英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第144話 黄金の軍馬の柵(しがらみ)

エステルらと別れてカシウス、アスベル、シルフィアの三人が降り立った場所……それは、なんと……

 

 

~パルム郊外 エレボニア帝国軍第三機甲師団陣地~

 

「な、なっ!?」

「り、竜だとっ!?」

突如、降下してくる竜の姿に慌てる兵士たち……彼等は思わず銃を向けるが、

 

「ふっ!」

「なっ!?」

アスベルの振るわれた刃によってその銃はまるでハリボテの如く容易く斬りおとされた。そして、アスベルはゆっくり立ち上がると、兵士らに用件を伝えた。

 

「司令官のゼクス・ヴァンダール中将に、『カシウス・ブライト、アスベル・フォストレイト、シルフィア・セルナートの三名が会いに来た』と伝えてください……レグナートはここから早めに離脱してください。戦車相手だと貴方も無事では済まないでしょうし。」

(その方が良さそうだな……健闘を祈る。)

「やれやれ……お前がやらなかったら、俺が戦う予定だったのだが。」

「カシウスさんってば……」

その場から逃げ帰る様に陣地の奥へと走っていく兵士を見ながら、各々が言葉を交わす。三人が降りた後、レグナートはその場から飛び去って行った。それを見届けていた三人のもとに兵士が来て、案内するという言葉に三人は頷いて、警戒は怠りなく奥へと進んだ。案内された指令所らしきテントの中に居る一人の隻眼の軍人。そして、その傍らには金髪の若い軍人の姿もあった。

 

「失礼します、中将にナイトハルト少佐!お話にありました三名をお連れしました!」

「ご苦労。下がってよい……やれやれ、貴方方は色々非常識だな。カシウス准将、アスベル中将、シルフィア准将。」

「なに、これが我々の国ですからな。強大な軍事力と広大な領土を併せ持つ帝国相手には、それぐらいは必要でしょう。」

隻眼の指揮官―――ゼクス・ヴァンダールの言葉にカシウスは笑みを浮かべつつ答えた。すると、若い軍人の方はゼクスの口から発せられた階級に驚き、アスベルとシルフィアの方を見た。

 

「中将に准将!?カシウス殿はご存知でしたが……まだ二十歳にも満たぬ彼らが……失礼、第四機甲師団所属、ナイトハルト少佐であります。」

「第四機甲師団というと“赤毛のクレイグ”の部隊……リベール王国軍中将、アスベル・フォストレイトです。」

「同じく王国軍准将、シルフィア・セルナートです。“クレイグ”って……ミュラーさんやセリカが言っていた親馬鹿のあの人の事かな?」

「………なるほど、“神速のセリカ”や彼の知り合いですか。そして、我が指揮官の事は……何も言わないでください。」

どうやら、あの指揮官の癖は部下であるナイトハルトにとっても悩みの種であることは違いなかった。だが、ここで根本的な質問を投げかけた。本来は部隊の異なるナイトハルトがここにいる理由……それを察しつつ、ゼクスが言葉を発した。

 

「だが、カシウス殿らの来訪は、『丁度良かった』というべきだろう……軍司令部より通達があった。『皇女殿下を誘拐した疑いありのため、全軍を以てリベール領に侵攻。』との命令が下った。」

だが、軍司令部はもとより、“あの御仁”は今のリベールに喧嘩を売ることを本気で理解していない。原作の戦力ならば簡単なのだろうが……たとえアハツェンが導入されていたとしても、こちらの切り札の一つである『フェンリル』を実戦投入し、新型の砲撃弾を用いれば、戦車など鉄の塊同然の代物と化す。いや、それが狙いと言う可能性も捨てきれない。ともかく、アスベルは事情を説明すると、ゼクスとナイトハルトは納得してくれたが……既に11個師団が国境北に集結しているとのことだ。

 

「(『ラティエール』全機投入あたりでも半壊は可能だけれど……)シルフィア、『アルセイユ』に連絡を。ゼクス中将、貴方方にアルフィン皇女の護衛をお願いしてもよろしいですか?」

「なっ………!?」

「あの御仁は貴方を処罰する可能性があります。ですが、皇女殿下を護衛したという事実があれば、最悪左遷程度で済むかもしれません。」

アルフィンの行動は予想外であるが、ゼクスに彼女を護衛してもらえば、勝手に軍を止めた懲罰はあろうともその功績を勘案せざるを得なくなる。彼とてヴァンダールの人間……アルノール家の守護者たる名門を蔑ろにしようものならば、その反発は必至。尤も、アルフィンにはもう一つ『役目』を負ってもらう予定であるが。

