英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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少し短めです。
そして、オリ設定混じりです。


サラの扉 ~歩んだ軌跡~

………アタシの生まれ育った故郷はノーザンブリア……突如起こった厄災により、国としての体を成さず………自治州となってしまった。不幸中の幸いというべきか、アタシは武術の才能があった。それを見初められた兵士にスカウトされ、アタシは猟兵団『北の猟兵』に所属することとなった。其処での生活も、その団に入る前の生活と変わっていたが……食べるものがあるという点では、まだ救われていたのかも知れない。

 

猟兵団に所属してから七年後………数え年で十四歳になっていたアタシは、任務ということで猟兵団の一員として随行していた。目的は……『鉄血宰相』ギリアス・オズボーンを脅すことであった。元帝国軍所属とはいえ、たかが人間……その任務は容易く終わるはずであった。だが……その見通しは甘かった。

 

中核を担っていた猟兵団『アルンガルム』は全滅……サポート役を担っていた『北の猟兵』もほぼ壊滅状態となっていた。そして、アタシは不覚にも襲撃を受け……重傷を負ってしまった。このまま殺される……そう思っていた時に聞こえてきた声……女性の声に気付くも、意識は遠くなっていった。そして、目が明けた時には……

 

「おや、目が覚めましたか。ここは帝国軍の救護テントですよ。」

「え………」

助けられていた。その相手は帝国正規軍大佐……エルシア・ベアトリクス。

 

その異名は“死人返し(リヴァイヴァー)”……味方だろうが敵だろうが、負傷者がいれば黙らせて治療してしまう……解りやすく言えば、三国志における魏の名将である張遼的な扱いだったという。ある意味『黙らせてからお話を聞かせてもらう』という感じのものであり、敵はおろか味方からも恐れられる人物が助けてくれたことには、その少女も黙る他なかったし、大人しく治療を受けるしかなかった。その様子には流石のベアトリクスも苦笑を浮かべたらしい。

 

重傷というか……その原因は多量の出血だったため、一ヶ月で回復した。とはいえ、猟兵としてこの国に刃を向けてしまったからには今更猟兵に戻るのも難しいであろう……そう考えたベアトリクスは、ある人物を紹介することにした。

 

「この子ですか……私、オルティシア・レンハイムというの。よろしくね。えと………」

「………サラ。サラ・バレスタインと……いいます。」

オルティシア・レンハイム……本名アリシア・A・アルゼイドとの出会い……そして、彼女は知り合いに遊撃士がいるということで、その人の研修を受け、準遊撃士となった。そして、彼女の付き添いをしつつ、各支部の依頼をこなすことになったのだが……

 

「み”ゃあああああああああ~~!?!?」

「はい、次~♪」

「にゃるごおおおおっ!?」

その修練は半端なかった。歳は十ほど離れているのだが、一分の隙もないその攻撃密度に耐えるという選択肢は出来なかった。寧ろ、気絶しても強引に叩き起こされる……究極の理不尽を突き付けられつつも、サラはこう思った。彼女やベアトリクス……いや、そもそもギリアス・オズボーンに関わったことがアタシの運の尽きなのではないのか……と。

 

そんな修練を叩き込まれつつも鍛練を続け………三ヶ月後には、史上最年少の速さで正遊撃士となっていた。オルティシア(アリシア)はそれを喜びつつも、次に向かう場所があると言ってサラと別れた。その一ヶ月後……自分の伴侶とも言えるスコールとある意味運命的な出会いを果たすことになる。

というか、なぜそんな話を?……その理由は、遊撃士となって約八年……ベテランとも言えるサラの目の前に映る光景であった。

それは………

 

 

~帝都ヘイムダル ヘイムダル駅~

 

リベル=アーク崩壊より二ヶ月後……クロイツェン本線を象徴する緑の車両からヘイムダル駅に降り立った二人の人物。スコール・S・アルゼイドとサラ・バレスタインの二人であった。

 

