英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第126話 成長の片鱗

ジンらを伴ってハーケン門に到着したクローゼ。それを出迎えたモルガンはクローゼがこの場に姿を見せたことに驚きを隠せずにいた。そして、クローゼのその表情は凜としており、その姿はまるで祖母である女王……そして、彼女の姉のような存在であるユリアや、従兄であるシオン(シュトレオン)を思い起こさせるかのような雰囲気を感じた。

 

~ハーケン門 南口~

 

「モルガン将軍、クロノ少佐。ご苦労様です。」

「殿下、御足労いただき感謝します。」

「いえ……将軍、事態の説明をお願いできますか……将軍?」

クローゼの言葉にクロノは敬礼をして言葉を返し、クローゼはモルガンの方を見やると、その彼は茫然としており、クローゼが首を傾げると、モルガンは我に返って慌てて取り繕った。

 

「……はっ!?失礼いたしました、殿下。さて、そなたらも来てもらうぞ。」

「ええ、解りました。」

「これはこれは……遊撃士嫌いの将軍があたし達を招き入れるだなんてね。」

「殿下が同行を許している以上、わしの私情など二の次だ。それに、今はそういうことをしている場合ではないというのは、わしにでも解っておる。なので、否応問わずに協力してもらうぞ。」

シェラザードの物言いにモルガンは目を伏せて答えた。先日の空賊絡みの事件では互いにいがみ合っていただけに、今回のこの状況に遊撃士を入れるのは心苦しいだろう……だが、今は面子に拘っている場合ではない。拘ったが故に、先日の事件では自ら動きを封じられ、危うく国家反逆の烙印を押されてしまうところであったのだから。その様子にシオンは苦笑を浮かべつつ、モルガンに尋ねた。

 

「やれやれ……将軍、エステル達は既に?」

「先に会議室で待ってもらっておる……この事態に『中立』の力を借りねばならんとは、情けない話だ。」

「でも、仕方ないですぜ。俺は数年前の事件で各国の連中と協力しましたが……そこでも国という柵(しがらみ)は大きいと感じたほどです。」

モルガンの言葉にジンは率直な意見を述べた。何せ、数年前の事件における制圧作戦でも、先頭に立っていたのは遊撃士であったカシウスだ。国という柵に囚われる人間には、自国の利益という部分が付きまとう。その意味でも『中立』であるというのは良い意味でも悪い意味でも強力な存在となり得る。それはその組織に属する者としてジンはそう思っていた。

 

「そうか……さて、ここで立ち話も宜しくない……それでは殿下、案内いたします。」

「ええ、解りました。」

モルガンに先導される形でクローゼらは案内され、ハーケン門の会議室に案内された。

 

~ハーケン門内 会議室~

 

会議室に案内された一行がまず目にしたのは、エステル、ヨシュア、アガット、ティータの姿であった。エステル達はクローゼたちに気づき、声を上げた。

 

「あ、将軍さん……って、クローゼ!?」

「それに、シェラさんやジンさん、サラさんにスコールさん。」

「シオンにリィンもか。って、お前は確かクルルだったか。」

「あのあの、お久しぶりです。」

その面々にエステルらは驚きや喜びなどが入り混じった表情を浮かべ、クローゼたちの方を見た。ひとしきり声を掛け合った後、モルガンが説明を始めた。

 

「まず、あの部隊が姿を見せたのは、二時間前……目測ではあるが、ここから北に15セルジュ(1.5km)ほど離れた場所で陣を構えておる。指揮官の姿は確認できておらん。それと、未確認情報ではあるが……あの部隊に皇族の人間がいるらしい。」

「皇族って……アルフィンみたいな身分の人ってこと?」

「まぁ、それは当たってるんだけれど……不敬すぎやしないかい?」

「え?でも、アルフィンに聞いたら『エステルさんはいたく気に入りましたので、私に対する敬語は禁止ですわ。』とか言われちゃったし……」

「………」

「ある意味旦那を超えているな、エステルは。」

皇族という言葉にエステルはアルフィンの事を思い出し、ヨシュアが彼女に対する敬意に触れると、エステルは肝心の本人から敬語は禁止と言われたらしく、帝国出身のリィンは頭を抱えたくなり、ジンは笑みを浮かべてエステルの方を見ていた。カシウスの娘の交友関係には流石に冷や汗が流れたモルガンであったが、気を取り直して説明を続けた。

 

