英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第140話 太陽の刃

 

~根源区画~

 

互いに武器を構える二人……ワイスマンに操られたヨシュア。そして、それを取り戻すべく棒を構えるエステル。

 

「………」

「……いくわよ、ヨシュア!」

互いに踏み出し、駆け……ヨシュアの振るった刃をエステルは辛うじて受け流すと、踏み込んでヨシュアに振るう。その軌道を読んだのか、ヨシュアは紙一重で躱してエステルに刃を繰り出すが、エステルはそこから棒の軌道を変えて打ち上げるように振るい、ヨシュアは咄嗟に回避して距離を取る。それを見てエステルも棒を構えなおした。

 

「このっ!!はああっ!!」

「……!」

すぐさまエステルは『旋風輪』を放つが、これにはヨシュアも剣の刃で防御して凌ぎ、彼は『双連撃』を振るう。エステルもこれには少しダメージを負うが、すかさず『金剛撃』を放ってヨシュアを怯ませ、その間に駆動しておいたオーブメントでアーツを放ち、体力を回復させる。

 

「ほう……流石“剣聖”の娘。あの時、私の背後にいた“気配”をそれとなく察していたことといい、一筋縄ではいかないようだな。」

それを見てワイスマンは笑みを零す。スピードに特化したヨシュアならば彼女など無力化するのは一瞬と思っていたが、それに何とか対応しているエステルの様子には、意外にも感心したような表情を浮かべていた。だが、いつまで彼の攻撃に対抗できるか……それを考えた時の顛末が目に浮かび、ワイスマンは凶悪な笑みを浮かべた。

 

「………」

「!……はああっ!!」

ヨシュアの『漆黒の牙』にエステルは『絶招・桜花大極輪』で対抗し、ぶつかり合う刃……パワーの面で言えばエステルに、スピードの面で言えばヨシュアに分がある……男女の差という関係で言っても、二人の差は最早経験の差ぐらいしかない。だが、それを補って余りあるエステルの直感力がヨシュアと互角に戦えている要因となっていた。

 

片や“剣聖”の娘として生まれ、両親の愛情を受けて健やかに育ち、同い年の“師匠”にその術を学び、自らの意志で道を切り開いてきた少女。片や幼い頃に身内を亡くし、その心さえ砕け、偽りの心の楔によって暗殺者となった少年。“光”と“闇”……“太陽”と“月”……正反対の存在とも言える二人は、“剣聖”の存在によって引き合わされた。互いに寄り合う存在……互いに想う存在となるのに、そう時間はかからなかった。

 

エステルの振るう棒に吹き飛ばされつつも、『結社』の技術をフルに生かして襲撃するヨシュアにエステルも防戦を強いられている。だが、攻撃すると解っていれば、対処のしようは幾らでもある……剣の軌道を逸らすとそこから空いた空間に割り込んで振るい、ヨシュアにダメージを与えていく。

 

大切な人に対して刃を振るうのは……武器を振るうのは辛いことである。エステルもそうである。だが、相手は元『執行者』。しかも、ワイスマンの暗示によってその制限や加減は一切ない。中途半端に躊躇えば、それは自分の命が奪われる。だからこそ、エステルも全力を以てヨシュアを取り戻すべくその武器を振るう。

 

「エステル……」

「エステルさん……」

「これは驚きね。」

「(驚きやな…ヨシュア君のスピードについていけとるとは……)」

その様子を見ていたリィン、クローゼ、サラ、ケビンはエステルの奮闘ぶりに感心していた。だが、一方でワイスマンにしてみれば面白く展開であることに目を細めた。これ以上時間をかけるのは自分の心情にもよろしくないと判断したのか、ヨシュアにこう言い放った。

 

「………だが、私としてもこれ以上の邪魔はしてほしくない。なので、こうしよう。ヨシュア、『エステル・ブライトを殺したまえ』。」

「!!」

その言葉に、ヨシュアは距離を取り、一気に加速した。ヨシュアのトップスピード……それを捉えるのは容易ではない。恐らくは先程のエステルが放った技も、ヨシュアにしてみれば一度見ている技だ。それを使ったとしても凌げるとは限らない……焦りを感じたエステルだったが……その時、一つの技を思い出す。迫りくるヨシュアの刃……その刹那、エステルが振るった棒は、“床”を突いていた。

 

「!!」

その衝撃波にヨシュアの分身はすべて消滅した。だが、本体の刃は止まらない……彼女の首を捉えるかと思ったその刃であったが……その刃が首を刎ねることなどなかった。なぜならば、

 

「ふぅ……間に合ったわね。」

「……!!」

そう言ったエステルの足元には魔方陣らしきものが浮かび、そしてヨシュアの手足は鎖のようなもので完全にロックしていた。だが、それを確認する間もなく、エステルは棒に闘気を込めた。そして、形作られるは……巨大な刃。それを握ったエステルの表情は笑っていたが、口元が笑っていなかった。これには……

 

