英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第121話 狂戦士の末裔

~ミルヒ街道~

 

ロレントの西側、ロレントとボースを結ぶミルヒ街道……そこに佇むのは、淡い栗色の髪に翡翠の瞳を持つ少女。そして、その手に握られているのは機械仕掛けの突撃槍。彼女の名前はレイア・オルランド。元『赤い星座』―――“闘神”バルデル・オルランドと“赤朱の聖女”シルフェリティア・オルランドの娘にして、“赤い死神”ランドルフ・オルランドの妹にあたる。

 

『―――………貴方に、転生先での祝福を。』

 

そう思い返すのは、生まれ変わる前の光景……正確には、この世界に転生する前に話した神様との会話。そう、神様から“特典”を貰ったのは何もアスベルだけではない。シルフィアも、シオンも、ルドガーも、マリクも、セリカも……そして、レイアもその一人だ。一応言っておくが、その特典は彼女の膂力とは関係ない。膂力は、知らず知らずのうちに身に付いたものであり、これには当の本人も苦笑したのは言うまでもない。

 

「………来たみたいだね。父さんや母さんは何やってるんだか……愚痴っても仕方ないけれど。」

今までに培ったレイアの目が捉えたもの……それは、レイアにしてみれば『見慣れた』装備や獣の姿……『赤い星座』の部隊であることを確信しつつ、内心でため息をついた。『戦闘狂』である彼等をコントロールしきれなかったこともそうだが、『結社』の依頼を何故受けたのか……いや、両親はこの件に関して『何も知らない』可能性があることをそれとなく察しつつ、魔導突撃槍『レナス』を構え、“覇気”を解放する。

 

「!?」

「な、何だ……この威圧感は!?」

レイアの覇気を肌で感じ取った猟兵らは冷や汗をかいていた。その威圧は言うなれば全てを喰らう『竜』の如き覇気。だが、猟兵の一人は強がるように言い放った。

 

「怯むな!我々は『赤い星座』……たかが一人如き、出来ることは知れている!いくぞ!!」

「了解!!」

その言葉に猟兵らは奮い立ち、ブレードライフルを構えて、レイアに突撃する。だが、彼等はその強がりが……『無駄』であると悟ることは……“なかった”

 

 

―――煌け、レナス

 

 

そう呟いたレイアの言葉に呼応し、『レナス』は光を収束する。そして、それを振るう。次の瞬間、最前列にいた猟兵は……その存在すら『消された』。その光景を目の当たりにするまでもなく、

 

『アルティウム、セイバー!!』

 

レイアの戦技によって跡形もなく吹き飛ばされた。被害としては十数人……だが、その被害の甚大さに後続の猟兵までもがたじろいでいた。無理もないことであろう……何せ、目の前にいるのは、普段の『リミッター』を外した“だけ”のレイアなのだから。彼女だけが使える呼吸法もまだ温存した状態だ。そして、彼女はまだ“固有の能力”を解放していないのだから。

 

 

「『赤い星座』……私としては『身内』だけれども、第二の故郷とも言えるこの国を襲うのなら、容赦するつもりはない。」

「へぇ~……やっぱり、この国にいたんだ。」

「……シャーリィ・オルランド。」

レイアの言葉を聞いたのか聞いていないのか……チェーンソーライフルを持つ赤毛の少女―――シャーリィ・オルランドの姿が目に入るが、レイアは静かにシャーリィの方を見つめる。

 

「もう、久しぶりに従姉妹同士で会えたんだからさ、もう少し愛想よくしてくれてもいいのに。」

「『テスタ・ロッサ』を持って言う台詞じゃないんだけれど?それに、どうしてここにいるのかな?」

「決まってるじゃない……戦うためだよ。パパもシャーリィもね。」

「成程……」

シャーリィの事はさておくとしても、彼女だけでなく彼女の父親であるシグムント・オルランドがいることにレイアは考え込んだ。今回の事に関しては、バルデルやシルフェリティアも与り知らぬ可能性がある。これに関しては後で確認することにしつつ……すると、レイアとシャーリィのもとに一人の偉丈夫が姿を見せた。

 

