英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第131話 不釣り合い

 

~リベル=アーク 居住区画~

 

八人は居住区画の大きな建物―――市役所にて、データクリスタルの中に残っていた人物の名『セレスト・D・アウスレーゼ』を入力すると……オリジナルの……当時使われていた『ゴスペル』その物を“二つ”手に入れることができた。

 

「これが、オリジナルの『ゴスペル』……」

「にしても、クローゼとシオンに反応したということは、何か関わりがあるのかもしれないね。」

「偶然だとは思いますけれど……」

「いや、これを偶然で片づけられるのか?(にしても、二つってことは……何か仕掛けでもあるのか?)」

エステルとヨシュアの言葉にクローゼは苦笑を浮かべ、一方シオンは考え込んでいた。本来ならばここで手に入るはずの『ゴスペル』が二つというのは腑に落ちない。だが、ここで考えていても埒が明かないと判断し、先に進むこととした。

 

その後、各区画で手に入れた『ゴスペル』を用いて使える機能を増やしていくことに決め、エステル、ヨシュア、ジョゼット、クローゼの四人と、シオン、アルフィン、エリゼ、リィンの四人で別れて行動することとした。

 

 

~リベル=アーク 行政区画~

 

シオンら四人がたどり着いたのは、まるで現代におけるオフィス街のように立ち並ぶビル。その光景にシオンらは各々の感想を述べていた。

 

「これは……行政区画みたいだな。」

「まるで近未来的な光景ですわね。帝都でも建物は多くありますけれど、どちらかといえばルーレの方が近そうですわ。」

「確かにそうかもしれませんね。」

「だな。」

帝国でいえば、そのイメージに近いのはルーレ……もっと範囲を広げると、貿易都市クロスベルの光景が今目の前に映るものに一番近いであろう……だが、どうやらそういった気持ちに浸っている暇もなく、徘徊していた人形兵器が襲ってきた。

 

「リィン、エリゼ、前衛は任せる!俺がバックアップに回る!!」

「解った!」

「お願いします!」

「アルフィン、遠方から攻撃とアーツによる補助で二人をサポートしてくれ。」

「解かりましたわ!」

シオンは的確な指示を三人に出して陣形を整え、四人は武器を構えて駆けだした。

先程ジョゼットを助けた時とは異なり、人数が半分になっている分だけその分のフォローの負担がシオンに掛かる形となったが、何とか退けることができた。息を吐いて武器を納めるシオンは三人の方を見ると、見るからに疲労の色を隠せずにいた。とりあえず、シオンは無人となっているビルで休憩することを提案し、三人も頷いた。

 

「大丈夫か?」

「ああ………」

「ええ………」

「こ、これは……確かに疲れますわね……」

純粋に無理もないことだ。リィンはエステルらと行動は共にしてきた分はともかくとして、先程の“神気合一”による負担はまだ大きい。エリゼに関しては、元々カウンター主体の型を得意としており、自ら攻めるタイプではない。先日のユミル絡みもあくまで防衛戦であり、今回のようなことには慣れていない。そしてアルフィンだが……クローゼのように身近に剣術を教える人間がいないため、ということもあるが、皇族という立場上気軽に出歩けない部分がこういった形で表れた形になったのだろう。

 

一方のシオンは、王室親衛隊大隊長という立場、いついかなる時でも王家の人間を守るために素早く行動できることが求められている以上、その鍛錬には余念がない。自分の剣術の才能に関しては、まぁ、それなりにあると自負はしている。だが、これでもまだ道半ばでしかない。『執行者』相手には十全に戦えてもその上の領域にいる連中相手に自分の剣術がどこまで通用するのか……

そう考えていたシオンに、エリゼが問いかけた。

 

「シオンさん。」

「ん?何か聞きたいことでも?」

「その…なぜ、兄様のように…シオンさんもその力を持っているのですか?」

その質問……いや、疑問に思って当然なのだろう。

 

「あの時は俺も気に留めなかったが……なぜ?」

「何故でしょうね……シオンさんとリィンさんは繋がりがないわけですし……」

リィンとアルフィンから出た言葉……その問いかけにシオンが答える。

 

