そして、9000字……私は悪くぬぇ!(ある意味開き直り)
~アクシスピラー 屋上~
決着がついた二人―――ヨシュアの言葉にレーヴェが笑みを浮かべつつ答えると、レーヴェの繰り出した兵器を退けたエステル達も二人のもとに近寄ってきた。エステルはヨシュアの行動を称賛した。
「凄い!凄いよヨシュア!あの“剣帝”に勝ったんだよ!しかも……剣だけを弾くなんて!」
「そうでもしない限り……万に一つの勝ち目もなかったからね。なるべく相手を傷付けずに無力化することを優先する……。父さんに教わった遊撃士の心得が役に立ったよ。」
はしゃいでいるエステルにヨシュアは立ち上がって苦笑しながら答えた。純粋な力押しで勝てないことはいかにスピードで勝っているヨシュアとて解りきったことであった。目にも止まらぬスピードを駆使して一点突破を狙う……万に一つの勝機を見出す突破口はこれしかなかった。尤も、純粋なスピードではなく言葉による揺さぶりもあったからこそ、彼の一瞬の隙を作り出すことができた。これは、今までの彼にはできなかったことであり、それを教えてくれたのは目の前にいる大切な人であり……彼女の両親もまた、彼のそういったところを育んできたのだ。
「そっか……」
「なるほど……“教授”に仕込まれた技術と“剣聖”から教わった心得……その2つを使いこなせば、俺が敗れるのも道理か……(『至る』だけでは勝てない……まさに、
かつて刃を交わした“絶槍”の言葉を思い返しつつ、レーヴェは苦笑を浮かべた。だが、それは自分の実力不足と言うことを指摘されたからではない。自分には、彼等のような“領域”に踏み込むことができる……なぜなら、“絶槍”は単純に悪口は言わない。可能性があるものに対しては、率直に意見することが多い。そのことを見抜けなかった自分に対して『情けない』と思うのは皮肉に感じられた。
「レーヴェ……」
「………俺は人という存在を試すために『身喰らう蛇』に協力していた。その答えの一つを出した以上、もはや協力する義理はなくなった。そろそろ……抜ける頃合いかもしれないな。」
「あ……!良かった……本当に良かった!……レーヴェが……レーヴェが戻って来てくれた!」
「お、おい……」
レーヴェの答えを聞いたヨシュアはいきなりレーヴェに抱きついた。自分に抱きついて嬉しそうに言うヨシュアにレーヴェは戸惑った。無理もないだろう……先程まで真剣に対峙し、凛とした表情の『弟』のイメージなど大気圏の彼方に吹っ飛ぶほどの変わりようというか、昔のヨシュアのような性格がここに来て出たことに困惑していた。
「父さんに引き取られてからもずっと気にかかっていたんだ……。……声や顔は思い出せるけど誰なのかぜんぜん思い出せなくて……。やっと思い出せたと思ったら……敵として立ち塞がっていて……。……ずっと……不安だったんだ……」
「そうか……」
「あ、あの~……」
ヨシュアとレーヴェの会話を聞いていたエステルは戸惑いながら声をかけようとした。
(やれやれ……。マセてても、まだまだ甘えたい盛りのガキってところか。)
(そ、そうなのかなぁ?)
アガットの小声の言葉にエステルは首を傾げ
(な、なんだか………凄く仲がいいんですね………うらやましい…………)
(ちょっと、クローゼ………そこで顔を赤らめないでよ………)
さらにクローゼの小声の言葉にはエステルは顔を赤らめ、
(あはは……)
(何と言うか……『身喰らう蛇』が可愛いものに見えてきたあたしは末期なのかしらね?)
