英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第15話 D∴G教団制圧作戦

~アルタイル市郊外~

 

カルバード共和国の西端にあるアルタイル市の郊外、そこに自然に形成された洞窟……その場所こそが、D∴G教団の拠点の一つであるアルタイル・ロッジがあり、見るからに不気味な意匠が入り口の上に彫られていた。

 

「なんつーか、センス悪いな。教団というのは……」

「ガイ、気持ちは分からなくもないが、今は作戦行動中だぞ。」

セルゲイの部下であるガイはロッジの意匠を理解できず、アリオスもそれに同調しつつ今は制圧作戦の最中であることを呟く。

 

「アルゼイド殿、どう見ます?」

「ここらの地形は把握した。少なくとも一本道のようだな。」

調査からして、裏口などの抜け道はない。そもそも、ロッジの立地している場所は自然に形成された場所を人工的に改装しているため、抜け道などは考慮されていないようだ。それは逆に子供を人質に取るのでは?というセルゲイの懸念を解消するかのようにヴィクターが話を続ける。

 

「人質の可能性はないだろう……以前、噂程度のものだったが『子どもを使い真実に至る』とかいう狂信者の事を聞いたことがある。彼らも同様のことをやっていない保障などない。人質を取るのなら、子どもが集まりやすい環境下を占領したほうがはるかに効率がいいだろうからな。」

ヴィクターの話した内容に表情が曇る。人質という大事な存在ならば、身分の高い人の子…それも、誰が見ても明らかな身分であればなおさらだ。それを実行しようとしたのかどうかは定かではないが…ただ、その分のリスクが付きまとうため、その方が正しいとは言えないのも事実ではある。

そもそも、人を攫うということが既に犯罪行為である。子どもを連れ去った目的ははっきりしていないものの、連れ去った子どもらに何らかのことをしていることぐらいは想像に難くない。

 

「セルゲイ殿、この班の指揮官は貴方にお任せする。私も突入班に加わるのでな。」

「解りました……相手は尋常ならざる輩だ。各々気を引き締めてかかるように!」

セルゲイの発破を込めた言葉に一同は頷き、臨戦態勢に入る。

 

「あれ?そういや、シオンとかいうガキは?」

「さあな。流石に怖くなって帰ったのではないか?」

(シオン殿……ユリア殿に怒られるというのに……)

ガイとアリオスの言葉にヴィクターは内心頭を抱えた。後で彼の義姉に弁明の言葉を考えることもしつつ、彼らはロッジに突入した。

 

 

―アルタイル・ロッジ内―

 

ロッジ内は薄暗く、自然そのものにはあまり手を入れていない。白衣を纏った研究者らしき人間が、同僚に声をかけた。

 

「どうだ、そっちの結果は?」

「No.213に関しては概ね良好……データも我々の望むものが手に入っている。」

「そうか。これでここにいる『生贄』も後二人か。」

「なぁに、所詮は『生贄』だ。あのガキ共も我々の目指す崇高な『極致』のための供物さ。足りなくなれば、増やせばいい。」

「そうだな。」

互いに笑いながら話を進めている。彼らにしてみれば、子どもの命などに価値はない。彼らが相手をしているのはただの『実験道具』に過ぎない。技術の発展には確かにあらゆる人の犠牲なしには語ることなどできないが、彼らの思考はそれをも超越している。子どもらは自分たちにとって『目的』を達成するためのもの、そこに命の価値を語ることなど不可能……それほどまでに彼らは狂っているのだ。

 

「我々としても、思う存分研究ができて、その材料は無償で提供してくれるのだ。この環境は素晴らしいものではないか。」

「確かにな。」

研究の為ならば人の命すら軽々しく捨てる……こういう人間が『外道』と言われるのだろう。

 

「だが、国の連中が動いているそうだ。」

「所詮烏合の衆だ。我々の『叡智』はいかなる万難をも跳ね除けることができる。それ以前に、我らを排すれば彼らこそが己の首を絞めることになる。」

研究者は笑みを浮かべて呟く。我々には絶対不可侵の『壁』がある。それがいかなる意味を持つのか……だが、彼らはその壁自体が全く意味のないものであるということをこの時はまだ知らなかった。