「「はは………」」

「はぁ………」

「エステルちゃん、ホンマ怖いで……」

リィンとクローゼは引き攣った笑みを浮かべ、サラはため息を吐き、ケビンに至ってはその怖さを味わうのは三度目であり、冷や汗が流れた。その様子を見たワイスマンですら、彼女のその行動に驚きを隠せなかった。

 

「どういうつもりだ、エステル・ブライト!彼を殺すつもりか!?そうなれば、君の大切な人を自ら殺めたことになるのだぞ!?」

「ううん……これは、ヨシュアを殺すための刃じゃない。それに、誰かを殺す刃でもない……これは、あたし自身の思いを込めた刃!」

その決意に呼応するかのように光の刃は収束し、膨大な神気を纏い始めた。そして、エステルが振るうのは大切な人を救うための“刃”。ヨシュアを縛り付けた“刻印”を破壊するための刃。その名は、

 

「絶技!天翔蒼破斬!!」

「!?」

「なっ………があああっ!?」

その光の奔流はヨシュアを巻き込んだ。更に、偶然にもその延長上にいたワイスマンすらも呑み込み、ヨシュアは階段下に、ワイスマンは壁に打ち付けられた。光の奔流が収まり、エステルはヨシュアのもとに駆け寄って状態を確認する。

 

「ヨシュア、大丈夫!?」

「ん………エステル……あれ、『聖痕』が……」

すると、先程まで肩にあった『聖痕』は消えており、ヨシュアは目を覚まして、エステルの方を見た。その目の輝きからしても、ヨシュアは本当の意味で解放されたようだ。これにはヨシュアも驚きを隠せなかった。

 

「あたしが消滅させたのよ。尤も、楔みたいなものが撃ち込まれていたみたいだから利用しちゃったけれど……ひょっとして、また父さんなの?」

「父さんもそうだけれど……ケビンさんのお蔭かな。」

「あ、そういえば……って、無事みたいね。」

一通り言葉を交わした時、魔眼に囚われていた四人の事を思い出して振り向くと、先程のワイスマンへの攻撃のお蔭か、効果が切れて動けるようになり、四人もエステル達のもとに近寄ってきた。ケビンは冷や汗を流しつつも、ヨシュアが本当の意味で解放されたことに笑みを浮かべた。

 

「全く、エステルちゃんも無茶するなぁ……せやけど、上手くいったみたいやね。」

「ええ……ありがとうございます、ケビンさん。」

それに対してヨシュアは礼を言った。正直賭けの要素が大きすぎたが、それに加えてエステルの『聖天兵装』が上手くいったようであり、エステルには大きな借りを作ったことに苦笑を浮かべた。

 

「エステルさん、ヨシュアさん、無事でしたか!?」

「うん、あたしもヨシュアも無事よ。」

「まったく、『執行者』相手に無茶するなんて……あたしも人の事は言えないけれど。」

「はは……でも、とりあえず目的は一つ達成できましたね。」

クローゼの問いかけにエステルは元気な口調で答え、自分と同じような無茶をしつつも目的を達成したことにサラは苦笑し、年が近いリィンもエステルのこの行動には驚きを隠せなかった。そして、リィンの言葉に気を取り直して、この空間にいるもう一人の人物―――ワイスマンの姿を探すと、よろけながら彼らのもとに近寄るワイスマンの姿があった。

 

「ワイスマン……これが、あたしが見せた可能性よ。」

「クッ、エステル・ブライト……そして、ケビン・グラハム……騎士団の新米と侮っていたが小癪な真似をしてくれる……」

一方、ワイスマンは悔しそうな表情で呟いた。『聖痕』を破壊するための仕込みが既に整えられていたことには、怒りの感情を向けていた。

 

「正直、彼には感謝してるよ。そして………この事を僕に気付かせてくれた人にもね。」

「な、なに………」

ヨシュアの言葉を聞いたワイスマンは狼狽えた後、考え込み、そしてある答えに至った。ヨシュアの身近にいて、ヨシュアの事情を察し、それに対する本質を見抜くことのできる人間。彼の父親であり、彼女―――エステルの父親である人物の存在。

 

「まさか………カシウス・ブライトの入れ知恵か!」

「あ………」

ワイスマンの言葉を聞いたエステルは、『アルセイユ』の出発前にカシウスがヨシュアに手渡した封筒を思い出した。あの時渡した封筒と、探索前のヨシュアの行動……それから大方の事情を察することができた。

 

「そっか……あの時の……」

「うん……手紙にはこうあったんだ。」

 

『お前の呪縛を解く鍵はケビン神父が持っているだろう。だが、その鍵をどうやって使いこなすかはお前自身の問題だ。ワイスマンとやらの行動を見抜いて自由を勝ち取ってみせろ』

 

「はは……流石と言うか、何と言うか。」

「まったくもう……ほんと父さんらしいわ」

「…………」

ヨシュアの説明を聞いてエステル達が明るい表情をしている一方、ワイスマンは歯を噛みしめた。

 