(ゴメン、ノーコメントにしておきたいわ。)
「あ……ご、ごめんエステル……何だかはしゃいじゃって……。まだ何も解決してないのに……」
リィンとサラは揃って苦笑を浮かべ、それに対して『身内』のエステルはため息が出そうな表情で言葉を返した。すると、先程のエステルの声が聞こえたのか、ヨシュアは我に返ってエステルに弁明した。
「ヨシュア……。もう、そんなことでいちいち謝らなくていいわよ。久しぶりの仲直りなんでしょ?いっぱいお兄さんに甘えなくちゃ!」
「あ、甘えるって……」
その弁明にエステルは笑みを浮かべて遠慮することなどないと言い放ち、言われた側のヨシュアは苦笑を浮かべ、レーヴェも笑みを零した。
「フフ……。エステル・ブライト。……お前には感謝しなくてはな。ヨシュアの事……俺には出来なかったことを軽々とやってのけたのだから。そして、様々な者たちをも導いてここまで辿り着いた……。フフ……本当におかしな娘だ。」
「な、なんか全然、感謝されてる気がしないんですけど……」
レーヴェの言葉を聞いたエステルはジト目でレーヴェを睨んだ。
「アガット・クロスナー。傍から少し見せてもらったが……竜気をまといし必殺の重剣技、なかなかどうして大したものだ。」
「お、おう……。って、したり顔で解ったような口利いてんじゃねえっての!オッサンそっくりだぞ、あんた!」
そして次に声をかけられたアガットは戸惑いながら頷いた後、レーヴェを睨んで言った。さらにレーヴェはクローゼに視線を向けて言った。
「クローディア姫……いや、王太女殿下だったな。女王宮で俺が言った言葉、今でも覚えているかな?」
「『……国家というのは、巨大で複雑なオーブメントと同じだ。』あの時の貴方の言葉、今ではこの上なく真実に思えます。でも……そうした仕組みだけが人の世のあり方ではないと思うんです。人は、『運命』に縛られるのではなく、『運命』を作り出すもの……私は探してみたい……数多の巨大な歯車が稼働する中でも、人が人らしくいられる世のあり方を。この世界の不条理の一端を経験なさった貴方にしてみれば、“甘い”と仰られるかもしれませんが……」
「いや……未だ若きそなたがそこまで思い至ったのなら、最早俺ごときが口出すまでもない。その誇り高き決意に敬意を表させてもらおう。」
「……ありがとうございます。」
レーヴェの言葉を聞いたクローゼは微笑んで頷いた。そして最後にレーヴェはリィンとサラを見て言った。
「“剣仙”に剣を教わりし者、そして“影の霹靂”に見初められし者とは……つくづく、世の中の狭さを実感させられるな。」
「へ……師父を知っているのですか?」
「スコールのことも知っていて当然、か……」
「“剣仙”とは一度だけ手合わせしたことがあってな……上手く引き分けに持ち込まされた感じだな。“影の霹靂”にはよく稽古をつけていたことがあった。尤も、“光の剣匠”という存在がいれば、アイツの剣術は大成するだろう。傍目で見させてもらっていたが……特に、其処の少年は昔の俺よりも強い。(この感じ……もしや、“
リィンとサラの言葉に答えを返しつつ、リィンの中に眠る力の波長にレーヴェはかつて第二柱が言っていた言葉を思い返していた。
「そういえば……どうしてレーヴェはここにいたの?まさか、この魔法陣みたいなのが“輝く環”ってことはないわよね?」
「いや、これは単なる光学術式だ。『根源区画』より送られた力を“奇蹟”に変換するためのな……」
「!!!」
「『根源区画』……そこに“輝く環”があるんだね?」
レーヴェの言葉にエステルは驚き、ヨシュアは静かに尋ねた。
「ああ……。この『
これまでの『ゴスペル』による異変を考えれば、出来なくもない話である。端末同士で“輝く環”の能力を中継してしまえば、その効力は更に拡大することであろう。
