英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第16話 三つの猟兵団

教団拠点制圧作戦後、アスベルとシルフィア、レイアとレヴァイス、そしてマリクはクロスベル上空……特殊作戦艇「メルカバ」漆号機にて今後の対応について話し合っていた。レヴァイスにはマリクからいろいろ聞かされたようで、すぐに理解してくれた。教会の所有する艦に猟兵を乗せるというのは普通ならば異論が出るのであるが、この艦の事を公表しないという条件を提示し、レヴァイスとマリクが同意することで乗艦を許可している。

 

「しっかし、教会様は大層な艦を持っているな……うちにも一隻欲しいぜ」

「あはは……ま、その願いはすぐに実行できそうですけれど」

「どういうことだ?」

シルフィアの意味深な発言に、レヴァイスは首を傾げる。

 

「アリシア女王からの意向で、アルセイユ級二番艦『シャルトルイゼ』三番艦『サンテミリオン』の解体を行うそうです……ですが、これは建前上の理由です。」

「建前上……例の鉄血宰相か?」

「ええ。『小国に過ぎた力は不要』という露骨な圧力をかけていますからね。ですが、これを逆に利用します。」

エレボニア帝国宰相ギリアス・オズボーンはリベール王国に対して表裏一体の圧力をかけてきている。実際のところ、リベールが管轄する自治州の国境近くに大規模な軍事施設を建造しておきながら、『自衛のため』と言って聞こうともしないのだ。これでは、何の意味すらなさない。だが、アスベル達に焦りはなかった。つい先日、アルテリア国内の『掃除』……『教団』と繋がっていた者たちを公表し、処刑したのだ。これにより、“守護騎士”の立場が大幅に強化され、対立する典礼省自体も内部に多くの『裏切者』がいたため、黙するしかなかった。

 

「さらに、メルカバの参号機とこの漆号機が結構寿命が来てるみたいでな。これを理由にして、ツァイス中央工房に『依頼』したのさ。今あるアルセイユ級の『代替』とメルカバの大幅強化を。」

こちらにしてみれば理不尽な理由でリベールが力を失うのは避けたい……そこで、カシウス・ブライト、アルバート・ラッセル博士の二人に『依頼』して、メルカバの改修が終わるまでアルセイユ級の二隻を使わせてほしい、と。期限に関しては無期限とし、メルカバには念のため“守護騎士”がいないと起動できない様対策を施しておくことにした。

 

「でも、その後はどうするつもりだ?」

「いやだなぁ……何で俺がロレント郊外から引っ越さないか解りますか?」

「……まさか」

「まさか、ですよ。中央工房に運び込んで解体する、と見せかけてロレント郊外の隠し格納庫に収容します。情報部の連中が嗅ぎつけても完全にわからないように……」

軍用飛行艇はともかくとして、『アルセイユ級』二隻の力は大きい……それを手放さない様、特殊な改装を施すために一度ロレント郊外に隠し、改修を終えた後『特定の場所』に格納する予定だ。

 

「で、ここからが本題。実は百日戦役途中で開発が放棄されたアルセイユ級の艦が三隻。うち二隻をばらして、『西風の旅団』と『翡翠の刃』に譲渡する予定だ。無論条件付きだけれど」

「アリシア女王は承諾したのか?」

「勿論。」

条件というのは、

・リベールが危機に陥った際、心ある者として助けてほしい(救援・支援)

・出来る限り人殺しはしないこと(殺人の抑制)

の2つだ。必要であれば、非公式に依頼の斡旋ぐらいはするということも述べていたのである。

 

「最初は渋い顔をしていましたが、七耀教会から『『西風の旅団』と『翡翠の刃』には『赤い星座』ほどの狂暴性はない』という法王の言葉に承諾されました。事実ながら父や叔父は戦闘狂ですしね……」

