英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第138話 10年越しの邂逅

 

~アクシスピラー 屋上~

 

エステル達を先に行かせるために留まったメンバー。その中、対峙している敵の一体が突如光を放つ。

 

「なっ!?」

「全員、伏せろ!!」

それに驚く間もなく、其処にいた面々を飲み込み……塔の上に、四輪の塔の時のような結界で覆われるかの如く光で包まれ……その光が収まった時には、その場にいたはずの『全員』がいなくなっていた。

 

 

~???~

 

アスベルが目を開けると……目の前に映ったのは、闘技場(コロッセオ)……足に伝わる感覚からすると、どうやら異空間であることには違いなかった。

 

(“影の国(ファンタズマ)”から考えれば在り得なくもないが……“原作”に無かったことから考えると……俺の“至宝”に反応した可能性は……高いか。)

七の至宝(セプトテリオン)”同士の干渉の度合いはよく解らないし、そもそも知識に無い以上はどうしようもないが……外敵を排除しようとした過程で“至宝”の存在に“輝く環”が反応したとなれば、ある程度の辻褄は通る。そして、『サブシステム』からこの空間を生み出し、排除を試みているとみていいだろう。そう思いつつ辺りを見渡すと、近くには倒れているアッシュブロンドの髪を持つ青年と……そして、図らずも“変装”が解けた女性の存在だった。ともかく、レーヴェを回復させることにした。

 

「……ティアラル」

「う………アスベル・フォストレイト、か。お前に助けられるとは……俺も腕が落ちたものだ。」

「よく言うよ、パッと見で“修羅”に至ってる覇気を出してるのに……さて、そちらも目が覚めたようだな。」

意識を回復したレーヴェはアスベルの姿を見て事情を察し、苦笑を浮かべた。『執行者』が『星杯騎士』に助けられるというのは、少々苦いことだけに尚更であった。それには『そうだ』とでも言いたげに頷き、うつ伏せに倒れていた女性が起き上がった。その女性を見たレーヴェは驚きの表情を浮かべた。

 

「……なっ……馬鹿な……」

「う~ん……って、あれ!?私、変装が解けて……って、レーヴェ!?」

「カリン……本当に、カリンなのか?」

コレット……いや、カリンは自らの姿を見て変装の法術が解けていることに気づき、一方のレーヴェは恐る恐るながらも、カリンに問いかけた。その光景にアスベルは頭を抱えていることにも気づかずに。

 

「……ええ。私は正真正銘、カリン・アストレイよ。尤も、守られる存在ではなく……支える存在へと変わったの。」

「星杯騎士……アスベル・フォストレイト。お前は、何か知っているのか?」

「……ここから先は秘匿しておけよ。彼女は『守護騎士』第六位“山吹の神淵”の位階を持つ者。ハーメルでの事件をきっかけに、彼女に『聖痕』が刻まれた。」

そう言って、アスベルは説明した。ハーメルでの一件で、その場にいたシルフィアが助けたこと。ハーメルにいた人間は、レーヴェとヨシュアを除いて全員救出したこと。尤も、それから十年も経っているため、何人かは老衰で死んでいるが……そして、彼等はその身元を隠して生活を送っていることも。

 

「………」

「全てを助ければ、第2、第3のハーメルを生む可能性があった。そのために、お前やヨシュアには辛い思いをさせてしまった。」

「いや、それは俺にも解った……確かに、俺やヨシュアを助ければ、成功の確認もできない……俺はむしろ、この力を得たことに初めて喜びの感情を抱いた。そう考えると、『身喰らう蛇』に身を投じたことは……決して無駄とは言えないな。ヨシュアやカリンを守れるだけの力を得たのだから。」

「もう、レーヴェったら……」

アスベルの説明にレーヴェは頷き、カリンは苦笑を浮かべた。結果はどうあれ、レーヴェもカリンも……そして、ヨシュアも自らを守るだけの実力を身に付けることができた。教授に操られることとなったヨシュアの事は気になるものの、カリンはアスベルに気になることを尋ねた。

 

