英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

183 / 200
スコールの扉 ~アルゼイドの絆~

スコール・S・アルゼイド……とはいえ、本人がそのフルネームを知ったのは、『結社』を抜け……サラと付き合い始めた頃にまで遡る。

 

エレボニア帝国東部の街、ケルディック。クロスベル自治州・公都バリアハート・帝都ヘイムダルを結ぶ中継地。その酒場でスコールはサラの“いつもの癖”に付き合いつつも、女将であるマゴットに話しかけられる。

 

「しっかし、この呑んだくれのサラちゃんに恋人とはねえ……はい、これサービスしておくわ。」

「あ、どうもありがとうございます。」

マゴットがサービスしてくれた料理に感謝しつつ、スコールは食べ始めた。

サラとマゴットの付き合いは結構長く、鉄道憲兵隊云々に関わらず困った時にはよく駆けつけてくれるサラの意外な義理堅さに笑みを浮かべつつ、食事を進めた。すると、すっかり出来上がっているサラがスコールに絡み始める。

 

「もう、スコールも飲みなさいよ~」

「すっかり出来上がってるな……明日も依頼があるんだぞ……」

「あによ~?アタシの酒が飲めないって言うの?」

絡み酒とも言えるサラであったが……スコールにはそれに対する方法などいくらでもあった。その一つは……

 

「………明日の鍛錬、倍に増やすぞ。」

「ごめんなしゃい」

スコールの有無を言わせぬ言葉にサラは謝った。何せ、サラの今の戦闘スタイル……ブレードと導力銃を用いる戦い方を教えたのは他でもないスコール本人であるが……実は、もう一人サラに異なる武器での戦闘術を教えた人間がいる。ここではその説明を省くが……スコールはいわばサラの師匠であり、扱いはそれなりに熟知していたのだ。今やA級の正遊撃士でも、武術の先輩であり未だに勝てない相手とも言える彼氏には頭が上がらなかった。それを見て笑みを零したのはマゴットであった。

 

「自由闊達のサラちゃんが、ここまでとは……手がかかるだろうけれど、見捨てないでやっておくれ。」

「……ええ。」

惚れたのはこちらの方であり、年上好きの嗜好を変えさせたのは他ならぬ自分……それに対して責任は取る……スコールは笑みを零しつつそう述べた。

 

翌日、二人はバリアハート地下道の魔獣退治の依頼をこなしていた。そのレベルは一線級とも言えるレベルに成長したスコールやサラにしてみれば大したことはなかったが……戻る途中、梯子に引っかかっていた封筒を見つける。スコールはそれを拾って外側を確認するが、爆発物の類は仕掛けられていない様であった。外見を見てみるものの、宛先や差出人の類は書かれていない……しかも、封はされていない様であった。

 

「とりあえず、確認してみたら?」

「そうだな……これは、カルテ?」

サラに促される形でスコールが中身を確認すると、出てきたのは個人情報と顔写真が貼られたカルテのようなものであった。だが、そのカルテに掛かれている出身の内訳は……少なくともここの街やクロイツェン州『以外の』場所が大半であった。そして、その中にあった一枚のカルテ。それに目を通したスコールとサラは驚きを隠せなかった。

 

「え…これって………」

「………」

其処に映っているのは紛れもなく自分の幼い頃の写真……鏡で何度も見ていた自分と瓜二つの顔。だが、驚くのはそこに書かれていた名前。

 

『―――Squall=S=Arseid(スコール・S・アルゼイド)

 

「………」

だが、スコールには心当たりがあった。

自分がかつて所属していた『結社』―――『身喰らう蛇』。その使徒の一人である第七柱“鋼の聖女”アリアンロードに手解きをしてもらった際、こう言っていた。

 

『―――私が知る者の末裔にこうして剣を教えることが出来ることに、感謝したいですね。』

 

その言葉が真実ならば……そう思ったスコールは奥から歩いてくる人物に気づき、銃を向ける。それを見たサラも武器を構える。二人の視線に映ったのは研究者らしき人物。だが、その足取りはおぼつかない状態……だが、その人物は彼等を見ると、突如苦しみだし……そして、次の瞬間には魔獣よりも凶悪な姿に変貌していた。

 

―――敢えてその姿を表現するならば……『悪魔』。

 

『ミツケタゾ……アルゼイドノソザイ……』

「!?こいつ……」

「成程……問いかけの答えを持ってきてくれたということか……(人間が悪魔化……“剣帝”か“調停”あたりが関わっていたはずだな。)」

最早化物とも言うべきその姿にサラとスコールは戦闘態勢に入る。

悪魔はその鋭き爪で二人に襲い掛かる。

 