レイアがため息混じりに呟く。

『翡翠の刃』が台頭してからというものの、『西風の旅団』でも人殺しは極力行っていない。どうしてそうなったのかという理由は、表向きには公表されていない。噂では団長の交代説など様々な憶測が飛び交っているが、実際の理由としては団長であるレヴァイスがリベールという国をいたく気に入ったという単純かつ純粋な理由から来ている。話が逸れたが、『西風の旅団』としては、あくまでも殺人は更生できないほどの外道を粛正する場合に止めている。

 

「狂暴性はなし、か……遊撃士協会は何て言ってるんだ?」

「カシウスさんの話だと、評価自体は『良くも悪くも普通』……対応を決めかねているという感じですね。猟兵団と言っても、『翡翠の刃』はともかく、『西風の旅団』は昔と大きく変わって、遊撃士との衝突は避けているようですし……」

流石に猟兵団への対立の根は深く、元々遊撃士との衝突を避けるどころか共立の道を目指す『翡翠の刃』、その影響を受けて変わりつつある『西風の旅団』、未だに傭兵らしさが残る『赤い星座』……それらの猟兵団をひとくくりには出来ず、けれども、金で動くという傭兵の特性上、確たる保証がないのも事実…故に対応を決めかねているのだろう。

 

「ま、一時的にリベールの力が減れば、あの人はクーデターを起こすって算段ね…でも、アスベルは『その先』すら見据えているんでしょ…?」

シルフィアの指摘にアスベルは不敵な笑みを浮かべる。そう、彼の目指している到達点はここではない。守護騎士であるのは、あくまでも偶然確たる地位を持ち得たからに他ならない。それによるしがらみに対しても、総長自らがある程度の行動の自由を保障してくれているので助かっている部分が大きい。

 

「種はばら撒いた。後は、芽吹くのを待つだけだよ。」

そう言い放ったアスベルの言葉……その意味を知ることになるのは、そう遠くない未来だった。

 

 

「あら、お邪魔したかしら?」

そう言って五人の前に現れたのは、赤髪の女性。物腰からして優しそうな雰囲気だが、一度怒らせると怖そうな印象を受ける。彼女の名前はルフィナ・アルジェント……正騎士ながらも“千の腕”の異名を持ち、第七位付正騎士として活動しており、総長であるアインとは親友の間柄で、シルフィアの戦術や博学を教えた師匠的存在である。

今回はウルスラ病院にいる二人の心のケアを担当し、ようやくその目途がついたのだ。

 

「ルフィナさん、ご苦労様です。彼との連絡は取れましたか?」

「ええ。本当でしたら第七位のお手を煩わせることなどあってはいけないのですが……」

「そうしたいからそうしただけです。ルフィナさんは深刻に考え過ぎです。」

「シルフィア卿……ええ、解りました。」

「それじゃ、この後はどうする?」

二人のやり取りが一段落して、アスベルはマリクとレヴァイスに問いかける。流石に猟兵である二人をこのまま乗せるわけにはいかないだろう……と思った矢先、部屋の通信機が鳴りシルフィアが応対する。

 

「私です。」

『シルフィア卿、本国から連絡です。『紫苑の家』が何者かに襲撃されたようです!既に従騎士が一人先行したとのこと。』

「(彼ね……にしても、あのことを知る人間………オーウェンね)了解したわ。すぐさま現場に急行して!」

『ハッ!』

紫苑の家……七耀教会の福音施設(孤児院のようなもの)の一つではあるが、その『裏の顔』を知るのはわずかな人間……福音施設を知る者か、守護騎士の二択しかない。

 

「申し訳ないけれど……マリクさんにレヴァイスさん、お手伝い願えますか?」

「無論だ。」

「構いはしない。連中には既に連絡した。」

「ありがとうございます。」

メルカバ漆号機、そして連絡を受けた参号機は紫苑の家へと急行した。

 

 

~紫苑の家~

 

