アスベル・フォストレイト……『百日戦役』の引き金とも言える『ハーメルの悲劇』にて<聖痕>を発現し、『
そのクルー全員が女性……しかも、『美女』や『美少女』と呼んでも差し支えの無い人間であった。
~オレド自治州 上空~
『リベル=アーク』崩壊より三ヶ月後……アスベルは“仕事”を終えて『メルカバ』に戻ると、彼のサポートをしている正騎士の女性と艦のオペレーターを担当する三人の女性が声をかけてきた。
「お疲れ様です、フォストレイト卿。」
初めに声をかけてきたのは、レイアと同じ第三位付正騎士アミタ・フェルティアーノ。淡い赤の髪に翡翠の瞳で、長い髪を三つ編みにして纏めている。得物は剣と弓の二形態を持つ導力弓剣『アクセラレイター』を使用する。アスベルが守護騎士となった時からの付き合いであり、アスベルが信頼をおいている人物である。年齢的にはアスベルと同い年でもある。もっとも、アミタにしてみれば上司であるアスベルに対しての感情は……『信頼』というよりも『尊敬』に近い部分であるが。
「お疲れ様、アスベル。今回も大変だったみたいねぇ。」
「こら、キリエ!仮にも上司の前ですよ!」
「別にいいじゃない。アスベルだって認めてるわけだし、本国でお偉いさんと会ってるわけでもないし。」
アスベルを労いつつ、そうアミタと話すのは第三位付従騎士キリエ・フェルティアーノ。桃色の長い髪と瞳を持った女性で、アミタとは双子の姉妹の関係である。彼女もまたアスベルが守護騎士となった時からの付き合いであり、他の従騎士やアミタとの緩衝的役割を持つ。得物はアミタと同じものを使用している。キリエとしては、アスベルに対して好意があるものの……自分の上司である“彼女”の手前があるので、今のところは仲の良い異性の友達と言うスタンスに収まっている。
「も、もう……すみません、フォストレイト卿。」
「あはは……アミタさんもお疲れ様です。」
その当時の年齢で言えばアスベル、アミタ、キリエは8歳……本来の筋で言えば守護騎士のサポートメンバーに選ばれること自体が異常なのだが……そのあたりを解決したのは総長であるアインの存在であった。アミタとキリエは“孤児”……彼女らが5歳の時にアインが拾い上げ、直々に鍛え上げた。彼女との関わりの中でシルフィアとも出会い、シルフィアも彼女らの想いに気付いていた……奇しくも同じ人物に拾われた者同士として仲が良いらしい。
アスベル自身も彼女らと最初出会ったとき、面食らったのは言うまでもない……アミタはアスベルの補佐および『メルカバ』の指揮代理、キリエは操縦士を務めている。
「レベッカさんにリアさんも元気そうで何よりです。」
「おう!って、たった二時間しか経ってないけどな。」
「レベッカ、フォストレイト卿……アスベルさんのお世辞なのですよ。それぐらい察しなさいな。」
「う、うるせーな!それぐらいわかってりゃい!」
そう話しかけられたのは、キリエと同じ従騎士である淡い金髪と深い蒼の瞳を持つヴィクトーリア・エクセリエル、ワインレッドのツインテールに赤紫の瞳を持つレベッカ・グランディシール。ヴィクトーリアはエレボニア帝国西部の貴族出身で、身なりの整った騎士服に身を包み、得物は斧槍。レベッカはカルバード共和国の出身で、祖先に極東地方の人間がいた傾向からかまるで“番長”とも言われるような恰好をしており、格闘術を駆使する。
この二人もアインが直々に見出してきたものであり、一通りの戦闘訓練後にアスベルのもとへと配属された。この二人は元々いたキリエ以外のオペレーターの後任として二年前に配属された経緯を持つ。配属された当初は互いにいがみ合っている敵国の人間同士と言うこともあってギスギスしていたのだが……
『…………』
『うう………お菓子作りが得意な守護騎士って前代未聞ですよ……』
『流石、アスベルねぇ。』
『茶化すな。』
アスベルの作った菓子の前にプライドを完全に折られ、それからは今までの険悪さはなくなり、軽口を言い合える仲になっていた。その過程でアミタもプライドを折られていたのであるが……
「ま、仔細は追って話すけれど……このままヘイムダルに向かってほしい。通信があったら知らせて。」
「わかりました。」
アスベルはそう言ってブリッジを離れ、休憩室に足を運ぶ。そこに備え付けられたカウンターの席に座ると、その向こうにいた従騎士と既にカウンター席にいた少女が声をかける。
「アスベルさん……失礼しました、フォストレイト卿。」
「気にしなくていいよ。とりあえず酒以外で一杯もらえるかな。」
「解りました。」
栗色の髪をサイドテールでまとめ、緑の瞳をもつ少女……ルミネ・メルレイユ。一年前に配属された新参者であるが、他の従騎士の面々にも引けを取らない実力を持っている。彼女は主にこの艦の物資面を担当している。
「そして、ティシーさんもお疲れ。」
「はい。」
薄い媚茶色のウェーブがかった髪に黄金の瞳の少女……ティシー・オルグランド。戦術オーブメントおよび動力系統の管理を担当している。
