英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第114話 悲しみの先に

 

『紅の方舟:グロリアス』から脱出したライナスとエステル、そして彼の担ぐ『お土産』……その行先は……

 

「到着したよ、エステル……って、エステルさ~ん?」

「…………ここ、ここって……」

エステルが驚くも無理はない。何故ならば、リベールにおいて彼女が『最もよく知っている場所』なのだから。

 

 

「何で行き先があたしの家なのよーー!!!」

 

二人の到着した先……ロレント郊外にあるブライト家。そして、エステルの生まれ育った家だった。

 

 

~ブライト家~

 

「た、ただいま~……」

「あら、おかえりなさいエステル。それと……ライナスさん、すみませんでしたね。」

「お邪魔します、レナさん。いやぁ、一宿一飯の恩としてこれ如きでは足りないかもしれませんが……」

驚きつかれたエステルが先に入ると、夕食の準備をしていたレナがエステルの姿に気づき、声をかけた。それと、エステルの後ろにいたライナスの姿が目に入り、ライナスは申し訳なさそうな口調でしゃべりながらも、『お土産』を降ろした。

 

「い、いろいろ聞きたいけれど……まずは、これ何なの?」

「お、そうだったな……よいしょっと……」

色々ありすぎて、何から聞こうか悩むエステルだったが……とりあえず、ライナスが『お土産』と称した物体が気になり、ライナスがその包みをほどくと……中から出てきたのは、人の姿であった。その姿にレナは目を丸くし、エステルは茫然とした。

 

「…………え?」

「あら………」

「おや、知り合いなのかな?」

その人物の姿は見紛うことなく……エステルにしてみれば両親や幼馴染に匹敵するぐらい馴染みのある人物だと言っても過言ではない。

 

「ヨ、ヨヨヨヨヨヨ………ヨシュアっ!?」

包みの中から出てきたのは、エステルが今一番会いたかった人物―――ヨシュアの姿だった。

 

いろいろ驚きではあるが、ヨシュアを彼の部屋に寝かせると、エステルが傍に着く形で椅子に腰かけた。

 

レナとライナスから簡単に説明は聞いたが……二人によると、以前生き倒れていたライナスをカシウスとレナが見つけ、一晩だけ泊めたことがあるらしい。それもエステルが生まれる前の話だったらしく、これにはエステルも驚きを隠せなかった。そのレナと再会した際、ヨシュアを連れ戻してほしいという願いを聞き、ライナスは飛行艇に忍び込んだらしい……その過程でエステルも助け出されたことにため息しか出てこなかったのは言うまでもないが。

 

「……そういえば、初めてヨシュアと会った時もこんな感じだったっけ。」

 

―――五年前、カシウスが連れてきた傷だらけのヨシュア……以後、ブライト家の一員として育てられてきた思い出の深い場所。あたしにとっても、思い出がいっぱいある場所……

 

エステルがそう思い返していると、ヨシュアの意識が戻ってきたようで、瞼が静かに開かれた。

 

「…………えっ」

「あ………えと、久しぶりだね、ヨシュア。」

「………ここは。」

「ヨシュアの部屋……ううん、あたしとヨシュアが生まれ育った家。」

困惑するヨシュアにエステルは説明した。会いたかった人に抱き着きたいという衝動はあるが、一先ずそれを抑えてこの状況を説明した。

 

「……っ!エステル、君は確か捕まったんじゃ……」

「脱出したわよ。尤も、意外な人の助けを借りれたけれど。」

「あの艦には“剣帝”もいたはず……」

「妨害とかはなかったわ……でも、“剣帝”から話は聞いたわ。ヨシュアとヨシュアのお姉さん、“剣帝”の関係も。」

「そっか……でも、僕にはそれが悲しく感じられないんだ。」

エステルの言葉にヨシュアは俯いた。だが、悲しそうな笑みを浮かべつつエステルに言い放った。

 

「“教授”に調整されたせいなのかな。戦闘には邪魔な要素だって……僕自身が経験したはずなのに。というか、どうして僕を追いかけて来たんだ!僕に関われば『結社』とも無関係じゃいられなくなる。それなのに、君はそう無鉄砲なことを……」

「………」

「君ともう一度会えてとても嬉しかったけど……それでもやっぱり僕たちは一緒にいるべきじゃない。僕みたいな人間がいたら君のためにもならないし……正直、君がいても足手まといになるだけだ。だから……エステル?なんで君がため息を吐くのかな?」