「そういえば、アスベル。ここは、どこなのでしょうか?」

「異空間……そう考えれば辻褄は合います。“輝く環(オーリオール)”が“空間”を司る空属性の至宝……空の女神(エイドス)が自ら与えた“奇蹟”とすれば、それぐらいは造作もないことかと。」

「ともすれば……どうやら、俺達を止める相手がお目見えのようだ。」

すると、近寄ってくる気配を感じ、アスベルは太刀を抜き、レーヴェも剣を構え、カリンも法剣を構えた。そこに姿を見せたのは、先程光を放った人形兵器であった。だが、その人形が放っている力の雰囲気に違和感を覚えた。

 

「(まさか……)カリンさん、先に仕掛けてみてください。レーヴェ、“剣帝”の実力見せてもらう。」

「先日まで敵対していた人間にそう言われるとは……“紫炎の剣聖”の実力、見せてもらおう。」

「やれやれ……解りました。援護をお願いします!」

その決意を読み取ったのか……敵は戦闘態勢に入った。

 

「七耀教会星杯騎士団所属、『守護騎士』第三位“京紫の瞬光”アスベル・フォストレイト……行くぞ!!」

「元『身喰らう蛇』が『執行者』……No.Ⅱ“剣帝”レオンハルト・メルティヴェルス……新たな決意と共に、参る!」

「『守護騎士』第六位“山吹の神淵”カリン・アストレイ……参ります!!」

『百日戦役』でかつて悲劇があった。ハーメル村と言う小さな村が……それを全て覆した人間と、故郷を追われた人間……その村に関わる人間が揃い、その先に見据える未来のために、ここに集いて敵を討つ。

 

「行きます……はあっ!!」

カリンが最初に仕掛け、人形兵器に攻撃を加えた。その攻撃でよろけて装甲に傷が入るも……その傷に光が集まり、瞬時に回復したかと思うと、敵はビームを放ってカリンに襲い掛かるが、

 

「カリンは殺させない……はああっ!!」

レーヴェが『鬼炎斬』で割り込みをかけ、剣撃の衝撃波とビームの嵐を何とか相殺する。レーヴェはすぐさま『分け身』を使い、四方向から剣撃の嵐を浴びせるが、それすらも超常的な回復力を以て回復し……レーヴェがいったん下がると、そこにいたのは『戦闘前』の状態の敵と何ら変わりなかったのだ。

 

「ならば、シルバーソーン!」

「アルテアカノン!」

「イグナプロジオン!!」

三人は一斉にアーツを放つが……煙が晴れた後の敵は完全に無傷であった。

 

「そんな……!」

「これは、まさか“輝く環”の力を受けているというのか……アスベル、先にカリンに仕掛けさせたのは……」

「可能性はありました。何せ、都市の中とはいえ“輝く環”が防衛機構を備えていないという保証などない。外の“導力停止”の防衛機構は十全でも、内の“防衛”自体に何も処置をしていないとは思えなかったんです。」

ただ、この事態は当のワイスマンですら予見していなかった可能性がある。何故ならば、その機能を備えていた機体を作れたのならば、全機に搭載してもおかしくなかった。だが、そうではないと考えると、この事態は“異常”。それも、あの“輝く環”は総長の懸念通りになりうる可能性が一気に高まってしまったのだ。

 

そして、至宝の力の供給を受けた人形兵器……その耐久力はほぼ無限。これには、カリンはおろかレーヴェも苦い表情を浮かべていた。となると、手段は少ない……アスベルは意を決して、二人の前に出る。

 

「……ラ・フォルテ」

彼は攻撃力を上げるアーツを全体に掛け、そして言葉を紡ぐ。

 

―――我が深淵にて煌く紫碧の刻印よ。我が魂の炎を顕現し、我が力となれ。

 

アスベルの背中に輝く紫碧の刻印。そして、彼の周りに深紅の炎が立ち上る。

 

「アスベル!?」

「その力は……(何だ、この力の波動は……)」

「二人とも、俺がアレから至宝の力を何とか切り離します。その後、一斉に仕掛けてください。」

それを見たカリンとレーヴェは驚きを隠せずにいた。だが、アスベルはそれを気にすることもなく、二人にそう言い放って、太刀を構えた。彼の決意に呼応するかのように炎は立ち上り、その炎は紫色の炎へと変わる。

