英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第13話 良きこと、悪きこと

――エレボニアの『凋落』とも言われることとなった『百日戦役』以降、リベールを含む西ゼムリア地方は大きな転換により、勢力図が大きく書き換えられた。

 

『たかが一小国』と侮られていたリベール王国の底力…言うなれば、窮鼠猫を噛む…リベール王国は戦役終結後、ツァイス中央工房に導力部門での技術促進のための資金援助を表明。表向きは『平和的技術革新』を主体とした計画案…実際には、軍事力を『国の防衛の要』と改めて位置づけるとともに、土地柄山岳地帯の多いリベールにとって必要な『あらゆる状況下での即自的対応力』を磨いていくこととなる。

 

更に、エレボニア南部の地域……旧エレボニア帝国サザーラント州全域・クロイツェン州南部を条約によって獲得したことにより、国土は約三倍となり、その経済規模も二大国ですら無視できないほどの底上げにつながっている。四大名門の一角であるハイアームズ家はリベールへの帰属に反対し、エレボニアの南西部に移住。それ以外の貴族はアリシア女王に忠誠を誓い、リベールへ帰属することとなった。

 

ハイアームズ家の後釜としてアルトハイム伯爵家がその任を担うことになり、名称も『リベール王国アルトハイム自治区』へと変わることとなった。また、レグラムに関しては帝国の双璧をなす武の名門とまで言われたアルゼイド子爵家が引き続きレグラム、ひいてはクロイツェン州南部を統治することとなり、『リベール王国レグラム自治州』へと変わるのである。

 

2つとも自治州ではあるが実質的にリベール王国の領土……アリシア女王の意向によりインフラ面が大幅に整備され、飛行船を運用している公社はロレント―パルム、ロレント―レグラム間の直行便を就航することを発表、その後、新型飛行船による王都グランセル―パルム、レグラムの直行便を就航した。紡績都市として名高いパルム、観光地としての評価も高いレグラム、この2つを得たリベール王国は後に『観光地』としての価値を飛躍的に高める結果にも繋がっていった。

 

 

エレボニア帝国では戦役を先導していた主戦派が相次いで謎の死を遂げ、軍部の有力者であったギリアス・オズボーンが『帝国の再興』を掲げ、皇帝の信任と国民の圧倒的支持を得て帝国宰相の座に就く。これ以降、ラインフォルト社との結びつきを強めるとともに、正規軍の強化を進めていった。カルバード共和国では庶民派と謳われたロックスミス大統領が当選を果たし、リベール王国の底力を目標に軍備の強化と地盤固めを進めて行った。

 

その二国の影響は、二大国が宗主国であるクロスベル自治州も例外ではなかった。今まで頻繁に起こっていた『不可解な事故』……帝国と共和国の暗闘の頻度が激減したのだ。それと同時に、クロスベルに住む人たちは似たような状況に置かれているリベールの力に憧れるようになった。

 

レミフェリア公国では、リベールとの文化交流……その一環として、新型飛行船による直行便就航が発表された。それを皮切りにリベール=レミフェリア経済連携協定が結ばれ、二国間の信頼関係は着々と築かれていったのである。

 

 

 

だが、明るいことがあれば、暗いことがあるのも世の常………

 

 

条約締結から数年後、各国で子供の誘拐・失踪事件が相次いで起こった。あまりにも広範囲かつ巧妙な手段により、各国や遊撃士協会も手をこまねく状況に陥っていた。誘拐された数を合わせれば三桁以上……もはや、国境を越えた『国際的犯罪』であることは誰の目から見ても相違ない言葉であった。

 

 

 

―ロレント郊外―

 

 

「………塵に消えろ。」

少年がそう呟くと、ローブに身を隠した人物は全身血を噴き出しながら息絶えた。太刀についた血を払い、鞘に納めると一息ついた。

 

その少年……アスベル・フォストレイトが対峙していたのは例の『誘拐集団』……だが、只の組織ではないことは解っていた。『仕事』で共和国や帝国に行った際、彼らと幾度となく対峙したことか……数えることすら面倒になる。それ以上に、『子ども』を狙って誘拐したことに憤りを感じずにはいられない。

 

「ったく、久々に帰ってきたのはいいが、落ち着く暇もありゃしない……」

ただ、このままという訳にはいくまい。大規模な誘拐事件となれば、国というメンツに拘っている場合ではない。帝国や共和国とてそのあたりの“必要最低限”は弁えているはずだ……だが、物事に善悪があるように、人間にも『善』と『悪』がある。それは人それぞれであり、見方を変えれば白黒が逆転する……それも一つの事実である。

 

それを差し引くとしても、彼らのやっている行動自体は全く賞賛できない。いや、評価する価値もないのだ。

 

 

「し、仕方ないですよ……アスベル様……ど、どこもかしこも……い、今は忙しいんですから………」

そう言って、アスベルの後ろから現れた少女。杏色に近いセミロングの髪に淡い緑の瞳が特徴的で、動きやすさを重視したユニークな衣装に身を包んでいる。見るからに呼吸が荒い様子だった。

 