「まぁ、流石に皇女殿下が来るとは思えぬが……可能性があるのは、オリヴァルト皇子であろう。」

「オリヴァルト皇子、ですか?」

「オリヴァルト・ライゼ・アルノール……庶子出身の皇族で、その知名度の低さから“放蕩皇子”なんて呼ばれているらしい。尤も、俺も名前ぐらいしか知らないんだけれど。」

モルガンの言葉にティータが首を傾げ、リィンが付け加える形で説明した。とはいえ、帝国内でもその知名度からあまり知られていない出で立ち……一説によると、演奏家のように振る舞い、大陸のあちらこちらを旅する吟遊詩人的な人物像らしい。ここにいる殆どの人物はその正体を知らないが……彼の出で立ちを知る人間は、

 

(あはは……)

(アイツはなぁ……)

(ホント、いろんな意味で度肝を抜かしてくるわね、オリビエは。)

内心引き攣った笑みを浮かべるクローゼ、シオン、シェラザード。ただ、彼がここに来るということは、エステルらが驚くこと間違いなしであろう。本当にいろんな意味で“曲者”という他ない。すると、一人の兵士が急いで入ってきて、モルガンに耳打ちをした。

 

「しょ、将軍!」

「どうした?………何っ!?」

(う~ん……何かあったのかしら?)

(この状況だとすると…もしかして…)

その光景にエステルとヨシュアは首を傾げつつ考え込んでいた。

 

「済まぬな……向こうから会談の申し入れがあった。」

「会談、ですか?」

「詳しいことは解らないが……向こうから三人がハーケン門に来るようだ。そのうちの一人は皇族の軍服らしきものを着ていたようだ。」

その言葉にクローゼは少し考え込んだ後、エステルとシオンに声をかけた。

 

「………となると、こちらも三人でいきましょう。エステルさんとシオン。護衛をお願いできますか?」

「あたしは構わないけれど……遊撃士って意味ならシオンもそうじゃないの?」

「俺はその前に王室親衛隊の肩書が大きいからな。エステルならば“カシウス・ブライトの娘”という肩書は大きなインパクトを持ちえるし、他の人から了解は得ている。」

「う~ん……あの不良中年親父の肩書ってことには納得できないけれど……というか、ジンさんとかシェラ姉とか、こういった場所にうってつけの人材がいるのになんであたしなわけ?」

エステルの言うことも尤もであろう。確かに自分の父親のことがあるとはいえ、こういった外交の交渉においては国際的な事件に関わった経験のあるジンや、遊撃士として先輩であるシェラザードやアガット、サラの存在がある以上、自分の役割は低いのでは……そう思ったエステルであったが、

 

「この状況だと俺は部外者のようなものだしな。ここはこの国出身の人間の方がいい。」

「あたしやアガットは斬った張ったがメインだしね。」

「だな。」

「それに、何だかんだ言ってみんなを引っ張ってきたのは他でもないエステルなわけだしね。」

「………あ~もう、解りました。こうなったら毒を食らわば皿までよ!やってやろうじゃない!!」

先輩の方々に言われ、渋々納得したエステルであった。

 

「頑張って、エステル。僕らは周辺の警戒をしておくよ。」

「……うん、解ったわ。」

ヨシュアの言葉に笑みを浮かべて頷き、会談を行う貴賓室に向かった。部屋の中に入るとまだ到着しておらず、クローゼはソファーに座り、シオンとエステルはその後ろでクローゼの護衛にあたることとなった。

すると、扉が開いてその三人が姿を見せる。そして、その中の一人―――皇族の軍服という格好であろう服装に身を包んだ金髪に紫の瞳を持つ青年。その姿は見紛うことなく……

 

「へ………?」

「まぁ、ある意味妥当っちゃ妥当だが……」

「あはは……ようこそおいで下さいました、ゼクス中将、ミュラーさん……そして、オリヴァルト皇子殿下。リベール王国王太女、クローディア・フォン・アウスレーゼと申します。」

エステルは茫然とし、シオンはその出で立ちに引き攣った笑みを浮かべ、クローゼもさすがに苦笑しつつも立ち上がり、会釈をした。

 

