英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第141話 全てを以て

―――かつて、空の女神より齎された七つの至宝。

 

―――地・水・火・風・時・空・幻……七耀の“奇蹟”を齎す宝。

 

―――それに対して女神は眷属を遣わし、人々の答えを聞くために、見守り続けてきた。

 

―――1200年という長き沈黙を破り、至宝の一端はその姿を顕現させる。

 

―――目覚めに呼応するかのように蘇った『聖天兵装(セイクリッド・アームズ)

 

―――女神がつくりだした二つの“奇蹟”が今、“軌跡”となりて交わる。

 

 

~浮遊都市中枢塔(アクシスピラー) 根源区画~

 

「みんな、いくわよ!」

「おう!」

エステルの掛け声に他の面々―――ヨシュア、リィン、クローゼ、サラ、ケビン、アスベル、レーヴェ、カリン、レイア、スコールが声を揃え、闘志を高める。それをみた敵は空間を歪め……彼等を案内した場所は―――

 

「!?」

「そんな、ここは……!?」

「ハーメル村……だと……」

「ええっ!?どうして!?」

「……もしかしたら、ワイスマンの記憶から読み取ったのかもしれない。」

ヨシュア、カリン、レーヴェには見覚えのある光景……燃え上がっているハーメル村の姿であった。この短時間で敵が読み取ったとは考えにくいが……敵の本体であるワイスマンがハーメル村の事を知っている可能性が出てきたということになる。『福音計画』の発端とも言える『ハーメルの悲劇』。それを終わらせる場としては皮肉がききすぎているのも事実である。だが、今はそんなことを詮索している余裕などないということは、誰しもがわかりきっていた。

 

それを象徴するかのように、敵は二体に分身し、彼等にビームの雨を降らせる。それを察した面々は一斉に行動を開始し、散開した。一体はエステル、ヨシュア、リィン、クローゼ、サラ、ケビンが……もう一体はアスベル、レーヴェ、カリン、レイア、スコールが相手をすることになった。

 

「九の型『破天』―――『水神衝(すいじんしょう)』!」

今の自分の状態で躊躇えば負け……アスベルは、この世界に転生する際、神より齎された“外の理”の太刀―――『姫神「雪桜」』を抜き、今までに学んだ八葉の一端を集約した型―――『破天』の型の技を繰り出す。竜の如き“曲がる剣筋”は一体に大きなダメージを与えるが、至宝による強靭な回復力によってすぐさま無傷の状態に戻る。

敵もそれを喰らって利口ではない……至宝による恩恵をフルに生かし、空属性のアーツをほぼノータイムで繰り出す。これには流石のエステルらやアスベルらもダメージを負うが、

 

「みんな、気張りや!」

「祝福の祈りを、女神の癒しを貴方方に……!」

ケビンとカリンが『セイクリッドブレス』を放ち、すぐさま立て直す。それを受けてヨシュアが持ち味であるスピードを生かして突撃し、エステルもまた棒を振るい、敵を怯ませるも……敵の攻撃は一向に止む気配がない。今はいいが、この後を考えるとここで体力を使い切るのは拙い。だが、相手は“至宝”……その力は無尽蔵。だが、

 

「はああああっ!!」

「いくよっ!!」

止まるわけにはいかない。いや、ここで止めなくてはいけない。今はこの状態で収まっているが、『結社』が『ゴスペル』を量産して大陸中にばらまいたら……導力停止状態が大陸中に起きて、大混乱が起きる。その想像は難くない。それを阻止するためにも、今ここで彼(ワイスマン)を……“輝く環”を止めなければいけない。

 

互いに一進一退……次第に、エステルらもアスベルらもジリ貧の状態になっていると感じていた。

 

「(さて……どうしたものか……)」

手がないわけではない。だが、『この後』のことを考えると『時の至宝(切り札)』をここで切るのは拙い。『天壌の劫火』にしても、ここで『二度目』の解放をしたら間違いなく数日は意識がなくなるほどに体力が持っていかれる。そう考えていた時であった。ふと、ヨシュアの剣が光りを放ち始めた。

 

「え……」

それに気づいたヨシュアであったが……次の瞬間には、ヨシュアの周りはモノクロのように映っていた。突然の事に驚くヨシュアであったが、ヨシュアの目の前には……さらに奇怪な人物がいた。

 

「………あの、どちら様ですか?」

そう言葉を述べたヨシュアの視界に映るのは、見るからに奇特な衣装を身に纏う人間。印象的には東方系―――解りやすく言えば東方系のシスターのような清楚な服。『巫女服』を纏った少女であった。

 

