英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第116話 縁と絆

二人は渡された紹介状を見せると、女王への謁見を許され……アリシア女王と傍に控えているモルガンに『グロリアス』やヨシュア自身が手に入れた結社の情報を話した。

 

 

~グランセル城 謁見の間~

 

「―――以上が、これまでの顛末と“方舟”潜入時に掴んだ情報です。」

「なんたる事だ。そんな化物じみた巨船がリベールに潜入していたとは……『結社』はそんなものを持ち出して一体何をするつもりなのだ……」

ヨシュアの話を聞き終えたモルガンは唸った後考え込んだ。全長250アージュ(250m)……その規模で言うと、弩級……空母とも言える飛行艦をこの国に持ち出してきた狙いを計りかねていた。

 

「『福音計画』の全貌はとうとう掴めませんでした。ですが、彼らはすでに次の行動を開始しています。」

「たしか……“第三段階”とか言ってたわよね。」

ヨシュアの説明を補足するようにエステルは呟いた。ヨシュアが先ほど言った情報通りだとすると……王城地下の封印区画解除が『第一段階』だと教授がいっていたらしく……となると、『第二段階』は各地方での『実験』という意味合いなのだろうと推測される。つまり、『第三段階』はこれまでの動きを踏まえての新たな展開ということになる。

 

「大変な事態になりましたね……モルガン将軍。王国軍の対応はどのように?」

「昨夜のうちに、この二人からカシウスに連絡が行ったようでしてな。すでに彼の指示で、全王国軍に第一種警戒体制が発令されております。さらに飛行艦隊を出動させて王国全土の哨戒に当たらせました。」

「そうだったのですか……エステルさん、ヨシュア殿。本当にご苦労さまでしたね。」

モルガンの話を聞いて頷いた女王はエステルとヨシュアに優しく微笑んだ。

 

「い、いえ。当然の連絡をしただけですし。」

「正直……もう少し早い段階で連絡すべきだったかもしれません。空賊艇奪還事件の件を含めて本当に申し訳ありませんでした。」

その言葉にエステルは大したことなどしていないと言いたげに言葉を返し、ヨシュアに至っては今まで自分のしたことも含めて謝罪の言葉を述べた。『結社』と戦うためとはいえ、結果的には『犯罪』を犯したことには変わりないのは事実だ。

 

「ちょ、ちょっとヨシュア。」

「いいんだ、エステル。裁きを受ける覚悟はできているから。」

「ふむ……陛下、如何いたしますか?」

確かに、考えて見れば“犯罪”…あの空賊と行動を共にしていたことから、最低でも“犯罪幇助”の罪は免れない……覚悟を決めている様子のヨシュアを見たモルガンは女王を見て尋ねた。

 

「そうですね……超法規的措置にはなりますが。今回、ヨシュア殿が明らかにした『結社』に関する様々な情報……それをもって過去の行為は不問としましょう。」

「ホ、ホントですか!?」

「ですが……」

女王の答えを聞いたエステルは明るい表情をし、ヨシュアは反論しようとしたその時、女王は玉座から立ち上がりエステル達に近づいて、そして言った。

 

「いいのです、ヨシュア殿。この程度の裁量……“ハーメル”襲撃によって居場所を奪われた貴方への償いにもならないでしょうから。」

「え。」

「………」

女王の言葉にエステルは呆け、ヨシュアは静かな様子で黙っていた。ヨシュアの様子を見た女王は笑みを浮かべつつも、ヨシュアの方を見つつ話を続けた。

 

「……ヨシュア殿はどうやらご存じだったようですね。わたくしがあの虐殺事件を知りながらも今まで沈黙してきたことを……」

「ええっ!?ど、どういう事ですか!?」

女王の言葉にエステルは驚いて尋ねた。その問いに対して女王に代わり、モルガンが答えた。

 

「戦争開始時、エレボニアは宣戦布告をリベールに行ったが……その時、ハーメル村の虐殺が王国軍によって起こされたという断固とした指摘がなされていたのだ。しかし終戦間際、帝国政府は突如としてその指摘を撤回し、即時停戦と講和、猟兵団との仲介を申し出てきた。……ハーメルの一件について一切沈黙することと引き替えにな。」

「!!!」

モルガンの説明を聞いたエステルは絶句した。それもそうだ……エステルがレーヴェから聞いた顛末と連動する形でのその説明に、彼の言っていたことはすべて事実であったということだ。

 