「これは、久しい顔がおるな。シオン・シュバルツ……数年前の制圧作戦以来か。」

「ええ。お久しぶりですヴァンダール少将。いえ、中将でしたか。そちらも更に洗練された佇まいですね。」

「フフ……お久しぶりですな、クローディア殿下。この度は王太女になられたそうで……遅ればせながら、祝いの言葉を贈らせていただきます。」

互いに面識のあるシオンとゼクスは軽いあいさつ程度に言葉を交わした後、ゼクスはクローゼに向き直り、言葉をかけた。一方、エステルは皇族であるオリヴァルト皇子もといオリビエの姿に驚きの声を上げた。

 

「な、何で……何でアンタが皇族……というか、アルフィンのお兄さんってことなの!?」

「そういうことになるな……こちらとしては不本意なものであるが。」

「おいおい、ミュラー君。折角の段取りが台無しじゃないか。こちらは真剣な話をしに来たのだからね。」

「お前が出てきた時点で真剣な話も台無しにしか成り得ないんだが……」

「嫌だなぁ、シュt「ここは王国。俺には生殺与奪の権利がある。いいか?」ハイ、ワカリマシタ。」

エステルとミュラーのやり取りにオリビエは笑みを浮かべて述べ、シオンのツッコミにシオンの本名を言って反論しようとしたが、シオンの抜かれたレイピアが首元に突きつけられ、命の危険を感じてすぐさま謝罪した。その光景にミュラーとクローゼは揃って引き攣った表情を浮かべていた。

 

「まったく……」

「あはは……心中お察しいたします。それで、ゼクス中将。此度の進軍についてお聞かせ願いたいのです。」

ソファーに座るクローゼとオリビエ……話を切り出したのはクローゼのほうだった。

 

「リベール王国上空に姿を見せた浮遊物……あの出現によって帝国南部は混乱しております。おそらくは王国とて同じ……そこで、オズボーン宰相閣下が皇帝陛下に進言し、急遽軍の派遣が決まったのです。」

「それは解らなくもないが……帝国南部の状況は?」

「情報局からは、酷く混乱しておるようです。特にサザーラント州南部がその被害を受けております。」

その情報の出所にシオンは考え込んだ。

 

情報局はいわば宰相の肝煎りとも言うべき存在だ。しかし、アスベルらから聞かされた内容からして、その地域における損害はないはずだ。なのに、被害があるように報告した……既にその情報はブラフであると信頼できる情報筋から聞いており、これも<鉄血>の策の一つであると推測される。

 

「(成程……)では、事前通告なしの領土侵入……これに関してはどう説明されるおつもりですか?」

「それについては僕から答えよう。既にアルトハイム侯爵にはこちらから軍の通過の旨を伝えている。女王陛下にはその辺りも説明しておきたかったのだがね。……だが、あの浮遊都市はリベールに対して嫌疑を掛けられているのも事実。『リベールの最新兵器』ではないかとね。」

「そう取られてもおかしくはない……残念ですが、それも事実ですね。」

オリビエの言葉にクローゼは目を伏せて答えた。浮遊都市―――“輝く環”の存在は、事情を知り得ない諸外国からすれば『リベールの兵器』と見られたとしても何ら不思議ではない。これに関しては事実であろう。

 

「……確かに、事情が知らない人からすればそう見えちゃうのよね。となると、そうではないという証拠をどう見せればいいのかしら?『オリヴァルト皇子殿下』?」

「至極簡単なことだ。こちらを納得せしめるだけの“証明”をしてくれることだよ。できれば今すぐにでもそちらであの浮遊都市を何とかできれば、こちらも軍を引かざるを得ないだろう……だが、それができない場合は……」

エステルの言葉にオリビエは含みを持たせた言葉を投げかけようとしたが……それを遮るかのようにシオンが呟いた。

 

「言っておくが、お前らの軍……完全に包囲されているからな。」

「なっ!?」

「何ですとっ!?」

「あんですってー!?」

その言動にはシオン以外の面々が驚いていた。それに驚く暇もなく、クローゼが続けて言葉を発した。

 

「ゼクス中将にオリヴァルト皇子、貴方が言ったことに対して二つ指摘をしないといけません。一つ目は帝国南部―――サザーラント州南部に関しては“知り合い”の情報提供によって、導力停止の影響を受けていないことが確認済みです。二つ目は『不戦条約』の“本則”―――軍の通行には『国家元首』の許可が必要です。ユーゲント皇帝陛下が認可されたとしても、我が国の国家元首たるアリシア女王陛下が認可されない以上、貴方方の行為は“侵略行為”と見なされ、こちらでの処罰の対象となります……まさか、自ら積極的に動いた<鉄血宰相>ともあろうお方が国際条約違反を堂々と犯す愚をされるわけではありませんよね?」