 

「ただ、今頃はグランセル城にて女王陛下と謁見しておられると思います。オリヴァルト皇子に関しては事後処理の関係で三週間程滞在されると伺っております……その後に関しては、こちらで責任を持ってエレボニアまで送り届けます。」

彼の決意を最大限に生かすため……こちらで打てる手はすべて打つ。虚実織り交ぜた策略……それがまたあると思うと、内心色々大変なことは確定済みであるが。

 

どこぞの准将の言葉ではないが……覚悟はある。関わったからには『戦う』……今更逃げることなど赦されない。前世も今世も……そういった柵(しがらみ)があることには内心苦笑を浮かべた。

 

「そこまで『本質』を見抜けるようになったとはな……俺にしてみれば自慢の息子のようなものだ。」

「はは………」

(このような人物がいる限り、エレボニア(わ れ わ れ)はこの国に勝てないのだろうな。昔も今も……)

カシウスとアスベルのやり取りにゼクスは冷や汗をかいた。それは傍にいたナイトハルトも同感と言わんばかりに黙り込んでいた。同じ“大国”という器を持ちえながらも……その奥底に秘めるものの違いに、ゼクスはこう直感した。

 

―――『例え逆立ちしたとしても、エレボニアはリベールを屈服させることなど不可能』であると。

 

『常在戦場』……その在り様は、奇しくもエレボニアによって齎されたもの。だが、それ以上に感じたのは軍と言う形の在り様であった。軍単独ではなく、状況に応じて遊撃士協会や七耀教会とも情報を共有し、連携を図る―――各々ができる“役割”を必要以上に追い求めないことこそが彼等の強みともなっているのだと……

そう考えているゼクスにアスベルは一枚の写真を取出し、ゼクスに見せた。

 

「あと、一つ聞きたいのですが……この人物に覚えは?」

「!?……この者は、どこに?」

「ハーケン門を通過した帝国からの役人……本人はそう言っていたらしいのですが、『鉄血宰相』絡みの人間ですね?」

「門を通過する前にこちらへ来た。先ほど述べた命令を携えてな……情報局特務大尉、レクター・アランドールだ。それ以上は明かせないうえ、こちらも知らないのでな。」

それを聞いてカシウスは考え込んだ。ゼクスからの言葉が『本人』が述べていた言葉だとするならば、自分の想像していることはますます現実味を帯びてきたことになる。

 

「中将、あまり情報を明かしては……」

「前門の“白隼”、後門の“軍馬”……この状況下においては、軍人としてどうすることもできん。少しでも有利な状況を提示してくれた以上、それの対価としては些か少ないがな。」

「………」

その言葉に押し黙る以外の選択肢などなかった。そして、カシウスは問いかけた。

 

「そういえば、ナイトハルト少佐は何故ここに?」

「構わん、話してもいい。」

「……情報局経由での命令です。内容は『内情調査』。実際には監視役と言うべきでしょう。」

それなりの実力のある人物を出向させて、内情を調査……その上で掌握する際の“障害”を排除していく。恐らくは、他の師団にもそう言ったやり方をしてきたのだろう。それを聞いたカシウスは真剣な表情でゼクスとナイトハルトに向けて言い放った。

 

「『鉄血宰相』にお伝えください。『貴方が我々の国を平穏に訪れるのならば、その意に対して歓迎しましょう。貴方がこの国に対して武器を携えるのならば、その刃が自分を殺す刃になります』……と。」

 

「………(これが、“剣聖”とも呼ばれた者の覇気……)」

「………(過信や虚勢ではない……これが、カシウス・ブライトの“力”ということか。)解った。一言一句違えることなく彼に伝えよう。私の帝国に対する……皇帝陛下に対する忠義を以てここに誓おう。」

その言葉にゼクスとナイトハルトは押し黙る他なかった。リベールの“英雄”たる人間の脅威を今ここで見せつけられては、大人しく従う他ない。それだけでなく、かつての帝国最高の剣士……実力的にはこの人物と双璧とも言われる“光の剣匠”もリベールにいる。この事実には、ゼクスは本気で冷や汗をかくほどだった。

 

用件が終わると三人は陣地を後にした。それを見届けたゼクスは一息つき、ナイトハルトは冷や汗を拭った。

 

