~ブライト家~
無事に和解できたエステルとヨシュア。レナとの話も終わり、一階に下りてきたレナはその二人に対して平然と接していて、エステルは首を傾げ……そしてヨシュアは、
「何で貴女達がここにいるんですか!?『使徒』第二柱“蒼の深淵”ヴィータ・クロチルダ、第七柱“鋼の聖女”アリアンロード!!」
驚きの声をあげていた。無理もない……自分が抜けたはずの組織の人間がここにいることもそうだが、カジュアルな私服姿にエプロンをつけて食事の支度をしている“ありえない”光景にヨシュアは頭を抱えた。
すると、二人はヨシュアの姿を見ると呑気に挨拶をした。
「あら、“漆黒の牙”……ヨシュアじゃない。お久しぶりね。」
「お久しぶりです、ヨシュア殿。」
「………ええ、まあ。お久しぶりです。色んな意味でお二人がここにいること自体おかしいですが。」
その言葉に敵対する気も失せたのか、ヨシュアはジト目で二人を睨みつつ挨拶を交わした。すると、エステルが疑問に思ったことを投げかけた。
「ねえ、ヨシュア。ブルブランといい、ヴァルターといい……『結社』って変な奴ばかりなの?」
「………ごめん、エステル。ノーコメントにさせてほしい。」
真っ当な奴もいることにはいるのだが……いかんせんアクの強すぎる面々なだけに、どう答えても元身内の恥を曝すことにしかならず、ひいては自分の恥かしいところを暴露するような出来事のため、ヨシュアは押し黙るしかなかった。
「というか、お母さんも良く平然としてられるわね……」
「ふふっ、二人は私の弟子のようなものだしね。」
「へっ?」
「『使徒』が弟子って……何でそんなことになったの、母さん?」
「それはね……」
自分の母親がヨシュアの元身内……それも、あのワイスマンと同じ『使徒』と呼ばれる人間を弟子扱いすることになった経緯を、レナが話し始めた。
―――事の起こりはおおよそ一週間前。レナがいつものように食事のための買い物に出ていた帰りの事であった。
『あら?』
レナが家の前に着くと、二人の女性が家の前にいた。少なくともレナにしてみれば見覚えのない人間であり、これにはレナも首を傾げた。すると……二人は何かを言っていたようであった。
『“深淵”殿、何故にここへ来たのですか?』
『“剣聖”カシウス・ブライト……彼や、あの子を育んだこの場所なら、きっと力になってくれると思ったからよ。ヨシュアの知り合いとでも言っておけば、どうにかなるんじゃないかしら?』
『……まぁ、理屈は適っていますが……本当にどうにかなるのでしょうか?』
少なくとも、ヨシュアの身内らしいことは確定であったので……レナは疑問に思いつつ、尋ねた。
『あの、家に何かご用でしょうか?』
『え?あの……』
『えと、実は私達、ヨシュア君にはお世話になってまして……折り入った相談ができないかと……』
『ヨシュアの……そうですか、解りました。お茶ぐらいはご馳走しますよ?』
二人の言葉には少なくとも嘘が感じられず、レナは二人を招き入れることとした。そして、二人は出されたお茶を飲みながら、相談したいことをレナに話した。相談の内容としては、家庭的な女性には何が必要なのかをレナに聞いたのだ。あの“剣聖”やその娘、そして“漆黒の牙”を育んだ目の前の女性ならばいい答えが出ることを期待して……それに対してレナは笑みを浮かべて答えた。
『……成程。それでしたら、私ができる範囲でお教えしますよ。ですが……』
(な、何この威圧……)
(こ、この感覚……流石“剣聖”の妻ですね……)
『やるからには徹底的に叩き込みます………逃げ出すことは許しませんからね?』
『『ハ、ハイ!!』』
凄味のあるレナの笑顔にヴィータとアリアンロードですら素直に返事することしかできなかった位“脅威”を感じたのは言うまでもないが。
「………ヨシュア。」
「………何も言わないで、エステル。僕もこの現実から目を背けたいんだ。」
この家の最強は父であるカシウスではなく、母親であるレナ………それを垣間見た瞬間に立ち会ってしまったことにエステルとヨシュアは二人揃って疲れた表情を浮かべた。
「まぁ、そういうことだからしばらく厄介になるわね♪」
「……ちなみに、“教授”はそのことを?」
「知らないと思いますよ。私らはそこまで知己というわけではありませんから。」
「―――敵対しないのなら、敢えて見なかったことにしておきます。」
ヴィータはともかく、アリアンロード相手では流石のヨシュアも分が悪すぎる……幸いにも、向こうに争う気がないので今回は“停戦”ということで結論を出すことにしたヨシュアであった。
その後、ヴィータの作った料理を食べることになり………その感想は
「お、美味しいけれど……あ、あり得ない……」
ヨシュアは自分の知る人物が作ったとは思えないその料理の味に頭を抱えたくなり、
「あ、この味付け、ほとんどお母さんと同じ……美味しいのは認めるけれど……」