「と、とんでもないわね……。それじゃあ、異変を止めるには『根源区画』にある“輝く環”をどうにかする必要があるのよね?」
「そういうことだ。だが、“環”はそう簡単にどうにかできる代物ではない。アーティファクトの一種らしいが、自律的に思考する機能を備え、異物や敵対者を容赦なく排除する。1200年前、“環”を異次元に封印したリベール王家の始祖もさぞかし苦労させられたそうだ。そしてお前たちは、その苦労に加えて“白面”も相手にしなくてはならない。」
エステルに尋ねられたレーヴェは静かな表情で警告した。
「!!」
「……当然、そうなるだろうね。でも、レーヴェが協力してくれたら教授にだって対抗できる気がする。」
「こいつめ……。俺が付いて来るのを当然のようにアテにしてるな?」
「へへ……」
苦笑したレーヴェに見つめられ、ヨシュアが口元に笑みを浮かべたその時…………
『フフ……仲直りしたようで結構だ。しかし少々、打ち解けすぎではないかな?』
「ガッ……」
聞こえてきた声……その声の主であるワイスマンが杖から電撃を放って、レーヴェに命中させた。レーヴェは吹っ飛ばされて地面に倒れた。
「あ……」
「レーヴェ……!」
それを見たエステルは呆け、ヨシュアはレーヴェに駆け寄った。
「フフ……ご機嫌よう。見事、試練を乗り越えてここまで辿り着いたようだが……。こういうルール違反は感心しないな。」
「な、なにがルール違反よ!あたしたちは正々堂々と執行者たちと戦ったわ!そしてヨシュアは……レーヴェとの勝負に勝った!変な言いがかりを付けてるんじゃないわよ!」
ワイスマンの言葉にエステルは怒りの表情で怒鳴った。だが、それを鼻にかけることもなく、ワイスマンは話を続けた。
「フフ、まだまだ今回の計画の主旨に気付いてないようだね。結社に属する者は皆、それぞれ何らかの形で『盟主』から力を授かっている。そのような存在が君たちに協力してしまったら、正確な“実験”は期待できないだろう?」
秘匿していたこととはいえ、“輝く環”の存在に目が行ってしまい、この計画の本質を知らないエステルらにしてみれば、突拍子もない言葉であるのには違いなかった。今回の計画はいわば“序章”。今までに築き上げてきた月日の努力……いや、この場合は努力と言うよりも、実験の“成果”の積み重ねを邪魔されるのはワイスマンとて不本意であった。なので、予定は少し狂ったが、こうしてエステルらのもとに出向いたということのようだ。
「じ、実験……?」
「……まさか……。僕たちがここに来たことすら計画の一部だったというのか!?」
ワイスマンの話を聞いたエステルは呆け、ヨシュアはワイスマンを睨んで言った。
「フフ……幾分、私の趣味は入っているがね。少なくとも計画の主旨の半分を占めているのは間違いない。」
「“福音計画”………“輝く環”を手に入れるだけの計画ではなかったんですか………」
その実験自体に、『執行者』は利用される側でしかない、とでも言いたげなワイスマンの言葉を聞いたクローゼは、真剣な表情でワイスマンを見て言った。
「クク……全ては『盟主』の意図によるもの。その意味では、ヨシュア。君も実験の精度を狂わす要素だ。非常に申し訳ないが……そろそろ“私の人形”に戻ってもらうよ。」
「!!!」
ワイスマンの言葉にヨシュアが驚いたその時、ワイスマンは指を鳴らした。するとヨシュアの肩に描かれてある『結社』の刺青が反応した。
「ぐっ……!」
「ヨシュア!?」
呻いているヨシュアを見たエステルが心配そうな表情で叫んだその時、
「………」
ヨシュアはその場から消え、エステル達と対峙するように双剣を構えた状態でワイスマンの傍にいた。