「あれが、リベール王国軍のトップ……ですか。」

「武も智も一線級………そして、この国の遊撃士も一線級揃い。奇しくも、帝国出身者を取り込む形でな。」

先日の帝国ギルド襲撃事件の詳細はゼクスやナイトハルトも知らされていなかったが、ギルドが軒並み撤退し、その殆どは辺境かリベールに移籍したとのことだ。精強な軍とプロフェッショナル揃いの遊撃士協会……その二つを併せ持つリベールに対して喧嘩を売ろうものならば、返す刃で大損害を被る……下手をすれば、『百日戦役』の損害など微々たる程度のものになりかねないほどに。先程のカシウスの言葉はそう言う意味を含めての言葉だと感じていた。

 

三人が陣地を出ると同じぐらいに降り立つ『アルセイユ』。

そこから出てきたのは、アルフィン、エリゼ、シオン、ユリアの四人であった。

 

「まさか、誘拐騒ぎになっていたとは驚きでしたわ。」

「それは当然でしょう……アルフィンの我侭のせいで、こういう事態になったのですからね。」

あっけらかんな表情で話すアルフィンにエリゼはジト目で彼女を睨んだ。それを見たアルフィンはシオンに助けを求めるが、

 

「あぅ………シオン、フォローしてくださいませんか?」

「今回ばかりはお前が悪い。帰ったらちゃんとお説教を受けなさい。」

「エリゼもシオンも手厳しすぎますわ……よよよ………」

ばっさりと切り捨てたシオンの言葉にアルフィンは涙ぐんだ表情を浮かべるが、今回の事は流石にフォローのしようがないので……助け舟を出す人間はいなかった。その光景に頭を抱えたくなったユリアであったが、気を取り直してカシウスらのほうに向きなおった。

 

「カシウス准将、お疲れ様です。それで、首尾の方は?」

「大方はな。国境付近にいる連中に第二種戦闘配置の発令を。あくまでも、こちらからは発砲するなと徹底させるように。」

「ハッ、了解いたしました!」

ユリアが艦内に戻るのを見つつ、カシウスはアルフィンに会釈をしつつ、言葉を交わした。

 

「申し訳ありません、皇女殿下。ある意味人質扱いのような扱いになってしまったこと……お詫びのしようもございません。」

「あ……いえ、元はと言えば私の我侭でこういう事態になったのですから……私の方こそ、皆さんに詫びなければいけない立場です……シオン、ごめんなさい。」

色々なトラブルがあったとはいえ、このような事態になってしまったことにアルフィンは詫びの言葉を述べ、シオンにも向き直って深々と頭を下げた。それを見たシオンはため息をついて、アルフィンに諭した。

 

「ま、今回は良い教訓になったろう……ちゃんと、立場をわきまえて行動しろよ。」

「ええ……そのお詫びと言っては何ですが……んっ」

「!?」

シオンの言葉にアルフィンは頷き、シオンに近づくと……自分の唇を彼の唇に重ねた。つまり、キスと言うことで………

 

「流石、オリビエの妹……」

「あはは、だね……」

「やれやれ、最近の女性は逞しいことで………」

アスベル、シルフィア、カシウスは苦笑を浮かべ、

 

「…………」

「…………」

迎えにきたゼクスとナイトハルトは石化したかのように固まり、そして、彼女のお付きでもあるエリゼは、

 

 

「何やってるんですか、アルフィン!!」

 

 

叫んだ。

 

本人の持てる全力を振り絞るかのように放たれた彼女の言葉は帝国軍の陣地中を駆け巡るかのごとく響き渡ったという……

 

 

この後、第三機甲師団はアルフィン皇女殿下を送り届けるという名目で撤退………それを聞いた帝国宰相ギリアス・オズボーンは第三機甲師団に対して、皇族護衛の大任と命令への背信行為を比較し……周囲からの声もあり、共和国への牽制と言う建前のもと北東部のノルド高原の入り口にあたるゼンダー門への事実上の“左遷”を行ったのである。その代りにヴァンダール家は“侯爵”の階級を賜ることとなる。家としての昇格と軍としての降格……これにてバランスを取ることで周囲からの反発を抑えることにしたのだ。

更に、リベールの浮遊都市崩壊の一報を受ける形で国境沿いに展開していた帝国正規軍の11個師団は撤退を決定したのだ。

 

それから約一週間後……

 

~バルフレイム宮 帝国宰相執務室~

 

「第三機甲師団の移管は完了。後任には、第十四機甲師団が帝都南部を担います。」

「そうか……ご苦労。」

報告している女性軍人―――クレア・リーヴェルトの言葉を聞き終え、オズボーンは静かに頷き、クレアに労いの言葉をかける。相手の出端を挫くつもりがあっさりと押し返し……こちらの落としどころまで完全に見極められる形となったことにオズボーンは笑みを浮かべた。自分の描く“遊戯盤”―――『激動の時代』には、あの国も無関係ではいられなくなる。だが、あの国は巧みに立ち回ってくることも想定済みであった。このゲームには、彼らも参加してもらわなければ“面白味”がない。