「フ……このような場所にいるとは、腑抜けたようだなレイア。」

「……“赤の戦鬼(オーガ・ロッソ)”シグムント・オルランド。にしても、腑抜けたというのは、どういうことですか?」

「決まっているだろう?かつて俺を投げ飛ばした少女がこのような国でぬくぬくとやっているようだが……かつての無邪気さは形を潜めたようだな。」

偉丈夫―――シグムントの言っていることにレイアは黙って聞いていた。だが、シグムントが言いたいことを言い終えると、レイアは少し距離を取り、笑みを零した。確かに、無邪気さはそれなりに形を潜めたことだろう。だがそれは、物事は単純でないことを実感したからに他ならない。その笑みを見て、シャーリィは首を傾げた。

 

「レイア姉?何で笑ってるの?」

「アハハ……家出したランディ兄ならいざ知らず、私にそんなことを言うなんてね。でも、訂正してほしいね。」

「訂正だと?」

レイアの言葉に険しい表情を浮かべるシグムント。そして、レイアは冷淡に、こう言い放った。

 

 

―――腑抜けた?勘違いしないでほしいね。寧ろ、『鋭くなった』ぐらいだよ。

 

 

「ハアアアアアアァァァァァッ!!!」

「!?!?」

「な、何だこの覇気は……!?」

レイアは特殊な呼吸法『リインフォース』を発動させ、先程よりも密度の高い“覇気”の顕現にシャーリィは驚きを隠せず、シグムントは以前の―――膂力のみであった幼少期のレイアとは考えられないほどに変化した彼女の様子に戸惑いを覚えた。

 

七年という月日……彼女にしてみれば、怒濤の連続であった。だが、『猟兵』『星杯騎士』『遊撃士』『軍人』……その全ての経験が今のレイアという存在を形作っている。いまだに解決しない謎はあるが、それはひとまず置いておき……レイアは武器を構えた。

 

「リベール王国軍『天上の隼』が三席、レイア・オルランド。この国に混乱を齎そうとする『赤い星座』……この場で排除します!!」

「面白い!『赤い星座』副団長シグムント・オルランド。“朱の戦乙女”の力、喰らってやろう!!」

「『赤い星座』部隊長シャーリィ・オルランド!楽しませてよねぇ、レイア!!」

昔―――中世、“槍の聖女”リアンヌ・サンドロット……その彼女が率いた鉄騎隊でその名を轟かせた『狂戦士(ベルゼルガー)』の血を引く戦士(オルランド)の系譜。数奇な運命を辿るその一族同士の戦いが幕を開けた。

 

 

「いっくよ!それそれぇ!!」

その火ぶたを切るかのように、シャーリィが持っていたライフルを乱射し、レイアは槍で弾丸を弾き飛ばしつつ必要最低限の動きでその銃弾の雨をかいくぐる。それに続くかのようにシグムントが双戦斧を振るい、レイアは白刃流しの要領でその軌道を逸らす。すかさず切り込もうとしたが、シャーリィが火炎放射のクラフトを放ったため、すかさず後ろに下がった。

 

「……ふ、副団長と部隊長が戦ってるんだ!今の内に進むぞ!!」

その動きに呆然としていたが、部下の猟兵らはレイアがシグムントとシャーリィの二人を対峙している間に進もうと試みたが……それは叶わなかった。

 

「残念。ここから先は行き止まりだ。」

「ん。邪魔はさせない。」

「なっ!?“猟兵王”に“西風の妖精(シルフィード)”だとっ!?」

彼等の目の前に現れたのは彼等の宿敵とも言える『西風の旅団』。その団長であるレヴァイスと、実力者の一人であるフィーの姿であった。さらに、二人の後ろに待機しているのは『西風の旅団』の団員達であった。その数は一個中隊ほどの規模……数だけでいえば『赤い星座』の部隊とほぼ互角の様相を呈していた。

 

「各員、生き残ることが最優先の任務だ。戦闘開始!『赤い星座』の連中を追い返せ!!」

「了解。」

「イエス、サー!!」

レヴァイスの号令にフィーを始めとした面々が返事を返し、各々武器を構えると『赤い星座』の猟兵らに向かって突撃を開始した。

 

その光景を横目で見つつ、シグムントはレイアと刃を交えた。

 

「『西風の旅団』がここにいるとはな……つくづく、お前という人間は『猟兵』という性から逃れられないようだな。」

「否定はしないけど……ねっ!!」

交わされる刃……その衝撃は周囲の空気を震え上がらせる。シグムントは刃を交わしながら、目の前にいる自分の姪の成長を恐ろしく感じた。

 

(この膂力……チッ、加減をさせてくれないとはな……!!)