「………」

「やれやれ……まだ納得しかねる表情だな、サラ。」

「しょうがないじゃない……皇族の方に呼ばれるだなんて想像してなかったのよ。」

彼等がここにいるのは遊撃士の仕事としてではなかった……三日前、アリシア経由で渡された招待状……今やリベールの人間とも言える自分らをエレボニア帝国の皇族が招く……スコールにしてみれば、実の母が皇族に連なる人間という以上、それは納得できる話であるが…何故サラまで呼んだのか計りかねていた。

 

「―――おや、時間通りとは流石だね。」

すると、二人を見つけたかのように聞こえてくる声と……遠くから歩いてくる人間。二人にしてみれば親戚にあたり、リベールの事変では共に行動した皇族の人間。そして、エレボニアでは下手するとオズボーン以上に話題の中心とも言える人物―――オリヴァルト皇子の姿であった。そして、その傍らにはミュラーの姿もあった。

 

「久しぶりだな、オリビエ。それにミュラーさんも。」

「久しいな、スコール。」

「ということは、アタシ達を呼んだのは……」

「そういうことになるね。立ち話もなんだし、早速移動しよう。」

挨拶を交わした後、四人はリムジンに乗って移動する。その車中でも、話題が尽きることは無かった。

 

「帝国時報を見させてもらったが……結構活躍してるじゃないか……リベールでやってきたことを見ると、嘘のように見えるが。」

「それは否定できないな……」

「ヒドイじゃないか、スコール君にミュラー君!」

「ほう?お前がミュラーさんのいない間にやってきたこと今ここでバラしても……」

「ゴメンナサイ、調子に乗りました。」

「あははは……殿下も相変わらずですね。」

「サラ君、僕の事はお兄さんと呼んでもいいのだけれどねえ?」

「やめんか、阿呆が。」

いつも政務に明け暮れている反動なのか、オリビエの口調に三人は各々の反応を返しつつ会話は続き……リムジンは皇族の住まいとも言えるカレル離宮に案内された。その一室に案内され、二人は出された茶菓子をつまみつつ、ここに呼んだ意図をオリビエは話し始めた。

 

「「士官学院の教官?」」

「僕はトールズ士官学院の理事長を務めていてね。少し前まではお飾りみたいなものだったのだが……」

トールズ士官学院……エレボニア帝国中興の祖であるオリビエの祖先―――“獅子心皇帝”ドライケルス・ライゼ・アルノールが創立した学校である。“貴族”と“平民”という棲み分けが出来ている教育機関の中で数少ない……その二つの身分が通う学校である。とはいえ、身分間の問題もあって貴族クラスと平民クラスの二つに分かれている。そして、その学院の創立者が皇族と言う縁からか、その学院の理事長は皇族が務めている。そして、現在はオリビエ―――オリヴァルト皇子が理事長を務めているのだ。

 

オリビエが帝都に帰還し……その際に打ち立てた“功績”により、お飾りではなく実績に裏打ちされた理事長と相成った。しかも、庶子と言う身分により、オズボーンからその人気をかっさらう形で平民からの圧倒的支持を受けているのだ。そのことはひとまず置いておくが……理事長としてオリビエが始めたのは……学院に新たな“風”……この帝国の現状を見据え、突破していくために、貴族や平民と言った身分の垣根を超えた第三のクラス……オリビエが経験した、エステル達の様にあらゆる身分や事情を超え、一つの力としての“絆”……特科クラス<Ⅶ組>の設立であった。

 

「その為に、各方面から協力は取り付けているのだけれど……君らにもその一端を担ってほしいのさ。サラ君は戦術教官として……スコール君は聞くところによると、軍事学に詳しいそうだから、その補助をお願いしたい。」

「サラだけでなく俺も、ねえ……大方、ラウラに留学させるようにしてほしいのか?」

「フフ……このクラス設立にはシュバルツァー侯爵も一枚噛んでいる……といえば、解ってくれるかな?」

「ああ、成程ね……」

そもそも、トールズ士官学院があるトリスタは……シュバルツァー侯爵家が預かる“センティラール州”の統治下にある。ともあれ、侯爵の『領主は民に寄り添うべし』という考え方は周りの<四大名門>にしては面白くないが、彼の頑固さと皇帝からの信頼も相まって……それに対する反論を強く言えるものなどいなかった。身分的に上であるアルバレア家やカイエン家ですらも突っぱねるその屈強さは、中立を決め込んでいる帝国貴族の面々から歓迎されていることが多い。

