英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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FC・SC最終章、開幕。


FC・SC最終章~空の軌跡~
第127話 集う者、見つめる者


~ハーケン門~

 

話も早々に切り上げてハーケン門へとやってきたオリヴァルト皇子ことオリビエとミュラー。だが、その少し後………

 

「あの、済まない。これはどういうことなのかね?」

簀巻きにされて吊り下げられたオリビエの姿がそこにあった。事情が呑み込めないオリビエの質問に代表してエステルが満面の笑みで答えた。

 

「決まってるでしょ……あんたって人は~!!人を騙しておいて何サラッと何食わぬ顔をしてるのよー!!」

「痛い、痛い!?あ、でも……何かに目覚めそう……って、下ろしてぇっ!?」

エステルの棒による打撃……一応初心者用の練習棒でオリビエを叩き、その痛みに何かが目覚めそうな表情を浮かべていた。その光景に呆然としたミュラーにヨシュアが言葉をかけた。

 

「あの、すみません……」

「いや、隠していたのはこちらだからな……大方、先程の『芝居』についてだろうが……カシウス殿は?」

「えと、飛行艇でロレントに連行されました。今頃は母さんの説教かと。」

「……お互い、苦労しているようだな……先日剣を交えた者同士でこのように共感するとはな。」

「……ですね。僕自身も驚きです。」

お調子者というか破天荒の類の扱いには慣れない、とでも言いたげにヨシュアとミュラーは揃ってため息を吐いた。この二人……先日は事情が事情とはいえ、剣を交えた人達の台詞ではないということは、当の本人たちにも解っていた。

 

「あの、それよりも、オリビエさんはいいのですか?」

「いや、まぁ、その……」

「元はアイツが蒔いた種だ。エステル君の機嫌が収まるまでそっとしておいてくれ。」

「は、はぁ………(すみません、皇子殿下)」

帝国出身者の二人の言葉に先ほどは立派な姿勢を見せたクローゼも、この答えに対して押し黙る他なかった。それから数分後……ようやくオリビエは解放された。

 

「うう……ヒドイじゃないかエステル君!ひょっとして、それが君の愛の鞭という奴なのかな。それならば僕も喜ぶのだがね。」

「……やっぱ、オリビエだわ。ミュラーさん、いつもこんなの相手だと疲れるでしょ?」

「察しの通りだ。」

「ミュラー君も容赦ないねぇ……フフ、それも僕の事を知り尽くしているからこそ言える台詞ということかな。」

「悍(おぞ)ましいことを言うなっ!!」

ちっとも悪びれる気すら感じさせないオリビエに呆れるエステル、青筋を立てているミュラー……そして、その彼を傍から見ていた人物たち……

 

「リィン、サラ、あれが帝国の皇族なのだが……感想は?」

「ノーコメント」

「ゴメン、アタシも同意見よ。」

(元)帝国出身のスコール、リィン、サラ……その破天荒っぷりに最早形容する言葉が見つからず、引き攣った笑みを浮かべていた。すると、其処に姿を見せたのはエステル達も何度か顔を合わせていた青年―――ケビン・グラハムにティータの祖父であるラッセル博士、そしてアルセイユの艦長であるユリア・シュバルツの姿であった。

 

「いや~、質実剛健とも謳われる帝国の皇族にしては愉快そうなお人ですなぁ。」

「ケビンさん!?それに……」

「わしもじゃよ。」

「おじいちゃん!?」

「それに、ユリアさんまで!?」

三人の登場に彼らと繋がりのあるエステル、ティータ、クローゼが驚きを隠せなかった。彼等との再会を喜ぶ前に、アガットが問いかけた。

 

「一つ聞きたい……どうして『アルセイユ』が空を飛んでやがるんだ!?」

「ひょっとして、通信器のものを大型化したの?」

「うむ。その通りじゃ。『零力場発生器』……その関係でずいぶん時間はかかってしまったが、こうして効果的な演出もできたし、結果オーライじゃの。」

アガットとティータの言葉に頷いて説明する博士。だが、厳密には試験用の新型エンジンに内蔵された『零力場回路』によるものであり、発生器そのものは積んでいないのだ。更には、アルセイユのための装備を搭載したため、翼の部分が以前より大型化している。