感じる手応えに内心舌打ちをした。刃から伝わるその膂力の底知れなさ……下手をすれば、自分など簡単に呑み込まれないと率直に感じるほどの力と、彼女の放っている“覇気”。その姿は最早、シグムントの知るレイア・オルランドという人間の姿でないことを本能で感じ取っていた。そう察したシグムントは一度距離を取り、闘気を高める。

 

「そらそらっ!!遠慮なく潰れろぉー!!!」

「ふっ………やるね。でも……煌け。」

その隙を逃さずに仕掛けようとしたレイアであったが、シャーリィが『テスタ・ロッサ』のチェーンソーが唸りを上げて彼女に振るわれ、レイアはそれを槍で防ぐ。……並の武器ならば、レイアの持つ槍が折られるであろうその行動だが……レイアの言葉に『レナス』は光の刃を形成し、

 

「はあっ!!」

「くうっ!………う、嘘!?『テスタ・ロッサ』のチェーンを!?」

彼女のチェーンソー部分を叩き斬った。動揺するシャーリィを他所に、レイアは闘気を高め、彼女に向けて突撃する。

 

「一閃必中……サンライト・スマッシャー!!」

「あうっ……つ、強いね……レイア……姉………」

唸りを上げる彼女の突撃槍がシャーリィを捉え、武器破壊によってその戦力の半分を奪われた形となったシャーリィはその技をまともに食らい、気絶してその場に倒れ込んだ。

レイアはそれに対して感傷に浸る間もなく、“覇気”を高めて、技の準備をする。この場にいるのは彼女(シャーリィ)だけではない……もう一人の人物(シグムント・オルランド)がいる以上は。

 

赤の戦鬼(オーガ・ロッソ)の力、とくと味わえ、朱の戦乙女(レイア・オルランド)!!」

その人物は自らの持つ武器をレイアに向けて投擲した。レイアはそれを上手くいなしてその攻撃を避けることに成功するが、二本の斧は自ら意思を持つかのごとく自在な軌道を描き、高く舞い上がる。そして、それと呼応するかのようにシグムントもまた、高く舞い上がった。

 

「喰らえ、クリムゾンフォールッ!!」

その斧を掴んだシグムントが自らの闘気を双戦斧に纏わせ、レイア目がけて降下する。シグムントのSクラフト『クリムゾンフォール』……普通ならば、ここで距離を取って隙を取るのが定石かもしれない。シグムントもレイアならばそうするであろうと踏んだ。

 

だが、レイアの取った行動はある意味全くの逆だった。シグムントの着地ポイントに敢えて近付き、そして

 

「はああっ!!」

「なっ!?」

片手で槍の切っ先を向け、シグムントの斧を受け止めるという“荒業”にシグムントは目を見開いた。そういった行動は自分の娘はおろか、自分の兄にして団長であるバルデルですら取らない行動……下手をすれば自らの得物を破壊しかねない無謀な行動だ。だが、彼女にはその行動に至らせるだけの“自信”があり、彼女の得物である槍もその“頑丈さ”を如何なく発揮しうる状況……無論、それだけではないのだが。

そして、レイアはその槍を“両手”で持った。

 

「『レナス』、制限解除(オーバルリミット・リリース)!」

「なっ!?何だその力はっ!?」

そして、レイアの持つ槍は各部が分割・展開し、彼女の属性である空属性と風属性―――翠金色の翼と刃が武器から発生し、その姿を顕現させる。更に、巻き起こる力の波動……その力の強大さにシグムントは恐怖という感情を覚えた。だが、それを感じる間もなく、シグムントは上空に“飛ばされた”

 

「はあっ!!」

「ぐあああっ!!!」

攻撃をすべて防ぎきるどころか、それすら上回る破壊力を叩き付けられ、シグムントは為す術もなく上空に打ち上げられる。それを見つめつつも、レイアは槍を構え、更に自らの能力を解放する。すると、周囲に巻き起こる“雷”の力。

 

紺野沙織(レイア・オルランド)がこの世界に転生する際に齎された“特典”……“超常能力特級昇華”。一つだけではあるが、自分が今までに見たことのある能力を完全特化および最上級の能力に昇華させる能力。様々な能力の中で彼女が選んだのは、“電撃使い(エレクトロマスター)”の能力。

 