「時の加護を我らに……クロノドライブ!……長期戦だと不利になる。息の根を止めるつもりでやるぞ!」

「ええ!……はっ!」

それをみたスコールはオーブメントで駆動させていたアーツを放って速度と移動距離を高め、サラと共に駆け出す。サラは牽制で銃弾を放つも、今までの魔獣とは異なるかのような装甲の前に弾かれる。それに舌打ちをしてオーブメントを駆動しつつも、クラフト『鳴神』を放つ。これには流石の装甲を持つ悪魔でも怯むが、反撃と言わんばかりに咆哮を浴びせ、その衝撃で二人もダメージを負う。

 

「風の癒しを……ブレス!」

「ありがと、スコール……せいやっ!!」

スコールはアーツを放って回復し、サラは感謝しつつも続けて『電光石火』を浴びせるものの、中々決定打には至っていない。この状況では自分が守りに入ってはジリ貧だとスコールは判断し、『エグゼクスレイン』のブレードを展開し、刃に雷の闘気を纏わせる。そして、壁を伝って飛び上がり……悪魔の直上に到達すると、天井を蹴って一気に加速した。

 

「天なる罰を受けよ……黒の雷(シュヴァルツ・エクレール)!!」

「!?!?」

スコールの突撃技とも言えるクラフト『黒の雷』をまともに喰らい、悪魔もよろめく……それを好機と見たスコールは武器を変形させて大剣形態にし、サラも武器に闘気を纏わせる。

 

「一閃必中……フェイデッドサークル!!」

「オメガ……エクレールッ!!」

スコールの闘気の刃による横薙ぎのSクラフト『フェイデッドサークル』、サラのSクラフト『オメガエクレール』を喰らい、悪魔は崩れ落ちる。その動きを見て立ち上がるような素振りを見せないことを確認すると、二人は息を整えて武器を納めた。

 

「……にしても、魔獣とは思えないけれど……何かの実験生物なのかしらね?」

「さてな……ともあれ、報告に戻るか………っ!?」

人が悪魔に姿を変えて襲ってきた……いろいろ考えるところはあるが、ともかく報告へ行こうとした二人……その時、静かに起き上る気配。それを感じ取ったスコールは嫌な予感を感じて武器を抜き放ち、構えていた。

 

「嘘でしょ……」

「コイツ……確かにとどめを刺したはずだ……」

先程倒れていた悪魔が起き上がっている。しかも、その傷は完全に回復しきっている……これにはスコールとサラも冷や汗をかいていた。この状況では確実にジリ貧……だが、その悪魔の襲撃は……届くことは無かった。

 

焦りを感じた二人が見たもの……縦に真っ二つに斬られた悪魔……その姿は光となって消え去った。そして、二人の目の前にいつの間にかいた人物……スコールと同じぐらいの大剣を片手で振るう一人の男性の姿。そして、その闘気は尋常ならざるものであると感じていた。その男性は一息つくと、二人に向き直った。

 

「大丈夫か?」

「ええ、お陰様で……」

「って、ヴィクターさん!?なんでここに!?」

その男性―――ヴィクター・S・アルゼイドの姿にスコールは感謝の言葉を述べ、一方サラは彼がこの街にいることに驚愕していた。ともあれ、魔獣退治の報告をした後……三人は落ち着いて話ができる場所へと移動することとなった。

 

ヴィクターがここを訪れていたのは偶然で、戦闘の振動と気配を感じ、地下道にやってきたということらしい。そして、一段落すると、スコールはヴィクターに問いかけた。

 

「ヴィクターさん……差し出がましい質問かもしれませんが、貴方には息子さんがいませんでしたか?」

「!?……何故、そのことを?」

「………どうやら、俺がその親不孝者だということらしいです。」

スコールはそう言って、自分が今までの経歴……十五年前に行方不明になったこと。その後は『結社:身喰らう蛇』に拾われたこと、『執行者』として活動していたこと、そして傍にいるサラ・バレスタインとは恋人の関係であること……それと、地下道で拾ったカルテの存在と悪魔が言っていた『アルゼイドの素材』という言葉の事も。それを聞いたヴィクターは話を始める。

 

「……確かに十五年前、私の息子は教団に誘拐された……このカルテは、その教団のものだろう……良く生きていたな、スコール。」

それに目を通した後、珍しくも潤んだ瞳をしつつ、スコールの頭を撫でた。それにはくすぐったさを感じつつもスコールは言葉を述べた。

 

