英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第128話 駆ける翼

~アルセイユ級一番艦『アルセイユ』 ブリッジ~

 

「―――安定翼、格納完了。そのまま湖上の浮遊都市に向かえ。」

「イエス・マム。」

「敵の迎撃があった場合は?」

部下達に指示をしているユリアに、ブリッジクルーに混じって砲術士の席に座っているミュラーは尋ねた。この先はいわば敵の本拠地……エステルとヨシュアから聞いた『方舟』の妨害も考慮する必要があると考えた上での発言にユリアは考え込みながら答えを返した。

 

「……そうですね。迎撃するということも可能ですが、都市への着陸を最優先とします。」

「了解した。ちなみに、自分に敬語は無用だ。階級はともかく、こうして砲術士として手伝っている以上、貴官の指揮下にあるのだからな。」

「……了解した。」

「へえ、ミュラーさんって砲術士なんかもできるんだ?」

砲術士の席に座っているミュラーを見たエステルは驚いて尋ねた。ミュラーの事に関してはヨシュアから聞いたのだが、“アルゼイド流”と並ぶ帝国屈指の武術“ヴァンダール流”の使い手で、あの“隻眼のゼクス”の甥にして彼の所属する部隊ではエースを張っているらしい。その彼が導力関連のものを扱えることに少し驚きを隠せなかった。

 

「帝国軍で最も導力化された機甲師団で鍛えられたからねぇ。顔に似合わず、その手の業務は一通りこなせるわけさ。」

「……顔に似合わずは余計だ。」

笑いながら言ったオリビエの言葉にミュラーは顔を顰めて答えた。

 

「最も導力化された師団……第七機甲師団の事ですね。」

「となると、あいつか。」

「何だなんだ、知り合いでもいるのか?」

リィンが思い出したように呟き、スコールがその部隊にいる人物のことを思い出し、ランディが興味ありげに割って入ってきた。

 

「ああ、あの部隊の指揮官だが……帝国軍では珍しい女性の師団長でな。“神速の剣閃”セリカ・ヴァンダール。三年前、若干13歳にして部隊の副師団長、現在では師団長を務めている。」

スコールの口から述べられた言葉……その人物を見たことがあり、共に戦った経験のあるエステルは驚いていた。

 

「ええっ、セリカが!?……って、“ヴァンダール”?」

「あの、ミュラーさん……」

「お察しの通り、血縁者だ。俺にすれば実の妹ということになる。」

エステルの言葉に続くようにヨシュアが問いかけると、ミュラーは目を伏せて静かに述べた。だが、彼の心中は穏やかでなく、それを吐露するかのごとくオリビエが言葉を発した。

 

「ミュラー君にしてみれば心中穏やかじゃないよね。何せ、自分の妹が上司なのだから。でも、そのお蔭で好き勝手出来るじゃないか♪」

「そうするように仕向けたお前が言うなっ」

オリビエの言葉に青筋を立ててミュラーが反論の言葉を述べた。理解のある上司だということは否定できないが、それが自分の身内……ましてや、自分の実妹の影響だということにはやや納得できず、しかも、ブリッジに立っている自分の『親友』とは仲の良い兄妹のような間柄であるのがミュラーにとっての悩みの種である。唯一の救いは、彼女はまだ空気を読んで行動する点であろう……いや、仮にも師団長がそのような行動をとっていいのかと聞かれたら、上手く答える自信などないのだが。

 

「ちなみにレイア、その子の実力は?」

「う~ん……膂力だけだと今のエステルに匹敵するんじゃないかな?」

16歳の少女が師団長……嫌な予感を覚えつつ、ランディが尋ねると……レイアは首を傾げつつ凡その予想を含めながら話した。

 

「ってことは、<パテル=マテル>背負い投げできるってことに……」

「出来るかもしれないね。蹴りで戦車ひっくり返すし、拳で殴って戦車の装甲貫通できるし。」

「はあっ!?(オイオイオイオイ!?最近の女の子は怖いな!?)」

その予想を聞いたヨシュアは顔を青褪め、レイアはそれぐらい簡単にやってのけるのではと言い、ランディは妹の知り合いは非常識な女子しかいないのかと若干引き気味であった。

 

「まぁ、彼氏いないし……ランディ兄、立候補したら?」

「……いや、丁重にお断りしたいんだが。」

「実の兄ながら、その判断は賢明と言わせてもらう。」

レイアが笑みを浮かべながら出した提案にランディは引き攣った笑みを浮かべ、自らの命の危険を察して辞退するように言葉を呟き、その判断は間違いではないと言いたげにミュラーが述べた。

 