解らない人がいると思うので説明するが、『エレクトロマスター』は御坂美琴という人物の“超能力”ということだ。その最たるものは“超電磁砲(レールガン)”。弾速36,750CE/h(3,675km/h、マッハ3)、毎分8発程度、コイン程度の大きさなら50m程度の射程を誇る。これがどうなるかというと……弾速73,500CE/h(7,350km/h)、毎分20発、空気抵抗軽減……その時点でかなりヤバい代物だということがおわかりだろう。

 

だが、その能力の最も恐ろしい点は金属に対する磁力の発揮という点にある。レイアが使うのは主に電気の力とこの磁力の力であり、超電磁砲は“最後の切り札”として温存している。更には、本来電気を通さないはずの物まで帯電性を及ぼすという常識を離れた超常現象をも引き起こすことができる。尤も、彼女にしてみれば“過ぎたるもの”という代物であるが……

 

レイアは槍を構え、その槍に雷を纏わせ、そして放たれるは彼女が自分なりに昇華させたEXクラフト。彼女が目指す領域の“その先”を掴み取るため、今ここにその力を顕現させる。

 

「絶技!エアレイド・グランドクロス!!」

「がああああっ!!」

レイアなりに編み出した自らのEXクラフト『絶技エアレイド・グランドクロス』の光の奔流はシグムントを容赦なく巻き込み、後続にいた猟兵や獣らはなす術もなく巻き込まれ、吹き飛ばされた。

 

彼女が放った技の跡に残るのは……辛うじて立ち上がったシグムント、その奔流を受けて無残にも装備を破壊された猟兵、最早原型を留めていない獣……被害が各々違いすぎるが、これには理由がある。シグムントは上空に飛ばされたためその被害は軽微、猟兵らは衝撃の余波を受ける形で、獣らは直撃を受けたためである。だが、軽微でありながらもその状態は戦闘を継続するには無理という他ないだろう。

 

「……『身内』を殺すのは、流石に躊躇うしね。父さんと母さんに免じて、ここは見逃してもいいよ。尤も、そちらが戦うのならば容赦なく行くけれど。」

そう言い切ったレイアの姿にシグムントはここいらが潮時だと悟った。この状況でこれ以上任務を継続することは不可能……そう思っていた矢先、二人にとって聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「おうおう、こりゃ派手にやらかしたなぁ……シグムント。」

「!!なっ!?」

「あ、父さん。」

シグムントとレイアには馴染のある人物―――バルデルは呑気に、その惨状を見つめていた。だが、次の瞬間にバルデルの表情は真剣な目つきでシグムントを睨み、彼はバルデルの視線に対して強張った。

 

「……ま、ご苦労とだけ言っておこう。お前に取っちゃいい“経験”になっただろうしな。レイア、ここは俺が責任を持って退かせよう。それでいいだろう?」

「うん。そういうなら任せるよ。」

「感謝する。野郎ども、撤退だ。」

バルデルがそう言うと、待機していた猟兵どもが気絶した仲間を回収し、シャーリィを肩に担ぎ、シグムントの首根っこを掴む形でバルデルはその場を後にした。

 

「済まない、兄貴………」

「気にするな。てめえの性分は理解してるつもりだ……けれどな、シルフェリティアも言ってたが、てめえがそんな調子だったら死んだ“アイツ”が浮かばれねえぞ。それだけは覚えておけ。」

「………」

バルデルの言葉にシグムントは苦い表情を浮かべ、何も言えずにいた。この後、『赤い星座』はリベールより完全撤退し、これ以降『福音計画』に参加することは無かった。

 

一方、その光景を見て疑問を感じたフィーはレヴァイスに尋ねた。

 

「いいの?追わなくて。」

「言いたいことは解る。けれど、アイツが義理を果たすんなら、追う理由はねえのさ。」

「………そっか。」

バルデルとレヴァイスにある関係。単純に宿敵という括りでは語れない“縁”を感じ、フィーはそれ以上の問いかけを止めた。

 

ロレント西側の戦いが収束した頃、北と南でも……その戦いが始まっていた。

 

 




レイアの特典が解放されました。
まぁ、純粋にヤバいので、まだまだ完全解放とは行きませんが(汗)

鉄騎隊の件に関してはオリ設定交じりです。
「オルランドの一族が中世の騎士から続く一族」「レグラムの鉄騎隊の像で語られなかった左側の斧を持った戦士」「シグムントの武器」……それから連想して考えた設定です。後で違う設定が出てきても、今作におけるオリ設定ということで勘弁してくださいw

……何だかんだ言って『赤い星座』には個人的に愛着あります。ただしシャーリィ、てめーの行動に関してはダメだ。

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