英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第117話 迫りくる刻限

王城を出て国際空港の発着所に到着し、アルセイユに乗り込もうとしたエステル達だったがオリビエ、レイア、シオンが乗り込んでいない事に首を傾げ、三人に尋ねると……オリビエは帰国する為、レイアとシオンは別件での仕事があるため、アルセイユに乗らない事を言った。

 

 

~グランセル国際空港~

 

「うーん、まさかオリビエが帝国に帰っちゃうなんて……」

「ホント、随分いきなりね。」

自分達を見送ろうとしているオリビエに驚きの表情でエステルは呟き、シェラザードも頷いた。この状況を考えれば、確かに外国人であるオリビエが帰国するのもやむを得ない感じだが、前置きもなしにそうなってしまったことには驚きを隠せないだろう。

 

「いや、本当はもう少し前に帰国する予定だったのだがね。エステル君が掠われてしまったので予定を伸ばして滞在していたのだよ。」

この言葉自体は嘘ではない。オリビエは確かに帰国するのであるが……彼にしてみれば、“一時的な帰国”であることに変わりなかった。

 

「そうなんだ……ゴメンね、あたしのせいで。」

「フッ、気にすることはない。君の帰りを待ったおかげで愛しのヨシュア君とも再会することができたしね。」

オリビエの説明を聞いた後、自分の責任で帰国が遅れたしまったことに謝るエステルに対し、オリビエはいつもの調子で答えた。これには流石のヨシュアも苦笑を浮かべたのは言うまでもない。

 

「はは、相変わらずですね。あの、オリビエさん。」

「おや、なんだい?」

「貴方は………いえ、何でもありません。今までエステルの旅を助けてくれて感謝します。」

ヨシュアに呼ばれたオリビエは不思議そうな表情でヨシュアを見た。彼に対して何かを言いかけたヨシュアだったが……言うのをやめて、オリビエにお礼を言った。

 

「フッ、望んでいたことなのだから水臭いことは言いっこナシだよ。だが、そこまで言うのならお礼に熱いベーゼでも……」

「えーかげんにしなさい。もう、最後までそんな調子とはね……最後くらいちゃんとお別れしようよ。」

相変わらずふざけている様子のオリビエにエステルはジト目で睨んだ後、呆れた表情で溜息を吐いた。

 

「はは、愛の狩人たる僕はいつでも真面目なつもりなんだがねぇ。エステル君、ヨシュア君。シェラ君に他のみんなも……色々と大変だろうが気を付けて行ってくるといい。このオリビエ・レンハイム、帝国の空から君たちの幸運を祈っているよ。」

オリビエは笑顔を浮かべ、今まで旅を共にしてきた仲間―――エステル達に向けて無事を祈る言葉を贈った。

 

「うん、ありがと!」

「ふふ……あんたの方こそ気を付けて。」

「……どうかお元気で。」

エステル、シェラザード、クローゼ……

 

「はは……いずれ、またお会いしましょう。」

「また機会があったら呑もうや。」

「今度会ったら酒飲みに付き合わすんだから、覚悟しておきなさいよ?」

リィン、ジン、サラ……

 

「今度はその変人っぷりをちったぁ直してきやがれよ。」

「あはは……。あのあの……さよーなら!」

「いや~、短い付き合いでしたけどごっつ楽しかったですわ。」

アガット、ティータ、ケビン………オリビエに別れの言葉を告げたエステル達はアルセイユに乗り込んだ。

 

 

~アルセイユ ブリッジ~

 

「あ……」

「お、おじいちゃん!?」

アルセイユに乗り込むと、そこには……ユリアだけでなく、彼女の隣にラッセル博士がいた。

 

「久しぶりじゃの。ティータや。元気にしておったか?」

「えへへ……うんっ!」

懐かしそうな表情の博士にティータは嬉しそうな表情で頷いた。

 

「おいおい、爺さん。アンタがここにいるのは不思議じゃねえが……何でなんだ?」

「ま、色々あって数日前から乗り込んでおったんじゃ。それよりも……エステル、ヨシュア。2人とも本当によく無事で戻ってきたのう。」

アガットの疑問に答えた博士はエステルとヨシュアに笑顔を向けた。

 