はぁ……とため息をついたエステルにヨシュアはため息をつきたいのはこっちだと言わんばかりの感情を込めて尋ねたが、エステルは

 

「ヨシュアのバカ、鈍感、朴念仁。」

「なっ……」

率直に今のヨシュアの言葉を率直に評価し、ヨシュアは目を見開いた。それを見た後、エステルは言葉を続けた。

 

「ヨシュアだって気付いてるはずよ。教授はこの国で大層なことをしそうなことも……となると、罪のない人たちが傷つくことになる。それを助けるのは遊撃士の仕事であり、遊撃士であるあたしの役目。その時点で関わりになるな、とか……ヨシュアはあたしにそういった人たちを見殺しにしろって言うの?」

「い、いや……そういうことじゃなくて………」

「それに、『執行者』と対峙している以上……あたしももう無関係でいられない。ううん……ヨシュアがこの家に来て、家族となった時から既に無関係じゃないんだと思うの。」

今までに起きたことから目を背けるのは簡単なことかもしれない。けれども、エステルは持ち前の直感でそうしたとしてももう無駄なのではないかと悟っていた。だからこそ、カシウスの願いを聞き届け、自分自身も『結社』と戦うために力を磨き上げてきた。それは、ヨシュアがブライト家の一員となってから決められた『運命』なのかもしれない。それに……

 

「それに………さっき、他人事にしか思えないってヨシュアは言ったけれど……ヨシュアは受け入れられないだけだと思う。お姉さんが死んだってことを……ヨシュアが壊れてるからじゃない。自分のせいで大切な人を失ってしまったことを受け入れるのが怖くなって、逃げてるだけ。」

「!!!」

自分自身も、目の前からヨシュアがいなくなった時、その現実から逃げるような行動をとっていた。恐らくは、ヨシュアは知ってしまった事実からエステルを危険な目に遭わせたくないと思い……あのような形でエステルと別れたのだろう。

 

 

「自分のせいでお姉さんが亡くなったと思い込んで……同じことが、あたしの身に起きることが耐えられなくて……だからあの夜、ヨシュアはあたしの前から逃げ出したのよ。それ以外の理由は後付けだわ。」

「………」

「ヨシュアは壊れてなんかない。ただ恐がりで……自分に嘘をついているだけ。今のあたしには自信をもって断言できるわ。」

「そんな……でも………」

静かに語るエステルの話に反論しようとしたヨシュアだったが、反論の言葉は見つからなく黙り、エステルから顔を背けた。

 

「どうして君は…………そんなことまで……」

「前にも言ったけど、あたしはヨシュア観察の第一人者だから。ヨシュアの過去を知った今、あたしに敵う相手はいないわ。教授にだって、レーヴェにだって、絶対に負けないんだから……もし、仮にカリンさんが生きていたとしてもね。………恐がりで勇敢なヨシュア。嘘つきで正直なヨシュア。あたしの……大好きなヨシュア。やっとあたしは……ヨシュアに届くことができた。」

そしてエステルは顔を背けているヨシュアを背中から優しく抱き締めた。

 

「……っ………」

抱き締められたヨシュアは驚いて硬直した。

 

「でもあたしは……守られるだけの存在じゃない。さっきも言ったけれど……あたしが遊撃士を続ける限り、危険から遠ざかってばかりはいられない。ヨシュアがいようがいまいが、その事実は変わらないんだよ。だってそれは、あたしがあたしであるための道だから。」

「…エステル……」

「だからヨシュア、約束しよう。」

「……え…………?」

エステルの唐突な提案にヨシュアは呆けた声を出した。

 

「お互いがお互いを守りながら一緒に歩いていこうって。あたしは、これでもヨシュアの背中を守れるくらいには強くなった。ヨシュアが側にいてくれたらその力は何倍にも大きくなる。『結社』が何をしようと絶対に死んだりしないから……だからもう……ヨシュアが一人で恐がる必要なんて、どこにもないんだよ。」

「……エステル………………あ………………」

優しげな微笑みを浮かべて語るエステルの言葉を聞いたヨシュアの目から涙がこぼれ落ちた。これにはヨシュアも驚きを隠せなかった。自分があの時以来見せることの無かった“哀”の感情の発露。その証拠とも言える涙を自分が流したことに……

 