 

「そういえば、翼のところが前よりも大きくなってるようだけれど……これって……」

「高速巡洋艦のアルセイユのための装備じゃ。これをお披露目できる機会があれば尚の事いいのじゃがな。」

「そうなんだぁ……見てみたいなぁ~」

得意気に説明する博士の言葉にティータは瞳をキラキラさせていた。

 

「で、ケビンさんはなんでここに?」

「ま、簡単に言うと“輝く環”の正体が解ってな。今朝大聖堂に騎士団本部から連絡があったんや。そんで、カシウスさんに話しとったら、ここまで連れてこられたんや。」

「ええっ!?」

「”輝く環”の正体……ですか?」

ケビンの説明を聞いたエステルは驚き、ヨシュアは真剣な表情で尋ねた。輝く環のことはエステルらでも漠然としてしか掴めていなかっただけに、一同はケビンの方を向いた。

 

「ああ……“輝く環”っちゅうのはあの浮遊都市そのものやない。都市全体に導力を行き届かせてコントロールする古代遺物らしい。そして、その端末があの“ゴスペル”だったわけや。」

「都市をコントロールする古代遺物……」

「で、でもどうしてそんな物が導力停止現象を?」

ケビンの説明にエステルは驚きを隠せず、ティータも導力を生み出す遺物が何故導力停止という逆の事を引き起こしているのか……という問いかけにケビンは推測混じりの説明をした。

 

「これは推測やけど……“環”は外界に存在する異物を排除する働きを備えてるらしい。この場合、異物っちゅうんは現代に造られた新たな導力器―――すなわちオーブメントってことや。」

上位三属性の内の一つである“空”……“存在”を司る属性の古代遺物―――とりわけ“至宝”ならばその存在のコントロールも容易にできるだろう。この場合、浮遊都市を“環”の導力が動く範囲として定め、周囲の導力という“存在”を強制的に排除する。そうなれば、導力を持つものは浮遊都市以外にないことになるのだ。

 

「影響範囲内にある異物(導力)をことごとく無力化する……いわば防衛機構といったところか。」

「その可能性は高いじゃろう。そしてそれが本当なら一条の光明が見えてくる。あの巨大さゆえ、都市そのものをどうにかするのは困難じゃが……都市のどこかにあるという“環”の本体さえ発見できれば、対策の立てようもあるはずじゃ。」

ケビンの説明を補足するようにジンが話し、博士も頷いて言った。

 

「なるほど……そういうことですか。」

「本体を叩いて全てを無力化ね……確かに光明かも……」

博士の説明を聞いたヨシュアは納得した表情で頷き、エステルも頷いた。

 

「ふむ、いい感じで最終目的が定まってきたようじゃないか。それでは早速、『アルセイユ』であの浮遊都市を目指すわけだね?」

「それを決めるのは『アルセイユ』を所有するリベール王家になりますな。殿下……どうかご決断を。」

オリビエに尋ねられたモルガンはクローゼを見た。

 

「……分かりました。これより『アルセイユ』はヴァレリア湖上に現れた古代の浮遊都市へと向かいます。ユリア大尉、発進の準備を。」

「了解しました!」

クローゼの指示に敬礼をして答えたユリアは一足早くアルセイユに向かった。

 

「そして遊撃士の皆さん……どうか窮地にあるリベールに皆さんの力をお貸しください。恐らく、この件に関しては最後の依頼になると思います。」

「ふふ……そうね。」

「ま、答えは決まっているようなもんだが……」

「ここはひとつ代表者に答えてもらうとしようか。」

「賛成ね。」

「ん……代表者?」

クローゼの話を聞き、シェラザード達の会話を聞いたエステルは首を傾げた。

 

