英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

174 / 200
第143話 栄華の終焉

~リベルアーク地下道~

 

急いでいたアスベル、シルフィア、ライナス、レーヴェ、カリン、ケビンの六人……突如、アスベルが崩れ落ちた。それに気づいたシルフィアが慌てて駆け寄った。

 

「アスベル、大丈夫!?」

「く……(くそ、こんな時に反動が出るとは……)な、何とか……」

原因は解っていた。恐らくは『天壌の劫火』の使用反動と<聖痕(スティグマ)>の解放による反動が同時に出てきたようだ。これには流石のアスベルも思わず立ち眩むほどであった。その様子に他の四人も気付いて駆け寄ろうとした瞬間、足元から聞こえる亀裂が走る音にレーヴェとライナスが気付いた。

 

「カリン!」

「ケビン、下がれっ!!」

「「っ!?」」

四人が飛び下がると、アスベルらがいる場所とケビンらがいる場所を繋いでいた部分の通路が崩落したのだ。こうなると、ここで手を拱(こまね)くよりも別のルートを探した方が無難であると考え、ケビンはレーヴェに尋ねた。

 

「マズいで……“剣帝”、ここ以外に通路はあるんか?」

「俺もすべてを把握したわけではないが……恐らくは、非常用の通路があるはずだ。そこからお前たちの飛行艦に辿り着けるだろう。」

「それしかないか……アスベル、シルフィア。二人とも後で必ず合流しよう。」

「気を付けてくださいね!」

「ああ!」

「ええ!」

四人は先に向かい、アスベルも立ち上がってシルフィアに言葉をかけた。

 

「すまない……とりあえず、急ごう。」

「ううん……行こう、アスベル。」

二人は別の非常用通路を通り、工業区の別の非常口を目指していたのだが……そこで立ち塞がったのは、双剣の二刀流を構えた女性らしき人間であった。二人の見覚えのない人物……首を傾げる二人に、その女性らしき人間は残念そうな表情を浮かべた。

 

「あら~?てっきりヨシュア君あたりでも来ると思ったのだけれど~……お姉さん、残念ねぇ……」

「ヨシュアの知り合いとなると……『執行者』ってことか。」

「ご明察♪No.Ⅲ“表裏の鏡”イシスよぉん。よろしく頼むわね、“守護騎士”のお二人さん。」

女性?―――イシスの言葉にアスベルとシルフィアも武器を抜いて構えた。

 

「!?この人、私達の事も……武器を持っているということは、戦うつもりですか。」

「勿論よ。三人の執行者を奪われたもの……せめて、貴方達だけでもここで滅ぼさせてもらうわ!」

「来るぞっ!!」

崩れゆく都市の中、戦う三人。だが、相手は十全の状態。対してこちらは満身創痍に近い……だが、生き残るためにはやるしかない……不利の状況を覆すために、決意を固め、二人は駆け出す。

 

「はあっ!!」

「やるじゃない……でも、甘いわねっ!」

「きゃあっ!?」

シルフィアの振るう法剣の刃を全て弾き飛ばすと、イシスはクラフト『サイクロンシザーズ』を放つ。風の刃による衝撃を受けてシルフィアが飛ばされる。それを見たアスベルが“疾風”で一気に接近して斬撃を振るうが、それすらもあっさり防ぐと、アスベルを弾き飛ばした。

 

「アスベル!……ダークマター!!」

「やるじゃないの………せいやっ!!」

「なっ!?」

シルフィアは立ち上がってアーツを放つが、イシスは何とそのアーツを叩き斬るという離れ業を披露したのだ。これにはアスベルやシルフィアも驚きを隠せなかった。だが、その当の本人は不満げな顔で二人を見ると、闘気を高めた。そして、彼女が放つは、双剣による“飛ぶ斬撃”。

 

「面白くないわねぇ………終わりにしましょう。デッドリー………クロスエンドッ!!」

「ぐうっ!?」

「きゃっ!?」

イシスのSクラフト―――『デッドリークロスエンド』により、二人は大ダメージを負い、別の場所に叩き付けられた。それを見たイシスはシルフィアの方に近寄り、気を失っているシルフィアに刃を向けつつ、アスベルの方を見やる。