その家の養子であるリィン……そして、彼が士官学院に通うとなれば、婚約者である彼女も後を追う形で行こうとするだろう……その光景が目に浮かび、スコールは苦笑した。幸いにも、先日エレボニアとリベールとの間で留学制度に関わる取り決めが締結されたのだ……オリビエはそれを利用する形で内外からクラスの面々を集めるつもりのようだ。

 

「とはいえ、依頼だからね……どうだろう?」

「………アタシ個人としては、“鉄血宰相”に個人的恨みみたいなものがあるし……いいわ、その話……引き受けることにするわ。あの男が泡吹く姿を拝みたいしね。」

「フフフ、サラ君とは良い酒が飲めそうだね。」

「とか言いつつ、先日は二人して騒いでいたではないか……!」

「ははは………」

そうしてオリビエの頼みを引き受けることになり……サラとスコールはそのことをヴィクターとアリシア、クラウスに伝えた……ラウラに伝えなかったのは、『驚かせたいから』だそうだ………そして、二人が学院に教官として着任し、その<Ⅶ組>で執り行う『特別実習』のテストメンバーが集まる日……

 

「ふむ……」

その光景に意味深な笑みを浮かべるライダースーツに身を包んだ少女、アンゼリカ・ログナー……

 

「えと………」

どうしてそうなっているのか理解できなかった幼い容姿の少女、トワ・ハーシェル……

 

「スコール教官、其処にいる人物は?」

スコールに問いかけた見るからに大らかそうな風貌と性格を持っている少年、ジョルジュ・ノーム……

 

「ああ。逃げ出そうとしたのでとっ捕まえてきた四人目……クロウ・アームブラストだ。」

「…………」

「ふぁ………」

簀巻きにされて気絶しているクロウを担いできたスコールの姿があった。そして、その光景に半分呆れつつも欠伸をするサラがいたのであった。それから二ヶ月……サラは街の郊外の街道で武器を振るっていた。

 

「はあっ!!」

銃と剣……本来ならばどちらかに傾倒する戦闘スタイルでありながらも、彼女はそのやり方をずっと貫き通してきた。猟兵団や軍にいた時の銃捌き、師匠から教わった剣術、そして最愛の夫から教わった複数の武器を用いた戦術……それらがサラを作り上げ、磨かれてきた。その相手は魔獣……とはいえ、並の魔獣では相手になるはずもなく……あっさりと退けたサラは武器をしまい、振り向くと……そこには最愛の人が彼女の戦いを見ていた。

 

「はぁ……気配の隠し方にますます磨きがかかってるわね……『結社』にいた時よりも怖かったわよ。」

「サラ相手だとそこまでやらなきゃ意味ないからな。『漆黒の牙』の方がもっと凄いが。」

「あの子ね……つくづくカシウスさんの恐ろしさを垣間見るわ。」

猟兵……軍……そして、遊撃士。どれも、今のアタシ―――『サラ・バレスタイン』と言う存在を作り上げて来たもの。その過程で失ったものもあるが、得たものもある。目の前にいる人物も、その一つなのだと……

 

「さて、早く帰りましょ。今日はスコールが当番なわけだし。」

「はいはい、解りましたよ。お姫様。」

「………バカ」

でも、一つだけ心残りがあると言えば……妹の存在だった。生まれつき体が弱く、何かと世話を焼くことが多かった……遊撃士になって以来、あの場所には帰っていない。願わくば、無事に生きていることを……そう女神に祈った。

 

その一週間後、ベアトリクス教官から事情を聞いたスコールの提案でノーザンブリア自治州を訪れた。そこで聞いた話は……サラの妹は“行方不明”となっていたことであった。流石に時間が経ちすぎていたために詳細は掴めなかったが、死亡ではないということにサラは少しばかり期待を抱いた。いつか、彼女と出会えることを……

 

だが、サラは気付いていなかった。その妹と呼んでいた人物は……既に“出会っていた”ことに。

 

 




あの戦術殻絡みで、そういう設定にしました。

そして、オリビエとの会話で出てきた内容は彼のエピソードで語る予定です。

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