「なん……で……涙なんて……姉さんが死んでから……演技でも、流せたこと……ないのに……」

「えへへ……そっか……」

信じられない様子でいるヨシュアを見たエステルは恥ずかしそうな表情で笑った後、優しい微笑みを浮かべて言った。

 

 

「―――見ないであげるから……そのまま泣いちゃうといいよ……。こうしてあたしが…………抱き締めててあげるから……」

 

 

そしてヨシュアはしばらくの間、泣き続け、やがてヨシュアの泣き声は止まり、泣き終えたヨシュアは涙をぬぐって、エステルを見た。

 

 

「えへへ……な、何だか照れるわね。」

「うん……そうだね」

「あ……そうだ!これ、返すからね」

お互い恥ずかしそうな表情を浮かべていたが……エステルはハーモニカを取り出し、ヨシュアに渡した。

 

「あ……」

一方、エステルからハーモニカを渡されたヨシュアは呆けた声を出した。

 

「まったくもう……お姉さんの形見なんでしょ?ヨシュアにとって大切なものを簡単に人に渡すんじゃないわよ。」

「うん……確かに、軽率だったかな。」

呆れた表情で溜息を吐いて語ったエステルの言葉にヨシュアは頷いた。考えて見れば、大切なものを大切な人に預ける行為など、これから自分は死にに行くのだ、と言っているようなものだからだ。そしてエステルはある事を尋ねた。

 

「そういえば、カリンさんって……どんな人だったの?」

「うん……そうだね……気立てが良くて優しいけど、どこか凛としていて……レーヴェとすごくお似合いで子供心に少し妬いていたよ。」

「気立てが良くて優しくて凛としたタイプね……それって、クローゼやセシリアさんみたいな感じ?」

「はは……そうだね。顔立ちとかは違うけれどタイプは似ているかもしれない。………エステル、その……」

エステルの問いかけに答えた後、ヨシュアは顔を顰めて肝心なことを言おうとしたが、エステルは

 

「資格がないとか言ったら許さないわよ?それを言ったらスコールやクルルに失礼なことを言ってるも同じじゃない。」

「えっ……“影の霹靂”に“絶槍”を知ってるの?」

その申し出をきっぱり否定し、ヨシュアはエステルから出た人物の名に目を丸くした。

 

「うん。あたしたちと一緒に行動したこともあるしね……大事なのは組織じゃなくて、本人の意思ってことじゃないの?そりゃあ、あたしだってあの二人が元『執行者』だって吃驚したけれど……でも、今ではあたしも二人を大事な仲間だって認めているわけだし……そうでしょ、ヨシュア?何だったら、『結社』の計画についての情報を父さんにでも話したらチャラよ。いわゆる司法取引ってやつ?」

「それは違うと思うけれど………やれやれ、君には勝てないよ。」

エステルの言葉に呆れた表情で溜息を吐いた後、笑みを浮かべてエステルの方を見た。

 

「ともかく、皆に迷惑をかけたことは事実なんだから……ちゃんと謝りなさいよ!」

「うん、解ったよ。」

何はともあれ、ヨシュアの説得に成功し、無事に再会することもできた。

すると、丁度よく扉が開き、二人の知る人物が近寄ってきた。

 

「起きたのね、ヨシュア。」

「お母さん!」

「母さん……ずっと心配をかけて………ごめんなさい。」

レナの姿を見てエステルが声をあげ、ヨシュアはレナの姿を見て辛そうな表情を浮かべつつレナに謝罪の言葉をかけた。

 

「あなたが家を出て行った理由………あなたが過去に何をしていたか………大体の事はカシウスから聞いたわ。」

「か、母さん………?」

謝罪するヨシュアにレナは静かに答えた。そしてレナはヨシュアを静かに見つめた後、黙ってヨシュアを抱き締めた。その行動にはヨシュアも焦りを覚えた。

 

「本当に…………心配したのよ…………あなたが無事に戻って来てくれて、本当によかった………!」

そしてレナは涙を安堵の表情で涙を流しながら言った。

 

「母さん………うん………本当にごめん……………」

「お母さん………」

レナの言葉を聞いたヨシュアは驚いた後、レナに抱き締められた状態で静かな声で謝り、その様子をエステルは微笑んで見つめていた。その後、ヨシュアから離れた後、エステルの方を見て微笑みながら呟いた。

 