 

「東部への視察の日程はどうなっているかね?」

「ほぼ予定通りです。レクターからは、数週間のうちに整う手筈と……」

その言葉を聞いて、こちらの計画通りに事が進んでいるようだ。尤も、表向きは東部への視察であるが、実際はそうではない。そうしているのは自分への敵対勢力所以の為でもある。

 

「そうか……では、予定通りに話を進めてくれ。」

「ハッ……失礼します。」

 

クレアが部屋から出た後、オズボーンは静かに椅子に座りこみ、顔の前で手を組むと、口元に笑みを浮かべた。そして、机にある一枚の写真―――第三機甲師団に同行していたこの国の皇族の一人にして、自分に“宣戦布告”した人物。オリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子……“放蕩皇子”と噂される人間が写った写真を見つつ、呟いた。

 

 

「さて、どうひっくり返すつもりなのか……お手並みを見せてもらう前に、私なりの“挨拶”をせなばなるまい……“宣戦布告”をな。」

 

 

現皇帝と平民であった女性の間に生まれた“庶子”。彼には十歳ほど離れた妹がおり、二人の母親は十年前に死去……いや、正確には“殺された”とも言うべきだろう。

 

『ハーメルの悲劇』による主戦派の主張……果ては、彼女を人質にしてまで強引に迫り、皇帝は已む無く開戦を決めた。しかし、戦争後半……主戦派の人間は『ハーメル』に関わる事実を突き付けられるも、彼女が人質にいることで皇帝は動けなかった。だが、彼女を人質にしていた主戦派が何者かによって死亡。それに伴う二次被害を被る形で……彼女も亡くなった。兄は十五歳、妹は五歳………その後で解ったことではあるが、人質を取っていた主戦派の一人は“貴族”であったのだ。そして、彼は<四大名門>―――現在の<五大名門>に連なる一人だということも。

 

 

~王都グランセル エレボニア帝国大使館~

 

「………」

「入るぞ……まだ起きていたのか……いや、眠れないのか?」

窓の外を見つめる一人の男性。すると、扉が開いて彼の親友である人物―――ミュラー・ヴァンダールが入ってきた。ミュラーはいつもならば軽い口調を零す彼がいつもならぬ表情をしていたことをすぐに見抜き、言葉をかける。

 

「流石親友……この国のことは僕にとっても他人事じゃないからね……もう、十年になるかな。」

「………そうか。もうそんな時期なのか。」

言葉をかけられた人物―――オリビエ・レンハイムもといオリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子。オリビエはそれに肯定しつつも、今日ばかりはセンチメンタルな気持ちになるのだと言わんばかりに呟き、それで大方の事情を察したミュラーも目を瞑った。

 

「僕も目を背けたかった……いや、無意識の内に目を逸らし続けていた。それでいてこの体たらくというわけだ……フフ、因果応報とはまさにこのことだろうね。」

だが、現実というものは時にして残酷というものだ。こうやって目を逸らしていたものが回りまわってこの結果になったのだから……オリビエは窓の外に映っている月と星空を見つめながら、自らの決意を空に願う様に、内心で呟いた。

 

 

(母上、貴女が言ってくれた言葉……『誰よりも皇族らしく在れ』……その言葉に誓って、僕は動く。エレボニアという良き国を……この国のような“誇り高き国”にするために……)

 

 




オリビエに関わる部分はオリジナル設定です。

こう考えた理由はいろいろあるのですが……一番の理由は、戦争を嫌がっていた皇帝が主戦派に押されて開戦し……終戦後に主戦派を処罰し、その派閥の中核とも言うべきオズボーンを宰相に自ら任命した『矛盾』です。

しかも、ほぼ全幅の信頼を宰相にしており、貴族派に対して明確な敵意というものがあると感じました。で、オリビエも貴族派を恨んでいるような発言関連から……おそらくはオリビエの母絡みであると思います。オズボーンの言葉の感じだと、それを当事者のような感覚で知っているのはその点なのではないかと……あくまで可能性ですが。

プリシラ皇妃の言葉もある意味ヒントですね。少なくとも、オリビエの母とプリシラ皇妃は仲が良かったのだと思います。私感ですが。

あとは、ハーメル絡みで一年もの間調べ続けるという精力さですね。『百日戦役』自体もそう言った意味ではまだまだ謎が多いです。


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