「付いていきたいと言ったのは、お前だからな。まぁ、まともに行動できる範疇だとシルフィアぐらいか……」

「あ、あれはもはや別格ですよぉ……」

アスベルの目の前にいる少女……転生前は紺野沙織、現在の名前はレイア・オルランド。転生者で、転生前のアスベルやシルフィアと幼馴染だった人間の一人。

彼女の父親は『闘神』バルデル・オルランド……『赤い星座』の団長を務める彼の娘。髪の色は母親譲りで、瞳の色は父親譲り……とまぁ、見た目は普通の少女だ。しかし、この子は正騎士。『第三位』の部下であるのだ。見た目からすれば、笑ってしまうことだろう。

だが、彼女の最大の特徴は『力』だ。『力』には色々定義はあるが、彼女の場合は『人並み外れた膂力』と『視野の広さ』を持つ。

 

 

普通の少女であれば、たかが知れている膂力。だが、『闘神の娘』である彼女が『普通』なわけはなかった。実の父であるバルデルもレイアには散々頭を悩ませていた。以前、誤って彼女を泣かせた彼の弟であるシグムント・オルランドを

 

 

『おじさんの、バカーーーーーーーー!!!』

『があああああああああっ!?!?』

『『………う、嘘?』』

 

 

彼女は『投げ飛ばした』のだ。しかも、投げられたシグムントは300mも飛ばされ、気絶し…傍から見ていた闘神の息子と戦鬼の娘は恐怖したらしい……そこで、偶然知り合ったアインに相談し、星杯騎士となったのだ。

 

別れの際、兵士たちは泣いていた。ああ、悲しくて泣いていたわけではない。『もう、命の危険を感じずに済むんだ……!』と、我が身が救われたことにむせび泣いていたらしい。

 

 

 

「まぁ、戦果は挙げているようで何よりだが……」

そう言ってアスベルが見た方向には、ローブを纏った人物たちが見るも無残過ぎる状態だった。

 

 

ある者は頭部が破裂し、

 

 

ある者は心臓の周辺が消滅して穴が開いており、

 

 

ある者は上半身と下半身が分割…

 

 

彼らが喧嘩を売った相手が悪かったという事実…物凄く解りやすく言うと、良い子には『間違いなく見せられません』状態だ。彼女は、この惨劇を『素手』で成し遂げている。

正確には、戦闘用のグローブを重めに改造して装備している。重めなのは、彼女の本来の膂力だと『破壊』どころか『破裂』にまで行きかねないからだ。膂力がすごい反面、体力があまりないのが欠点である。

 

「しっかし……これ、どうするよ?」

「あははは…」

「こっちが笑いたい気分だよ、まったく。」

これでは碌に情報収集もできやしない……総長相手に戦っているシルフィアの苦労が、少しばかりわかるような気がした。

ただ、情報自体は既に収集済み。『結社』も誘拐集団の『拠点』を一つ潰すらしい。

となれば……アスベルは頼りになるあの人の元へと向かい、レイアも急いで彼の後を追った。

 

 

 

―ブライト家―

 

ブライト家に着くと、丁度家を出るカシウスとばったり出会った。

 

「久しぶりです、カシウスさん。」

「久しいな……そちらの御嬢さんは?」

「え、ええ!?カシウス・ブライト!?」

アスベルとカシウスが普通に会話している傍でレイアはその親密さに驚きを隠せなかった。

 

「レイア、この人には俺の事情は話してあるから、気構える必要はない。」

「えと、レイア・オルランドです。『第三位』“京紫の瞬光(けいしのしゅんこう)”付の正騎士です。」

「カシウス・ブライトだ。元軍人で今はしがない遊撃士の一人だ。」

“京紫の瞬光”……俺なりに考えた守護騎士としての渾名。当初、参考にしようと関西弁っぽい喋り方をする従騎士に意見を聞いたところ、“パープルファイター”とかほざいたのでその後の模擬戦でぐうの音も出ないほどに打ち負かした。あんのネギ野郎…今度会ったら磔の刑だな…と、粛々に彼へのストレス解消法を考えていたアスベルだった。

 

「それで、守護騎士ともあろうアスベルがどうしてここに?」

「決まってますよ。最近巷で噂の野郎どもの住処が解ったので、報告に。」

「なっ!?それは本当か!?」

カシウスは驚く。何せ、彼の側からすれば拠点の位置を知るのは容易ではない。だが、彼ら―――アスベル達はいとも容易くその在り処を突き止めたのだ。これには彼らの所属……『星杯騎士』という側面を最大限に利用した捜索方法があったからに他ならない。

 

 

「ふむ………お二方、協力してもらえないか?」

「協力ですか?」

カシウスは、二人に協力を申し出た。拠点の位置が分かっただけでも、幸いだ。だが、彼の一手はさらにその一手先をいっていた。

 

 

 

「ああ………リベール王国、エレボニア帝国、カルバード共和国、クロスベル自治州、レミフェリア公国、遊撃士協会、そして君たち七耀教会による、最大規模の制圧作戦だ。」

 




またまたオリキャラ登場です。イメージはTOXのレイア(イメージ的には1のほう)です。
使用武器に惹かれて選びましたw

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