 

「さて、貴方はそこで見ているといいわ。この子を死なせたら、貴方はどんな悲鳴を上げるのかしらねぇ?それを考えただけでもゾクゾクするわぁ……」

「!?シルフィ、起きろ!逃げるんだ!!」

その表情は、まるでワイスマンのような笑み……人の苦しむ姿に恍惚を浮かべる姿……アスベルにはそう直感し、シルフィアに向かって叫ぶが、彼女は完全に反応しない。その光景にイシスの笑みは凶悪さを増していった。

 

「ウフフフ………さて、いただきましょうか。その命の輝きをね。」

振り上げられる彼女の刃。それがまるでスローモーションのように見えた。

 

 

―――失う?

 

 

―――………認められない。認めたくない。

 

 

アスベルはその瞬間にあらゆる可能性を全て弾き出し……そして、出した結論は………

 

 

―――この場で燃え尽きたとしても、彼女を救う。“アスベル・フォストレイト”だけでなく、“四条輝”としての存在も全て賭けて……アイツを……

 

 

『殺す』

 

 

そう思った直後、アスベルの視界は全てモノクロに映り、小太刀を抜き……放つは今持てる全力の……“御神流”の奥義が一つにして、最大最長の射程を誇る技を彼なりにアレンジした“二発”の刃。二刀の小太刀を太刀にて連ねて放つ技……

 

『奥義之参―――射抜・双爛』

 

その飛ばされた刃に一発目は辛うじて叩き落とすが、連続して放たれた二発目の小太刀が左肩に突き刺さり、持っていた双剣を落としてしまう。その隙を見逃す筈もなく、アスベルは自分の兄でもしなかった“神速”の『三重掛け』で一気に駆け出した。イシスは『デッドリークロス』による剣の衝撃波を放つが、彼はその衝撃波によって傷つきながらも、イシスの肩に突き刺さっていた刀の柄を掴み、一気に引き抜くように斬り上げた。

 

「ぐうっ!?」

それに呻くイシス。巻き上がる血飛沫……アスベルはその血しぶきを浴びるも、それに介せず、いつの間にか納めた太刀を抜き、振るう。

 

 

『御神流奥義之極―――閃』

 

 

本来ならば小太刀による抜刀であるが、彼はこの土壇場で太刀による奥義を放ち、イシスの心臓を通過するように通った剣筋によって、イシスは口から血を吐き、倒れ込んだ。アスベルは刀を納め、弾かれた刀も拾うと、シルフィアに近寄るが……その瞬間、亀裂が走り、アスベルは……落ちてゆく。

 

(限界、かな………)

 

薄れゆく景色の中……アスベルは笑みを零した。微かに映った竜のような姿に……何故だか安堵し、そのまま意識を手放した……中々激動な10年と言う月日ではあったが、彼なりに言えば楽しかった。自分の力で“二度”も大切な人を救えたのだから……まぁ、心残りと言えば、パートナーの三人は絶対に悲しませることになってしまうが……これには苦笑した。

 

(…まったく……色々事欠かないよな……)

 

ぼやきは声に出ることもなく……アスベルは意識を手放した。

 

 

『―――まだ、終わっていない。終わらせない……一緒に、生きるって……』

 

 

その後……聞こえた言葉は、アスベルに届くことは無かった。

 

 

 

崩れ落ちる浮遊都市“リベル=アーク”から…アルセイユと山猫号は周回しながら離れて行った。だが、ブリッジの中に居る面々は安堵感に包まれてはいなかった。アスベルとシルフィアの二人が戻ってきていないことに、彼等は焦燥感や絶望といった負の感情に包まれてしまっていた。

 

~山猫号 ブリッジ~

 

「お願い、キール兄!このままじゃあの二人が……!」

「駄目だ、ジョゼット…………あの様子じゃ、もう……」

ジョゼットの懇願にキールは悔しそうな表情で答えた。

 

「そんな……」

「……クソッ……最後の最後でなんで……。こんな時に……女神様は一体何やってやがる!」

キールの答えを聞いたジョゼットは悲しそうな表情をし、ドルンは悔しそうな表情で叫んだ。それほどの付き合いでなかったにしろ、あの二人は仲間として行動していただけに……その悔しさは痛いほど滲ませていた。