「あはは……うん、何とか。」

「……心配をかけて申しわけありませんでした。」

博士の言葉にエステルは苦笑しながら頷き、ヨシュアは軽く頭を下げた。

 

「なに、戻ってきたのならそれで万事オッケーじゃよ。しかし、『四輪の塔』に異変が生じたとはのう……こりゃわしも、気合いを入れて調査する必要がありそうじゃな。」

「うん、頼むわね。ところで……どの塔から行けばいいのかな?」

「そうだね……距離的なことを考えたら“琥珀”か“紅蓮”が近いけど……」

博士の言葉に頷き、呟いたエステルの疑問にヨシュアは考え込んだ。

 

「『アルセイユ』の速さならどの塔でもあまり変わらないさ。敵の情報が分かっている所を優先した方がいいかもしれない。」

「敵の情報?」

ユリアの提案を聞いたエステルは首を傾げた。

 

「先ほど、『翡翠の塔』に向かった斥候部隊から続報が入ってきた。現れたのは、仮面を付けた白装束の怪しい男だったそうだ。」

「あの変態怪盗男!」

「斥候部隊とはいえ、たった一人で撃破するなんて……」

「ヘッ、ただの変な野郎じゃなかったみてぇだな。」

「“怪盗紳士”ブルブラン……。分身や影縫いを始め、トリッキーな技を使う執行者だ。一筋縄では行かないと思う。」

ユリアの話を聞いたエステルは声を上げ、クローゼは信じられない表情で呟き、アガットは真剣な表情になって呟き、ヨシュアは冷静な表情で敵の情報を説明した。

 

「そっか……でも、敵の正体が分かっただけ、他の塔よりはマシだと思うし……うん!まずは『翡翠の塔』に行きましょ!」

「了解した。発進準備!これより本艦は、ロレント地方、『翡翠の塔』に向かう!」

そして、アルセイユは『翡翠の塔』に向けて飛び立った。

 

 

その一方、オリビエはアルセイユが飛び立つのを見届けていた。

 

「フッ……これで『猶予期間(モラトリアム)』も終わりか……。いや、まだ最後のチャンスが残っているかな。」

「ま、待って~!」

オリビエが静かに呟いたその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「?おや、君たちは……」

声に気付いたオリビエが振り向くと、そこには息を切らせているドロシーとナイアルがいた。

 

「ああ、行っちゃった……」

「ぜいぜい……ま、間に合わなかったか。」

飛び立つアルセイユを見たドロシーとナイアルは肩を落とした。

 

「どうしたんだい、記者諸君?もしかして、『アルセイユ』に乗り込むつもりだったのかな?」

「ああ、それとヨシュアが帰ってきたって聞いたんでな。まあいい、ドロシー。急いで『アルセイユ』を撮れ。望遠レンズを使えばそこそこ使える画が撮れるだろ。」

「アイアイサー!」

「フフ……」

乗りそびれても、只では転ばないドロシー達の様子を見て、口元に笑みを浮かべたオリビエはその場を静かに去った。

 

「……挨拶は済んだのか?」

オリビエが発着場の出口に着くと、ミュラーが待っていた。

 

「フッ、一応ね。そちらの準備はどうだい?」

ミュラーに尋ねられたオリビエは頷いた後、尋ねた。その問いかけにミュラーは静かに答えた。

 

「叔父上の方は何とかなった。宰相閣下も、むしろ好都合だと判断されたようだ。」

「確かにあの人なら王国人受けしそうだからね。フフ……楽しくなりそうだ。」

ミュラーの言葉にオリビエはこれから対峙するであろう人物を思い出し、彼の性格ならばリベールにいい印象を与えるに違いないと話しつつ、これから自分が起こすことに対して彼の驚く顔を想像しつつ笑みを浮かべた。

 

「まったく……何という悪趣味なヤツだ。一部はこのことを知っているが……彼らの驚愕した表情が今から目に浮かぶようだぞ。」

口元に笑みを浮かべているオリビエにミュラーは呆れた表情で呟いた。これからオリビエのやろうとしていることは“宣戦布告”……その重大さを目の前の御仁は解っているだけにため息が出そうであった。

 

「ハッハッハッ。まさにそれが僕の狙いだからね。」

ミュラーの呟きに笑って答えたオリビエは空を見上げた。

 