「あのな……エステル。お前の事に決まってるだろ?」

「ええっ!?」

アガットの指摘を聞いたエステルは驚いた。

 

「ふふ……何を面食らってるんだか。確かに、それぞれ個人的な因縁……あたしとアガット、ジンさんは持っているけれど……でも、何だかんだ言ってあたしたちは皆、あんたの旅に付き合わされたようなものよ。」

「その意味では、エステル。お前さんは間違いなく俺たちのリーダーってわけさ。」

「あ、あうあう……さっきのことといい、もちあげ過ぎじゃあ……」

シェラザードとジンの話を聞いたエステルは緊張して、口をパクパクさせた。

 

「やれやれ……お前たち、そやつにはまだ荷が重いんじゃないか?」

エステルの様子を見たモルガンは呆れた表情で答えた。

 

「……そんな事はないです。どんな時もエステルは前向きに、決して希望を諦めずにいてくれました。その輝きはどんな時でも僕を―――僕たちを導いてくれていました。だから……エステルじゃなきゃ駄目なんです。」

「ちょ、ちょっとヨシュア!」

「えへへ……お姉ちゃん、真っ赤だよ?」

「~~っ~~~~。あーもう、分かったわよ!クローゼの依頼……謹んで請けさせてもらうわ!必ずや、あの浮遊都市にある《輝く環》を見つけ出してこの事態を解決してみせるから!」

ヨシュアとティータの言葉を聞いて恥ずかしがったエステルは気を取り直した後、答えた。

 

「決まりのようだな。」

「あ、アスベル!それに……」

「ふふ、力を貸すよ。」

「ええ、ここまで来たからには、ですね。」

「シルフィにレイア!」

それを聞き遂げるように現れたアスベル、シルフィア、レイア。アスベルはヨシュアに近寄り、一通の手紙をヨシュアに渡した。

 

「これは……」

「ま、内容は自分で確認してくれ。全く、世話が焼ける『弟』だな。」

「ごめん……えと、ちなみに罰って何なの?」

「それは言えない。ま、お前相手に肉体的な罰は意味ないし、さらさらやる気などないが。」

(い、一体何をする気なの?)

アスベルの言葉にヨシュアは冷や汗が止まらなかった。そこに、更なる助っ人が姿を見せた。

 

「何で俺まで……」

「折角の戦闘が出来そうなところに俺らが行かなくてどうするよ。」

「まさか、空の上に浮かぶ場所だなんて、私でも想定外。」

ランディ・オルランド、レヴァイス・クラウゼル、フィー・クラウゼル……更には、エステルと面識がある二人の人物も姿を見せた。

 

「おや、エステル君じゃないか。」

「あら、貴女はボースで出会った……」

「ライナスさん!?それにあの時の……」

「え………(ね……姉さん………?)」

ライナスの姿にエステルは驚くが、それ以上に隣にいた女性の姿を見たヨシュアはその女性の雰囲気が自分の良く知る人物に似ていたことに驚いてた。

 

「はじめまして、コレット・メルティヴェルスと申します。若輩者でありますが、ライナスさんと同じ『星杯騎士』を務めております。」

「………(パクパク)」

丁寧にお辞儀をしたカリンもといコレットにケビンは開いた口がふさがらず、たまらずアスベルとシルフィアに問い詰めた。

 

(オイオイオイオイ!第二位“翠銀の孤狼”に第六位“山吹の神淵”が何でここにおるんや!?総長(あのひと)、何で一言も連絡せんのや!!アスベルにシルフィ!何で説明せえへんのや!!)

(五月蝿いよ、“雑草魂”ネギ・グラハム。)

(貴方は重要な任務があるでしょう。ニラ・グラハム。)

(お前ら揃いも揃って総長に似てきてないか!?)

