英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第120話 燻る狼煙

クラトスが先に帰ろうとした際、入り口にいた人物―――ケビンの姿が目に入り、クラトスが目を細めた。

 

「おや、教会の神父さんが俺に何の用かな?」

「一つ質問や。エステルちゃんに作った武器の事といい、『導力』のことを知っているといい……何者や?」

「何者、か……職人であることは偽りないのだが……それだと納得しないって表情だな。」

クラトスの言葉もある意味的を射ていた。目の前にいる人物はただの神父ではないということは、既に知っているし……それに、クラトスの本能がこの人物の『本質』をそれとなく感じていたからに他ならない。それを感じつつも、クラトスは言葉を続けた。

 

「『聖天兵装』は、この国で見つけたものだ。今のところ9本……俺は、それを心ある者にしか渡さねえと決めているし、『聖天兵装』が主を選ぶ以上、俺にはどうしようもない。そもそも、『古代遺物』じゃねえものに関与する義理は無いはずだぜ。『古代遺物』を回収すると謳っておきながら、それを武器として使役する星杯騎士……いや、『守護騎士』さん?」

「!?」

「大方の事はお前さんの知り合いに聞いた。だが、俺は別に教会と敵対するつもりはない……それだけは、断言しておくぜ。」

クラトスの言葉にケビンは反論できなかった。しかし、クラトスはそのことを公表しないと断言した上で、ケビンに背を向ける形でその場を去ろうとする。すると、何かを思い出したかのように、クラトスは呟いた。

 

 

―――ああ、そうだ。お前さんの得物が何であれ、俺相手に刃を向けたら……“京紫の瞬光”“銀隼の射手”の二人がお前を殺す。殺すという言葉は物騒極まりなかったがな……

 

 

その言葉を残してクラトスが去った後、ケビンの表情は身震いが止まらなかった。クラトスの彼に対する言葉……その中に出てきた二人の渾名。それが何を意味しているのかということに。

 

「………冗談やない。アイツら二人相手なんて、オレかて嫌やわ。」

そう言い切ったのには理由があった。以前、その二人と個人戦という形で手合わせすることになり、ケビンは不意を突く形で彼の中に顕現する『アーティファクト』を用いて彼らに攻撃を仕掛けた。だが、その一手は完全にケビンにとっての悪手であった。

 

シルフィアの『古代遺物』―――他の『守護騎士』とは一線を画した『攻守一体の刃』。その変幻さと圧倒的破壊力にケビンの『アーティファクト』すらいとも簡単に退けた。一方のアスベルの『古代遺物』………その力の全容は同じ存在であるケビンを以てしても『底が見えなかった』のだ。しかも、この二人の『アーティファクト』は少なくとも1200年以上も前の『ゼムリア古代文明』時代の代物であるらしいのだが………その存在はこの1200年もの間、誰も見たことの無い代物であるのは違いなかったが、ケビンはおろか総長であるアインですらその存在を知らなかったのだ。

 

(『氷霧の騎士(ライン・ヴァイスリッター)』……それと、『天壌の劫火(アラストール)』と言うとったな。)

 

彼等がそう言った、<聖痕>が取り込んだ『アーティファクト』。だが、それを聞いた総長が冷や汗をかいていたのを見たケビンが一度尋ねたことがあった。その時の答えは……

 

 

―――『在り得ない』

 

 

その一言だけであった。ケビンはその意味を調べるべく、法典や外典をくまなく探ったが……その意味を知ることは出来なかった。ただ、一冊だけ……外典『ユリシール=ロアの福音書』の中の一節に、次のような言葉があった。

 

 

『怒りの裁きは劫火となり、冷徹なる裁きは氷霧となり……『女神』と出会いし時、彼の者の<刻印>は全てを討ち払う剣とならん。』

 

 

その意味は、その『古代遺物』を扱う当の本人ら―――アスベルやシルフィアの二人にも解らなかった……

 

 

 