『私は……刻時空剣『ブリューナク』。女神より与えられし命にして役割……『聖天兵装』に選ばれし『円卓の守護者』。』

「え、えっと……」

その少女の言葉にヨシュアの思考は混乱していた。一体何を言っているのか……ヨシュアのその思考を読んだかのように、少女は説明を続けた。

 

『貴方が持ってる武器……私は姿を変えて宿った。貴方にはその資格がある。そして、貴方の仲間にも……私と同じ存在を使役している人がいる。赤毛の人と活発な子。』

「まさか……エステルとアガットさんのことなのか?」

ヨシュアのその問いに少女は首を縦に振り、肯定する。どうやら、クラトス・アーヴィングから貰った武器にかなり高位の力を宿した存在がいたことにはヨシュアも驚きを隠せなかった。

 

『一つ聞かせてほしいの。貴方は、何を望むの?』

少女から言われた言葉。それを聞いてヨシュアは考え……そして、一つの答えに至る。

 

「僕はもう人形じゃなく一人の人間だ。でも、どう生きればいいのかなんて僕にはまだ解らない部分が多すぎる……そんな僕だけれど、この国(リベール)に来て、色んな人と関わってきて……その結果に、今の僕がある。守れなかったハーメルの二の舞にしたくない。第二の故郷であるリベールを……そして、僕が心想う大切な『パートナー』を支え、守りたい。これだけは、ハッキリ言える。」

今まで言いなりになって生きてきた……疑問を持つこともなかった……だが、カシウスと出会い、レナやエステルと出会い、他にも色んな人との出会いがあった。その結果として、“ヨシュア・アストレイ”ではなく“ヨシュア・ブライト”としての自分をこの国は育んでくれた。この感情に感謝こそすれど恨みはない。最早自分の故郷となった場所を守り抜く。それに嘘偽りはないと感じた少女は笑みを零し、光になってヨシュアを包み込む。

 

―――汝の赴くままに、私は貴方の剣に。貴方の思いを……剣に込めて届けましょう。

 

光が収まると、ヨシュアは剣を構え……決意を秘めた表情で一気に加速した。襲い来るアーツの雨のようなフィールド……だが、ヨシュアはそこからさらに『加速』した。最早人の領域では見るのも難しいヨシュアのトップスピードにアスベルは笑みを零し、太刀を構え……“神速”をも超えた“刹那”で接敵している一体に向けて加速する。

 

「いくぞ、ヨシュア!」

「わかったよ、アスベル!」

二人は一気に二体の懐に飛び込み、其処から放たれるは息をつかせぬような斬撃の嵐。互いに超高速戦闘を熟知しているからこそ……組織という柵によって対立していた二人が『遊撃士』という同じ道を歩み、その中で磨き上げてきた技能。下手をすれば相手を傷つける斬撃であるが、互いに放つ軌道が読めるからこその連携技。実の兄弟の様に育った二人が放つコンビクラフト。その名は、

 

『双撃・幻影烈破!!』

 

その技によって敵は体勢を崩して地面に倒れ込む。それによってアーツの雨が止み、クローゼが味方全体にアーツをかけて体力を回復させた。技を放った二人は互いの顔を見て笑みを零したが、すぐさま敵のほうを見ると……一体に戻ったが、その敵は見るからに何重もの障壁を展開したのだ。ここにいる面々だけで破壊しきれるか……そう思っていたエステルらであったが、そこに屋上で戦っていたメンバーらが駆け付けた。

 

「エステル!それに……」

「ヨシュアお兄ちゃん!」

「どうやら、皆無事のようだが……」

「え、どうやってここに!?」

無事を祝いたいところではあるが、それよりもエステルは根本的な質問を投げかけた。すると、皆を代表するかのようにシェラザードが答えた。

 

「屋上の兵器を何とか倒して、エレベーターで降りている途中、光に包まれたの。気が付けば、ここにいたのよ……で、あれは?」

「“輝く環”を取り込んだワイスマン。」

「解りやすい説明で感謝する。ともあれ、アレをぶっ飛ばせばいいんだな?」

「フフ、それでは輝かしい未来のために幕を下ろしてあげようじゃないか。」

「唐突に出てきて仕切るなー!!」

幸いにも人数は多い……各々の持てる力全てを注ぎ込む。その決意に皆が奮起した。その先手は、

 

「“猟兵王”らしく、一番乗りはいただこう……ふっ!」

「あ、私も。」

「オイオイ、一番乗りはずるいだろ、オッサン!それにフィー!!」

『西風の旅団』の団長“猟兵王”レヴァイス・クラウゼル、『西風の旅団』“西風の妖精(シルフィード)”フィー・クラウゼル、『赤い星座』“赤き死神”ランディ・オルランドが駆け出す。

 

