英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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レイアの扉 ~変わりゆく勢力図~

 

~ヘイムダル ヴァンダール家~

 

アスベルとリィンに合流する前……仕事を終えたシルフィアとレイアはヴァンダール家にいた。その屋外演習場で得物を持っているのはレイアと……その反対側に立つ馬上槍を構える女性の姿。煌びやかに輝く銀色の長い髪を持つ女性の名はシルベリア・ステイルス。レイアとシルベリアの因縁……それは、レイアが『赤い星座』にいた時代……八年前に遡る。

 

帝国軍と『赤い星座』との戦闘……圧倒的実力を以て奇策を用いる猟兵団相手に正規軍はなす術もなく……

 

『…………』

『ぐっ………』

シルベリア自身もまた、自分の持つ槍よりも数倍の重さがあろうブレードライフル……並外れた膂力を持つわずか十歳の少女に完膚なきまでに叩きのめされた。この戦いで生き残ってしまったシルベリアは鍛練を重ねた……そして、自身が所属する第十二機甲師団の師団長にまでその実力を以て上り詰めたのだ。

 

だが、その少女との再会は思いがけないものであった。彼女は猟兵ではなく……シルベリアと同じ軍人。しかも、『百日戦役』で刃を交えたリベール王国軍……シルベリアは失望した。『何故あのような小国の軍人に』……そう思ったシルベリア。そして、彼女はレイアに対して手合わせを願った。そして今、こうして刃を交えることとなった。場所の関係でヴァンダール家の屋外演習場にいる。そして、シルベリアが問いかけた。

 

「レイア・オルランド……かつての牙を顰めたその真意……私が勝ったら聞かせてもらおう。」

「……はぁ。ま、いいよ。」

この手の人間はレイア自身も何度か刃を交えているだけにため息が出た。だが、もはや戦闘は不可避……レイアは息を整え、自分の得物である魔導突撃槍『レナス』を構える。それを見たシルベリアは、笑みを浮かべる。

 

「ほう……よもや、似たような得物とはな……そのような脆弱な槍で、勝てると……舐めないでもらおう!」

そう言って放つ闘気……その闘気を感じつつも、レイアは諦めたような表情を浮かべ、槍を構える。

 

「解ってないのはどっちなんだか……久々に、『少し本気』で行くよ。」

レイアもシルベリアと同じぐらいの闘気を解放し、槍を構えた。

 

「エレボニア帝国軍第十二機甲師団長……“鋼の槍聖”シルベリア・ステイルス、いざ、参ります!」

「リベール王国軍独立機動隊三席……“赤朱の槍聖”レイア・オルランド……いきます!」

互いに“槍聖”と謳われる者……その戦いが幕を開ける。同時に駆け出し、ラッシュをかけるのはシルベリア……だが、リーチ差をもろともせず、レイアは滑り込ませるように突きをシルベリアに向けるが、それらを弾き返すように振るう。見た目のリーチ差からすれば圧倒的にシルベリアが有利……だが、実戦経験が豊富なレイアにしてみれば、その攻撃すらも温いものと感じざるを得ない。

 

「ならば……こうするまでだ!」

シルベリアは地面を抉るように突きを繰りだし、土ぼこりを巻き上がらせる。これを見たレイアは咄嗟に下がる……その判断の虚を突くように、土埃の中から飛び出したのは土属性の槍―――『アースランス』であった。これを見たレイアはオーブメントを駆動させつつ、相手の出方を待った。だが、晴れていくその視界の先にシルベリアの姿はなかった。彼女は気配を探り……その殺気が迫る方角―――レイアの直上から迫りくるシルベリアを捉えた。

 

「………っ!!」

この状況では反撃もおろそかになる……レイアは回避に専念しつつも、すかさず切り込む。これにはシルベリアも上手く反応し……互いの得物がぶつかり合い、一進一退の状態へと変わる。

 

「……何と言うか、流石だな。“鋼の槍聖”とはよく言ったものだ。」

「本当ですね。」

それを傍から見ているミュラーとシルフィア。見るからにこの戦いは一進一退……だが、同じくこの戦いを見学していたセリカはレイアの違和感に疑問を感じていた。

 

「シルフィ、レイアの膂力的には加減しているように見えるけれど……」

「……おそらくは、相手に全力を出させるつもりです。その上で、自分も全力を出すのでしょうね。」

立場が変わったとはいえ、『相手の全力を、全力を以て叩き潰す』……『赤い星座』としての本質が彼女に根付いていることには傍から見ていたシルフィアが述べた率直な感想であった。

 

「あれで、全力ではないと?」

「ええ……見ていたらわかると思いますよ。」

ミュラーの言葉にそう言い切ったシルフィアの言葉を知るのは、この十分後であった。

 

「……(このままだと拙い……ならばっ)」

既に戦闘を開始してから七分……互いに一進一退……このままでは、自分がいずれ押し負ける……そう感じつつあったシルベリアは、一度距離を取り、構える。そして、己の出せる全力を以て……地面を蹴り飛ばすように踏み込み、人が知覚できる速さすら超える……『槍の聖女の再来』とも謳われた彼女が繰り出すSクラフト……神速の突撃槍『神技セイクリッドクロス』をレイアに向ける。未だに構えていないレイアの姿を捉えたシルベリアに笑みがこぼれた。

 

―――勝ったっ!

