英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第132話 歪(ひず)み

 

~アルセイユ 会議室~

 

戻ってきたエステルらとシオン達のグループ。そこから得られた情報をもとに、メンバー編成を決めることとなった。とはいえ、道中で出会った『執行者』―――イシスがまた襲撃する可能性もあるため、そのための討伐メンバーを組むこととなった。

 

「“剣帝”や“調停”に匹敵する、か……となると、俺が行くしかないか。」

「俺も行こう……正直、嫌だけれど。」

そう言ったのは、シオンとスコール。話を聞くだけでも相手にしたくない輩であるが、この状況下では泣き言も言っていられない。そして、以下のように決まった。

 

まず、空賊救出組には主戦力と補助をこなせるエステル、アタッカーのヨシュア、攻守の要を担えるクローゼ、遠距離からのサポートができるジョゼットに加えてオリビエとミュラーがバックアップという形で入る。冷静に状況を把握して攻守ともに長けたオリビエと、もしもの時の一点突破の要や殿を任せられるミュラーならば問題は無いと判断した。次に、救出組への戦力集中を避けるための陽動組だが、これにはアスベル、フィー、ライナス……レヴァイス、レイア、ランディ……そして、シルフィアとコレットの三グループで各階層の制圧にあたる。

 

そして、『執行者』のイシスには、シオンやスコール、サラ、アガットの四人で当たることとした。ヨシュアの言葉を信用しないわけではないが、身内にすら本当の実力を隠している可能性を考えるとこれが妥当な布陣だろうと考える。

『アルセイユ』にはユリアは当然の事であるが、ジン、シェラザード、ティータ、リィン、エリゼ、アルフィンがもしもの時の防衛として残ることとなった。

 

段取りとしては、陽動組と対『執行者』組が先行し、一気に道を切り開く。それからタイミングを見計らって救出組が一気に突入する形だ。形としてはシンプルであるが、敢えて単純な方法で相手の虚を突く……戦術の一つであろう。言葉を変えれば力押しということは否定できないが……ともかく、時間も惜しいと判断し、移動を開始した。

 

 

~工場区画『ファクトリア』~

 

「あらまぁ、今度は“影の霹靂”が会いに来るだなんて……お姉さん、嬉しいわぁ。」

「………相変わらずだな、“表裏の鏡”の野郎。」

「ってことは、あれで男なの!?」

「にしちゃ、隙がねえ……あの野郎と同じってことか。」

「ああ………こりゃ変態だわ。」

早速対峙することとなったイシスとシオンら……彼の言動にげんなりするとことろではあるが、その佇まいから一切の隙を感じられない、とアガットは真剣な表情を浮かべた。

 

「変態だなんて……わたしにとっては褒め言葉よ。」

そう言ってイシスが両手に構えたのは双剣(ダブルセイバー)……扱いが難しいとされる武器を二つ構え、闘気を放ち始める。そして、転移してくる気配……姿を見せたのは二体の大型人形兵器。その姿に見覚えのあるサラはイシスを睨む。

 

「それは……『封印区画』の……!」

「ウフフ……これはそれを基にした『トロイメライ・アクセラ』。『結社』の最新型であり、攻撃力や防御力は元の二倍以上よ。」

「一筋縄じゃ行かねえということか……」

『封印区画』の守護者『トロイメライ』を上回るスペックであるとイシスは言い放った。それを見たシオンらも武器を構えた。

 

「『執行者』No.Ⅲ“表裏の鏡”イシス……これより、貴方方を喰らって差し上げるわ。」

「元『執行者』No.ⅩⅥ“影の霹靂”スコール・S・アルゼイド……目前に立ち塞がる障害を撃破する。」

「遊撃士協会所属、“紫電”サラ・バレスタイン……参る!」

「同じく、“紅蓮の剣”アガット・クロスナー……いくぜっ!」

「王室親衛隊大隊長、“紅氷の隼”シオン・シュバルツ……お前を打ち倒す!」

“調停”“剣帝”に連なる実力者と『封印区画』の守護者をも上回る人形兵器。それ相手に戦闘を開始した。

 