「あはは……ところでオリビエってばいつの間に着替えちゃったの?」

「帝国皇子として視察するんじゃないんですか?」

エステルとヨシュアは、先程までの軍服でなく普段の服装―――『オリビエ・レンハイム』としての服装になっているオリビエを見て尋ねた。

 

「ハハハ、そんなのただの建前さ。これが終わったら、ボクの自由で優雅な時間は終わりを告げてしまうからねぇ。せめてそれまでは気楽な格好でいさせてもらうよ。」

「はは……成程。最後のモラトリアムというわけか。」

「はあ、エレボニアの国民が知ったらどう思うことやら……というか、もう知られてるけれど。」

「アタシは見なかったことにしておきたいわ……」

「僕としては知られても一向に構わないのだがねぇ。どうだい、記者諸君たち。リベール通信でスッパ抜いては?」

オリビエの説明にジンやシェラザードはそれぞれ率直な感想を述べ、サラですら頭を抱えたくなり、オリビエは後ろにいたナイアルとドロシーを見て尋ねた。

 

「おっと、いいんですかい?」

「だったらバンバン写真撮っちゃいますけど~。」

「頼むから、そいつの戯言をいちいち真に受けないでくれ……」

オリビエの言葉を真に受けている二人にミュラーは怒りを抑えた様子で言った。仮にも『百日戦役』でいがみ合った国の皇族がそのような実態だと知られれば、ある意味『身内』の恥を曝すことにも繋がりかねず、それは流石に御免被りたかったのだろう。

 

「えっと、それはともかく……どうしてナイアルたちがいつの間に船に乗っているわけ?」

「もしかして、お祖母様が手配したんですか?」

「ええ、お察しの通りです。陛下がカシウス准将に口添えをしてくれましてね。従軍記者扱いで乗艦させてもらったんですよ。」

「ハーケン門での、姫様たちのカッコイイ姿も撮っちゃいました♪現像、楽しみにしててくださいね~?」

エステルとクローゼの疑問に二人はいつもの様子で答えた。

 

「あ、あはは………」

「やれやれ……どうにも緊張感がねえな。」

その言葉を聞いたクローゼは苦笑し、アガットは呆れた。これから向かう場所の事を考えると緩すぎる空気なのだが、緊張をほぐしてくれたと考えれば、ありがたいことなのだろう。

 

「あはは……そういえば、おじいちゃん。『零力場発生器』の調子はどう?」

ナイアルの様子に苦笑していたティータは博士に尋ねた。

 

「うむ、今のところ順調じゃ。何も起きなければ浮遊都市に着陸するまでは持ってくれるじゃろう。」

「ちょ、ちょっと待った。ってことは……何か起こったらヤバイとか?」

「うむ。問答無用で墜落じゃろうな。」

「命に直結するようなことをサラッと言わないでよ……」

博士の言葉を聞いたエステルは疲れた表情で溜息を吐いたその時、レーダーに反応があった。

 

「レーダーに反応あり……!ステルス化された艦影が8機、急速接近してきています。」

「来たか……」

「『グロリアス』に搭載された高速艇みたいですね……」

「ふむ、敵のステルスもはっきり見破れたようじゃの。」

部下の報告を聞いたユリアは気を引き締め、ヨシュアは真剣な表情で呟き、博士は頷いた。向かう場所を考えれば解りきっていた妨害ではあるが……ブリッジに緊張が走った。

 

「―――主砲・副砲展開用意!」

「イエス・マム!」

「………撃てっ!!」

ユリアの指示に部下達は頷いた。すると艦前方部のアルセイユの主砲が展開され、更に翼の部分から副砲が展開された。それと同時にアルセイユは加速して、アルセイユに気づき、攻撃して来た飛行艇達を主砲で撃破しつつ、突破した。更に、追いすがる飛行艇は副砲によって撃破された。

 

「全機撃破を確認。追跡する艦影は認められません。」

「やった!」

「ああ、見事だ。」

「いやはや……これが最先端の空中戦か。僕も以前帝国の飛行艇での戦闘は見たことがあるが……それの比じゃないね。最早圧倒的とでもいうべきかな。」

部下の報告を聞いたエステルは明るい表情をし、ジンとオリビエは感心していた。

 

「ふむ……この主砲は素晴らしいな。かなりの威力のはずだが、大した精度と反動の小ささだ。それに、高精度の迎撃能力を持っているとは御見逸れした。」

「わはは、当然じゃ。主砲は『フェンリル』のデータを基に小型化した物じゃし、副砲は『ラティエール』級の運用データを基に搭載された代物―――レーダーと連動した迎撃砲もついておるからの。」

ミュラーの感心した言葉に博士は笑いながら答えた。

 