「!!!」
「そ、そんな………」
「野郎…………!」
「ヨシュア………!」
「成程、やってくれるじゃない……」
何の感情もないヨシュアの瞳を見たエステルとクローゼは表情を青褪めさせ、アガットとリィン、サラは怒りの表情でワイスマンを睨んだ。
「ヨシュア……嘘だよね……。ねえ……こっちに戻って来てよ……」
「………」
悲痛そうな表情で尋ねるエステルの言葉にヨシュアは何も返さず、感情のない目でエステルを睨んでいた。
「お願いだから……そんな目をしないでよおおっ!」
「フフ、無駄なことは止めたまえ。かつて私は、壊れたヨシュアの心を修復するために“絶対暗示”による術式を組み込んだ。その時に刻んだ『聖痕(スティグマ)』がいまだ彼の深層意識に眠っていてね。その影響力は大きく、働きかければたやすく身体制御を奪い取ってしまう。」
悲痛そうな表情で叫んだエステルを見たワイスマンは凶悪な笑みを浮かべて説明した。一から心を組み立てるために……それと同時に、自分を裏切らない保険のために……ワイスマンは『聖痕』をヨシュアに埋め込んだのだ。
「……そんな…………」
「ああ、ちなみにヨシュアの肩にある紋章は刺青ではなくてね。私が埋め込んだ『聖痕』に対するヨシュアのイメージが現出したものだ。フフ……記憶が戻ったのと同時に現れたから彼もさぞかし不安に思っただろうね。」
ワイスマンにしてみれば、ヨシュアをただで解放するなど勿体ないと言いたいのだろう……恐らくは、ヨシュアもそのイメージの現出による恐怖も、エステルのもとを去った一要因であると……エステルはその考えに行きつき、エステルは手に握る力を強めた。
「………嘘、だったんだ。ヨシュアを散々苦しめた挙句に自由にしてやるって言っておいて……。それすらも……嘘だったんだ……」
「別に嘘は言っていないさ。君と共にヨシュアがこんな所まで来さえしなければ私もここまでしなかっただろう。クク……全ては君たちが選んだ道というわけだ。……それに君達のお蔭で“方舟”が奪われた。彼ぐらいは返してもらわないとねえ?」
エステルが呟いた言葉を聞いたワイスマンは凶悪な笑みを浮かべてエステル達を見て言った。
(ヨシュアのことは解るが、あのデッカイ『舟』が奪われたって……どういうこった?)
(奪われた……?何か聞いてる?)
(いえ、俺は何も……そういえば、ここに来るとき、『方舟』がなくなっていたことには驚きましたが……)
(私も解りませんね。)
その言葉にエステルを除く面々はワイスマンの言葉に首を傾げていた。まぁ、知らなくて当然だろう……何せ、グロリアスの行方を知るのは『エステル達には知り得ない』ことなのだから。
「っ……ふざけんじゃないわよ!あんたなんかにあたしたちの歩いてきた道をとやかく言われたくなんかない!ヨシュアを操ったからって今更へこんだりするもんですか!あんたなんかぶっ飛ばして絶対にヨシュアを取り戻すんだから!」
「フフ……そう来なくては。だが、私もこれから外せない大切な用事があってね。『根源区画』で待っているから、是非とも訪ねてきてくれたまえ。」
エステルの怒鳴りの言葉を聞いたワイスマンは凶悪な笑みを浮かべて答えた後、ヨシュアと共にその場から消えた。
「ああっ……!」
「ヨシュアさん……!」
「……さすがにピンチですね。」
「……どうすれば、“根源区画”って所に行けるんだ?」
ワイスマンとヨシュアが消えるのを見たエステルとクローゼは悲痛そうな表情をし、リィンとアガットは真剣な表情で考え込んだその時
「……奥にある……大型エレベーターを使え……」
倒れているレーヴェが苦しそうに言った。
「レーヴェ……!よかった、無事だったんだ!奥にあるエレベーターって……」