すると、入口の方が騒がしくなり、研究者が声を上げる。

 

「おい、どうした!?」

「襲撃者だ!クロスベル警察に“光の剣匠”だ!」

「何だと!?リベールとクロスベルが手を組んだというのか!?ちっ、お前はデータを……おい、何をしている!早くデータを……なっ!!」

焦りの表情を浮かべながら他の連中に声をかけるが、他の研究者は次々と崩れ落ちていく。そのどれもが急所を突かれたことによる即死だ。そして、崩れ落ちた彼らの中央にいたのは、栗色のメッシュがかった黒髪に涼しげな蒼の瞳を持つ一人の少年……親衛隊ユリア・シュバルツの義弟、弱冠11歳にして“紅隼”の異名を持つシオン・シュバルツだ。

 

彼は怒っていた。

 

「アンタらがもう少し真っ当なら、命乞い位は聞いてやろうとも思ったよ……」

このロッジで行われている“実験”の光景は彼を憤らせるのに十分すぎた。それは、もはや人の命の価値を無視した非道の行い。そのために、自分と歳の近い子どもが被害に遭った……その所業は、彼らの命で償ったとしても足りなさすぎる。

シオンはレイピアを構え、闘気を纏って叫ぶ。

 

「俺自身の正当化はしない。けれども、アンタらは俺が討つ!!」

「ま、待ってくれ!デ、データなら欲しいものはいくらでも渡す!!だから命だけは……!」

「そうやって子どもたちに命乞いされて、アンタらは何をした?自分たちの欲望の為なら、命なんて安いものだっていうのか、アンタは!?」

彼の命乞いは、人としてはある意味真っ当な反応だろう。

 

 

しかし、シオンに対して『火に油を注ぐ』以外の何物ではなかった。

 

 

「穿て、破邪の剣突!ミラージュ・ストライク!!!」

力強く踏み込み、新しく編み出したクラフトである『ミラージュ・ストライク』を研究者に向けて放つ。非戦闘員である研究者が抵抗できるはずもなく、左腕が消し飛んでいた。

 

「ぎゃああああああっ!?腕が、腕がああああっ!?」

研究者が自分の腕の消失と無くなった左腕の部分から噴き出す血にパニックを起こす。

 

「こ、こうなれば、貴様だけでも……!!」

研究者は半ば自棄にポケットから薬を取出し、噛み砕いて飲み込んだ。

 

「フフフ!これだ、これは凄い!!力が沸いてくる……!ガァ!?アアアァァァッ……!」

「何!?」

瞬時に再生した腕……だが、彼の姿は突如変化を遂げ、もはや『人間』ではなく『悪魔』そのものとなっていた。その姿にシオンはさらに怒気を露わにする。もはや『人』ではないものに慈悲をかけることなど不要……悪魔はシオンに襲い掛かるが、難なくかわす。

 

「……人じゃないのなら、もうアンタに加減する必要はない!」

シオンはさらに加速する。その姿は『叡智』を手にした悪魔にすら見えないほど……彼の無数の剣撃に悪魔は悲鳴を上げることしかできない。そして、悪魔が彼の姿に気づいたとき、その悪魔は既に己が死ぬ運命だということに気付いていなかった。

 

『穿て、無限の剣製!サンクタス・ブレイド!!』

天より放たれる数多の光の剣。シオンのSクラフト『サンクタス・ブレイド』によって、悪魔はなす術もなく崩れ落ちた。シオンはその悪魔が動かないことを確認すると、急いで奥に向かった。

 

 

(ふむ、私が手合わせした時よりも更に強くなっているようだな)

「「………」」

急いでシオンの後を追っていた三人……先程の戦いを見て参戦しようと思ったが、年齢とあまりにもかけ離れすぎている彼の実力にヴィクターは感慨の表情を浮かべ、ガイとアリオスはシオンと悪魔の戦いに呆然としていた。

 