「それにしてもエステル。貴女にもようやく恋人ができるなんてね。それもこんな素敵な男の子を見つけるなんてね。」

「も、もうお母さんったら…………」

「ヨシュアもよかったわね。エステルの事………ずっと好きだったものね。」

「ハハ……母さんには僕がエステルが好きだって事、わかっていたんだ。」

レナの言葉を聞いたエステルは照れ、ヨシュアは苦笑しながら答えた。

 

「貴方を家族になってから貴方を見ていたのはエステルだけでなく、私やカシウスも“家族”として勿論見ていたから、わかるわよ。」

「フフ…………でも、一番ヨシュアを解っているのはあたしなんだからね!」

「はいはい。勿論それはわかっているわよ。」

自慢げに言うエステルをレナは微笑みながら言った。だが、その後……レナの表情の笑みが増していくことにヨシュアの頬を伝う様に冷や汗が流れ始めた。

 

「さて………と。ここからは親として、ヨシュアに聞きたい事や言いたい事がたくさんあるわよ?」

「か……母さん?」

「当然、あたしも色々あるんだからね!」

そしてレナは凄味の笑顔をヨシュアに見せて言った。それに続くかのようにエステルも凄味のある笑顔でヨシュアに迫っていた。

 

「エ、エステルまで!?」

「フフ……ゆっくりでいいから……ちゃんと、私達に本当の事を話してね~?」

エステルの様子を見てさらに焦ったヨシュアに止めを刺すかのように、レナは背後にすざましい何かの気を纏って凄味のある笑顔で言った。

 

「ハイ…………………」

二人の様子を見て逃げられないと悟ったヨシュアは諦めて、肩を落として答えた。それから数時間に亘って“色々”言われたり聞かれたヨシュアは心身ともに疲れ切った状態になった。

 

 

「………つ、疲れた。」

「何言ってるのよ……“この程度”で疲れるなんて情けないわよ。」

(どこがなの!?)

「だって、人のファーストキスをあんな形で奪ったんだから……でも、怒ってるのはあたしだけじゃないけれど。アスベルも怒ってたしね。」

「………」

疲労感あふれるヨシュアであったが、エステルの言葉の中に出てきた人物の名にヨシュアは冷や汗を流し、その人物の言っていた『罰』に何故だか嫌な予感しかしなかった。エステルが窓の外を見ると、空は夕焼けに染まっており、夕方になっているのが目に取れた。

 

「って、もう夕方なんだ。そういえば……お母さん、夕食の準備はいいの?」

「大丈夫よ。今日は彼女たちに頼んでいるの。」

「彼女たち?(あれ……何でだろうか?心なしか、どこかで感じた気配が……)」

エステルは気になる質問をレナに尋ね、レナが微笑んでそう答えると、ヨシュアは二人の追及で手一杯になっていた状況から解放されて初めて、下に感じる気配を察し、その気配に覚えがあることに首を傾げた。

 

「とりあえず、一階に下りましょうか。ヨシュアはもう大丈夫かしら?」

「うん、問題は無いかな。ただ気絶してただけだし。」

「そっか……あ~、安心したらお腹がすいちゃったわ。もうペコペコよ。」

だが、確証がないため……ヨシュアも一階に下りることとし、レナとエステルも続いた。

 

ライナスに関しては、他の仕事があるということで既にいなくなっていたが……一階に下りると、そこにはエプロン姿で食事の準備をしていた二人がレナの姿を見て声をかけた。

 

「レナ殿、話は終わったようですね。」

「レナさん、味見してもらえますか?」

「ええ、解ったわ。」

二人の言葉に笑みを浮かべつつ、レナは二人に近寄っていった。

 

「え、えっと、誰なの………ヨシュア?」

「な、な、な………」

見たことの無い大人の女性二人の姿にエステルは首を傾げるが、エステルの横にいたヨシュアが吃驚した表情を浮かべていることに彼女は首を傾げた。そして、ヨシュアは声をあげた。

 

 

「何で貴女達がここにいるんですか!?『使徒』第二柱“蒼の深淵”ヴィータ・クロチルダ、第七柱“鋼の聖女”アリアンロード!!」

 

 

―――『結社』の最高幹部である『使徒』二人の姿。“剣帝”や“調停”絡みでよく知っていた二人であった。

 

 




うまく書けているか疑問ですが……(汗)

せっかくだったので、ヨシュアと出会った場所でのシーンに仕上げました。

そして、最後のシーンに関しては次回をお楽しみに、としか言えません!

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