「まさか……あの大きなプレート!?」
レーヴェの言葉に気がついたエステルは安堵の溜息を吐いた後、尋ねようとしたその時、何かに気付いたクローゼが声を上げた。
「“環”が眠る『根源区画』に…………降りることができるはずだ……。急げ……もう時間がない……」
「わ、分かった!」
レーヴェの言葉を聞いたエステル達はエレベーターに向かおうとしたが、数体の巨大な機械人形達と、同じく数体の巨大な翼を持った更に大型の人形兵器が現れて行く手を阻んだ。
「これは……レーヴェが乗っていた……!」
「それに巨大な人形兵器もいます……!」
新たな敵の存在にリィンは真剣な表情を浮かべ、クローゼは警戒した表情で言った。
「“トロイメライ=ドラギオン”……。ワイスマンめ……俺の機体以外にも用意していたのか……しかも俺も知らない巨大兵器も用意していたとは………」
それを見たレーヴェは悔しそうな表情で呟いた。そして敵達は攻撃の構えをした。
「チッ、さすがに簡単に通してくれなさそうね………」
「くっ………何とかして切り抜けないと………」
敵達の様子を見たサラは油断なく剣と銃を構えた状態で周りを見回して呟き、エステルが言ったその時、
「―――いや、ここは我々が引き受けよう。」
なんとユリア率いるアルセイユの仲間達、そしてカプア一家のジョゼット、キール、ドルン。さらに、
「かなりのデカブツだな、これ……」
「いや、もう少し焦ろうよ……」
「アスベルに、シルフィたちまで!」
アスベルやシルフィアらの“転生者”の面々もその場に姿を見せた。
「アルセイユのほうは無事が確認できてね……とりあえず、動ける面々で此方に来た。」
「わしはオマケじゃが……こりゃ、凄い所にきたのう!」
エステル達の疑問にユリアは答え、博士は周りの機械人形を見て、感心していた。
「フフン、言っとくけどボクたちも忘れないでよね!」
「ま、山猫号の修理もそろそろ終わる頃合いだからな。」
「お前さんたちの様子をちょいと見に来たってわけさ。」
そしてジョゼット、キール、ドルンも事情を説明した。
「あの馬鹿な弟に一発でも食らわせて、引き戻して来い。全員無事で、生きて帰ってこいよ。」
「アスベル……それに、みんな……ありがと!」
アスベルの激励の言葉にエステルは表情を明るくしてお礼を言った。
「行け……!エステル・ブライト……!……その輝きをもってヨシュアを取り戻すがいい……!」
「……うんっ!!」
そして、レーヴェの言葉にエステルは力強く頷いた。
仲間達が戦闘をしている隙にエステル、リィン、クローゼ、サラ……そして、アガットの代わりにスコールとレイア、ケビンの七人がエレベーターに乗って、下に向かった。下に向かっている最中、屋上でも現れた不明の大型機械人形が襲い掛かって来たが、
「はあっ!!」
「ふっ!!」
レイアがその人形を吹き飛ばし、スコールと共にエレベーターから飛んで、その人形兵器に追撃をかけた。
「レイア!?スコールまで!?」
「エステル……ヨシュアと対峙するかもしれないけれど、ヨシュアをぶっ飛ばしてでも正気に戻してあげて!」
「駄目なら、ワイスマンをフッ飛ばせばいい!!エステルなら……できるよな?」
「……うん、そうね。やってみる!」
『(出来ないって言えないあたりが……)』
二人の言葉にリィン、サラ、クローゼ、ケビンの四人は冷や汗を流した。何せ、見た状況が若干異なるとはいえ、『前例』を目の当たりにしているだけにヨシュアもそうだが、彼を操っているワイスマンは果たして無事にいられるであろうか……その懸念を口にしたのは、この場に……いや、リベル=アークにいない一人の人間だった。
~ハーケン門 屋上~
「恐らくですが……ワイスマンはうちの娘にボコボコにされるでしょう。」