「おい、あれで本当に11歳か?歳はうちの弟と変わらないぐらいだというのに……(ロイド、どうか無事でいてくれよ…)」

「ガイ、解っているとは思うが」

「解ってる!……解ってはいるさ。」

アリオスの問いかけにガイは焦りと教団への怒りを滲ませながら答えた。

 

「ふむ……ガイ・バニングスといったか。確か、貴殿の弟は…」

「ああ。ロイドも攫われたのさ。俺が丁度出張で離れていた時を狙いやがった……」

ガイ・バニングスの弟、ロイド・バニングスも教団に攫われた。本当ならば殴りこんででも助けに行きたかったが、上層部のもみ消しで歯がゆい状態が続いていた。だからこそ、今回の作戦に人一倍強い思いを持っているのは言うまでもない。

 

「左はシオンが行ってくれた。我々は右へ行こう。」

「正気ですか!?彼一人に任せるのは……」

「心配はいらない。彼とて伊達に“紅隼”を名乗っているわけではない。ともかく、先を急ごう。」

三人はシオンとは逆方向の道を進む。

 

 

三人が道の行き止まりに着くと、そこにあったのは巨大な実験施設。周りに人はおらず、機械も止まっている。

 

「!!」

「おい、ガイ!」

その機械に繋がれた人間の少女を見つけると、ガイは制止しようとしたアリオスの声すら聞くことなく、得物のトンファーを構えて一目散に走りだした。

 

「うおおおおっ!!ライトニング!チャージッ!!」

闘気を纏った彼の放った突撃技のクラフト『ライトニングチャージ』は機械を難なく破壊した。そして、少女を抱きかかえるとすぐさまその場を離れる。機械は沈黙し、やがて駆動音が止まる。

ガイはその少女に呼びかけるが反応はない。だが、辛うじて呼吸はしており、生きていることはすぐに理解できた。

 

「おい、しっかりしろ……くそっ、相当弱ってやがる……!」

「とにかく、ここを離れよう!」

「そうだな。後はシオンに任せて我々は一時撤退だ。」

ヴィクターの指示に頷き、ガイとアリオスはその少女を救うためにその場を離れた。

 

 

一方、一人で進んでいたシオンは表情を歪めた。彼の目前に映る山……それは、機械やごみの山ではなく、人の山だった。そこにいるすべてが幼い容貌の……おそらく誘拐した子どもだろう。その光景にシオンは怒っていた。

 

「何で、何でこんな平気なことができるんだよ………っ!?誰かの、声?」

使い終われば用済み……命を道具としてしか見ていない輩でしかこのような非道は出来ない。その時、シオンの耳に誰かの声が聞こえた。

弱弱しい声ではあるが、確かに聞こえたその声。その方向へ走っていくと、檻があった。その中に人がいる。それも、自分と同じぐらいの少年が。

 

「オーブメント駆動!撃ち抜け、ファイアボルト!!」

アーツで檻の鍵を破壊し、少年の元へ駆け寄る。かなり弱っているようだが、まだ息があった。

 

「き、きみ、は………」

「無理して喋るな。今は、助かることだけ考えていればいい…!!」

シオンが彼を抱え、急いでロッジを後にした。

 

 

アルタイル・ロッジの制圧作戦、結果として助かったのは二名。一人はレミフェリア公国出身のティオ・プラトー、そしてもう一人はクロスベル市出身でガイ・バニングスの弟であるロイド・バニングスであった。この二人は、後にクロスベル警察に設立される『ある部署』のメンバーとして活躍することになるのだが、それはまた別の物語である。

 

 

~D∴G教団拠点 ≪楽園≫~

 

「ぐああっ!!」

「い、命だけは、どうか」

「恨むのならば、己の行いを恨め。ぬんっ!!」

ヨシュアが目にも止まらぬスピードで客人や教団員を仕留め、命乞いをする連中にレーヴェは怒りの表情を見せ、一閃。

次々と不埒な輩はその刃の前に倒れていった。

 

「権力を持つ人間が何をしているのかと思えば……下衆だな。」

「そうだね……」

レーヴェとヨシュアが制圧…殲滅した後には、慰み者にされた少女の死体、彼らが滅した各国の要人と教団員、そして教団員が変貌した悪魔の残骸……そこで行われていたことが目に浮かび、レーヴェは表情を険しくした。