「……前後の事情を考えると、帝国内部でどんな事があったのか朧げながら想像がつきました。ですが、反攻作戦が功を奏し、そして帝国が私らや猟兵団を恐れているとはいえ、帝国軍は未だに余力を残していました………ですが、国土をこれ以上焼くようなことは望みませんでしたし、何よりも民達もこれ以上の戦いは望んでいない―――そう判断したわたくしは……その条件を呑むことに決めました。」

「あ……」

「………」

女王の話を聞いたエステルは呆けた声を出し、ヨシュアは辛そうな表情で黙っていた。

 

『百日戦役』はある意味幸運続きの状況で運よく王国軍を建て直し、防衛に徹する形で勝ちえたもの。現在の状況から比べると余りにも脆弱であった王国軍も戦争後半には疲弊していた部分も見られた。その状況下で帝国政府から講和の申し出が出たため……早急にこの戦争を終結させることが今のリベールに必要なことであると結論付け、女王はその申し出を受けたのだ。だが……

 

「……自国の安寧を優先してわたくしは真相の追及を放棄しました。隣国とはいえ、背後にいるはずの被害者たちの無念を切り捨ててしまったのです。」

「女王様……」

「……陛下、どうかご自分をお責めにならないでください。そもそも虐殺に関わりがない上に自国の平和がかかっていたのです。国主としては当然の判断でしょう。」

目を伏せて語る女王をエステルは心配そうな表情で見つめ、ヨシュアは静かな口調で言った。国を与る者である以上、自国の安全と安定を願うのが施政者たる者の務め。戦争という状況下では、小を切り捨てることなどそう珍しいことではない。ましてや、被害に遭ったのは自国ではなく隣国の民という状況では、下手な介入は“内政干渉”と受け取られかねない。

 

「ヨシュア殿……」

「このリベールという国は僕の凍てついた心を癒してくれた第2の故郷ともいう地です。その地を守った陛下のご決断、感謝こそすれ、恨みなどしません。」

「ヨシュア……」

「ありがとう……ヨシュア殿。そう言って頂けると胸のつかえが取れた気がします。」

ヨシュアの答えを知ったエステルはヨシュアを見つめ、女王がヨシュアに感謝したその時

 

「エステルさん、ヨシュアさん!」

「あ……!」

「みんな……」

連絡を受けてボースからかけつけてきたクローゼ達が謁見の間にやって来た。

 

「まったく……本当に心配したんだから。」

「ま、それには同感だが……ヨシュアも戻ってきたんだ。それは素直に喜ばねえとな。」

「あう……よ、良かったよ~、エステルお姉ちゃんにヨシュアお兄ちゃん。」

二人の姿を見て笑みを浮かべるシェラザード、いつもは中々見せない笑顔で言ったアガット、ティータに至っては二人の姿を見て泣きそうな表情を浮かべていた。

 

「無事でよかったわ、エステル。それと久しぶりね、ヨシュア。女の子は泣かせるものじゃないわよ?」

「二人とも……よく無事に戻ってきたな。」

「フッ、これも女神達のお導きというものだろうね。」

続いて……サラ、ジンやオリビエも安堵の表情を見せて言った。

 

「はは……はじめましてかな。リィン・シュバルツァーという。」

「僕はヨシュア・ブライト。よろしくね、リィン。聞けば、僕がいない間はエステルを守ってくれたみたいだね?ありがとう。」

「いや、大したことはしていないさ……ヨシュア。大切な存在なら、傍でちゃんと守ってやれよ。」

「………うん、解ってる。ありがとう、リィン。」

そして、リィンとヨシュアは互いに自己紹介をし……リィンの意志がこもった言葉を素直に受け取り、礼を述べた。すると、そこに現れたのはレイアとシオンの姿だった。

 

「ヨシュア、久しぶりだね……とりあえず、エステルに迷惑をかけた罰として、一度星になっておく?」

「やめろ、レイア。お前が言うとヨシュアが本当に星になりかねない……ともかく、二人とも無事で何よりだ。」

レイアの言葉が冗談に聞こえず、シオンは頭を抱えたくなったが……気を取り直して二人の無事を素直に表現した。

 

「うん。ありがと、レイアにシオン。」

「ありがとうございます……二人とも。」

「ま、俺やレイアは気にしてないんだが……この場にいないアスベル、シルフィア、スコール、クルルの四人はえらく怒ってたぞ?」

「えっ……」

シオンの言葉にヨシュアは首を傾げた。

 