エステルはその料理を作ったのがヨシュアの元身内だということに納得しかねながらも料理に舌鼓を打ち、
「ふふ、短期間でここまで頑張れたけれど……まだまだね。」
二人の師匠であるレナは辛口評価であった。
……翌朝、三人に見送られる形でエステルとヨシュアは家を出て、一路ロレントに向かっていた。その二人の様子はというと……
「「はぁ………」」
疲れ切っていた。それもそうだろう……自分たちの家にワイスマンと同じ『蛇の使徒』がいるだなんて、誰が想像できたであろうか。いや、出来ないであろう。
「何か、“教授”と対峙するよりも疲れた気分だね。」
「それには同意するわよ。というか、大丈夫かしら?」
「“蒼の深淵”はともかく、“鋼の聖女”のほうは騎士道に則って行動しているからね。そこだけは安心できるかな……」
第二柱は読めないが、第七柱に関してはそれなりに義理堅いことを知っているだけに、その点だけは信頼しておきたいというのがヨシュアの本音であった。
「尤も、母さんの強さの前だと二人も形無しみたいだけれど……」
「というか、何であの二人は母さんに教えを乞うようなことをしたんだろ?家庭的な人ってそんなにいないの?」
「残念ながらね……」
これにはヨシュアも肯定せざるを得なかった。なぜなら……そういった事ができる人よりも、実力的な面が保証されているがために、『執行者』はそういう面に疎い人間ばかりが集ってしまったのだ。それは『使徒』も同様であろう。
「これ以上は、考えるだけ深みに嵌りそうだし……ギルドに行こっか。」
「………そうだね、エステル。」
これ以上考えても意味がないだろうと結論付け、二人はギルドに向かった。意味がないというよりは、考えるだけ無駄と言った方が無難であろうが。
~ロレント市 遊撃士協会ロレント支部~
ロレント支部に入った二人に、受付にいた女性が気付いた。
「あら……エステル!無事だったみたいね。それに……」
「アイナさん。その、心配かけちゃったみたいね……」
「……お久しぶりです、アイナさん。」
受付のアイナは入ってきたエステルとヨシュアに声をかけ、二人は申し訳なさそうに言葉を返した。
「フフ、エステル。私もそうだけれど、その言葉は貴方達の仲間に言ってあげなさい。」
「……うん、ありがとうアイナさん。そうだよね……みんな心配してるだろうし。」
アイナはエステルに諭し、エステルはその言葉に感謝を述べた。そして、アイナはヨシュアの方を向き、
「それと、ヨシュア。」
「は、はい……」
「事情はシェラザードから聞いているわ。今度女の子を泣かせるような真似をしたら、とっ捕まえて酒盛りに強制参加させるからね。」
満面の笑みで放たれた『最後通告』のような言葉に、ヨシュアの背中を冷や汗が流れた。その光景を一度だけ見たことのあるヨシュアにしてみれば、それはまさに自分にとっての『死刑台』のようなものであることは知っているだけに、それを裏切るようなことは許されない………その意味が込められているのであろう。
「………す、すみませんでした。」
「解ればいいのよ。」
「あはは………」
アイナのその言葉にはヨシュアも素直に謝ることしかできず、エステルも苦笑を浮かべていた。
「さて……二人が行く先となると、グランセルでいいのかしら?」
「ええ、お願いします。」
「解ったわ。二人分のチケットは手配しておくから。それと、向こうに着いたらギルドに立ち寄っておきなさい。」
「うん、わかったわ。」
アイナの言葉を聞き、エステルとヨシュアはギルドを出て飛行場へと向かった。
~定期飛行船西回り~
飛行船に乗った二人……すると、二人に馴染のある人物が近づいてきた。
その人物―――ライナスは二人に声をかけた。
「おや、邪魔してしまったかな。」
「貴方は、あの時の……」
「ライナスさんじゃない。って、ヨシュアも知り合いなの?」
「うん………多分、エステルが脱出しようとした時にね。助けてもらったんだ。」
ヨシュア曰く、あの後駆動炉に仕掛けを講じていた時、運悪く“剣帝”と遭遇し、剣を交えた。その際にライナスが割って入り、ヨシュアを気絶させるとその場を去ったらしい。
「フフ、僕としては余計なおせっかいをしたかな?」
「いえ………聞けば、僕とエステルを助けていただいたのですから……ありがとうございます。」
「そうか……ならいいのだけれどね。あの場に部外者がいたのは“剣帝”も驚きだったようだ。」
ライナスは申し訳なさそうにするが、ヨシュアは素直にライナスへ感謝の言葉を述べた。突然の介入とはいえ、あのまま戦っていれば“剣帝”に殺されていたかもしれない……そう考えると、彼の介入はある意味助けであったことに変わりない。
「あたしですら驚きだったわよ……そういえば、ライナスさんはどうしてここに?ケビンさんと同じく『身喰らう蛇』や『輝く環』の調査だったりするの?」
「……えっと、エステル。そっちの知ってることって……」
