~『アルセイユ』 会議室~
レーヴェの突発的な襲撃はアスベルによって防がれたが、今後の事も鑑みて『アルセイユ』は周縁部……都市の西端に着陸した。エステルらは会議室に集まり、今後の動きを話し合っていた。
「まず、我々がいる場所はこの都市の西端部……そして、斥候からの情報によると、東端部に『グロリアス』が停泊しているようだ。」
「となると、まずは当初の予定である『柱』を目指すってことかな。」
「そういうことになるな。」
ユリアの言葉にエステルは先程の着陸予定であった『柱』を目指すことを念頭に置く形で探索を行い、ジンもそれに頷いた。だが、純粋にこのエリアの探索だけでもかなりの労力であろう……そこで、シオンが一つ提案をした。
「とはいえ、ただ闇雲に進んでも埒が明かない……とりあえず、この都市における『鍵』を見つけるのが先決だな。」
「『鍵』?」
「これだけの都市だ……その技術からしても、俺らが全てを把握するのは難しい。だが、その機能をほぼ十全に使える『鍵』があれば、1200年前の代物でも使える可能性はある。」
これは、“転生者”でもあるシオンだからこそ言える台詞であった。ここから徒歩のみで『柱』を目指すのは無謀。かといって『アルセイユ』ではまた襲撃を受ける可能性がある。ならば、この都市の『証明書』なるものを手に入れれば、『柱』へのアクセスも容易にできるだろう。
「とはいえ、ここはある意味『結社』の本拠地……しっかり準備しねえとな。」
「そ、そうですね。」
「だな。」
「ええ……あら、アスベル……って、どうしたのよ?」
アガットの言葉にティータ、スコール、サラは頷いた。すると、そこに頭を抱えながら入ってきたアスベル。その姿を見たヨシュアはいつもは中々見せない彼の表情に首を傾げた。
「はぁ………」
「アスベル?何だか冴えない表情だけれど……」
「いや……はぁ。」
「アスベルにしては、何だか煮え切らない返事ね。何があったのよ?」
その様子を見たヨシュアとシェラザードはアスベルに問いかけた。
「ま、いっか……実は、先程後ろの格納庫から妙な気配を感じてな。確認しに行ったら、二人ほどいた。」
「まさか、侵入者!?」
「うーん……侵入者というか……オリビエ、ミュラーさん、リィン、シオンの知り合い。」
アスベルの言葉にユリアは言葉を荒げるが、アスベルから続けて放たれた言葉に名前を出された四人はその共通点に思い当たる節があり……
「帝国出身の僕やミュラー君にリィン君、それとシオン君…だが、同じ帝国出身のヨシュア君が知らない…ミュラー君、嫌な予感がするのだが。」
「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ。」
引き攣った表情のオリビエに、珍しくオリビエと意見があったミュラー、
「俺もです……」
「とりあえず、会いに行ってみるか……どこにいるんだ?」
「医務室にいてもらってる。ケビンなら問題ないだろうし。」
その人物の大方の予想がついてしまい、リィンとシオンは疲れた表情を浮かべつつ、その二人がいる医務室に向かった。流石に医務室は狭いので、エステル、ヨシュア、オリビエ、クローゼ、シオン、リィンの六人で向かうこととなった。
医務室に入ると、ある意味予想通りの二人とケビンがそこにいた。
~『アルセイユ』 医務室~
「お、エステルちゃんたちか。何や、怪我でもしたんか?」
「いや、そうじゃないけれど……って、アルフィンにエリゼ!?」
「あら、お久しぶりですわねエステルさん。それに、クローディア殿下に“シオンさん”もお久しぶりです。」
「えと、お久しぶりです。それと、そちらの方は初めてですね。」
ケビンの言葉を否定しつつ、エステルは二人の人物―――アルフィンとエリゼの姿に驚き、アルフィンとエリゼも言葉を交わした。
「そうですね……初めまして、ヨシュア・ブライトといいます。アルフィン皇女殿下、それとエリゼ・シュバルツァーさん。」
「これはご丁寧に……アルフィン・ライゼ・アルノールと申します。ですが、ここは公式の場ではありませんし、王国ですので……私のことは『アルフィン』で構いませんわ。それと、年相応の言葉遣いでお願いします。」
「姫様!……はぁ。エリゼ・シュバルツァーと申します。私の方も呼び捨てで構いません。」
「うん……宜しく、アルフィンにエリゼ。」
ヨシュア、アルフィン、エリゼ……ある意味『百日戦役』に深い関わりを持つもの同士……とはいえ、アルフィンやエリゼはその事実―――『ハーメルの悲劇』を知らないので無理もない話であるが。
「いやはや、あのお兄さんといい、皇族が愉快な方やと思わんかったわ。これなら、エレボニア帝国の未来は明るそうやな。」
「何と言うか、やっぱりオリビエの妹なのね……」
「……(正直、アイツが義理の兄になるのは認めたくねえがな)」