(今度、相見えた時にはお互い“敵同士”というわけだ。くれぐれも『結社』ごときに後れを取らないでくれたまえよ……尤も、彼等がいる限り、この国が後れを取ることなどないのだろうがね。)

オリビエは内心でそう呟いた後、ミュラーと共に国際定期船に乗り込み、一路帝国へと向かった。

 

 

一方その頃、それをオリビエたちとは別の場所で見送ったレイアとシオンのもとに、二人の人物が近づいてきた。

 

「お前さんらがアスベルやシルフィアの言っていた二人か。」

「貴方は……」

「『翡翠の刃』団長、マリク・スヴェンド。それに、“絶槍”クルル・スヴェンドだったか。」

「ん。二人の実力は既に聞いてるよ……さて、私らも動こうか。」

「ああ。俺は王室親衛隊大隊長、シオン・シュバルツだ。」

「私は遊撃士協会所属、レイア・オルランド。まぁ、二人にしてみれば『赤い星座』のほうがなじみ深いかもしれないけれど。」

金髪の男性―――マリクと淡い緑にオッドアイを持つ少女―――クルルの姿を見て、二人も自己紹介をした。

 

「となると、私らが受け持つのは……『結社』ってことになるね。」

「ロレントの方は『西風』が受け持つから、心配ないかな。」

「そうなるな……あの二人は『北の猟兵』と『黒月』を受け持つみたいだが……大丈夫なのか?」

「ま、行けると思うよ……間違いなく。」

そう言い切ったレイアの言葉にシオン、マリク、クルルは首を傾げた。だが、その続きをレイアは言った。

 

 

―――あの二人が『力』を攻撃の手段として使った場合、それは単純に『武器』ではなく、『核』クラスの『兵器』と化す。それが、私があの二人に勝てない理由だよ。

 

 

そう言い切ったレイア……あの二人が持つ『聖痕』が取り込んだ『アーティファクト』……それは、一度発動すると甚大な被害を及ぼす『禁断兵器』そのもの。その意味を………『黒月』は知らない。

 

 

エステルらが『翡翠の塔』のブルブラン、『紅蓮の塔』のヴァルター、『紺碧の塔』のルシオラと戦い、何とか退けていた頃……オリビエを乗せた国際定期船が無事帝都ヘイムダルに到着し、待機させていた兵士の案内で皇族の離宮であるカレル離宮へと到着した頃には既に夜遅くとなっていた。

 

 

~帝都ヘイムダル郊外 カレル離宮~

 

カレル離宮に宛がわれたオリビエの部屋。そこには、今まで来ていた白いコートではなく、ミュラーと似たような意匠の服に身を包み、長い髪を束ねたオリビエの姿があった。

 

「フフ……まさか、この軍服に身を通す日がこようとは……僕も予想外ではあったかな。これなら普段着の方がまだマシだと思えてしまうよ。」

「仕方ないだろう……あの格好で戦場に行く方が失礼と言うべきものだろう。」

そう言ったオリビエの格好は皇族が着る軍服。その恰好を鏡に映しながら、オリビエはため息を吐き、ミュラーは自分の親友がこれから行く場所の重要性や、これからやろうとしていることを鑑みると、普通の格好であることを述べた。そう………ここから先はある意味“戦争”とも言うべき状況を押し付けるための『偽善』を押し通すためのものなのだから。

 

「第三機甲師団は既に国境沿いに展開済みだ……一応、アルトハイム侯爵に連絡はしてあるが……正直、ここから先は俺でも読めないぞ。」

「猟兵団の後に僕達がハーケン門前まで迫る……そういえば、聞くところによると今回使う戦車は普通の導力戦車じゃないらしいね?」

「普通の……というか、導力ですらないらしい。俺も詳しい話は叔父上から聞いていないが。」

ミュラーの言葉にオリビエは尋ねるが、詳しいことは何ら知らされていないとミュラーも答えた。だが、オリビエは大方の検討を呟いた。

 

「ふむ……となれば、内燃機関や火薬を用いた戦車ということかな。ラインフォルト社は元々『そういったもの』を手掛けてきた企業。出来ないわけは……無いと思うよ。」

 

―――オリビエのその言葉……実際に現地へ赴いたオリビエとミュラーが目の当たりにしたものは、その推測通りの代物であった。

 