「「「………」」」

「ク、クローゼ……」

「ははは……」

『不戦条約』において罰則はない……しかし、侵略行為に対しての罰則は各々の国家に存在するため、この状況においては『不戦条約』を理由にする形で処罰を行う権限がリベールにはある。その意を込めたクローゼの言葉に帝国側の三人は押し黙る他なく、エステルやシオンも今までに見たことの無いクローゼを見て、引き攣った笑みを浮かべていた。

 

「ですが、こちらとしても無用の争いは避けたいのは事実。なので、こちらの事態が収束してから四日以内に撤退していただければ、“今回”はお互いに矛を収めることで手を打たせていただきますが……それでよろしいでしょうか?」

「いやはや……御見逸れしたよ。まだ十代でありながらその神算鬼謀の片鱗を窺わせるような佇まい……アリシア女王陛下から次期女王に見初められるだけのことはあるようだ。」

「いえ……私などまだまだです。至らぬ知識と言葉を上手く使っただけに過ぎませんので。」

その成長ぶりに冷や汗をかきつつオリビエは誉めの言葉をかけ、クローゼは謙虚にその言葉を受け止めた。

 

「(……シオン、クローゼに何吹き込んだのよ?)」

「(今の情勢を簡単に伝えただけだ。ま、身近で策略や政治に触れて……短期間でここまで成長するとはな。)」

シオンの言っていることも真実だが、それに加えて『転生者』の一人であるルーシーの存在も彼女を大きく成長させた要素である。クローゼは元々頭の回転の速さは持っており、その結果が王立学園における成績にも繋がっている。そこに政治におけるバランスや駆け引きを身に付けさせれば、彼女にとって“鬼に金棒”……女性に対してその言葉のあやはよろしくないであろうが、

 

「さて、そろそろ到着しているでしょう……参りましょうか。」

クローゼはそう言って立ち上がり、ハーケン門の北口へと五人を連れる形で先導した。その先に映った光景は……飛行艇や戦車・装甲車に包囲される帝国軍の姿であった。

 

「なあっ!?」

「これはこれは……いやはや、『眠れる白隼』侮るなかれ、だね。」

「呑気に抜かしている場合ではないでしょう……」

その光景にゼクスは驚き、オリビエは感心するように見つめ、ミュラーは青筋を立てつつオリビエを諌めた。すると、彼等の近くに降り立つ純白の飛行艦………高速巡洋艦アルセイユ級一番艦『アルセイユ』。そして、その甲板に立つ一人の人間が声をかけた。

 

「これが我が国の可能性です……とくとご覧あれ。」

「と、父さん!?」

「カ、カシウス・ブライト!?」

その人物―――軍のトップであるカシウス・ブライトの姿にエステルとゼクスは驚きを隠せなかった。それ以上に『アルセイユ』や飛行艇が空を飛んでいることに驚きを隠せずにいた。

 

「おや、そこにおられるのはゼクス中将ではありませんか。お久しぶりですな。」

「世辞は良い!なぜ、その飛行艦や飛行艇が空を飛ぶことができるのだ!?」

「それは機密事項故お答えできません。貴殿らがその戦車を保有しているのと同じ理由ですよ。」

「ぐっ………!?」

「ふむ……これが噂の“アルセイユ”か。そして貴公が、かの有名なカシウス・ブライト准将なのかね?」

カシウスの指摘を聞いて苦々しい表情で唸ったゼクスとは逆にオリヴァルトは全く動じていない様子で尋ねた。

 

「お初にお目にかかります、殿下。はて、何やらどこかでお会いした事があるような気もいたしますが……」

「奇遇だな、准将。私もちょうど同じ事を感じていたところでね。」

「それはそれは……」

「まったく……」

そして2人は口元に笑みを浮かべた後

 

「「ハッハッハッハッハッ。」」

同時に笑顔で笑った。

 

「まったく……」

「やれやれですね。」

その光景にシオンとクローゼは揃って苦笑し、

 

「……何となくそんな気はしてたけれど。やれやれよ。」

ある意味似た者同士の二人を知るエステルは疲れた表情を浮かべ、

 

「どういうことなのだ、これは!?」

「簡単な事ですよ、ゼクス中将。」

ゼクスは声を荒げた。すると、一人の人物が姿を見せた。ここにいる面々がよく知る人物―――アスベル・フォストレイトの登場であった。

 