ケビンは笑って言葉を呟き、エステルは疲れた表情を浮かべ、シオンは将来の事を考えるとオリビエ(変態)が義理の兄になることに頭を抱えたくなった。アルフィンとオリビエは半分しか血が繋がっていないとはいえ異母兄妹の関係……その系譜に名を連ねるのはリベールの王家としてどうなのかという疑問を浮かべたのは言うまでもない。
「えと、エリゼ。事情を説明してくれないか?何で忍び込んだんだ?」
「はい……実は」
事の発端はオリビエ(オリヴァルト皇子)がカレル離宮に戻って来た際、それを偶然見たアルフィンは仲の良いセリカから話を聞き出し、エリゼを渋々納得させるとともに、プリシラに言伝をして陣の中に忍び込んだらしい。そして、荷物搬入のために着陸していた『アルセイユ』の裏口から潜入し、荷物の中に紛れ込んだとの事だ。その大胆さはともかくとして、やっていることは完全に“不法侵入”以外の何物でもないのだが。
「えっと……どうしますか、シオン?」
「俺に聞くな…俺だって訳が解らん…(アスベルが頭を抱えた理由がようやく解った。これは確かに厄介な問題だな。)」
オリビエもといオリヴァルト皇子に関しては、帝国政府の代表としてこの艦に同乗しているので問題は無い。だが、アルフィンに関しては完全に部外者……しかも、犯罪とも言える行動をした上での同乗……とはいえ、相手はれっきとした皇族なだけに、無下な扱いは出来ない。その御供であるエリゼも皇族に連なる者である以上、この問題はややこしいことこの上なかった。
「エステルたち、ここはひとまず任せていいか?対応を協議してくる。」
「あ、うん。解ったわ。」
「……その、元帝国出身者として、ゴメン。」
「あはは……」
エステルらにその場を任せてシオンは一度医務室を離れ、会議室に戻って……ユリア、オリビエ、ミュラー、アスベル、シルフィア、レイアらと話し合い、対応を協議した。その結果………
『アルフィン・ライゼ・アルノール、ならびにエリゼ・シュバルツァーの両名に関しては“エレボニア帝国の特務大使として浮遊都市の見届けを行う”扱いにする。ただし、行動する際はオリヴァルト皇子、ミュラー・ヴァンダール少佐、シオン・シュバルツ、リィン・シュバルツァーの同行を前提とする。』
肩書云々は建前であるが、その辺りはオリビエに上手く演出してもらう形とすることで折り合いをつけることとした。まぁ、<鉄血宰相>相手にするための一歩としては、中々憎い演出であろう。
「むぅ……致し方ありませんね。」
「何を言ってるのよ。犯罪を犯してこの程度で済んでいるのだからありがたく思いなさい。いっそのこと首根っこ掴んででも帰らせますからね。」
「うっ………」
残念そうな表情のアルフィンに、エリゼはジト目でアルフィンを睨み、それには流石のアルフィンもそれ以上言えずに黙る他なかった。その様子に流石のエステルも呆れる他なかった。
「やれやれ……とりあえず、探索を始める?」
「それなんだけれど……エステル、色々と装備を切らしていて補充しなくちゃいけないんだ。少し待っててくれるかな?30分ぐらいあれば済むから。」
「あ、うん。解ったわ。あたしもオーブメントのあたりとか、いろいろ確認しておきたかったし……それじゃ、先に行ってるわね。」
そう言ってエステルらは先に医務室を出て行った。そして、ヨシュアはケビンに向き直った。
「まったく……君もいいかげん罪作りやね。」
「……すみません。」
僕も向き合わなければならない……僕を縛り続けてきた『刻印』……いわば、教授の作り上げた『呪い』のようなもの。だが、これを克服しなければ、僕は本当の意味でエステルの傍にいることなどできない。それによってまた悩むことは増えるだろうけれど……やらないよりも、やって後悔したほうがマシなのだと。これはいわば『賭け』……その賭けに勝てるかどうかは、正直運次第ではある。
「謝るんなら、後でエステルちゃんに謝り。……ホンマにええんか?」
「もう、決めた事ですから。ケビン神父……どうかよろしくお願いします。」
「ったく、しゃあないな……。よし、時間もないことやしとっとと始めるか。」
ヨシュアの決意を聞いたケビン……それから20分後、一通りの処置が済み、ケビンは声をかけた。
「……よし。こんなもんやろな。」
「ありがとうございます。お手を煩わせてしまって……」
「気にせんでええ。オレに出来るのはこの程度やからな。」
申し訳なさそうにヨシュアが言い、その言葉に笑みを零しつつケビンは大したことなどしてないと返した。それを聞いたヨシュアは……ケビンに一つの質問をぶつけた。
「そうですか……あの、ケビンさん。コレットさんは、その……いつ星杯騎士になったか解りますか?」
「ん?ああ、あの人か。オレが星杯騎士になる前にはいとったし、確か、知り合いの話やと10年ぐらい前やな。なんや、エステルちゃんに惚れてるのに、早速浮気か?感心せえへんなぁ。」
「軽そうに見えるケビン神父と一緒にしないでください……その、知り合いによく似ていたもので。」