その頃、エステルらは市内の状況を把握するためにギルドへと向かった。ギルドに着くと、キリカが彼等の到着を待ちわびていたかのように口を開いた。

 

~遊撃士協会 ツァイス支部~

 

「……来ると思っていたわ、エステル、ヨシュア、ジン、シェラザード、アガット、シオン、レイア。それと、久しいわねサラ。大方、帝国のギルドが畳まれた関係でアイナに頼ったってところかしら?」

「久しぶりね、キリカさん。」

「久しぶりね、キリカ。にしても、あちらこちらをフラリとしてたアンタがギルドの受付だなんて、どういう風の吹き回しなのかしら?」

キリカの言葉にエステルが言葉をかけ、サラがそれに続く形で言い、自分だけでなく自分の目の前にいた“根無し草”がギルドの受付という職業をこなしていることに笑みを浮かべつつ尋ねると、キリカも笑みを浮かべた。

 

「それは追々話すことにしようかしら……で、こちらの状況を簡単に伝えるわね。」

キリカが言うには、飛行船はすべて運休が決まっており、観光客に関しては王国軍と連携する形で既に全員の身元を確認済みであるという。市民への影響に関しては微々たるもので、王国軍による支援やZCF・ツァイス工科大学の人達が率先して事態の収拾にあたっており、さしたる影響はないと述べた。備えがあったとはいえ、この国の気質が人々の連携意識を持たせていることにキリカは少なからず感心していた。

 

「ってことは、大した混乱じゃねえんだな?」

「ええ。他の支部も大方そういう風だと聞いているけれど……ただ、グランセル・ボース・ロレントはかなり忙しい状況みたいね。」

「え?何で他の支部の情報を知っているんですか?」

アガットの問いかけにキリカは冷静に答えを返すが……その言葉に違和感を感じたヨシュアがキリカに尋ねた。この導力停止状態で連絡が取れる理由……それにキリカが答えた。

 

「二日前、カシウスさんとラッセル博士が通信器に『零力場発生器』を付けていったのよ。他の支部、軍関連施設、それとアルトハイム自治州およびレグラム自治州の領事館にね。」

「お、おじいちゃんがですか?」

「ってことは……」

「ギルドや王国軍の通信に関しては問題ないと思っていいわけか。」

「ええ、そういうこと。」

いくらこの状況下に対する備えがあると言っても、『情報』を封じられては効果的な一手を打てない。それに対する『対抗策』を打っていることにエステルらは安堵の表情を浮かべたのは言うまでもない。だが、エステルはそこで一つの可能性に気づき、ヨシュアに尋ねる。

 

「あ、でも……ねえ、ヨシュア。“教授”は動くと思う?」

「……彼の性格なら動くだろうね。“輝く環”に一人執行者を残して、他の面々を動かすことも考えられる。いや、寧ろ可能性が高い。」

“輝く環”出現に対する混乱……それがワイスマンの企みの一つ。だが、その混乱が最小限に抑えられている以上、それに対する強行策を打っている可能性があると述べた。最悪は『グロリアス』による攻撃であるが……それを聞いたキリカが口を開いた。

 

「成程ね。他の支部や軍にはこちらから連絡しておくわ。貴方達は他の支部に向かうといいでしょう。」

「ありがとうございます。」

「それじゃ、こっからは別行動ね。」

「ああ。そっちも気を付けろよ。」

そして、エステルらは二手に別れ、各都市の様子を確認するために徒歩で向かうこととなった。

エステル、ヨシュア、クローゼ、シオン、アガット、ティータの六人は道中トラブルもなく、無事にルーアン支部へと到着し、受付のジャンがエステルらの姿を見て声をあげた。

 

 

~遊撃士協会 ルーアン支部~

 