 

~リベール=エレボニア国境線 北側~

 

国境線より北に10セルジュ(1km)……国境線近くに展開した戦車群を伴う陣地……現地に到着したオリビエとミュラーが見たのは、そのどれもが導力戦車ではない代物であった。

 

「………やはり、のようだね。」

「そのようだな……見たところ、内燃機関のようだが……」

二人はその予測が当たっていたこともそうだが……何故そのような非効率的な戦車を製造し、ここに配備したのか………それを疑問に思う二人のもとに、この部隊を指揮する司令官……オリビエにとっては師にあたり、ミュラーにとっては身内と呼べる隻眼の男性が二人に声をかけた。

 

「皇子殿下、ここまで御足労いただき、感謝いたします。それにミュラー、久しぶりだな。」

「お久しぶりです、叔父上。」

「これは、中将自らのお出迎えとは…お久しぶりです。で、前置きはいらない。今後の予定をお願いできるかな?」

男性―――ゼクス・ヴァンダールの姿にミュラーは挨拶を述べ、オリビエも挨拶を交わすと、今後の予定をゼクスに尋ねた。

 

「ハッ!翌日0:00を以て国境線を越え……到着は二日後の朝になる予定です。皇子殿下、かなりの長旅になりますが……」

「それは構わない。とりあえず、一息つける場所に案内してほしい。空いている場所で構わないからね。」

「畏まりました、殿下。殿下を休憩所へお連れしろ。」

「ハッ!」

必要最低限の情報を聞いた後、オリビエとミュラーは兵士の案内で休憩所に案内された。

 

 

~陣中 休憩所~

 

「……あの戦車、周りの兵に聞いてみたが、どうやら“蒸気機関”の戦車のようだ。」

「………やはり、というべきだね。」

オリビエの休憩中にミュラーが周りの兵から情報を集めたところ、内燃機関の戦車であるということは確定的であり、それを聞いたオリビエはやはり……という感じで呟きながら、設置されたベッドに腰かけていた。だが、腑に落ちない点が一つある。それは、何故“蒸気戦車”をこのタイミングで投入するようなことをしたのか。

 

それだけではない。兵士らが持っている銃は全て火薬式に換装されており、導力関連の兵器は殆ど持ち込まれていないのだ。強いて言うならば、導力通信器ぐらいだろう……どう考えても『導力が停止した状況でも対応できる装備』を持ち込んでいる……そこから導き出される結論。

 

「リベール……その領土全域が『導力停止現象』に見舞われる……ということかな。」

「どういうこと………まさか、『結社』絡みか?」

「その可能性は高い……そして、今回の件も『あの御仁』が関わっていると見た。」

グランセル城で聞いた『四輪の塔』の異変……その異変が収束した後、リベールが『導力停止現象』に見舞われる。つまり、『彼』は数か月前……あるいは半年前からそのために“蒸気戦車”の製造をしていたのであろうと考えられる。製造から試験、実走までには少なからずそれだけの時間は必要……しかも、数十台とはいえそれを用意する“先読み”の異常さは最早疑念のレベルであろう。

 

『結社』の動きを全て把握していなければできようがない所業……先日の件はともかくとしても、今回の件に関しては確実に疑いをかけなければならない。でなければ、ほとんど生産されていない蒸気戦車を配備し、一定のタイミングで『導力を用いない装備』を配備した師団を送り込むという離れ業など、ハッキリ言ってできない。『結社』に頼らない場合、未来を知っていなければ出来ない所業であることには違いないだろう。

 

「だが……本気でやる気か?」

「無論だよ。そのために、僕はここまで来たようなものだしね……『宣戦布告』を、ね。」

そう言ったオリビエは笑みを浮かべた。

 

オリビエ・レンハイム……いや、オリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子……庶子であり、帝国の皇族では知名度が低い彼の“初陣”は、すぐそこまで迫っていた。

 

 




後半のオリビエとミュラーの部分はほぼオリ想像です。
原作では多分パルムでの合流だと考えられますが、この作品だとサザーラント州がリベール領なのであの描写になりました。

塔の戦闘なのですが……三人ほど原作と変わらない感じなので省きました。レンに関しては戦闘させようか考え中です……

あと、活動報告にてアンケートを取っていますので、よければご協力ください。

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