 

 

~アルセイユ ブリッジ~

 

「そ、そんな……」

「ま、間に合わへんかったか……」

「…………」

「う、嘘だろ……」

一方アルセイユで崩れ落ちるリベル=アークを見つめていたエステル、ケビン、ヨシュア、アガットは信じられない表情や無念そうな表情をし、

 

「や、やだ……。そんなのやだあああっ!」

ティータは泣き叫んだ。

 

「嘘だろ……」

「そんな……」

「………」

「信じたく、ないわね……」

それは、リィンやエリゼ、スコールやサラも……いや、レヴァイス、フィー、ランディも、シェラザードも、シオンも、レイアも、ライナスも、アルフィンも、レーヴェも、カリンも同じ気持ちであった。この中では髄一の実力者であった彼ら二人が無事に戻ってくることを疑わなかった。だが、彼等は………この場に戻ってこなかった。

 

「ユリアさん!どうかお願いします!避難通路の方向から考えてアスベルさんたちは北西の端にいるはずです!どうかアルセイユをそこへ!」

「……申し訳ありません……。いくら殿下の命令でもそれは……従いかねます。」

「……今、再び都市に近付けば間違いなく崩壊に巻き込まれる。そうですな、ラッセル博士?」

クローゼの必死の懇願にユリアは悔しそうな表情で答え、ミュラーも静かに答えた後博士に尋ねた。今ここで助けに行ったとしても……二次被害によってここにいる全員が巻き込まれる可能性の方が大きくなる。それはもう、疑いのない事実であった。

 

「……その通りじゃ。」

「……そ、そんな…………」

「はは……参ったな……。場を和まそうと思っても頭が真っ白だよ……」

「……ああ、俺もだ。」

博士の言葉を聞いたクローゼは絶望した表情をし、オリビエは肩を落として溜息を吐き、ジンは無念そうな表情で頷いた。彼等が戻ってこない衝撃は大きすぎた。オリビエもいつもの口調が言えないだけに、事の深刻さは最早甚大なるものであった。

 

「あいつら……うう……。これからだってのに…………こんな事になっちまって……」

「シルフィアちゃん………アスベル君……あれ~?」

アルセイユのメンバーが悲しみに暮れる中、ドロシーが自分の視界に映った光景に首を傾げつつ声を上げた。

 

「おい……ドロシー……。こんな時くらい……大人しくしてろっての……」

ドロシーの声を聞いたナイアルはドロシーに注意した。

 

「いえ、その~……なんだかジーク君が嬉しそうに飛んでいったなあって。」

「へ……」

「あ……」

今しがた映ったジークの様子を伝えるドロシーの言葉を聞いたナイアルは驚き、エステルは何かに気付いて声を上げた。

 

 

するとジークが飛んでいった先―――その雲をかき分けるように浮上する大きな存在。

 

 

それはエステル達も見たことのある竜の姿。“至宝”の“眷属”であるレグナートが浮上してきたのだ。

 

 

そして、彼の背中に乗っているのはエステルとヨシュアの父親であるカシウス・ブライト。更には………彼等が戻ってこないと不安に感じていた二人の姿があった。

 

 

「ん……ここは………」

「あ………アスベル!!」

目を見開くと、そこは空の上であった。だが、落ちているわけではない。すると、背中に感じる暖かい感触……自分を支えている少女がアスベルの意識が戻ったことに気づき抱き着いた。少女―――シルフィアは泣きじゃくりながらアスベルにしがみつき、アスベルは笑みを零して彼女の頭を撫でつつ、その視界の向こうに映る人物―――カシウスと、竜―――レグナートに声をかけた。

 

「どうやら、閻魔様に嫌われたみたいですね……いや、女神様に助けてもらったのでしょうかね……カシウスさん、レグナート。ありがとうございます。」

「気にするな。王国全土の導力がようやく回復してくれたんでな。モルガン将軍に後事を任せてこうして彼に乗せてもらったんだ……まったく、無茶をしてくれる。」

(フ……20年前に我に挑んだ其方がいう台詞ではないがな。初めまして、と言うべきかな。“遥かなる時”を統べし帝。そして……“真なる空”を統べし帝よ。)