 

「いきます……クレセントミラー!」

「解った……アースガード!!」

彼の言葉を信じ、二人もアーツをかけて準備を整え、剣を構えた。それを見た人形兵器は砲撃形態をとり、三人を照準に定め、その砲口から光の奔流が三人を襲う。だが、それを受け止めたのはアスベルの炎であった。それに対して辛そうな表情を浮かべつつ、アスベルは意を決して太刀を握るその手に力を込めた。

 

「女神の奇蹟の一端……その身に受けよ、聖なる焔……断ち斬れ、極光!」

その太刀で光の奔流を切り払い、アスベルは高く飛び上がる。そして、その炎は太刀に収束し、一筋の光となりて、敵に襲い掛かる。

 

「天覇、神雷断!!」

アスベルのSクラフト『天覇神雷断』により、人形兵器は大ダメージを受け、先程と同じように回復しようとするが、回復しきれずに各部から火花が上がる。それを見た二人も、追撃となる一撃を繰り出す。

 

「我が深淵にて煌く琥珀の刻印よ……大いなる刃となりて我が剣に集え!」

カリンの背中に顕現する琥珀色の<聖痕>。そして、溢れ出す力が上に掲げた法剣に集い、巨大な一振りの刃となる。そして、それを構え、振るう。

 

「斬り裂け……エンジェルハイロゥ!!」

そして、法剣の飛び交う刃はまるで天使の輪の如く敵を容赦なく襲い、切り刻む……カリンのSクラフト『エンジェルハイロゥ』による追撃を見たレーヴェも剣を構え、闘気を高める。

 

「フ………我が“剣帝”の一撃……その身に刻むがいい。」

闘気と共に、レーヴェの持つ『ケルンバイター』に銀色の炎が顕現する。それに対して色々思うところはあるが、レーヴェは真剣な表情をして敵に向かって行く。

 

「轟炎、冥皇斬!!」

そして振るわれた横薙ぎの刃―――レーヴェのSクラフト『轟炎冥皇斬』を編み出し、敵を飲み込み……大爆発を起こして消滅した。それを見たカリンとレーヴェはため息を吐いた。

 

「フッ……流石に買いかぶりとまではいかないが……大丈夫か?」

「ええ……って、アスベル!?」

「なっ……」

互いに無事を確認すると笑みを零した……だが、倒れているアスベルを見つけ、二人は駆け寄った。カリンが抱き起すと、それに気づいたのかアスベルの目が開かれる。

 

「……あ……はは、すみません。」

「もう……シルフィアさんが心配しますよ。」

それで大方の事情を察したアスベルは苦笑を浮かべ、カリンはため息が出そうな表情でアスベルを支え、回復魔法をかけていた。

 

「どうやら、先程の力はお前ですら躊躇う力のようだな。」

「……まあ、そういうことにしておいてください。」

俺の中に眠る『天壌の劫火(アラストール)』……いくら俺でも、その力を無制限に解放するのは厳しい。他の守護騎士にも言える言葉ではあるが、古代遺物や<聖痕>を無制限に解放するのは人の身である以上厳しいのだ。とりわけ俺やシルフィにはその力の反動が凄まじく、余程の事態でない限り、古代遺物の力を解放しないと決めている。実を言うと、俺とシルフィの<聖痕>の覚醒方法が他と異なるため、ケビンや軽い口調の“翠銀の孤狼”や“第九位”には無い能力を備えているのだが、その力は今後の切り札として伏せておくことにする。次第に落ち着いて来たのか……アスベルはゆっくりと立ち上がった。

すると、周囲の風景が変わり……一足先にアスベル、レーヴェ、カリンの三人は屋上に戻ったが、他の面々は姿が見えなかった。

 