「事の顛末をアスベルから聞いた三人……シルフィア、スコール、クルルもそれにはお冠でね。『ヨシュアがエステルのことを何も考えず、勝手にいなくなったことに対して、それを本気で後悔するぐらいの罰を与える』と意気込んでいたよ?まぁ、痛めつけるとか訓練を課すとかじゃないらしいけれど。」

「………その、ごめんなさい。」

レイアの説明を聞いたヨシュアはその罰の内容も気になったが……星杯騎士二人+元執行者二人というある意味『最悪』の組み合わせの面々を怒らせたことに悪寒を感じ、震えが止まらなかった。

 

「ヨシュア、あたし達に心配をかけるなっていう事がわかったわね?」

「まったくもってその通りやで。まあそれは、エステルちゃんにもあてはまるんやけどな。」

シオンやレイアの話を聞いたエステルがヨシュアに言ったその時、ケビンも謁見の間にやって来た。

 

「あ、ケビンさん!」

「エステルちゃんが掠われた時は目の前が真っ暗になったわ。ホンマにもう……あんまり心配させんといてや。」

「うん……ゴメンなさい。」

ケビンの言葉を聞いたエステルはケビンに謝った。

 

「んで、こっちが例の……」

「初めまして、ケビン神父。ヨシュア・ブライトといいます。」

「うぐっ……予想以上のハンサム君やね。って、オレのこと知っとんの?」

ケビンに見られたヨシュアは自己紹介をした。ヨシュアの容姿を見たケビンは唸った後、自分の存在を知っていたことに気づいてヨシュアに尋ねた。

 

「あなたの存在については僕の情報網にも入っていました。それと、エステルから貴方の話も聞いています。エステルの危ない所を何度も助けてくれたそうですね。ありがとう……感謝します。」

「むむむ……まあええか。仲直りしたんやったらオレから言うことは何もないわ…………ただな。」

ヨシュアにお礼を言われたケビンは唸った後、ヨシュアに耳打ちをした。

 

(……あんまり可愛い彼女を放っておいたらアカンで。オレみたいな悪い虫にコナかけられたくなかったらな。)

(……肝に銘じます)

「?どうしたの?」

小声で何か話している二人の様子を見たエステルは首を傾げて尋ねた。

 

「いやぁ、ちょいとな。」

「男同士の話をね。」

「なんかヤラしいわね……」

「失礼します、陛下。」

ケビンとヨシュアの答えを聞いたエステルがジト目で睨んだその時、カシウスが謁見の間に入って来た。

 

「あ……」

「父さん……」

カシウスに気づいたエステルとヨシュアはカシウスを見た。

 

「カシウス殿、ご苦労様でした。」

「各方面への指示は完了したのか?」

「ええ、先ほど終わらせてこちらの方へ飛んできました。そこで少々、父親としての義務を果たそうと思いまして。」

「え……」

女王とモルガンの言葉に頷いたカシウスはヨシュアに近づいた。カシウスの言葉を聞いたエステルは呆けた声を出した。

 

「……昨日、通信で話したが……実際に顔を合わせるのは久々だな。」

「うん……そうだね。ごめん、心配をかけてしまって。」

自分を見つめて静かに語るカシウスにヨシュアは静かに頷いて答えた。

 

「お前の誓いを知っていた以上、俺も共犯みたいなものさ。謝る必要はないが……義務は果たさせてもらうぞ。」

そしてカシウスはヨシュアの頬を叩いた。

 

「っ……」

「きゃっ……」

「ちょ、ちょっと父さん!?」

カシウスの行動にティータ、クローゼは驚き、エステルはカシウスを睨んで責めたが、

 

「……いいんだ、エステル。母さんとエステルに隠して家を出たんだ……家出息子には、当然のお仕置きだからね。」

「そういうことだ。レナにも既に会ったと聞いたが……お前が思っていた以上に皆に心配をかけていたこと。それが、ようやく実感できたようだな?」

ヨシュアは叩かれた頬を手で抑えて静かに語り、カシウスは頷いた後、ヨシュアを見て尋ねた。

 

「……うん。僕なんかのために―――なんて思ったら駄目なんだよね。」

「ああ……人は、様々なものに影響を受けながら生きていく存在だ。逆に生きているだけで様々なものに影響を与えていく。それこそが『縁』であり―――『縁』は深まれば『絆』となる。」

人に限らず、この世に生を受けるものは何かしらの影響を与える。だが、その繋がりをはっきりと認識し、それを深めることを己自身で実感できるのが人間である。どのような形であれ、好き嫌いがあれども、それは『縁』という形で結びつき、それが深まることによって、幼馴染、親友、師弟、家族、恋人、好敵手、天敵……様々な形で『縁』から『絆』へと変わっていく。互いに敵対しうるものを『絆』ということに語弊があるかもしれないが、ある意味『切っても切れない縁』なのには違いない。