「「!?」」

アスベルの言葉にカシウスはため息が出そうな表情を浮かべるが、レグナートはそれを嗜めつつも、アスベルとシルフィアに自己紹介をした。だが、彼の言葉にアスベルとシルフィアは反応した。

 

(かつては人であった“女神(エイドス)”の生み出したものが、今こうして人を祝福していたとは……人間とは、つくづく因果な生き物だな。)

「……カシウスさん。大方の事情は掴めたと思いますが……」

「ああ……何も聞かなかったことにしておこう。もし、お前たちを滅しようとしたら、俺の名前を遠慮なく出していいぞ。」

「あはは……」

その単語から予測できること……つまり、“輝く環”が吸収された先は……

 

「お前ってことか……」

「私も初耳なんだけれど………」

だとすれば、色々合点はいく。単純に<聖痕>を発現させただけでは総長を上回る可能性はかなり低い。だが、彼女にはそれを受け入れるだけの資質があったということだろう。ただ、気になるのはワイスマンのように暴走する可能性はないのかと……それにはレグナートが答えた。

 

(“刻の十字架”、“輝く環”……その二つはいずれもお前たちを受け入れたようだ。ただ、その力を無限に使うことは出来ぬ。人の身である以上、限界はある。)

 

とのことだ。正直、現実味がなさ過ぎて……手に余る代物です。

 

「というか……盟約云々はいいの?」

(それは“輝く環”を前におぬしらが答えを出すまでのことだ。そして答えが出された今、古の盟約は解かれ、禁忌も消えた。ゆえに“剣聖”の頼みに応じ、こうして迎えに来たというわけだ。)

「古の盟約ね……」

「すみません……訳、分からないんですけど……」

「安心しろ、俺にも分からん。何しろこの堅物ときたら肝心な事はロクに喋ってくれないのだからな。」

レグナートの念話を聞いたアスベルは驚き、シルフィアはジト目になり、カシウスは疲れた表情で溜息を吐いて答えた後、レグナートに視線を向けた。流石にその辺は考えてもキリがないというか、仕方ないのでこれ以上の追及は止めることにした。

 

(フフ、許せ。竜には竜のしがらみがある。ただ一つ言えることは……運命の歯車は、今まさに回り始めたばかりということだ。そして、一度回り始めた歯車は最後まで止まることはない……。心しておくことだな。)

「そうか……」

「ええ……」

「解っています。」

レグナートの念話を聞いたカシウス、アスベル、シルフィアは真剣な表情で頷いた。“激動の時代”……『結社』による引き金は、引かれてしまった。ここからが、本当の意味での戦いなのだと。

 

「運命は別の場所で、別の者たちが引き受けることになるだろう。―――とにかく今回はお前たちも本当によくやった。いや、こちらが世話になってしまったほどにな……今はただ何も考えず、ゆっくり休むといいだろう。かけがえのない仲間と共にな。」

しかしカシウスはアスベル達を安心させるかのような優しい表情で二人を見つめて言った。今回の戦いの功績は非常に大きい……特に、この二人がいなければ、ここまでスピーディーに解決することもままならなかっただろう。だからこそ、今は翼を休める時だとそう呟いた。

 

「ええ……」

カシウスの言葉に頷きつつも……アスベル達がカシウスが向けた視線を追っていくと、そこには甲板に出たアルセイユと山猫号のメンバーの達が嬉しそうな表情でアスベル達を見つめたり、手を振ったりしていた。

 

アルセイユ、山猫号、そしてレグナートは浮遊都市から全員脱出し……グランセルへと戻っていった。

 

 

リベール国内で起きたリンデ号失踪事件から端を発し、孤児院放火未遂事件、ラッセル博士誘拐事件、クーデター事件、『結社』の実験……そして、この異変。これらの事件を総称し、発生から100日と言うスピードで起きた事態を次々に解決したこの一連の事件は、後に『百日戦役』の再来とも言うべき事柄―――『リベール百日事変』として語られることとなる……

 

 




SC本編的には終了ですが……もうちっとだけ続きます。ハイ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。