~グランセル城~

 

その後の会食パーティーでは、演奏を執り行うこととなったニコルやオリビエの姿があった。それを見ているエステルらは正装姿……女性陣はドレス姿であった。

 

「……博覧会の時も思ったけれど、やっぱり納得いかないわね。認めてはいるけれど……」

「ま、普段があれだからエステルの気持ちも解るわ……とはいえ、アタシはこの格好が落ち着かないけれど。」

髪をおろし、淡い橙のドレスに身を包んだエステルはオリビエの演奏にジト目で見つめ、どこかぎこちないシェラザードはラベンダー色のドレスに身を包んでいる。

 

「あはは、その気持ちは解るけれど、シェラ姉も似合ってるじゃない。」

「そういうエステルもね。こうしてみると、本当にレナさんそっくりよ。」

「そ、そっかな?」

シェラザードの褒め言葉に照れつつも、自分の母親に似てきたことに嬉しさを感じていた。そこに、エステルの見知った顔が次々とあいさつに来た。

 

「やれやれ、こういう格好は嫌いなんだが……」

「でも、似合ってますよアガットさん。あ、エステルお姉ちゃんにシェラザードさん。二人とも綺麗です~」

怪訝そうに呟くスーツ姿のアガットに、三人を褒める桃色のドレスを着たティータがやってきた。

 

「ありがと、ティータ。」

「にしても、ティータのドレス姿を見てると、お人形さんみたいね。」

「あ、あう……ありがとうございます。」

「ふふ、そうですね。皆さんとてもお似合いですよ。」

三人の会話に入ってきたのは、白のドレスに身を包んだクローゼの姿であった。

 

「ありがと。でも、やっぱクローゼには敵わないかな。本当のお姫様だもの。」

「あはは……恐縮です。」

「ここにいたか……にしても、錚々たる光景だな。」

エステルは率直にクローゼの格好を褒めると、クローゼは苦笑しつつも礼を述べた。すると、そこに軍服に身を包んだ男性―――アスベルが現れた。

 

「あ、アスベル……って、その軍服?みたいなのは……」

「これが『天上の隼』の制服なんだよ。あまり言いたくないが、王国軍の軍服としてのデザイン的にファンションセンスが……な。」

「あはは………」

『天上の隼』の制服は王国軍の軍服とは異なっている。(イメージ的には『鋼の錬○術師』のアメストリス軍部の軍服)その理由は、王国軍の軍服の機能性は理解していたものの、デザイン的に納得がいかず……軍服として動きやすいものを選んだ結果である。

 

「まぁ、それはともかく……アレを見てくれ。」

「アレ?………えっと、女性のようだけれど……」

その辺りの話を切り上げ、アスベルが指した先にいる二人の人物。長髪にドレス姿の女性……なのだが、その姿に見覚えのある一同。

 

「あちらに見えますのは、罰ゲームで女装してもらったロイドとリィンです。」

「え”っ?」

「……言われてみれば、確かにロイドとリィンね。」

「ほえ~……綺麗ですね。」

「そうですね。女性の私でも羨ましいと思います。」

二人のチームへの罰ゲーム……それは、『全員女性らしい格好(男含む)』であった。ニコルの場合は、演奏という役目のため、これから除外する形となり、ロイド、エリィ、エオリア、リィン、エリゼ、アリサ、ラウラの七人が全員ドレス姿と相成ったのだ。

 

「………リィン」

「言うな、ロイド……俺だって辛い。」

ある意味朴念仁である二人の女装姿………だが、あまりにも似合いすぎているために……

 

「ふふ、ロイドってばお似合いね。私が嫉妬してしまいそうよ。」

「これは面白いというか、違和感がないのよね。」

「その気持ちには同感ね。」

「……私が兄様に嫉妬してしまいそうです。」

「その気持ちは解るぞ、エリゼ。」

淡いピンクのドレスを着たエリィ、緑のドレスに身を包んだエオリア、深紅のドレス(シャロンが用意したもの)に身を包んだアリサ、蒼のドレスに身を包んだエリゼ、そして空色のドレス姿のラウラが各々感想を述べた。

そこに……

 

「ろーっくーん!」

「どわっ!ルヴィアさん!?」

「む~、ろっくんってばつれないな。呼び捨てでいいのに。」

紫紺のドレスに身を包んだルヴィアゼリッタが現れ、目にも止まらぬ速さでロイドに抱き着いていた。

 

「ルヴィア……その、当たってますから。」

「いやだなぁ、解ってて聞くんだ……ろっくんだから、当ててるんだよ♪」

「いや、意味わかりませんから!」

ロイドとルヴィアゼリッタの会話……傍から聞けば、ロイドが受け入れるとバカップルと言われようとも過言ではない光景であった。ちなみに、ルヴィアゼリッタのスタイルはかなりいい。下手すると、セシルに匹敵しうるほどのスタイルの良さである。

 

「(……何でかしら、ロイドが他の女性とああしていると、胸が痛むのよね……)」

だが、その光景を見たエリィは胸のあたりに痛みを感じ、それがロイドに関わることだというのは気付いていたが、それが何なのか解らずにいた。

 

この後、ロックスミス大統領やカール帝都知事、アルバート大公が帰ったのを見計らって宴会へと突入することとなった。その結果……

 

「ーーーー!!!!」

「んっ………」

「ろっくん、次は私とキスしよ♪」

ロイドは酔っぱらった勢いで迫ってきたエリィにキスされ、それに触発されたルヴィアゼリッタはロイドにディープキスし、それに火がついてエリィとルヴィアゼリッタから交互にキスされる羽目となった。

 

「兄様……」

「リィン……」

「………(どうしろっていうんだよ、この状況)」

リィンに関しては彼の左側にエリゼ、右側にラウラからがっちりとホールドされ、身動きが完全に取れなかった。

 

「今日はシオンの上で眠りますわね♪」

「アウトだよ!誰だよ、アルフィンに酒飲ませた奴は!?」

「私よ♪」

「何やってんだ、良い歳した大人が!?」

「シオン……」

「クローゼもかよっ……!!」

三人に言いよられているシオンは本気で頭を抱えたくなった。

 

「……大変だね。」

「そう言う意味じゃルドガーもだけれどね。」

「代わってくれ。割と本気で。」

「それやると、俺が死ぬ。」

「だよなぁ……」

その光景を生暖かく見つめる他の面々であった。

 

ちなみに、アリシア女王とヘンリー市長は旧知の仲らしく、二人曰く『曾孫が見たい』らしい。いや、それでいいのかアンタらは……そう思ったのは言うまでもなかった。

 

 

―――『導力停止現象』まで、おおよそ一週間前のことであった。

 

 




一応、この話で区切る形となり、いよいよ本筋に戻ります。


次章の嘘予告

ケビン「オレの釣り力は……53万や。しかも、あと二回覚醒を残しとる。」

エステル「あ、あんですってー!?」

ルヴィアゼリッタ「ヴァルターちゃんの戦闘力……たったの5か。フッ……」

ヴァルター「てめえ、殺す!!」

ワイスマン「実は私、マキアス・レーグニッツの未来の姿なのですよ。」

マキアス「嘘を言うなっ!!」


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