「その根拠は?」
「一年前、俺が面倒をみていたアガットとうちの娘が手合わせをしていたのですが……バカにされた娘は、一方的な試合展開を……正直、レナが審判の補佐をしていなかったら、軽いけがやトラウマと言うレベルでは済まなかったでしょう。」
その根拠を述べたのは父親のカシウス・ブライト。問いかけられたモルガンの質問に、そう答えつつため息を吐いた。レナと話をした後、状況確認のためにハーケン門を訪れていたのだ。
「あの調子だと、例え神だろうと恐れずに立ち向かっていく気がします……」
「何を言うか。二十年前に竜に挑んだというお前さんが言えた台詞ではないのではないか?」
「………返す言葉もありません。」
親も親なら子も子……モルガンが突き付けた『血は争えない』という現実に、カシウスは頭を抱えたくなった。それはひとまず置いて、状況の確認をする。
「帝国軍にあれから動きは?」
「パルムからの報告からでは今のところ動いていない。国境付近からは、師団が集まりつつある情報を既に受け取っている……<鉄血宰相>の方は?」
「彼絡みか解りませんが、一つ報告が。将軍から受けた『帝国からの来訪者』ですが……どうやら、過去に王立学園に在籍していた人間。そして、宰相肝煎りの<情報局>絡みの人間である可能性が高いかと。」
時期的には帝国軍の第三機甲師団が国境を通過し、ハーケン門で対峙……そして、オリヴァルト皇子が『アルセイユ』でリベル=アークに向かった時期にこの門を通過した。
この時期の来訪者はいわば“不自然”そのものであり、自治州北の国境師団から連絡を貰ったモルガンはクロノに相談し……カシウスにその旨を報告した。それを聞いたカシウスは一つの可能性を示唆した。その可能性通り、彼の姿が写った写真を見たコリンズ学園長がその人物の名を語り、カシウスは遊撃士として関わった『あの事件』のことを思い出し、その際に知った一つの出来事から全てを見抜く形で結論付けた。
―――<鉄血宰相>ギリアス・オズボーン……彼の存在を。
「それは、お前が関わった『例の事件』絡みか?」
「恐らくは。“
レクター・アランドール……帝国政府第二書記官にして帝国軍情報局特務大尉。その詳しい経緯は同僚でもある彼等にも不明だが、彼は『
「<鉄血宰相>の……すると、彼がこの国を訪れる可能性は?」
それを聞いたモルガンは一つの可能性を連想し、カシウスに尋ねると……彼は真剣な表情を浮かべて答えた。
「大いにあるでしょう。こちらはいわば帝国から見れば『戦勝国』……悪く言えば『敵国』です。釘を刺すために自治州の市長や女王陛下を非公式で訪問する可能性は大いにあるかと……『黄金の軍馬』の大国は未だ健在という無言の圧力を以て。」
単純な人的資源の差から言えば、帝国軍は未だに健在。寧ろ、その勢力はさらに拡大している可能性すらある。リシャールからの情報では、軍事費を拡大して大量の戦車を準備しているとのこと……膨大な鉄鉱石の産出を誇るザクセン鉄鉱山と皇帝からの信頼が篤いオズボーン宰相だからこそできるやり方に、頭を悩ませる要因だということは当のカシウスも解っていた。
「ともかく、これ以上隙を見せなければ問題は無いでしょう。その辺りも、彼らに相談しておきますが。」
「フッ……立役者であり、命の恩人には頭が上がらんようだな。」
「……彼等にしてみれば、大したことなどしてないと片づけられそうですがね。」
そう言葉を交わしたカシウスとモルガンは、門の北側に広がる平原を見つめていた。
レイアとスコールですが……FF・テイルズ・無双シリーズといった『滝から落ちている間も戦い続ける』感じをイメージしてください。
そして次回ですが……原作とはまるっきり変わります。
だって、ねえ……(遠い目)