「副砲……それって、翼に付けた装備のこと?」

「うむ。」

ティータの問いかけに博士は頷いた。

 

全ての『アルセイユ』は連動する―――レーダーの迎撃能力や精度は実戦で使っている『西風の旅団』や『翡翠の刃』……『デューレヴェント』『クラウディア』における運用データや『シャルトルイゼ』『サンテミリオン』の実験データからフィードバックされ、『アルセイユ』の大幅強化につながっている。更に、現在建造が進められている四番艦に関しても、次世代型“巡洋艦”『ファルブラント級』を見据えた要素をふんだんに取り入れているのだ。

 

また、『フェンリル』『ヴァルガード』の試験データから得られた武装も取り入れられており、その結果……船体の大きさは42アージュ→60アージュへと大型化し、最大船速は4300CE/hから4600CE/h(460km/h)へと上昇している。だが、この船速はあくまでも搭載されたオーバルエンジンの“半分”―――4基しか動かしていない状況でのものだ。

 

解りやすい比較対象で説明すると、“原作”におけるアルセイユ級Ⅱ番艦『カレイジャス』は全長85アージュ、最新鋭のZCF製オーバルエンジン20基を積み、最大船速3050CE/h(305km/h)……対して、この『アルセイユ』はそれの7割程度の大きさを有しつつ、4基のオーバルエンジンで事足りるどころかそれ以上の船速を叩きだしているのだ。

 

これはアルセイユの登場が本来よりも10年早かったことが起因する。皮肉なことではあるが、戦争というものは技術を洗練させる要因の一つだ。そして、隣国のエレボニアやカルバード……大国という脅威は技術力の向上に一役買ってしまった形となっている。その結果、リベールの航空技術は下手するとゼムリア大陸でも髄一の技術力を誇ることになる。

 

その時、またレーダーが反応した。

 

「レーダーに反応あり……!」

「熱源からかなり大型の艦影―――8時の方向から全長250アージュの超弩級艦が接近中……!」

レーダーの反応を見た部下達は緊張した口調で報告した。

 

「そ、それって……!」

「例の『方舟』ってヤツか……」

「……ヨシュア君。『グロリアス』の基本性能と武装は分かるか?」

報告を聞いたエステルとケビンは真剣な表情をし、ユリアはヨシュアに尋ねた。

 

「機動性、最大戦速共に『アルセイユ』には及びません。ですが、強力な主砲に加え、無数の自動砲台に守られています。攻撃・防御ともに完璧でしょう。」

「そうか……4時方向へ全速離脱!敵戦艦の追撃をかわしながら浮遊都市の上空を目指せ!」

「アイ・マム!」

ヨシュアの情報を聞いて頷いたユリアの指示に部下達は頷いた。そして雲の切れ間から『グロリアス』が現れ、『アルセイユ』に向かって大量の砲弾を撃ってきた。砲弾の中には追尾する弾―――ミサイルもあったが、『アルセイユ』は急旋回と副砲による迎撃、そして最大船速4600CE/h(460km/h)をフルに生かすことで全ての砲弾をかわし、最大戦速のまま『グロリアス』との距離を引き離した。

 

「砲弾、全弾回避成功……『グロリアス』の射程圏内から離脱しました。」

「ほっ……」

「よ、良かったです……」

「さすがに緊張したわね……」

「もうドキドキだわ。でも、これで敵の妨害は全部かわせたんじゃないかな。」

報告を聞いたクローゼとティータ、シェラザードは安堵の溜息を吐き、エステルは安心した様子で言った。

 

「いや……油断しない方がいい。」

「ああ、常識は通用しねぇ相手だ。最後の最後まで気を抜かねぇ方がいいだろ。」

「だな。」

安心は出来ないというヨシュアの忠告にアガットは真剣な表情で頷いた。相手は何せ『結社』の最高幹部に『執行者』。心配し過ぎても逆に足りないぐらいであろう。それは、元『結社』出身のスコールも頷いて答えた。

 

「にしても、『アルセイユ』は流石に速いな。」

「ああ……私ですら、この速度には驚かされたからな。」

「何せ、わしの最高傑作じゃからのう。無論、まだまだ速くなるよう頑張るつもりじゃ。」

シオンとユリアは感心するように言葉を呟き、博士は自慢げに言い放った。

 

「で、またマードックさんが胃痛を抱えると……薬でも、差し入れしとこっかな。」

「大変ですね、ティータさん。」

「あう……お恥ずかしながら。」

その光景を見たレイアはマードックの安否を気遣い、クローゼはティータの苦労を労い、ティータは苦笑を浮かべつつ答えた。

グロリアスの追撃をかわして数十秒後……アルセイユは浮遊都市上空に到達した。

 