 

「だが、これで全員という訳ではあるまい。さて、次は……」

「レーヴェ?」

「いや、どうやら『彼ら』のほうが早かったようだ。」

レーヴェの言葉にヨシュアは首を傾げるが、その言葉の意味は奥から歩いてきた四人の姿……アスベル、シルフィア、レイア、レヴァイスの姿を見て納得した。そして、アスベルは何かを抱えていた。布でくるまれた一人の少女…菫色の髪をした少女だった。

 

「おや、早かったな。流石は『結社』の人間か。」

「フッ、褒め言葉として受け取っておこう。それで、その少女はどうするんだ?」

「ああ……お前たちにこの少女を任せる。」

「えっ…」

アスベルの提案にヨシュアは先程までの無表情から驚きの表情に変わり、レーヴェも驚きの表情を浮かべた。

 

「どういうことだ?そういった少女は『教会』の本分なのではないのか?」

「殲滅した連中の中に教会絡みがいた。彼女を保護して殺されたら本末転倒だからな。苦肉の策だ。」

口封じの可能性を考慮すれば、彼女が無事でいられる場所は……仕方のないことだが、一番実態が見えないからこそ逆に安心できる場所が『結社』しかなかったのだ。

 

「……後悔はするなよ?」

「そっちこそ、な」

「あ、あはは…」

「おお、怖い怖い」

「あわわわ!?」

互いに意味深の笑みを込めて呟くアスベルとレーヴェ。それを傍から見ていた四人は冷や汗をかいた。だが、そのあとの行動を見て更に驚くこととなる。

 

「ヨシュア、彼女を頼む。」

「レーヴェ?」

「シルフィ、レイア、レヴァイスは彼のフォローを」

「アスベル?」

二人を得物を構え、彼女を四人に託して奥へと向かった。

 

「クソ……!所詮は宗教組織か。団結力だけではないか!肝心な所では使えんな!とにかく我らは何事もなかったかのように。」

ある客人が悪態をついた後、その場にいる客人達に提案した。

 

「ええ、それがよろしいでしょうな。」

提案に頷いた客人達は一刻も早く自分の屋敷に戻ろうとしたが、その客人は凶刃に倒れた。

 

「ぐああああっ!?」

「な、何が……だ、誰だ!?貴様らは!?」

客人の問いかけに二人は笑みを浮かべて答える。

 

「そうだな……強いて言うなら」

「お前らの死刑執行人、というところだ!」

レーヴェとアスベルの目にも止まらぬ刃の前に次々と血の花が咲き乱れ、力尽きて倒れていく客人。

 

「き、貴様ら……私はエレボニアの気高き貴族だぞ……こんなことをして只で済むと……」

「だから、何だ?理不尽な理由で『侵略』した国の人間が誇り高い、ねぇ」

「驕りもここまで来ると呆れるな。貴様のそれは最早欺瞞だ。」

「な、なななっ………!?」

命乞いをしたその貴族は、次の言葉が告げられなくなった。アスベルとレーヴェの斬撃によって首・上半身・下半身に分割され、その場で絶命した。生きていた客人を全て滅すると、互いに血を払って剣を納めた。

 

「生存者は彼女のみ……か」

「………」

アスベルは重々しい言葉で呟き、レーヴェは目を伏せて考え込む。

 

 

「彼女の事は伏せておこう……せめて、次会った時は敵ではないことを祈るよ、『剣帝』」

「それはこちらもだ、『京紫の瞬光』」

 

 

D∴G教団事件……この制圧での生存者はわずか3名……公には2名だけという辛い結果に終わった。生存者は聖ウルスラ病院に収容され、七耀教会から派遣された正騎士の心のケアとカウンセリングによって、少しずつではあるが生気を取り戻していったのであった。

 

 




原作キャラが一人増えました。ここで出した理由は後々わかると思います。

外道キャラって動かしやすいけれど、理不尽さを表現するのが難しいです。

いざとなればブレイブルーの情報部大尉あたりを参考にしてみますw

早く原作シナリオ書きたいー!!(だいたい自分のせい)

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