「さぁ、荒れ狂う西風の刃、受け止めきれるか………ハリケーン・エアレイド!」

上空から降り注ぐ風の牢獄―――猟兵の長を務めるレヴァイスのSクラフト『ハリケーン・エアレイド』

 

「私も負けない………シルフィード・ミラージュ!」

シルフィードダンスをさらに改良した『幻想の妖精』、自身のスピードを更に磨き上げ……その機動はフィーが何人にも分身したかのような動き……フィーのSクラフト『シルフィード・ミラージュ』

 

「オッサンに負けてられるかよ………デススコルピオン!」

スタンハルバードを持って突撃するランディのSクラフト『デススコルピオン』の三つが合わさり、第一障壁を突破する。だが、まだ複数の障壁は健在。

 

「それなら、次は僕が名乗りを上げよう……かなっ!」

「俺も行かせてもらおう……はああっ!」

そこに追い打ちをかけるように飛び出したのは“翠銀の虎狼”ライナス・レイン・エルディール。そして、“不動”ジン・ヴァセック。互いの得物である“拳”を障壁に打ち込む。

 

「決めさせてもらおう………クライムハザード!!」

ライナスが放つは、外部破壊に特化させた拳に全体重と“氣”を乗せて放つ『クライムハザード』

 

「“泰斗”が奥義……泰河青龍功!!」

ジンが放つは『泰斗流』の奥義が一つ、Sクラフト『泰河青龍功』を繰りだし、第二障壁を突破。それを見て続いたのは……

 

「そんじゃまぁ、いきましょうか。」

「いくぜ。」

「了解よ。行きましょっか、スコール。」

「ああ。」

“陰陽の銀閃”シェラザード・ハーヴェイ、“紅蓮の剣”アガット・クロスナー、“紫電”サラ・バレスタイン、そして“黒雷の銃剣士”スコール・S・アルゼイドの四人であった。

 

「貴方の運命……カードの赴くままに……はあっ!!」

シェラザードはそう言って一枚のカードを放つ。カードに描かれたのは“魔術師”……その刹那、巨大な魔法陣が敵の足元に顕現し、その刹那、巨大な光の柱が立ち上り、敵にダメージを与えるシェラザードのSクラフト『カード・オブ・アルカナ』が炸裂する。

 

「いくぜ!ヴォルカニック、ダァァァァァイブ!!」

その直後、アガットは障壁目がけて自身のSクラフト『ヴォルカニックダイブ』を繰りだし、『ブレイドカノン』は煌いて炎を発現して敵を飲み込む。

 

そしてアガットが離れると、二体を包み込む光の刃によって特殊なフィールドが形成され、さながら“土星”をイメージするかのような状態であった。それを見つつ、スコールは大剣状態の『エグゼクスレイン』に闘気を込め、傍らにいるサラもブレードに雷の闘気を込める。そして、振るわれる刃。

 

「ダブル!」

「オメガ!」

『エクレール!!』

互いに似た戦闘スタイル……そして、互いに寄り添う存在だからこそ、合わせられる呼吸……スコールとサラのコンビクラフト『ダブルオメガエクレール』により、第三障壁も突破した。ここで、敵は小型の兵器を繰り出す。それを見たオリビエとアルフィンは互いに表情を見やり、頷く。

 

「やれやれ……折角の花道を邪魔する者には、厳しい罰を与えなければいけないね。」

「その通りですわね。」

アルフィンは銃弾を上空に放ち、その銃弾をオリビエが銃で撃ち、魔法陣を形成する。傍から見れば人間離れした芸当なのだが、今はそのことに驚いている余裕などない。アルフィンは銃杖を掲げると、その魔法陣は煌きはじめ、エネルギーを収束する。そこに、オリビエは収束したエネルギー弾を放つと、複数の魔法陣は巨大な魔法陣となって上空に顕現する。放たれるは、数多の光の柱。

 

「悪しき者に浄化の調べを」

「我らが奏でるは未来への凱歌。聞き届けたまえ、その賛美を!」

『イングリッドワルツ!!』

二人のコンビクラフト……エレボニア帝国の皇族であるオリビエとアルフィンの『イングリッドワルツ』により、その兵器らを一掃する。それでも小型の兵器は次々と出てくるが、

 

「万物の根源たる七耀を司るエイドスよ……その妙なる輝きを持って我らの脅威を退けたまえ。光よ!我に集いて魔を討つ陣となれ……サンクタスノヴァ!」

「我が主と義のために………チェストォッ!!」

「破邪顕正………ヴァンダールの剣の前に沈むがいい。」

リベール王国の次期女王であるクローディア・フォン・アウスレーゼ王太女の『サンクタスノヴァ』、王国軍王室親衛隊大尉ユリア・シュバルツの『ペンタウァクライス』、そしてエレボニア帝国軍第七機甲師団少佐ミュラー・ヴァンダールの『真・破邪顕正』、