「何処まで言っていいものか解らないが……リィンは以前、レグナートに会ったらしいな。」

「ああ……そういえば、あの時『起動者(ライザー)』が『三人』いるって……もしかして、俺のこの力が?」

「断言はできないがな……そして、その仮説が正しければ、俺も『起動者』の一人ということになる。」

『騎神』の『起動者』……俺は既に『銀の騎神』としての『起動者』に選ばれている。ただ、気になったのは本来導くはずの『一族』が傍にいなかったことだが……いや、待てよ。もしかしたら、アスベル、シルフィア、レイアの三人の誰かが『一族』絡みだとすれば筋は通る。アイツらの中に居る該当者は、それを自覚していないということになるのか?……いろいろ考えることが増えているが、シオンは気を取り直してエリゼの問いに答えるように説明を続けた。

 

「俺の力が目覚めたのは12年前……物心つくぐらいだったかな。ある日、遊んでいたクローゼと俺……その時、地震が起きて、手すりの一部が崩れて落下してきた。元々その部分だけ劣化していたみたいでな……クローゼに身の危険が迫った時、俺の中に眠る“獣”の力が覚醒して、クローゼの頭上に迫った手すりの瓦礫から逃れるように、クローゼを抱えて回避していた。」

その時の事はよく覚えている。まるで自分の中のリミッターが外れるような感覚……まぁ、転生していたせいで精神年齢が高かった影響からその時の事をよく覚えているのだが。ちなみに、シオンは赤ん坊の時からその精神を持っている。

 

……補足ではあるが、転生者を軌跡シリーズの知識の多さで並べると、

アスベル(輝)≧ルドガー(悠一)≧マリク(智和)>(独自考察の壁)>セリカ(伊織)≧レイア(沙織)>シルフィア(詩穂)>シオン(拓弥)>(閃・零・碧の壁)>フーリエ(柚佳奈)>ルーシー(美佳)

……という順になる。

 

話を戻すが、シオンはその後……事情を聞いたカシウスが自ら稽古をつけることとなった。

 

『ほらほら、あと100回こなさないと昼飯抜きだぞ。』

『鬼か!むしろ悪魔か!くっそおおおおおおおお!!!』

……嫌なトラウマまで思い出してしまった。ともかく、今の強さがあるのはカシウスのおかげでもある。シオンはある意味カシウスのチートさを実感していたであろう。同じ転生者であり、カシウスに勝ったことのあるアスベルですら『二回目は確実に負ける公算が大きい』と言いのけてしまうほどであった。

 

「ま、その理由はよく解らないが……どちらにせよ、これも俺の一部ってわけだしな。それを否定したら自分自身を否定しちまうことになるのさ。リィンもユンさんから聞いてるんだろ?“天然自然”の理を。」

「ああ……強いな、シオンは。アスベルに叩きのめされてようやく理解できた俺とは全く違う。」

「いや、俺もアスベルに叩きのめされたからな……似た者同士って訳だ。(アイツ、転生前より磨きがかかってるんじゃねえのか?というか、アイツ一人だけでも『グロリアス』破壊できそうだが……いや、流れを知ってるから、敢えてそうしないのかもな。)」

互いの成長に関わっている人間―――アスベルの存在に、シオンとリィンは二人揃って苦笑を浮かべた。

 

「ふふ……ますます好きになりましたわ♪それでこそ私の将来の旦那様(フィアンセ)ですわ。」

「ア、アルフィン!?」

「……大変だな。」

「そっちもな。」

アルフィンのことは嫌いではないのだが……部類としては“好き”のカテゴリーに入るのであるが……ここまでどストレートに気持ちを表現してくるアルフィンにリィンは労いの言葉をシオンにかけ、シオンはリィンも“似た者”であると言いながら苦笑を浮かべた。すると、一羽の白隼―――ジークが窓の外にいるのを見て、シオンは席を立って外に出た。

 

「ピュイ!」

「クローゼからのメモか……えと、何々……は?」

シオンの右腕に乗っかったジークの足に括り付けられたメモを取り、シオンが目を通すと……その文面に唖然とした。すると、シオンの様子に気づいた三人もシオンとジークに近寄ってきた。

 

「どうかしましたか?」

「シオンさん?」

「向こうで何かあったのか?」

「………」

「「「えっ……!?」」」

その問いかけにシオンは無言でメモを見せ、其処に書かれた文面に三人も目を丸くした。その内容は、

 

 

『―――『グロリアス』発見。戻る途中、変態出る。今撤退中。』

 

 

『(変態って……一体何が?)』

その文面に首を傾げる四人(+一羽)……とりあえず、シオンはジークに聞いてみることにした。

 