ルミネとティシーはこの艦の中では非戦闘要員的部類に入るものの、星杯騎士として一通りの武術訓練を受けている。曲がりなりにも従騎士としての実力を持っている。ルミネはともかく、ティシーに関しては元々引きこもりがちであったが、彼女の才能を知ったアスベルが引き抜いたのだ。この艦にはアスベル以外男性がいないということもあって、彼女の対人的な恐怖は次第に改善され、現在では完全に克服している。ちなみに、アスベルは流石に肩身が狭いということもあって男性の配属を打診しているのだが……アインに却下を食らっている。
アスベルは他愛ない会話をした後、執務室で仮眠をし……ふと、後頭部に心地よい感触を感じて目を開けると………
「え、あ、そ、その、フォ、フォストレイト卿……こ、これは、ですね……」
自分の部下であるアミタが膝枕をしてくれていた。アスベルが目を覚ましたことにアミタは慌てふためくが、アスベルは少し考えた後……
「心配してくれたんだよな。ありがとう、アミタ。いつも助かってるよ。」
「あ、はい……」
「いや~、眼福だねえ……」
そのお礼の言葉を聞いてアミタが頬を赤く染めていると聞こえてくる特徴的な声。アスベルは上半身を起こし、その声の方向にいる人物―――アスベルの部下であり、アミタと同じ正騎士であるレイア・オルランドの方を向く。
「レ、レイア!?」
「はぁ……ま、いつものことだからいいけれどな。」
レイアのからかい癖はいつもの事で……それにはアスベルも時折頭を悩ませることもあった。尤も、パートナーの一人であるだけに今更と言った感じで……ある意味悟りの境地を開けるかもしれないと思った。
「ま、いっか。ヘイムダルに野暮用があるから、レイアにも来てもらうよ。」
「了解、アスベル。」
「はぁ……」
疲れた表情を浮かべるアミタをフォローしつつ……アスベルとレイアは帝都ヘイムダル郊外に降り立った。彼らの行く先は………
~カレル離宮~
二人は応対したメイドに案内され、客室に招かれる。そこにいたのはアスベルらと面識があり、この国の皇族に名を連ねる風流人―――オリビエことオリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子であった。
「やぁ、よく来てへぼっしゅ!!」
「フッ……あのお調子者にはいい薬だな。」
「そうですね。」
出迎えたオリビエを反射的にハリセンでぶっ叩いたアスベルとレイア……その光景を傍から見ていたミュラーはそれを見て清々しい表情を浮かべていた。彼の中々見れない表情を見た彼の妹であるセリカも笑みを零した。アスベルらがそうした理由……それは、彼等を呼び出したのは他でもないオリビエであったからに他ならない。ハリセンで叩かれたオリビエは恍惚の表情を浮かべつつも立ち上がった。
「フフ、出会い頭にハリセンとは……流石わが親友じゃないか。」
「ミュラーさん、もう一発いっても?」
「許可しよう。」
「容赦ないねぇ……」
「てなわけで、レイア。」
「オッケー」
次の瞬間、天井に磔にされるかの如く飛ばされたオリビエの姿であった。それでいてもケロリとしているオリビエの姿に、『こいつギャグ補正持ってるんじゃないのか?』とこの場にいたオリビエ以外の面々が少なからず疑問を呈したのは言うまでもない。それはともかくとして、呼び出した本人の話を聞くことにした。
「さて、僕は僕なりに色々“悪あがき”をさせてもらっているが……アスベル君に手伝ってほしいのだよ。」
「俺に?」
「そう……君ともう一人……ルドガー君にね。他にも手伝ってほしい人には声をかけて承諾してもらっているよ。」
オリビエが理事長を務めるトールズ士官学院……その場所にて手伝ってほしいという言葉には、流石のアスベルも面食らった表情を浮かべていた。
「そういう表情になるよねぇ……これも理由があるのさ。」
四ヶ月前……リベールとエレボニアの国家元首同士で結ばれた合意項目の中にある“留学制度”に関してのもの。だが、いきなり留学とはならないのも常。とりわけ、リベールとエレボニアは『百日戦役』終結からまだ十年少ししか経っていないだけに、互いの感情もいいとは言えないのが実情である。それと、エレボニア帝国政府代表のギリアス・オズボーン宰相……彼の政策と近年における帝国の動きからしても周辺諸国に良い影響を与えているとは到底思えない。残念なことに、これが見紛う事なき事実である。
そこでオリビエは、まず元帝国領であった地方の出身者の受け入れから行うことにし、自ら足げに通っては頭を下げるという営業みたいなことを積極的にこなしていた。その結果としてアルトハイム地方とレグラム地方から数名ではあるが、帝国にある教育機関への留学を行えるような体制が整った。そして、それを加速させる意味においてもリベール本国出身者……その一人であるアスベルに白羽の刃を立てたのだ。