「あ、そっか。ヨシュアはいなかったわけだし……あたしが知っている範囲で教えるわね。あ、でも……」
「僕の事は気にしないでくれ。というか、遊撃士協会とは僕の仕事の関係で協力しなきゃいけないからね。」
「そうなんだ。えっと……」
二人の言葉を聞いて、エステルは話した。尚、その際にライナスはこっそりと遮音の結界を張っていた。
ヨシュアを連れ戻してほしいとカシウスに頼まれたこと……そのために訓練を重ねたこと……『結社』の実験、ロレントで“幻惑の鈴”ルシオラ、グランセルで“殲滅天使”レン、ボースで“剣帝”レーヴェと対峙したこと……レーヴェとの戦いを通じて“至宝の眷属”と呼ばれるレグナートに出会ったこと……その過程で『聖天兵装』の存在を知り、アガットとエステルがその<起動者>となったこと。不戦条約の調印式を通じて色んな人と関わりを持ったことも……
「僕のいない間にそんなことが……」
「そんな顔しないでよ。言ったでしょ?あたしが選んだ道だって。」
「うん……そうだったね。」
「それでいいの。で、ライナスさんは何の仕事なの?」
自分がいない間にエステルの歩んだ道の過酷さにヨシュアは申し訳ない表情をし、一方エステルはそれに対して笑みを浮かべてはっきりと答えた後、ライナスに尋ねた。
「僕はケビンと違うことを頼まれたのさ……『輝く環』の回収。それが困難な場合は破壊せよ……尤も、状況次第ってことになりそうだけれど。」
「えっ!?」
「そもそも、破壊なんて出来るんですか?聞くところによれば、かなり高位のアーティファクトですが……」
『七の至宝』……それを破壊するという『夢物語』を聞いているような感覚にエステルとヨシュアは二人揃って目を丸くした。そもそも、アーティファクトを破壊すること自体大丈夫なのかどうかという疑問もあるが。それに対してライナスはため息を吐いて言葉を続けた。
「正直、方便だろうね。誰も破壊できるだなんて思っていない……だが、可能性はある。同じ“空の女神”が作った代物ならば、ね。」
「それって………あたし!?」
「エステルの持つ、『聖天兵装』ですか。」
「ああ、そうなるね。」
ライナスが言うには、導力で動かず、<起動者>の精神力や闘気に呼応してその姿を顕現させる『聖天兵装』………故に、アーティファクトではない“例外の贈り物”と呼ばれた代物。だが、その姿を見たものは顕現した約1200年前を最後に途絶え、その存在は外典に少し触れる程度の記載しか残されていないのだ。
「とはいえ、僕は君を便利屋扱いできない。お互いに道具ではなく人間なわけだしね。まぁ、回収は最善の手でしかないわけだし……本音は破壊しておきたいけれど。」
「成程………そちらも、色々ありそうですね。」
『結社』のみならず『七耀教会』にもいろいろ事情があることを悟り、ヨシュアはライナスに同情した。
三人を乗せた飛行船はグランセルに着き、大聖堂に向かうライナスを見送った後、二人はギルドへと向かった。
~王都グランセル 遊撃士協会グランセル支部~
扉を開いて入ってきた二人を待ち侘びたかのように、受付の男性―――エルナンは二人の姿を見て、安堵の表情を浮かべつつ声をかけた。
「エステルさん、それにヨシュアさん。ロレント支部から連絡は聞いていましたが、無事で何よりです。ボース支部の方に連絡は既にしております。今頃は他の皆さんもこちらに向かっていることでしょう。」
「エルナンさんにも迷惑をかけちゃったわね……それと、ありがとうございます。」
「本当にすみませんでした。」
エルナンは二人に労いの言葉をかけ、仲間たちにも既に連絡をしたと伝えた。その言葉に二人も各々言葉を返した。
「いえ……ヨシュアさんは、私ですら及ばぬ事情がおありなのでしょう。さて、こちらを二人に渡しておきます。」
「これって……」
「グランセル城―――女王陛下への紹介状です。尤も、エステルさんやヨシュアさんは顔パスでしょうが……一応渡しておきますね。」
「ありがとう、エルナンさん。」
「すみません。何から何まで……」
「いえ、私など紹介状を書いただけです。お二方とも頑張ってください。」
エルナンから紹介状を貰い、二人は素直に礼をした後、女王陛下へと面会するためにグランセル城へと向かった。
―――『導力停止現象』が起こるまで、あと一日。
確か、原作ではこのあたりのくだり(女王面会前のシーン)がなかったはずなので、完全にオリジナルです。容量の関係とはいえ何故省かれたし……尤も、原作だとルーアンなのでジャンあたりの反応も見たかったですね……別に変な意味などないですが。
そういえば、閃Ⅱの情報を見た(ファミ通・電撃プレステ)のですが……神気合一で『疾風』→『裏疾風』……ファッ!?(驚愕)
あと、ガイウスが槍二刀流でした。必殺技はキックですかー!?(B○SARA的な意味で)
そのうち設定が出たら、ひっそり書き換えてるかもしれません(オイッ!)