「お、エステル君達じゃないか!エステル君とヨシュア君は無事に正遊撃士になったようだし……しかし、エステル君は今やシオン君と同じA級まで到達したか。」

「お久しぶり、ジャンさん。それと、ありがとう。」

「お久しぶりです。正直エステルがA級だなんて夢みたいですけれどね。」

「あんですって~、ヨシュア?」

ジャンの褒め言葉にエステルは礼を言い、ヨシュアは苦笑しつつもエステルの今のランクの事を夢のようだと話し、エステルはジト目で反論した。だが、立て続けに『結社』の事件のみならず、他の依頼も片手間程度にこなしており、ある意味納得できる成果なのであるが………

 

「あのオッサンにしてコイツあり、って感じだがな。」

「あはは……」

「アガットにティータまでひどくない!?」

正遊撃士になってからエステルが解決した依頼件数(『結社』絡み除く)は約四週間で合計80件程度。この件数は並の遊撃士では真似できない程の件数であり、『風の剣聖』に匹敵する解決件数は遊撃士協会でも高く評価されており、近々エステルに対してS級の申請をする噂まで立っているほどだ。“剣聖”カシウス・ブライト……S級遊撃士としての実績を持つ彼の娘という“看板”は、遊撃士協会の知名度を上げる絶好の対象という側面があるのは否定できない。

 

「はは……まぁ、こちらの状況としては、特に大きな混乱は起きていないかな。ノーマン市長は初めての経験に慌てたけれど、何とか冷静さを取り戻しているよ。レイヴンのメンバーや教会の人達、セシリアさんも手伝ってくれているからね。」

「はあっ!?アイツらが!?」

ジャンの言葉―――真っ先に『レイヴン』に反応したのは、彼等と浅からぬ縁があるアガットだった。ならず者扱いのレイヴンの連中がこの状況手伝いをしていることに、夢を見ているような感じであったのには否定できない。

 

「ああ。ギルドの有志として炊き出しとかに協力してもらってるよ。」

「………(パクパク)」

「ア、アガットさん……」

「まぁ、無理もないか。」

「あははは……」

レイヴンの面々をよく知っているだけにアガットは唖然とし、ティータとクローゼは苦笑し、シオンは引き攣った笑みを浮かべつつアガットに同情した。

 

「何と言うか、人生解らないものね……」

「それをエステルが言うかな……ジャンさん、他に手伝えることはありますか?」

ヨシュアは呑気に呟かれたエステルの言葉にツッコミを入れつつ、ジャンの方を向いて尋ねた。

 

「そうだね……そうだ。ジェニス王立学園に行ってほしい。」

「学園に、ですか?」

「ああ。マリノア村の方はセシリアさん伝手で情報は聞いているんだけれど、王立学園の方は未だに解らないからね。幸いにも、王太女殿下とシオン君がいるから、問題ないと思うよ。」

『零力場発生器』が置かれているのはギルド・軍関連といった主要な王国関連施設………王立学園のほうもその対象として置かれたのだが……どうやら、通信が繋がらないらしい。

 

「ま、無理もないか……俺は賛成だが、エステルにヨシュア、どうする?」

「あたしは賛成よ。」

「僕もかな。アガットさんは?」

「別に構わねえぜ。」

シオン、エステル、ヨシュア、アガットの四人が頷き、クローゼとティータもそれに頷いて、ジャンの方を向く。

 

「決まりのようだね。そしたら、よろしく頼むよ。」

ジャンの言葉に頷いて、六人はギルドを後にして一路王立学園へと向かった。

 

その後、学園を占領した兵士らを追い返すべく、合流したクルツ、グラッツ、カルナ、アネラスの四人と力を合わせて学園を奪還し、首謀者であるギルバートをあっけなく叩きのめしたが……カンパネルラの乱入により、ギルバートは連れ去られ、兵器や猟兵らも完全に撤退した。

 

そして、王城へと向かうこととなったシオンとクローゼの二人やクルツらと別れ、エステルら四人はボースへと向かった……エステルが以前通った『近道』を通る形で。

 

 

~王都グランセル 遊撃士協会グランセル支部~

 