ルドガーに関しては、おそらく『結社』に対しての牽制役として配置する思惑があるのだろう…『結社』の人間がそう簡単に動くかどうかは解らないが……そう考えつつも、アスベルは問いかけた。
「まぁ、それに関しては了承したけれど……こっちから提示する条件がある。それを飲めるのならば本格的に話を詰めよう。」
「そう言うと思っていたよ。僕もタダで君を受け入れられるとは思っていないからね……最大限の努力を約束しよう。」
一通りの条件を詰めた後……二人はカレル離宮を出た。この先、どう動くかはわからない……それでも、打てる手はすべて打つ。この先に待ち受ける未来を全て覆すために。その二人が向かった先は……
~帝都ヘイムダル アルト通り~
人口80万人という大陸西部でも最大規模の人口を有するエレボニア帝国の首都―――『緋(あか)の帝都』ヘイムダル。その一区画の通りにあるアルト通り……二人が訪れたのはその通りの一角にある建物。遊撃士協会帝都東支部……いや、正確にはその前に『元』という肩書がつくのであるが……二人は感慨深そうにその建物を見つめる。
「ここには数回足を運んだ程度だったが……それでも懐かしく感じるな。」
「そうだね。私やアスベル、シルフィやシオンにとっては……」
リベールにおける『クーデター事件』と連動する形での『帝国ギルド連続襲撃事件』……その事件の後、オズボーン宰相ら帝国政府は『遊撃士という存在が今回の事件を招き、人々に不安を与えた』という大義名分の下でギルドに対して大幅な行動制限をかけていったのだ。そのためにまともな活動が出来ず……結果としては撤退せざるを得ない状況に追い込まれた。ギルドの建物は帝都庁や各州の領主が管理する形となり、その後の治安活動は鉄道憲兵隊や領邦軍が一括して執り行うようになった。
だが、彼等には遊撃士のようなノウハウが存在しないため、その全てをカバーできるだけの活動は行えていないのが実状だ。
そもそも、遊撃士の仕事内容はそれこそ『依頼者の身分にかかわらず』、『多種多様の仕事』を引き受ける……それこそ、治安活動とは縁の遠いものまで引き受けることがあるのだ。対して鉄道憲兵隊と領邦軍の本分は『治安維持』……それから逸脱した物を引き受けたとしても、解決は難しい。
それに、遊撃士は本来単独行動および二人一組を前提としている反面、鉄道憲兵隊と領邦軍は『軍隊』……集団での活動を前提とするものがそう言った行動など取れるはずもないということに、今の政府を与る人間は本気で『何も考えていない』と異論を放たれても答えられないであろう。その辺はそれらの治安部隊があることを盾にするだろうが……鉄道の通っていない場所は何もしないと言っているのに変わりない。それこそ、『ハーメル』の一件のような……
そう考え込んでいると、二人に声をかける老人の姿……二人にしてみれば、『顔馴染』のある人物であった。
「おや、アスベルにレイアではないかね。随分と逞しくなったようだ。」
「お久しぶりです、ヘミングさん。」
その老人―――ヘミングはこの通りで喫茶店を経営しているマスター。昔は名を馳せた奏者であり、先代皇帝とは幼い頃からの顔馴染であり、愛用していたリュートを下賜されたことがあるらしい。その証拠とも言うべき写真が店の片隅に置かれている。あと、皇族―――オリビエもこの店によく顔を出すことがあり、彼曰くヘミングは『二人目の師匠』と言っていた。その彼が持っている手提げの買い物袋を見て、アスベルが尋ねた。
「そちらも元気そうですね……珍しく、ヘミングさんが買い出しですか?」
「今日はオーラフの若造が帰って来るらしいのでな。あと、エリオットが誕生日を迎えてな……フィオナと相談して、今夜はうちでちょっとしたパーティーをするのだよ。良かったらどうかね?」
「……是非。レイア、向こうに連絡しといてくれ。」
「りょーかい。」
音楽喫茶『エトワール』で行われたささやかなパーティー……エリオット・クレイグの誕生会。彼や彼の家族とは初対面であったが、すぐに打ち解けられた。その理由は……
「誕生日というこの日を迎えられたこと……女神様、感謝いたします。」
「と、父さん!」
「あらあら……」
「まったく、相変わらずだな……」
「「………」」
要するに、オーラフが“赤毛のクレイグ”という異名を感じさせないほどの親馬鹿を発揮していたのだ。これにはアスベルとシルフィアの表情が凍り付いたのは言うまでもない。そんなハプニング(?)がありつつも、楽しい時間は過ぎて行った。
ちなみに、アスベルのサポートメンバーのイメージですが……
アミタ・キリエ→なのはINNOCENT(アミティエ・フローリアン、キリエ・フローリアン)
ヴィクトーリア→なのはVivid(ヴィクトーリア・ダールグリュン)
レベッカ→なのはVivid(ハリー・トライベッカ)
ルミネ →あかね色に染まる坂(長瀬湊)
ティシー→ビビッドレッド(四宮ひまわり)
です。偏りが激しいのは仕様です。