「お前は……アスベル・フォストレイト!?」

「事情を簡単に説明します。今回はカシウス殿とオリヴァルト皇子の立てたプラン……そして、オリヴァルト皇子の“宣戦布告”です。<鉄血宰相>に対して。」

「おっとアスベル君、そこから先は僕に言わせてくれ。こればかりは僕の口から言わないと先生も納得してくれないだろうしね。」

アスベルの言葉にオリビエはいつもの感じの雰囲気で言葉を述べた。それを見たゼクスはミュラーに対して声を荒げながら事の次第を問いかけた。

 

「よもや皇子がリベールでこのような事を企んでいたとは……ミュラー!お前が付いていながら何事だ!」

「叔父上、言いたいことは理解できますが……このお調子者が俺の言うことを素直に聞くと?」

「ぐっ………」

怒り心頭の様子のゼクスの言葉に対して、冷静に述べられたミュラーの言葉に押し黙る他なかった。更に続けられたミュラーの言葉、

 

「それに……俺にも納得できないことがある。『ハーメルの悲劇』……この一件で初めて知りましたよ。どうやら、叔父上はそれを知っていたようですが。」

「!!!」

ゼクスは驚愕の表情を浮かべていた。それに対してオリビエはフォローするかのように言葉をかけた。

 

「無理もないよ、ミュラー君。先生はかの『百日戦役』時の指揮官……それに、当時から軍の重鎮にいたのだから知らないわけはない。」

「というか、なぜお前はそれを知っているんだ?」

「僕かい?無論父上から聞いたのさ。事の顛末に至るまでの全てをね。」

「………」

ミュラーが呟いた言葉をオリビエは笑いながら指摘し、ゼクスは目を伏せて黙り込んだ。それを見たオリビエはゼクスに対して言葉をかけるように述べた。

 

「先生、貴方を責めるわけではないよ。当時の主戦派が企てたことであり、先生がそれを知ったのは『戦役』開戦時だったようだしね。あまりに酷いスキャンダルゆえ、徹底的に行われた情報規制……。賛成はしかねるが、納得はできる。臭い物にはフタを、女神には祈りを。国民には国家の主義をと言うわけだ。だが……」

 

 

―――十年前と同じ『欺瞞』……『ハーメル』のような悲劇を繰り返させることは許さない。

 

 

「……ッ…………」

冷たい微笑みを浮かべたオリビエ……その表情を見たゼクスは身体を震わせて驚いた。

 

 

「先生、貴方も気付いているはずだ。唐突とも言える蒸気戦車の導入、まるで“導力停止状態”に陥ることを予見しての非導力装備の投入……更には『結社』と連動するかのような宰相の政治運営。間違いなく彼は『結社:身喰らう蛇』と通じている。人々に混乱を齎しうる存在と繋がりがあることが今後の帝国にどのような影響をもたらすかはまだ解らないが……少なくとも、いい方向への流れは誰にとっても期待は出来ないだろう。」

「皇子……まさか、貴方は……」

オリビエの言葉にゼクスは一つの可能性に至り、問いかけた。その言葉にオリビエは決意の表情で述べた。

 

「フフ、そのまさかだ。10年前に頭角を現して、帝国政府の中心人物となった軍部出身の政治家。帝国全土に鉄道網を敷き、幾つもの自治州を武力併合した冷血にして大胆不敵な改革者。帝国に巣食うあの怪物を僕は退治することに決めた。今度の一件はその宣戦布告というわけだ。」

「……何ということを。皇子、それがどれほど困難を伴うことであるのか理解しておいでなのか?」

「そりゃあ勿論。政府は勿論、軍の半数が彼の傘下にあると言っていい。先生みたいな中立者を除けば、反対勢力は<五大名門>のうちの四家のみ。さらに、タチが悪いことに父上の信頼も篤(あつ)いときている。まさに“怪物”というべき人物さ。」

ゼクスに尋ねられたオリビエは疲れた表情で答えた。口に出すだけでもその勢力の大きさは半端ではない。その人物に喧嘩を売るという困難さはオリビエにも嫌というほど理解できていた。

 

「ならばなぜ……!」

「フッ、決まっている。彼のやり方が美しくないからさ。自らの色に無理矢理染め上げ、自らの決めたレールに無理矢理帝国を圧し止めようとする彼のやり方にね。」

「!?」

オリビエの答えを知ったゼクスは驚いた。

 