「はは……まぁ、女神(エイドス)のお蔭かもしれませんね……」

「よかったわね、スコール……アタシとしては内心複雑だけれど。」

スコールとは対照的にサラは疲れた表情を浮かべていた。まさか、恋人の身分が“貴族”だということに頭を抱えたくなった。エレボニア帝国では“平民”と“貴族”という身分の異なる人間関係は口煩いのだ。それを察してか、ヴィクターがサラに話しかけた。

 

「何、気にすることは無い。私はスコールが幸せになってくれれば特に口煩く言うつもりはない。」

「………」

「そう緊張しない……寧ろ俺の方が緊張してるんだから。」

その言葉がかえってプレッシャーに感じてしまうサラの様子を察し、スコールはサラの肩に手を置く。そのやり取りの後、ヴィクターの招きでスコールとサラはレグラムに向かうこととなった。

 

 

~レグラム自治州 領事館~

 

「お、これは……おかえりなさいませ旦那様。」

「留守中は変わりなかったか?」

「ええ……!?旦那様、後ろにおられる方はもしや……」

「ああ、行方知れずだった息子……スコールと、その恋人だ。」

レグラムに着いた三人……それを出迎えたのは、アルゼイド家の執事であるクラウスであった。彼はヴィクターの後ろにいたスコールの姿に気づき、ヴィクターに問いかけると……静かに頷いた。

 

「スコール様……よくぞ生きておられました。生きている間にお会いできるとは、このクラウス……感謝のあまり言葉もありませんぞ。」

「……ただいま帰りました、クラウスさん。」

そのクラウスの言葉に笑みを浮かべて言葉を返し、スコールも少し戸惑いつつ言葉を返した。そして、クラウスが案内するように三人も館の中に足を踏み入れると、そこにいた眩い黄金の髪を持つ麗しい女性が彼等の姿に気づく。

 

「あら……おかえりなさい、あなた。」

「ただいま帰ったぞ。」

「見たところ怪我もなさそうですね……そちらはサラさんかしら?」

「あ、し、師匠!?ど、どういうことですか!?」

女性―――アリシア・A・アルゼイドはヴィクターと言葉を返した後、後ろにいる女性―――サラの姿を見つけて声をかけ、サラはその女性……自分のもう一人の師匠とも言うべき存在がこの家にいることに驚いていた。その様子を見たヴィクターはスコールに尋ねた。

 

「……知り合いなのか?」

「俺も初耳です。おそらくは俺と知り合う前に出会ったのではないかと……」

スコールがサラと初めて出会った時、彼女の戦闘術は今のスコールと似たような戦闘スタイル―――二丁銃と二刀流を切り替えるスタイルだったのだ。銃関係はおそらく“死人返し(リヴァイヴァー)”だと思われるが、剣関係は全く分からなかった。聞いた話では、女性に習ったらしく……彼女が名乗っていた異名は“金の雷(トールブレイド)”……超然たる破壊力と技の鮮やかさを兼ね備えた人物だったというのだが……これほど身近にいたとは思いもしなかった。

 

サラと話していたアリシアはヴィクターと話していた人物―――スコールに気づき、その姿に戸惑いつつもヴィクターに話しかけた。

 

「え……ひょっとして……あなた……」

「ああ……スコールだ。」

「えと………ただいま、“母上”。」

「っ!!」

ヴィクターに続くようにスコールはそう述べると……アリシアは涙を零しながら、スコールに抱き着いた。その行動にスコールは戸惑うも、ヴィクターは優しい笑みを浮かべてスコールに諭した。

 

「女神様……ありがとうございます。よかった……スコール……」

「えと……」

「暫くそうしてやるといい……叶わぬと思っていたことが叶ったのだからな。」

「………ええ。」

十五年間行方不明………最早絶望的とも言われた息子が生きて帰ってきたのだ。それにはこの反応などごくごく当たり前のものであると……そう感じたスコールはそのぬくもりを感じるようにアリシアを抱き留めた。

そうすること数分……落ち着いたアリシアはスコールから離れた。

 

「それにしても、スコールにサラさん……ひょっとして、付き合っているのかしら?」

「あ、えと、その……」

「まぁ、そうなりますね。」

「ふふ、そうですか……世間は狭いですね。」

正直その通りだろう。自分の母親の弟子とも言える人物が自分の恋人であるという事実にはさしものスコールですら驚きであった。とはいえ、まさかこんな形で自分の身分を知ることになろうとは思いもよらなかったが。

 