 

「……『絆』……」

「そして、一度結ばれた『絆』は決して途切れることがないものだ。遠く離れようと、立場を違えようと何らかの形で存在し続ける……その強さ、身を以て思い知っただろう?」

『絆』……その言葉を聞いて呆けているヨシュアにカシウスは説明し、そして笑顔を見せて尋ねた。

 

「うん……正直侮っていた。確かに僕は……何も見えてなかったみたいだ。ううん、見ようともしていなかったんだね。」

「ヨシュア……」

「フフ、それが解ったのなら、お前が家出した甲斐もあっただろう。」

そしてカシウスはヨシュアを抱き締めた。

 

「ヨシュア……この馬鹿息子め。本当によく帰ってきたな。」

「フッ、親馬鹿が……」

「ふふ……本当に良かった。」

ヨシュアを抱き締め、安堵の表情で語るカシウスを見て、モルガンは口元に笑みを浮かべ、女王は微笑ましそうに見ていた。

 

(『絆』……か……)

その様子を見たリィンはヨシュアとカシウスのやり取りを見て、自分も似た存在であることを思い返し、カシウスの言葉を胸に刻み込むようにしっかりと受け止めていた。

 

「失礼します!」

「ユリア大尉……如何しましたか?」

すると、謁見の間に駆け込んできたユリアの様子から……何か重大な事を知らされると思った女王は気を引き締めた表情になった。

 

「王都を除いた七大都市の近郊に正体不明の魔獣の群れが現れました!報告から判断するにどうやら人形兵器と思われます!」

「あ、あんですって~!?」

「動き出したか……」

ユリアの報告を聞いたエステルは驚き、ヨシュアは気を引き締めた表情で呟いた。機械仕掛けの兵器……人形兵器となると、動き出したのは『結社』だということをすぐに察した。

 

「それと、各地の関所に装甲をまとった猛獣の群れと紅蓮の兵士たちが現れました!現在、各守備隊が応戦に当たっております!」

「そうか……」

「急いでハーケン門に戻る必要がありそうだな……」

ユリアの報告にカシウスは重々しく頷き、モルガンも頷いた。

 

「そ、それと……」

「なんだ、まだあるのか?」

言いにくそうな表情をしているユリアにモルガンは尋ねた。

 

「詳細は不明なのですが……『四輪の塔』に異変が起きました。得体の知れぬ『闇』に屋上部分が包まれたそうです。」

「!!!」

「塔の件もそうだけど、敵は本格的に動き出したようだね………」

「チッ……嫌な予感が当たりよったか。」

ユリアの報告を聞いたエステルは目を見開いて驚き、レイアは真剣な表情で呟き、そしてケビンは舌打ちをした後真剣な表情で呟いた。

 

「なお、哨戒中の警備艇が調査のため接近したそうですが……すぐに機能停止に陥り、離脱を余儀なくされたのことです。」

「『導力停止現象』か……」

「地上からの斥候部隊は?」

「すでに派遣されたそうですが……」

カシウスの疑問にユリアが答えようとしたその時、

 

「も、申し上げます!」

一人の王国軍士官が慌てた様子で謁見の間に入って来て、報告をした。

 

「各地の塔に向かった斥候部隊が撃破されてしまったそうです!し、信じ難いことですが、どの部隊もたった一人によって蹴散らされてしまったとか……しかもその中には巨大な機械人形もあったそうです!」

「なに……!?」

「そ、それって……!」

「『執行者』だろうね。巨大な機械人形というのも気になるし、父さん……彼らは一般兵の手に余る。ここは僕に行かせてほしい。」

士官の報告を聞いたユリアは驚き、エステルは血相を変え、ヨシュアは静かに頷いてカシウスを見て提案した。

 

「ふむ……」

ヨシュアの提案にカシウスは考え込んだ。その時、エステルがヨシュアの言葉を聞いて、割って入る形で口を開いた。

 

「ちょっとヨシュア……なに1人で行こうとしてるのよ。昨日の約束をもう忘れたの?」

「エステル、でも……」

「『結社』が動き始めた以上、遊撃士としても放っておけない。ヨシュアがどう言おうとも、あたしは絶対に付いて行くからね。」

「エステル……」

エステルの答えを聞いたヨシュアはエステルを見つめた。そこに……

 