「それじゃあ、わたしの相手は貴方といきましょうか!」

「全く、その言葉遣いには反吐が出るな……いくぞっ!」

イシスはスコールを相手に選んだようで、スコールは悪態をつきつつも刃を交える。

そして、残りの三人で二体の『トロイメライ・アクセラ』を相手にすることとなった。

 

「!!」

『トロイメライ・アクセラ』は先手を取る形で三人にビームを浴びせていく。

 

「ちっ!」

「やるわねっ!!」

「くっ……『ALTSCIS(アルトサイス)』駆動!」

流石に全てを躱しきれず、三人はダメージを負う。すかさず、シオンは後方に下がり、オーブメントを駆動させる。この状況で三人とも前衛に回れば、『執行者』相手に戦っているスコールも無事では済まない。ここはサポート役に徹する形を取った。

 

「いくわよっ!!」

「そらっ……なっ!?」

サラは銃弾を放つ。流石の敵も全てを躱せずに被弾するが、その損害は全くと言っていいほど無傷であった。そこにアガットが剣を叩き付けるが、敵は腕の部分を分離して浮遊兵器となり、その斬撃を強引に逸らした。その結果、アガットの斬撃は通路を叩き付ける形となった。

 

「癒しの恵みを……ラ・ティアラ!」

「へへっ、すまねえな」

「ありがと、シオン。」

そこに駆動を終えたシオンが放ったアーツによって、二人の体力は回復した。すると、もう一方の『トロイメライ・アクセラ』も腕の部分を分離させ、三人を取り囲むように回転し始めた。そして、本体の方もエネルギーをチャージし……何と、そのエネルギーを浮遊兵器に向けて放ったのだ。

 

「(間に合うか……!?)」

それを見て察したシオンら……それが早いか遅いか……放たれたエネルギーを受けた浮遊兵器は三人に向けて高密度のエネルギーを放った。エネルギーを放ち終えた瞬間に巻き起こる爆発と振動……敵は浮遊していた兵器を腕に戻し、その煙がおさまるのを待った……その先に映った光景……そこには、“誰もいなかった”

 

「!?」

驚愕する敵は周囲を見回すが、映るのはイシスと刃を交えるスコールだけ……ならば、先程いた三人はどこにいるのか……その答えは簡単だった。敵が感知した熱源……その場所は

 

「そらっ!!」

「はあっ!!」

「せいっ!!」

彼等の腕部―――浮遊兵器の上だった。三人は刃を叩き付け、浮遊兵器にダメージを与えて、飛び退いた。それに驚きつつも、再び浮遊兵器を分離して、三人に先ほどの技を食らわせようとするが、それよりも早かったのはシオンの技であった。

 

「穿て、無限の剣製……サンクタス・ブレイドッ!!」

上空から降り注ぐシオンのSクラフト『サンクタス・ブレイド』を浮遊兵器に叩き付け、先程の攻撃によってダメージを受けた箇所から火花が上がり、爆発する。

 

なぜ、あの技を躱しきれたのか……それは、アガットの持つ武器の力に他ならなかった。アガットの持つ“聖天兵装”―――『ブレイドカノン』の力で炎の鏡を形成し、エネルギーを乱反射させて相殺爆発を誘導させた。その上で、爆発するエネルギーを上手く利用する形で飛び上がり、『ホロウスフィア』を各自でかけて浮遊兵器に紛れたのだ。本来の『ホロウスフィア』ならば動いた瞬間に切れてしまうのだが……戦術オーブメントの恩恵というべきか、多少の動きでも解除されなかったのが功を奏した形だ。

 

浮遊兵器を失った敵は守りを固めた。どうやら、カウンターを狙っての行動のようだ。それを見たシオンは二体の間に入る形で駆け出し、攻撃を加える。そして、飛び上がったシオンを見た二体の敵は、シオンに向かって肩部の装甲を展開し、シオンに攻撃を加えようとする。いや、それがシオンの狙いだった。彼に向かってそのエネルギーが放たれる瞬間、いつの間にか彼らの背後にいたアガットとサラが背中に強烈な一撃を浴びせる。

 