「正直……かなり悩んだよ。再び僕を操った貴方が一体、何をやらせるだろうと。そして僕は……その一点に全てを賭けてみた。貴方が、僕が最も恐れることを僕自身の手で行わせる可能性にね。そして貴方はその通りに命じ、結果的に『聖痕』は砕け散った。もう僕は……完全にあなたから自由だ。尤も、エステルの一押しがあったからこそ……というのもあるのだけれどね。」

ヨシュアは考えた。ワイスマンの性格的に一番ダメージを負わせる方法……ヨシュアの心を完全に破壊する方法。

 

それを考えた時に一番なのは、共に戦ってきた一番大切な存在を自らの手で殺すこと。その条件に見合うのはエステルただ一人。そこから、自分がエステルを殺そうとした時、一気に負荷がかかって砕けるように仕向けた。

 

そして、エステルの『聖天兵装』の力が『聖痕』ごと消滅させたのだ。一押しと言うよりはダメ押しに近いことではあるが、ヨシュアの呪縛は完全に解き放たれた。

 

「……愚かな……このまま私に従っていれば、遥かな高みに登れたものを……新たなる段階へと進化させてやったものを……」

「エステルと同じく……僕もそんなものに興味はない。それに道というのは……他人から与えられるものじゃない。暗闇の中を足掻きながら自分自身の手で見出していくものだ。」

ワイスマンの言葉をヨシュアはハッキリと否定した。そのような人種になった所で、理解してくれる人間などいるのかと……それに、運命は誰かに押し付けられるものではない。未来なんて解らなくて当たり前だ。だからこそ……今を精一杯生きるのだと。そのために、人は手を取り合い、協力して道を切り開くのだと。

 

「はは……それが出来れば世話はない!人の歴史は、闇の歴史!大いなる光で導いてやらねばいつまで経っても迷ったままだ!」

「違う―――!人は暗闇の中でもお互いが放つ光を頼りにして共に歩んでいくことができる!それが……今ここにいる僕たちの力だ!」

闇とか光とか……その価値観を決めるのは、歴史で勝ったものだけだ。歴史を学ぶがあまり、一側面しか見れなくなっているワイスマンにヨシュアは強い意志を持って叫んだ。

 

それに対して睨むワイスマンであったが……彼の丁度頭上にある“輝く環”は突如光を放ち始め、直下にいたワイスマンを飲み込み始めた。

 

「な、何っ!?まだ取り込んでもいないはず……ぐっ……おおおおおおっ……!」

その膨大な力にワイスマンは為す術もなく取り込まれ、光が収まると……巨大な生命体―――言うなれば『大天使』のような姿に変わっていた。

 

「て、天使………!?」

「くっ………何という霊圧だ………!」

「今までの敵とはけた違いの強さを持っているようね………!」

「そうみたいやな……!」

変わり果てたワイスマンの姿を見たクローゼは驚き、リィンとサラ、そしてケビンは警戒した表情になった。すると、彼等のもとに降り立ったドラギオンにエステルらは驚くが、それから飛び降りた面々……とりわけ、姿が変わったコレットらしき人物にヨシュアは驚きを隠せずにいた。

 

「エステル、ヨシュア!」

「アスベル!?それに……レーヴェ!?」

「エステル・ブライト、どうやらヨシュアを救えたようだな。」

先に降りてきたアスベルとレーヴェにエステルは驚きを隠せずにいた。一方……

 

「…ま…まさか……姉さん、なの?」

「ええ。今まで黙っていてごめんなさい。でも……再会の挨拶は後にした方がいいですね。」

呆ける様子のヨシュアにカリンは笑みを零しつつ、武器を取り出して構えた。

 

「ヨシュアさんのお姉さん……!?」

「レイアにスコールまで……」

「色々あるけれど、アレ何?」

「そうね……」

「“輝く環”を取り込んだワイスマンってとこやな。」

「説明感謝する。」

そして、レイアの質問に答えたケビンの言葉を聞きつつ、スコールは武器を構えた。そして、他の面々も武器を構える。最早人とは呼べないワイスマンから発せられる……迸る力。その力は尋常ならざるものだと肌で感じ取れるほどだ。だが、負けるわけにはいかない。全員、生きて帰るためにも……彼等を代表するかのように、エステルは叫んだ。

 

「全員、生きて帰るために………みんな、行くわよ!」

「おう!!」

 

“至宝”という大いなる存在……女神の奇蹟の力と、人の『絆』の力のぶつかり合い……未来を勝ち取れるか否か。クーデター事件……いや、遡れば『ハーメルの悲劇』から続くこの『福音計画』……それを打ち破るために、エステル達の決戦が幕を開ける!

 

 




と言うことで、取り押さえのシーンと第一段階カットです。ボスイメージ的にはワイスマン最終形態+天使の羽が12枚と言う感じです。

丸々バトルになるかは……テンション次第ですので、解りません。

なるべく頑張ります。

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