「と、都市上空に到達しました……」

ユリアの部下は上空から見える浮遊都市の景色――さまざまな建物や緑豊かな庭園に目を奪われながら報告した。

 

「………すごい………………」

「これが……古代ゼムリア文明の精華ですか……」

「……想像以上の代物やな。」

浮遊都市の景色を見たエステルは口を大きくあけて呟き、クローゼとケビンは真剣な表情で呟いた。それはどう見てもエステルらの常識と完全にかけ離れた光景―――いわば喪われし科学技術の粋を集めた結晶そのものを見ているようなものなだけに、その感動もひとしおであろう。

 

「ふむ……向こうの方に巨大な柱のようなものが見えるな。おそらく、この都市にとって重要な施設の一つであるはずじゃ。着陸するならまずはあの近くがいいかもしれん。」

「了解しました。エコー、周囲の状況はどうだ?」

博士の推測を聞いて頷いたユリアは部下に尋ねた。

 

「……はい。50セルジュ以内に敵艦の反応はありません。『グロリアス』も完全に引き離せたと思われます。」

「よし……。ルクス、速度を落としながら前方の『柱』付近に着陸するぞ。」

「アイマム。」

「あれ~?」

その時、突然ドロシーがブリッジの窓の外に映る“違和感”に気づき、声を上げた。

 

「どうしたの、ドロシー?」

「なんだ?感光クオーツでも切れたかよ?」

突然声を上げたドロシーにエステルとナイアルは尋ねた。

 

「あ、ううん。それは大丈夫ですけど~。なんか、向こうの方から変なものが近づいて来るな~って。」

「なに!?」

「う、うそ!?」

ドロシーの言葉を聞いたエステル達は慌てて前を見た。

 

「―――な、なんだあれは!?」

ユリアは前方にいる黒い竜の形をした人形兵器を見て驚いた!

 

「―――さあ、見せてもらおうか。希望の翼が折られた時……お前たちに何が示せるのかを………なっ!?」

黒い竜の人形兵器―――ドラギオンを駆るレーヴェが高速で近づこうとした。その際、『アルセイユ』の甲板にいる人物―――アスベルの姿が目に入り、それに危険を察したレーヴェはすぐさま引き返そうとしたが、時既に遅し。

 

「悪いが……お前たちの『茶番』は終わりだ。ここから先は……力づくででも押し通させてもらう。『月牙天衝』!!!」

アスベルの太刀から放たれた『月牙天衝』の刃はドラギオンに無数の傷をつけ、本来のコースを大きく逸れる形でドラギオンは不時着していった。

 

「………」

「い、何時の間に……というか、あれに乗ってたのって……」

「レーヴェだね……ご愁傷様。」

「や、やけに冷静だな、ヨシュア。」

「僕はアスベルの本気を一度肌で味わったことがあるからね……レーヴェがせめて生きていてくれることを祈るよ。父さんに似て、結構悪運強いから。」

「ははは……(レーヴェ……相手が悪かったですね。)」

その光景に呆然とするユリア、現実味が感じられないとでも言いたげに呟くエステル、一度アスベルの本気を味わったことのあるヨシュアはレーヴェの生存を祈り、リィンはヨシュアの冷静さに引き攣った表情を浮かべ、コレットに至っては苦笑する他なかった。

 

「ユリアさん、ラッセル博士……このまま『柱』の近くに着陸すれば、また襲撃がないとも限りません。ここは一度、周縁部のあたりに降りるべきかと。」

「どうやら、その方が良さそうですね。先程のが直撃していたら、『アルセイユ』は間違いなく落とされていたことでしょうし……アスベル殿には感謝しなくてはいけないようです。」

「仕方あるまいが……状況からすれば、その方が良さそうじゃの。」

クローゼの言葉にユリアと博士は頷き、『アルセイユ』は周縁部の危険が少ない場所―――都市の西端部に降り立った。

 

(しっかし……アスベルも相当ストレス溜まってたんだな……)

(結果オーライだけれど……レーヴェが哀れに見えちゃうね。)

(そうだね。)

そして、先程のアスベルの行動に同じ“転生者”であるシオン、シルフィア、レイアは揃ってレーヴェへの同情を禁じ得なかったのは言うまでもない。

 

 




リベールの航空技術は(ゼムリア)世界一いいいいいいいいいっ!!……な回です。

あと、レーヴェ……大丈夫、刀背打ち(みねうち)ですから(何)

探索は程々書いて、一気に『執行者』戦まで持っていく予定です。
ただ、折角なので……ちょっと趣向を凝らす予定です。

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