「そおらっ!!」

「せいっ!!」

その一撃でも大したダメージではないものの、体勢を崩させるには十分な一撃だった。互いに高エネルギーの砲撃を浴びせようとした二体の敵が背中に打撃を与えられる……つまりは、距離が縮まる……シオンは敵の装甲に足が付いた瞬間、すぐさま地面に向かって跳躍し、通路に着地すると、敵と距離を取った。そして、敵は衝突し、放たれるエネルギーの渦。その直後、爆発が起きる。

 

「くっ!!」

流石のシオンもその衝撃には目を瞑った。それはアガットやサラも同様で、何とか爆発の衝撃に堪えるのが精いっぱいであった。その衝撃波がおさまると……装甲がボロボロの状態となった敵と、衝撃波によってダメージを負った三人であった。だが、その状態となっても、敵はその刃を向けようとしてくる。そうなると、こちらも弱音は吐いていられない……シオンらも何とか立ち上がり、武器を構えた。

 

「二人とも、後は頼む……ラ・ティアラル!!」

シオンはあらかじめ駆動させていたオーブメントを発動し、アガットとサラの体力をほぼ全快の状態にまで戻す。それを受けてアガットとサラは武器を構え、同時に駆け出した。

 

「はああっ!!」

「せいやっ!!」

アガットの叩き付けられた刃、サラの放つ刃と銃撃の嵐……その攻撃は次第に通るようになり、敵のあちらこちらから火花が上がり始める。そして、アガットとサラは並び立ち、刃に闘気を収束させる。

 

「ライトニングッ!」

「ブレイクゥ!!」

同時に振りかぶった刃から放たれた奔流はまじりあい、大きな刃となって敵を飲み込む。アガットとサラのコンビクラフト『ライトニングブレイク』によって敵は完全に沈黙し、爆発を繰り返しながら崩れ落ちていった。それを横目で見ていたイシスは感心するようにスコールに話しかけた。

 

「あら……あっさり落としちゃうなんて、貴方達も凄いのねぇ。」

「そう言いつつ、一撃を入れさせてくれねえとはな……」

「そう言う貴方もじゃない………よっと。」

スコールの振りかぶる刃を苦も無くいなすと、イシスは武器をしまって距離を取り、転移陣を展開した。

 

「とはいえ、わたしの“役目”は果たしたから、これにて失礼するわね。もっと強くなっていることを祈るわよ。“影の霹靂”。」

そう言い残して、イシスは転移した。その言葉にスコールは少し考え込んだが、武器をしまってシオンらのもとに近寄っていった。

 

「大丈夫か?」

「何とかな……」

「上手くいったから良かったものの、下手したらお陀仏だったわよ。」

「同感だな……アイツは?」

「どっか行った……奴曰く、『役目』を果たしたとか言っていたが……よく解らん。」

大方の推測は出来るものの、確証に至るにはまだ判断材料が少ない……そう思いつつ、スコールはアーツで三人を回復した。

 

「とりあえず、どうする?」

「他の連中の加勢……といきたかったが、流石に疲れた。この後『柱』のこともあるし、俺らは一度退こう。」

「だな……」

「仕方ないけれど、それが無難ね。」

四人はその場を後にし、『アルセイユ』へと戻ることとした。

 

結果から述べると、『グロリアス』への救出作戦は成功した。陽動組が必要以上に大暴れしたのも要因だが……ともあれ、捕まっていたドルンやキールをはじめとした面々を救い出すことができた。その途中でギルバートの妨害も受ける形となったが、ギルバートを先に戦闘不能にできたことで彼の連れていた人形兵器に集中できたため、やや苦労しつつも退けたが、カンパネルラがギルバートを連れて転移したため、ギルバートの拘束は諦めた。

 

その後、ドルンらの提案によってジョゼットが連絡役として同行することとなった。そして、彼等からパスワードのことを聞き出し、ようやく『柱』―――浮遊都市の中枢塔『アクシスピラー』への道が開けた。

 

 




今回は短めです。

え~……グロリアスの部分は原作に沿う形でしたので、カットしました。


次はアクシスピラー編ですが……原作とまるっきし変わります。
所謂オリジナル展開です。

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