ケビンの物言いをあっさりと受け流す二人に、ケビンは頭を抱えたくなった。

 

(とりあえず、『アレ』まで持ち出したんだ……失敗は出来ないんだ。)

(………解っとる。)

アスベルの言葉にケビンも静かに頷いた。ケビンの任務は重要……そのために、目くらましとも言える第二位の存在を引っ張ってきたのだから。ただ、この先の事に関してはケビンですら知らないのだが……それは数日前、総長であるアインとアスベル、シルフィアの会話……

 

 

~数日前 『メルカバ』漆号機 ブリッジ~

 

「……それは本当ですか?」

『ああ……実はお前たちの取り込んだ古代遺物を調べた際、それが出てきた。』

「つまり、あれを何らかの形で取り込もうとしたら……」

『間違いなく暴走する……いや、そうなるように“仕向けられている”可能性があるだろう。』

いつもは見せない表情で述べられたアインの言葉にアスベルとシルフィアも表情を強張らせる。あの都市の中にある“輝く環”はただの至宝に非ず……というのは解ってはいたことだが。

 

『とはいえ、あれが暴走する際、共鳴現象が起きる可能性が高い……その時の判断はお前たちに一任しよう。』

「………解りました。」

そう言って通信が切れると、アスベルとシルフィアは揃ってため息をついた。

 

「これ、どうする?」

「……しかた、無いかな。とりあえず、出来ることはしておこっか。」

「……そうだな。」

総長から伝えられた事実……その事実を素直に受け止め、ある程度覚悟しておくことしかできない……そう感じた。

 

 

『―――お前たちの古代遺物は、ある意味“七の至宝”とは別次元の存在。私としても半信半疑だが……そう結論付けるほかあるまい。それと、あそこにあると思われる“輝く環”だが、あれに関しては純粋な至宝とは言えないかもしれない。』

 

 

アインの述べた推測……この後、それがどういう意味を持つのか……アスベルやシルフィアには分からなかった。

 

 

~ロレント郊外 ブライト家~

 

その頃、カシウスは軍服姿のまま正座させられ、レナは笑みを浮かべてカシウスの方を見つめていた。

 

「さて……言い分があればどうぞ?」

「ありません。全ては俺の責任だな……済まなかった。」

傍に誰かが見ていたら、見紛うこともなく綺麗な土下座をしているカシウスに、レナは柔らかい笑みを浮かべつつ、カシウスに歩み寄った。

 

「あなたが決めたこと……そして、あなたがしていること……解ってはいます。ですが、仕事ばかりではないのでしょう?」

「……そうだな。これではあの時と同じ目に遭っていただろうな。」

レナの言葉にカシウスは頭を上げ、十年前―――『百日戦役』の事を思い出していた。自分が軍という仕事に集中したがために、本来守るべきはずのレナやエステルを危険に晒してしまったことに。それを思い返して沈痛な表情を浮かべるカシウスに、レナは彼に抱き着くように身を寄せた。

 

「貴方の責任ではありません……ですが、それでもまだ責任を感じるのならば……守ってください。エステルやヨシュア、そして“私達”を。」

「私“達”……ひょっとして、レナ。」

レナの言葉に妙な引っ掛かりを感じたカシウスはレナの方を見つめた。その視線に彼女は照れつつもお腹の辺りを優しくさすった。

 

「ええ……あの子たちの弟か妹……私たちの子どもですよ。今度は、ちゃんと貴方が考えてくださいね。」

「ああ……解った。それが俺の責任だな。」

その言葉にカシウスは力強く頷き、そして今頃はあの浮遊都市に向かっているであろう自分たちの子どもを見つめるかのように、カシウスとレナは窓の外に映る空を見た。

 

―――エステルにヨシュア。この先も困難があるだろう。だが、ある意味俺を超えつつあるお前たちならば、きっとやり遂げるだろう……空の女神(エイドス)よ。困難に立ち向かうあいつらやその仲間たちを照らす光となって見守ってくれ。

 

 




てなわけで、原作+ランディ、サラ、フィー、“猟兵王”+オリジナル面子となります。

次回、
■■■■■?○○○○○?
貴様ら全員(わっほい)に処する!

※あまりにも残虐すぎるため、伏せられました。

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