「リベールを旅していて、僕はその確信を強くした。人は、国は、その気になればいくらでも誇り高くあれる。現に、この国はエレボニアやカルバードと同じように大国足り得る器を持ちえながら……エレボニアのように屈強な軍を持ちながらも、カルバードと似たようにほぼ平民しかいなくとも、その気質は二国のどちらにもない誇りを持っている。自分の国を愛し、人を愛する心に満ちている。ならば、僕の祖国にもそれができないはずがない……そして、同胞にも同じように誇り高くあってほしい。できれば先生にもその理想に協力して欲しいんだ。」

『革新派』・『貴族派』………そのどちらにも『誇り』というものはあるのだろう。だが、その誇りは一体誰のためのものなのかを知ることは出来ない。傍から見れば身分という『誇り』に拘った形での対立。それに対してオリビエは一石を投じる覚悟を決めた……その決意を込めた言葉を述べた。

 

「…………皇子。大きくなられましたな。」

オリビエの話を聞いたゼクスは黙り込んだ後、静かに答えた。

 

「フッ、男子三日会わざれば括目して見よ、とも言うからね。ましてや先生に教わった武術と兵法を教わっていた時から3年も過ぎた。僕も少しは成長したということさ……僕はこのまま彼らに同行する形とする。エレボニア側の視察ということであればあの御仁も帝国政府も納得するだろうしね。」

「……そうですな。撤退に関しては了解しました。ただし、我が第三機甲師団はあくまで先駆けでしかありませぬ。すでに帝都では、宰相閣下によって10個師団が集結しつつあります。今日を入れて4日……それ以上の猶予はありますまい。」

「ああ……心得た。」

「ミュラー。お前も皇子に付いて行け。危なくなったら首根っこを掴んででも連れて帰るのだぞ。」

「ええ、元よりそのつもりです。」

ミュラーの答えを聞いたゼクスは振り返り、エレボニア兵達に指示した。

 

「全軍撤退!これより第三機甲師団は、パルム市郊外まで移動する!」

「イエス・サー!」

 

ゼクスの指示によって後退していく戦車群……その光景を見つつ、オリビエはため息を吐いた。

 

「これで時間は何とか稼げたか……しかし、当初の段取りが少し崩れてしまったよ。僕のかっこいい雄姿を見せつけられるはずが、クローゼ君の雄姿を見せつけられる羽目になったんだからね。」

「お前にかっこよさを求める方が間違っていると言いたのだがな。」

「酷いじゃないか、ミュラー君!このオリヴァルト・ライゼ・アルノールのどこが悪いというのかね!?」

「ならば、今この場でその全てを披露してやろうか?」

「ゴメンナサイ、僕が悪かったですのでそれはヤメテクダサイ。」

当初の段取りとは違う格好になってしまったことにオリビエは納得できない表情を浮かべていたが、ミュラーは冷静に日ごろの行いのせいだと断言するかの如く言い放ち、オリビエはすぐさま反論しようとしたがミュラーの言葉に押し黙り、謝った。

 

 




政治的にブーストのかかったクローゼ、強力な後ろ盾を得たオリビエ……その結果は追々わかることになるかと思いますw

とりあえず、この話で章区切りまして……FC・SC編最終章突入です。


次章嘘予告

ワイスマン「さぁ、いでよ!エージェントヨシュア!!」

エージェントヨシュア×いっぱい「コンゴトモシクヨロ」

ティータ「ヨシュアお兄ちゃんのロボット……中身調べたいなぁ(キラキラ)」

クローゼ「ティ、ティータさん……」

ヨシュア「…………ねぇ、レーヴェ。ワイスマン八つ裂きにしていいよね?今までの恨みも込めて」

レーヴェ「待て、その前に俺が首と胴体をおさらばにしておきたい」

アガット「焼却ぐらいなら手伝ってやってもいいぜ。」

ワイスマン「助けて執行者、オーリオール!!」

ヴァルター「悪い、ジンと戦うので手が離せねえ」

ブルブラン「宿敵との戦いに集中させてほしい」

ルシオラ「ゴメン、今手が離せないの。」

レン「エステルと大事なお話し中なの。邪魔したら殲滅しちゃうわよ。」

輝く環「『その願いは私の範囲を超えております』」

ワイスマン「馬鹿なっ!?」


???「飢えず餓えず……煉獄に還れ」

ワイスマン「き、貴様は一体……ぎゃあああああっ!?」

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