「ジーク、この変態って何なんだ?」

「ピュ、ピュイピュイ……」

「………ジーク、こっちも急いで戻るとクローゼに伝えてくれ。」

「ピュイ!!」

ジークから伝えられた情報に頭を抱えたくなったが、ともかく襲撃されていると判断してシオンはジークに用件を伝えると、ジークは飛び立っていった。

 

「とりあえず、エステルらと合流する。三人とも、いけるか?」

「ああ。」

「ええ。」

「はい。」

シオンの言葉に三人は頷き、来た道を戻るようにしつつエステルらとの合流を目指した。

 

 

~工業区画<ファクトリア>~

 

それから少し前に遡る……エステルらは『グロリアス』を発見するも、その中に居る猟兵や兵器の事を考えると、もう少し手勢がいた方がいいというヨシュアの言葉に頷き、エステルらが西端部への道のりを急いでいた時、そこに響き渡る声。

 

「あらぁ~、見つけちゃったわよぉ、ヨ・シュ・ア・くぅ~ん!!」

その声と共に姿を見せたのは、一人の人物………腰位まである黒髪に青の瞳…その服装はかなり際どく……服装に目を瞑れば、見るからに端麗な容姿の女性が姿を見せた。

 

「なっ!?」

「あんた、もしかして『執行者』!?」

「…ヨシュアさん、あの人は…ヨシュアさん?」

「………」

驚きの声を上げるジョゼットとエステル、クローゼはヨシュアに問いかけようとするが、そのヨシュアの表情が青ざめていることにクローゼは首を傾げた。

 

「フフフ……『執行者』No.Ⅲ“表裏の鏡”イシス。そして、そこにいる“漆黒の牙”とはただならぬ関係よ♪」

「ええっ!?」

「そ、そうなのヨシュア!?」

「違うから……大体、」

女性―――イシスと名乗った人物の言葉にジョゼットは驚き、エステルは慌ててヨシュアに尋ねるも、ヨシュアは真剣な表情でイシスを睨んで……

 

―――貴方、男でしょう!!

 

「あ、あんですってー!?」

「え、う、嘘でしょ!?」

「み、見るからに女性にしか見えませんが……」

ヨシュアの言葉に女性陣―――エステル、ジョゼット、クローゼはイシスの姿からして男性とは思えなかった。だが、イシスはそれを聞いて恥ずかしそうな表情を浮かべる。

 

「いや~ん、乙女の秘密をばらすなんて、ヨシュア君のイケズぅ。でも、そういうストイックさも嫌いじゃないわぁ……」

「………逃げよう。三人とも。」

「えっ?」

「いいから!」

「ちょ、ちょっと!」

「………」

イシスはどうやらトリップ状態に入ってしまったようで……それを見たヨシュアは三人を無理矢理引き連れる形で逃げだした。

 

 

~西カルマーレ駅~

 

何とか無事に逃げ出せた四人……ヨシュアは安堵の溜息を吐いた。

 

「はぁ……まさか、六人目の『執行者』がここにいるだなんて……」

「ねえヨシュア、あのブルブランとは別の意味で変態なあの人は何者なの?」

「『執行者』No.Ⅲ“表裏の鏡”イシス……『執行者』の中でも一番の好色家だね。元は男性なんだけれど、外見は両方の特徴を持っているらしい……何でも、執行者の半分ぐらいは食われたらしい。僕やレンの場合はレーヴェやルドガーのお蔭で何とかその被害を逃れられたけれど。」

ヨシュアは彼に対して恐怖を抱いていた。自分も危うくその餌食になりかけたが、レーヴェとルドガーのお蔭でその被害を免れていた。イシスは手下である猟兵の殆どに手をだし、『執行者』だけでなく、『使徒』に対しても容赦なく襲うらしい……それだけ聞けば『変態』なのだが、腐っても『執行者』……その実力は一線級である。

 

「あはは………」

「でも、『執行者』ってことは、強いんでしょ?」

「そうだね……あの人が本気を出せば、“剣帝”や“調停”にも比類する強さだ。“仮面紳士”ブルブランの術すら効かないからね。(しかも、“死線”のワイヤーすら自力で引き千切ったからね……)」

「デ、デタラメじゃない!?」

「うん……僕もそう思ったさ。」

実力もなまじあるだけに、下手すれば“食われる”……それを直感したエステル達だった。とりあえず、ジークにシオン達への伝言を託し、一度『アルセイユ』に戻ることとなった。

 

 




敵側に一人追加しました。
あの性格はどうなのかと少し思いましたが……ある意味突き抜けている輩ばかりなので、問題ないかなと。

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