「エステルだけじゃないわ。あたしも付き合わせてもらうわよ。個人的な因縁もあるしね。」

「ああ、俺も同じくだ。」

「例の連中とは直接関わりはないけれど、『執行者』には散々お世話になったからね。アタシも手伝うわよ。」

「シェラさん、ジンさん、サラさん……」

「相手は強大……となれば、ここは協力するのが筋ってものじゃないか?」

「ま、『結社』に拘りがあるのは、何もお前だけじゃねえってことだ。この際抜け駆けはナシにしようぜ。」

「そ、そうだよヨシュアお兄ちゃん!こーいう時こそみんなで力を合わせなくちゃ!」

「リィン、アガットさん、ティータ…………ありがとう、助かります。」

『結社』の問題は最早ヨシュア一人の問題ではなく、各々『結社』に対して何らかの拘りや因縁がある以上、エステル達全員の問題だと……シェラザード達の心強い言葉を聞いたヨシュアはお礼の言葉を言った。

 

「決まりのようだな………遊撃士協会にお願いする。『四輪の塔』の異変の調査と解決をお願いする。これは軍からの正式な依頼だ。」

「うん……分かったわ!」

「しかと引き受けました。」

カシウスの依頼にエステルとヨシュアは力強く頷いた。

 

「……お祖母様。私に『アルセイユ』を貸していただけませんか?」

その様子を見ていたクローゼは決意の表情で女王にある提案をした。

 

「へっ……!?」

「で、殿下!?」

「ほう……」

「ふふ……確かに一刻を争う事態です。わたくしも『アルセイユ』を提供しようと思いました……いいでしょう。リベールの希望の翼、好きなように使ってみなさい」

クローゼの提案にエステルとユリアは驚きの声をあげ、シオンはその言葉を聞いて感心するように呟き、凛とした表情のクローゼを見た女王は微笑んで言った。

 

「ありがとうございます。ユリア大尉、発進の準備を。可及的速やかに『四輪の塔』へ向かいます。」

「承知しました!」

クローゼの指示にユリアが敬礼をした。

 

 

「やれやれ……ここまで『あ奴らの筋書きの想定内』とは……お前も人が悪いな。」

エステルらが去った後、モルガンは笑みを浮かべつつ、カシウスに言葉をかけた。

 

「仕方ありません。相手がヨシュアを完全に解放したとは言えないでしょうし、あの二人が言っていた感じからすれば、再びヨシュアが彼の『手駒』として操られる可能性もまだ残ったままです……その状況下で此方の手の内を晒すのは宜しくないでしょう。」

ヨシュアを通して得られたあの“教授”の発言は、ヨシュアのみならずエステルから伝えられた印象からして『正直信用ならない』のが本音だろう。この状況でこちらの『全て』を知られるわけにはいかない。

 

「そうか……陛下、手筈通りに。」

「………本来ならば認められないことですが、彼からその申し出が来るということは、私も決断せねばならないということですね……アスベルさん達に『再び』その責を負わせてしまうことを。」

モルガンの言葉を聞いて女王は沈痛な表情を浮かべていた。十年前の時と同じように……図らずも、彼等にその『罪』を強いてしまうことに。

 

「ですが、今はエステルさん達と……アスベルさん達に託します。この国の未来を……カシウスさん、そのことをよろしくお伝えください。」

「承知しました………心苦しいのは私も同じです、陛下。自分たちで決めた道とはいえ、やはり親としては複雑です。」

「それはわしも同様です……あ奴らに責任を負わせなければならない……大人として失格ですな。」

そう話した女王、カシウス、モルガンの三人……この国の運命をエステル達に……そして、アスベル達のような若い力に託さざるを得ない状況に、子や孫を持つ親として本当に情けないものだと互いに呟いた。

 

 

~グランセル城 空中庭園~

 

「……アスベル、いいの?」

シルフィアの懸念も尤もであるが……心配には及ばないとでも言いたげにアスベルが呟いた。

 

「ま、レイアとシオンが付いてるからな……“翠銀の孤狼”も間に合った。これで、こちらも本筋を進めることができる。“白面”の描くシナリオを叩き壊すための、『天の鎖』『水の鏡』『焔(ほのお)の矢』……全ての手はこちらに揃った。まずは、『天の鎖』と『水の鏡』が発動する……後は、それからだ。」

 

 

ワイスマンの『福音計画』………それの『対抗策(カウンタープラン)』とも言える三重の策のうちの二つ、『天の鎖計画』と『水の鏡計画』が十年という長い月日を経て……発動するまであと『半日』。

 

 


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