 

「い、いきます!やああああああっ!!」

「罪深き所業に罰を……サンクタス・エクスキューション!!」

「絶技……グランドクロス!」

導力の父とも呼ばれるラッセル博士の孫にして導力に関しては人一倍の博識さを持つ少女ティータ・ラッセルの『カノンインパルス』、王室親衛隊大隊長“紅氷の隼”シオン・シュバルツの『サンクタス・エクスキューション』、元『赤い星座』にしてS級遊撃士“赤朱の槍聖”レイア・オルランドの『絶技グランドクロス』によって完全に掃討される。それを見たレーヴェとカリンは剣を構え、闘気を高める。

 

「行くぞ、カリン……遅れるなよ。」

「ええ、解っているわ……レーヴェ。」

カリンが振るった刃は敵の周囲を包み込むように展開し、一つの輪を形成する。そして、レーヴェの闘気の氷に反応して一本の巨大な氷柱を形成……敵を閉じ込める。互いに想う存在として幼き頃より育ち、10年前に起きた悲劇によって分かたれた二人が放つは、その決意の証。

 

「その戒めを解くことなどできない……」

「我らが放つは、未来への決意の証。お前(ワイスマン)如きに邪魔はさせん。」

『アブソリュート・ゼロ!!』

二人のコンビクラフトによって第四の障壁も突破した。残す障壁は一枚。

 

「ほんなら……女神の祝福を。あと一押しや!」

そう言ってケビンは残っている面々に闘志や能力を上げる『チェインスフィア』を放ち、後を任せる。そして、残っている面々は……この先の時代を担う六人の若者たち。その先陣を切ったのは、

 

「この場においてはもう何も言わない……いくぞ、エリゼ。」

「……はい、兄様。」

“浮浪児”と呼ばれつつも、家族の愛情を受けて育ってきたリィン・シュバルツァー。そして、その彼に命を救われ、兄としてではなく異性として彼を想うエリゼ・シュバルツァーの二人は太刀を構え……繰り出すは、自身の持てる最高の技。

 

「八葉が一端……一の型“烈火”極の太刀………火竜一閃!」

「三の型“流水”が極式………天水刃嵐!」

荒れ狂う焔の刃―――リィンのSクラフト『火竜一閃(ひりゅういっせん)』、斬ったことすら知覚させない水の刃―――エリゼのSクラフト『天水刃嵐(てんすいじんらん)』を敵に叩き付け、最後の障壁を叩き割った。砕けた障壁を見て、一気に飛びこむのは

 

「終の型“破天”が奥義、壱式―――鳳凰天翔駆!」

「私もいくよ……百花繚乱!!」

遊撃士・軍人・守護騎士……三つの肩書を持つ“転生者”アスベル・フォストレイトが放つ『鳳凰天翔駆』、そして同じような肩書を持ち、“紅耀石”を姉にもつ“転生者”シルフィア・セルナートの『百花繚乱』によって、敵は大ダメージを負う。あと一手……それを務めるのは、かつてこの国を救った英雄の子たち。

 

―――『転生者』らによってその才能を開花させた英雄の娘、エステル・ブライト。

 

―――元『執行者』にして、戒めから解き放たれた英雄の息子、ヨシュア・ブライト。

 

二人の全力を以て、敵にぶつける。

 

「僕は……もう、逃げない!」

「いくわよ……はあああっ!」

『<聖天光剣『レイジングアーク』/刻時空剣『ブリューナク』>、解放!!』

闘気を纏ったエステルが顕現させうるは黄金に光り輝く鳳凰。そして、ヨシュアが闘気を纏って駆け出し、数多の斬撃。互いに異なりながらも、ある意味互いに近い存在だからこそ……五年と言う長いようで短いような時間……その二人だからこそ繰り出せる合わせ技。『絶技・桜花大極輪』『聖天・鳳凰烈破』『漆黒の牙』『真・幻影奇襲』……その四つを組み合わせたコンビクラフト。その名は、

 

『聖天・大極烈破!!』

 

二人が技を放ち終えると、敵から光が漏れ出し……光の珠らしきものが飛んでいったかと思うと、その巨体は光になって次第に小さくなり……ワイスマンの姿に戻っていた。そして、エステルらが元々いた根源区画に戻ってきていた。

 

 




イメージ的にはな○はA'sのラスボスフルボッコシーンですね。

話を聞きましたが、エリゼ参戦とは……私ですら予想外でした。
しかも、レイピア。学生……レイピア……クローゼとは仲良くなれそうな気がしますねw

次回についてですが……お察しください。

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