「戻ってきたのはいいが……」

「どうしましょうか……」

「……俺らだけで、先行しよう。あの“教授”が何もしないとは思えないからな。」

「はぁ……解った。(流石にさっきの戦闘で全力は出せないが……)まあ、頑張るさ。」

「ですね……でも、エレベーターは下りたままなのですが……」

「そう思っていた……」

レーヴェはアルセイユを襲おうとした時に乗っていた『トロイメライ=ドラギオン』を呼び出し、レーヴェとカリン、アスベルはそれに乗った。

 

「というか、何か空気読まなくて済まない。」

「あの、言いたいことは解りますが、この場で謝られても困りますよ……」

「全くだ……ともかく、急ぐぞ。」

(ヨシュアとは違って鋭いな……となると、あの鈍感さは“教授”と“剣聖”のせいだな。)

カリンとレーヴェの答えにアスベルがそう思った頃、その二人がくしゃみをしたのは言うまでもない。そんなやりとりを交わした後、三人を乗せた『トロイメライ=ドラギオン』は『根源区画』へと急いだ。

 

その縦穴を進むと、あちらこちらに傷やら穴が開いており……それを不思議に思った三人であったが、その答えは更に下りたところで判明した。この一角にめり込んだ人形兵器らしき残骸。その被害状況と凹み具合を確認したアスベルはその張本人に心当たりがあり、その下を見やると……予想通りの人物が穴の窪みで休んでいた。

 

「あ、アスベル。って、レーヴェにアストレイ卿!?正体バラしちゃったんですか!?」

「ばれたというより、不可抗力的なものだけどね……でも、大丈夫よレイア。」

その一人である少女―――レイアの言葉にカリンは笑みを零しつつ言葉を返した。それを聞いて事情を察したスコールはため息を吐いた。

 

「その物言いと言うか……守護騎士と執行者がこうしてここにいること自体、『おかしい』だろうが……」

「それを言ったらキリがない……」

「だな……」

敵対している組織の人間同士がこうして談笑しているのはおかしいかもしれないが……純粋に『悪』とも言えない以上、こういう関係も一つの“絆”なのだろう。それはともかく、この縦穴の惨状を見てアスベルは、

 

「とりあえず、上司として一言。自重しろよ。」

「………はい、ご主人様。」

『ご主人様!?』

レイアの言葉にまた騒動が起きる羽目となり、アスベルはため息を吐きながらもレイアにデコピンをかまし、三人に対して事情の説明をするのに精神を使う羽目となったのであった。

 

「どういうことなんだ?」

「その原因というか……参号機、女性の騎士しかいないからね。」

「俺は男も入れてくれって頼んだし、スカウトしようともしたんだが……総長の奴、何を思ったのか女性しか送り込んでこないんだよ。」

アスベルが管轄する参号機の搭乗員は現在……正騎士はレイアを含めて二人、従騎士は五人……何故か全員女性。しかも、そのいずれもが美人、美少女+スタイルのいい人間ばかり送り込んでくるのだ。流石に手は出してない。そこまで飢えていないというのもあるのだが、それをしたら人として負けのような気がするため……であった。既にパートナーを三人抱えているアスベルが言えた台詞ではない……というのも解ってはいる。搭乗員が自分に対して尊敬と言うか絶対服従のような感情を向けていることも知っている……だが、

 

「総長の奴、『英雄色を好む、ということから……お前の艦に預けるのが適任だ』とか言われたが……本気でぶっ飛ばしたい……」

「………アスベルさん、頑張ってください。」

ハッキリ言う。そんなことして支障が出るのもゴメンだし、なにより修羅場はこちらから願い下げである。今度出会ったら、『ソロモンの悪魔大全集催眠学習の刑』に処してやると思いつつ、アスベルはこの事態を収拾し、先を急ぐことにした。

 

 




総文字数 1,000,000字……そんなになるのかー(棒)

ということで、アスベルに一定の制限がかかります。
解りやすく言えば、エステル達のLv+50程度にパワーダウンします。

碧Evoの特典画像を見ましたが……エリィとリーシャ関連は……うん(納得の表情)

あと、閃Ⅱの特典を見て………ま、いっかw(オイッ!!)
この作品ではジェスター猟兵団は完全に消滅しております。ご了承ください。

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