彼らが施設に着くと、あちらこちらに猟兵が倒れていた。敷地内に入ると、左側の母屋の扉から見えた人影。そこからルフィナの姿を見つけると、ここの管理人が走り寄って声をかけた。

 

「ルフィナ!」

「良かった、無事でしたか。」

「ええ、私と殆どの子どもたちをケビン君が助けてくれたの……あ、貴方たちはフォストレイト卿にセルナート卿!?どうしてここに!?」

管理人は二人を見て驚く。守護騎士が二人してここにいる…かなりの大事なのではないかと思わざるを得ない。

 

「偶々です。で、ケビンはどこに?」

「それが、リースを探しに教会の中へ……」

「俺らは念のため、他に猟兵がいないか辺りを探ります。管理人さんは家の中へ!ルフィナさんは先行してください!」

「はいっ、お願いします!」

二人をそれぞれ見届けた後、入口の方から声が聞こえた。

 

「やれやれ……飛んで火にいる何とやら……」

そこに現れたのは一人の神父。彼の持っている紋章入りメダルは紛れもなく七耀教会のものだった。

 

「典礼省所属、オーウェン神父……何故、貴方がここに?」

「無論、ここにある古代遺物を頂きに、ですよ。フォストレイト卿にセルナート卿。」

そう言って指を鳴らすと、ざっと100は超える猟兵が五人を取り囲んでいた。

 

「如何に貴方方が“守護騎士”であろうとも、これだけの相手に無傷ではいられまい。そこの三人の“民間人”を守って戦えますか?」

そう言ってオーウェンは鼻を鳴らした。だが、この場合の失策は彼自身だろう。三人のことをよく知らず、民間人と言ってのけてしまった……つまり、彼は三人がどういう人物であるかを理解していないのだ。

 

「はぁ、何と言うか恥ずかしい気分です。」

「………なぁ、こいつは本当に“七耀教会”の神父か?」

「全くだ……無知であるということは、死につながること。“空の女神”が悲しみに暮れそうだな……」

レイア、マリクとレヴァイスは呆れた表情で呟く。この目の前にいるオーウェンは『無知』。誰がどう言おうとも、これは事実だろう。レイアは棒を、マリクは投刃を、そしてレヴァイスは双銃剣……剣と導力銃の二形態を持つ武器を構える。

 

「ほう、抵抗するか……この私に武器を向けたことを後悔するがいい。家の中にいる連中は後でいい。やれっ!!」

オーウェンの指示に従い、猟兵は銃を構え、大剣を持って突撃してくる。

 

「ただの阿呆ね……それもとびっきりの。“銀隼の射手”として、貴方を討ちます。」

「だな……典礼省オーウェン神父、てめえを『外法』と認定する。守護騎士二人の“粛清”なんて、滅多に味わえない経験ができるんだからな!」

アスベルは太刀を構え、シルフィアは法剣を構えた。

 

「第三位付の正騎士、“朱(あか)の戦乙女”レイア・オルランド、参ります!」

「“驚天の旅人”マリク・スヴェンド、義のために非道の輩を討ち取らせてもらう!」

「“猟兵王”レヴァイス・クラウゼル。神父さん、アンタはラッキーだぜ?何たって、『赤い星座』『翡翠の刃』『西風の旅団』に滅された初めての人間になるんだからな!!」

二度と見れないかもしれない三つの猟兵団に関わる者たちの“蹂躙劇”が幕を上げた。

 

 




オーウェンはひどい目に遭いますwwえ、ネタバレになってるって?だって、

・シグムントを投げ飛ばしたことがあり、実の父が頭を悩ませる膂力を持つレイア

・バルデルやレヴァイスに引けを取らない実力者のマリク

・闘神とほぼ実力が拮抗しているレヴァイス

の三人相手+アスベル(八葉一刀流全の型習得)とシルフィア(下手すりゃ総長以上)ですよ?ミンチならまだマシなレベルですww

外道にやる線香などないですし(黒笑)

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