その質問にニヤけるケビンの姿にジト目で睨んだ。それにはケビンも図星を突かれたような表情をしつつ、言葉を返した。
「あいた、そういったところはエステルちゃんに似とるなぁ……ヨシュア君の出身、確か『ハーメル』やったか。」
「ええ……どこでそれを?」
「あの軍人さんに少しな。オレが全て知っとるわけやないけれど……あの事件、オレも気になってちょっと調べたことがあってな……聞くか?」
「お願いします。」
ケビンの口から出た言葉……ある意味村を飛び出すように出て行ったヨシュア。エステルと別れた後、一度あの場所を訪れたヨシュアであったが……ケビンの調べたことが気になり、真剣な表情を浮かべてその話を聞くことを了承した。
「実は、ここに来る前に村の跡地に寄ったんや。ま、自由気ままにブラリとしてただけなんやけれどな。流石に10年も経っとる以上、目ぼしいものはなかったんやけれど……一点だけ、妙な感じがしたんや。」
「妙な感じ、ですか?」
「何て言うかな……まるで、村全体に法術の類をかけたような感じが残ってたんや。ほんの僅かな残滓程度やけれど。」
ケビンが持つ力―――他の星杯騎士が持たない“力”のお蔭で、ケビンは辛うじて同類とも言えるその力を察することができた。しかも、隅々まで歩き回ったからこそ気付けたことではあったが。
「法術……ひょっとして、同じ星杯騎士が?」
「それは解らへんけどなぁ……せやけど、ひょっとしたら君と同じように『ハーメル』の生き残りがいるかもしれへん。もしかしたら、ヨシュア君の身近な人も生き残っている可能性が出てきたってことやな。エステルちゃんは君の事を諦めなかったように、諦めなければ何か掴めるかもしれない……頑張りや。」
「そうですか……ありがとうございます、ケビン神父」
その言葉に一縷の希望が見えたヨシュアは深々と頭を下げ、医務室を後にした。そして、一人残ったケビンは考え込んでいた。
(法術のあの波長からして……おそらく『第七位』やろうな。確か、噂では総長も『ハーメル』に行っていたとか……あの姉妹を敵に回すのはオレかてゴメンや。『ハーメル』のことは専門家に任せて、オレは任務に集中せんとな。)
凡その推測は出来ていたが、彼女を敵に回せば、ある意味守護騎士の半数を敵に回しかねないため……『ハーメル』のことはこれ以上関わらないことに決め、ケビンは自分の“仕事”のために着々と準備を進めていった。
一方、ヨシュアは休憩室に行ってみたが、エステル達の姿が見えなかったため、オーブメントや武器の部屋に足を運ぶこととした。
「あ、ヨシュア。思ったよりも早かったね。」
「うん。それで、こっちのほうは?」
「大方の準備はできました……ただ、姫様が自ら戦うと言い出して……」
ヨシュアの姿を見たエステルは声をかけ、ヨシュアも言葉を返すと、エリゼはため息が出そうな表情で事のあらましを簡単に説明した。
「お兄様やエリゼが戦っているんですもの……私も親衛隊相手に勝った経験がありますし、問題はありませんわ。」
「とは言われても………」
確かに、その光景はエステルやヨシュア、クローゼも見ているだけに実績としては十分なのだが……相手はそれ以上のレベルなだけに、その場所へ皇族を連れていくことには難色を示した。
「聞けばティータさんは私より一個年下でかなりの経験をしておりますし、皇族という意味ならば、王族であるクローディア王太女殿下や私のお兄様も前線で戦っております……それでも、駄目だというのですか?」
「………どうしよう、ヨシュア。」
「困ったね……」
確かにそれを言われたら言い返せない……それに割って入ったのは、一人の青年であった。
「そこまで言うのであれば、同行させようじゃないか。」
「オリビエ!?」
「アルフィンはこう見えて結構頑固でね……一度決めたら梃子でも動かないのさ。フォロー役として僕も同行しよう。」
「流石、お兄様。」
「はぁ……ま、しょうがないか。」
結果……
・エステル (エレボニア軍を破った英雄の娘)
・ヨシュア (元エレボニア帝国出身)
・クローゼ (エレボニア皇家と仲の良いリベール王家)
・シオン (エレボニア帝国に両親を奪われた王家の人間)
・リィン (<五大名門>シュバルツァー家の養子)
・アルフィン(エレボニア皇位継承権第二位)
・エリゼ (<五大名門>シュバルツァー家の長女)
・オリビエ (エレボニア皇家の庶子)
……何だかんだでエレボニアに関わりのあるメンバーでの探索となった。
というわけで……原作なら非戦闘員扱いのアルフィンがパーティーメンバー入りしましたw
身近に戦う人間(オリビエ)がいる以上、その辺りはそれとなく察していますし、シオンの存在がありますからね。武器は、一応考えてあります。単純に魔導杖持たせるというのもアレですしw
……閃のあのイベント、どうするかな。なんとかしますw
本編進まねえorz(自分のせい)