すると、扉が開いて一人の少女が姿を見せる。見るからにスコールよりも五つぐらいは年下であろう少女。その少女―――13歳になるラウラ・S・アルゼイドは彼等の姿を見て首を傾げた。

 

「お帰りなさいませ、ラウラ様。」

「ただいま帰りました………父上に母上?それに爺。お二人はどちら様ですか?」

「ってことは……父上、ひょっとしてこの子は。」

「うむ。ラウラ、この二人は大事な人たちだ。お前の家族にもなる人だよ。」

「?……ラウラ・S・アルゼイドという。よろしく頼む。」

ラウラは目の前に映るスコールとサラに首を傾げつつも自己紹介をする。

 

「サラ・バレスタインよ。貴方の父のヴィクターさんや母のアリシアさんの二人にはお世話になってるわ。」

「ほう、いつもならそういうことを中々言わないサラにしては殊勝な台詞だな。」

「しょ、しょうがないでしょ!?師匠がいる以上、変なことは言えないのよ!」

サラの自己紹介を聞いて思わず皮肉めいた言葉を口にしたスコールにサラは慌てつつも言葉を返した。それを聞きつつも、スコールも自己紹介をする。

 

「はいはい……俺はスコール・S・アルゼイド。ラウラにとっては、実の兄ということになる。よろしく、ラウラ。」

「え………父上、母上。どういうことなのですか!?」

その自己紹介を聞いたラウラはヴィクターとアリシアは詰め寄るが、二人はラウラにその事実を説明した。

 

「今まで明かせなかったが……いや、私達も諦めていたというべきだろう。お前が生まれる五年前に生まれた子ども……それが、スコール・S・アルゼイド。そこにいる彼ということだ。」

「そして、サラさんは貴方の兄のスコールの恋人ってことよ。」

「………」

「はは………」

その説明にラウラは唖然とし、それを見たスコールは苦笑を浮かべた。『実は、貴方には実の兄がいたのよ』といきなり言われて納得できるかと聞かれたら……無理という他ないだろう。この場合は幼少期を知るヴィクターとアリシア、クラウスがいたからこそすんなり通る話であったが。そもそも、ギリギリ物心つかない頃の容姿をよく覚えていたものだとスコールは半ば感心していた。

 

「まぁ、いきなり信じろと言われても無理かもしれないけれど……」

「……さい。」

「ん?」

「手合わせしてください!」

「………はい?って、自分で歩け、極まってるよ、ラウラ!痛い痛いいt……」

だが、ラウラから出てきた言葉にスコールは思わず首を傾げた。そして、有無を言わせぬ感じでスコールの腕をつかむと、そのままスコールを引きずるように館から出て行ったのであった。その光景には周りの面々も面食らった様子であった。

 

「……ラウラ様があのような我侭を……」

「えと、どういうことですか?アタシには何が何だか……」

「恐らくは、自分の身内に兄ができたことが嬉しかったのだろうな。」

「そうでしょうね。いつも慕われる側のラウラが慕える相手が出来たのですから。」

同い年ぐらいの男子よりも男勝りな感じのラウラ。なので、周りからはよく慕われるのだ。だが、彼女が慕う人間は同い年ぐらいの子の中にはいなかったのだ。五つほど年上とはいえ、自分の父や母よりも年が近い人間ができたことに対する彼女なりの照れ隠しなのだとヴィクターとアリシアはそう感じていた。

 

そんなことがあったものの、スコールはすんなりと受け入れられた。ラウラとは仲の良い兄妹として羨ましがられる一方、ラウラを慕う女性から嫉妬の感情を向けられることはあったが、殺意を感じなかったのでスコールは見ないふりにして無視していた。

 

この一年後、サラと婚姻し……身内だけの結婚式…サラの友達であるアイナ、シェラザード、メイベル…同じ遊撃士であるトヴァルとヴェンツェル、ラグナ、リーゼロッテ、リノア……そして、アスベル、シルフィア、レイア、シオンも参加した。そして、ブーケトスでそれを受け取ったのは……サラにとって義理の妹となるラウラであった。それに困惑するラウラ……この一年後、ラウラの運命を変える出会いがあることに当の本人は気付いていなかった。

 

 




地味にアルノール家が武闘派集団に……セドリックは綺麗なままでいさせます。ある意味エリオット2号的ポジションを捨てさせるなんて勿体無いじゃないですか(マテw)


オリビエ →ボケ・ツッコミ両方
アルフィン→同上
セドリック→常識人

……ミュラーとエリゼに胃薬かな、これは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。