一方その頃、ジン、サラ、シェラザード、リィン、レイアはグランセルのギルドへと到着した。グランセルに着いたころには既に日が傾き、少しずつ暗くなっていた。ちなみに、ケビンは今後の対応を大司教と協議するために大聖堂へと向かった。本来ならば『星杯騎士』であるレイアも来るように言われたのだが……レイア曰く

 

『決まっていることに今更何をしろと?』

 

ということだった。五人の姿を見た受付のエルナンは声をあげた。

 

「これは皆さん。御無事で何よりです。」

「ええ。お陰様でね。それで、状況は?」

「それはこれから説明します。」

グランセルも大した混乱はないが、飛行船と鉄道が使えない影響で観光客が王国に滞在せざるを得ない状況に陥っていた。なので、王国軍は宿泊業の業者らと相談し、ホテルに滞在してもらいつつ、食事に関しては国の備蓄を一部開放することとした。それと、エルベ離宮を臨時の宿泊所として宛がうこととしたのだ。

 

「フム、大した影響は無しか。」

「軍の方々が尽力されましたので……流石に今日は日が遅いですし、ここで一泊された方がいいかと。ヒルダ夫人の方から、王城の方に皆さんの宿泊場所を提供する申し出がありました。」

「ホテルの方は観光客で一杯ということですか……」

「なら、仕方ないね。」

確かに、観光客の関係で泊まれる場所は王城か大使館……それならば、ということで五人はその好意に甘える形でギルドを出て王城へと向かったが………レイアは用事があると言ってジンたちと別れ、郊外へと向かった。

 

グランセル郊外……そこに着いたレイアを待っていたのは白の方舟。特殊作戦艇『メルカバ』参号機……アスベルに与えられた『舟』の姿を見つけると、その傍にいた人物もレイアの姿に気づいて歩み寄った。

 

「―――来たか。」

「ゴメンゴメン」

「ま、遅刻じゃないけれどな。」

その人物―――いつもの仕事着でなく、特殊な法服に身を包んだ『守護騎士』第三位“京紫の瞬光”アスベル・フォストレイトの姿であった。謝るレイアのほうも、いつもの服ではなく法服に身を包んでいる。つまり、彼等がこれからすることは“仕事”。それも、かなり大がかりな……

 

「レイアはロレント西側で待機。俺は北部の方を受け持つ……グランセルのほうは王国軍とアイツらに任せることとするさ。」

「ロレントということは、狙いはおそらく……」

「だろうな。だが、ルドガー曰く『彼女に関してはたぶん大丈夫だと思う……敵の方が哀れだ』とか言ってたが。」

「何それ?」

「さあ?」

流石の聡明な頭脳を持つアスベルですら、その真意を計りかねていた。

 

 

~霧降り峡谷~

 

「さて……今回の作戦は“戦い”だ。俺らの視界に映るものは全て壊せ。相手に情けはかけるな。野郎ども、覚悟はいいな?」

「オオッ!!!」

「お~、気合入ってるねぇ~!!シャーリィもこの『テスタ・ロッサ』を本気で振るえると思うと、ワクワクするよ~!!」

 

 

~ミストヴァルト~

 

「さて……行こうか、野郎ども。」

「ハッ!!」

 

 

辺りが夜という闇に包まれる……夜というフィールドに長けた者同士がロレントを中心に戦闘が始まろうとしていた。いや、それを後に『戦闘』と呼ぶものはおらず、それはもはや一方的な『蹂躙』の幕開けであった。

 

 




余談ですが、瞳の色が琥珀色(ヨシュア、ティオ、レン、???、??)というのは目立ちますが、それ以上に気になったのは紫色(系統)の瞳を持つ人間で……

○クローディア・フォン・アウスレーゼ
○オリヴァルト・ライゼ・アルノール
○レナ・ブライト
○アネラス・エルフィード
○ヴィータ・クロチルダ
○リィン・シュバルツァー
○アガット・クロスナー
○クルツ・ナルダン
○レーヴェ
○ルーシー・セイランド
○ツァオ・リー

……この面子だと嫌な予感しかしない(疑念)

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