 

その一瞬の慢心を、レイアは逃さなかった。そこからさらに飛び退き、彼女も構える。そして……

 

「はあっ!!」

彼女の槍の切っ先に自分の槍の切っ先を合わせる……神業とも言えるその所業を………成し遂げた。だが、彼女はここから、更なる力を解放する。『レナス』が展開し、巨大な光の槍を顕現させる。そして……

 

「一閃必中………『神技グランドクロス』!!」

「きゃあああっ!?…くっ……」

“鋼の聖女”アリアンロードが使っていた技『神技グランドクロス』……先日の事変でその手ごたえをつかんだレイアと、最早絶技を超えたその技の冴えは誰が見ても『神技』の名に相応しいものとなっていた。その技をまともに受けたシルベリアは崩れ落ちるように倒れ、意識を手放した。

 

シルベリアが次に目を覚ましたのは、ヴァンダール家の屋敷……客室であった。傍にいたレイアの姿を見ると、シルベリアは謝罪の言葉を述べた。

 

「済まない……先程の言葉は非礼とも言うべきだったな……許してくれ。」

「ま、いいけどね。猟兵だったことは事実だし……今の私も、過去の私も、レイア・オルランドという人間には変わりないし。」

「……そうか。」

完敗という他なかった……シルベリアはレイアに先ほどの言葉が、自分の中で思っていたイメージを崩されたことに対する自分勝手な失望だと釈明した。それにはレイアも戸惑ったが、過去も今も……自分という人間は捨てていないのだと言葉を返した。

 

幼い頃から両親の愛情と戦場の血の匂い……相反する環境で育ってきたレイアにしてみれば、真っ当な生き方をしているシルベリアはまぶしいと感じるほどであった。そもそも、ある意味達観した生き方が出来ているのは、一度死んで転生しているという事実があるからなのかもしれないが……

 

ヴァンダール家を後にしたレイアはシルフィアと話しつつ……アスベルらとの合流地であるヘイムダル駅へと向かった。

 

この一ヶ月後……シルベリアは自ら師団長の座を降りた。そして……

 

「……行くのね。混迷の地に。」

「ええ。私はまだまだ視野が足りない……彼女との戦いで実感したことだから。」

最低限の荷物を持つシルベリアを私服姿のセリカが見送りに来ていた。シルベリアはこれから大陸各地を回り……今取り巻いている現状を見る……そのための旅であると、かつて同じ師団長であり、親友の間柄であるセリカだけに話した。

 

「元気で……気を付けてね。」

「セリカこそ……エレボニアのことは、貴女に任せます。」

シルベリアは大陸横断鉄道の車両に乗り込み、彼女を乗せた蒼の車両は静かに駅を離れていく。それを見届けたセリカは踵を返して、その場を後にした。そして、それと同じころ……

 

 

~レイストン要塞~

 

「クロスベルに、か。まぁ、シルフィが行くよりかはマシだろうけれど……」

「反論できないのが辛い……」

「しょうがないよ……」

レイアは今後の情勢を鑑み、先んじてクロスベル入りすることにした。ただ、あの地に関してはクロスベル大聖堂を預るエラルダ大司教が根っからの封聖省嫌いであり、星杯騎士がクロスベル入りすることを拒んでいる。幸いにも総長絡みの人間は身元が割れていないのでバレる可能性は低い。そう言った意味ではレイアの存在は非常に重要とも言える。

 

「まぁ、俺はクロスベルに直接行けない可能性が高いし、シルフィアは総長絡みがあるからバレる可能性が高いしな……守護騎士関連は流石にバレてないから、シルフィアをクロスベル入りさせることも考えてるけれど。」

「セシリアさんは?」

「それこそ一発でバレるでしょう……」

いろいろ面倒事は増えるが……これで『結社』が関わってきたら、あの大司教はそれでも『星杯騎士をクロスベル入りさせるのに反対』と言えるのだろうか。寧ろ、自身の責任はかえって増すだろうが。

 

レイア・オルランドはその後、ロレント支部からの応援という名目で遊撃士としてクロスベル入りすることになる。S級遊撃士という肩書を持ちうる彼女が助っ人に来たことに受付のミシェルは歓喜し、A級遊撃士であるアリオス・マクレインは複雑そうな表情でレイアを見ていた。クロスベルで働き始めてから二週間が過ぎたある日……寝泊まりしているアカシア荘の屋上から空を眺めていた。

 

「………ん?」

レイアはふと、一筋の流れ星を見た。それを見て何故だか不思議な感覚がしたが……その感覚に戸惑いつつも、明日の依頼のために部屋へと戻った。その彼女の感覚は、間違いではなかったと知ったのは……その一週間後。彼女の住まいを尋ねたのはなんとアスベル。意外とも思える来訪者にレイアは焦りつつも、中に招き入れた。

彼から話された内容……それは、

 

「え………本当なの?」

「そうらしい……ただ、死体は見つかっていないから生きている可能性はある……としか言えないな。」

「そっか……」

アスベルから聞かされたのは『赤い星座』と『西風の旅団』の団長同士の一騎打ち……その経緯は、互いの副団長が相手の団員に負傷させられたことから端を発したものであった。傍から聞けば第三者の疑いありと判断できるもの……だが、彼等は全面戦争的な戦いとなり、最終的には『西風の旅団』が辛くも勝利したが……その損害は大きいものとなった。

 

『西風の旅団』は団長であるレヴァイスと副団長のアルティエス、フィーや数名の幹部たちが生き残った程度で、他のメンバーについては生死不明の混乱状態であった。『赤い星座』は団長バルデル・副団長シルフェリティア共に行方不明……もう一人の副団長であるシグムントが暫定的に団長代行として『赤い星座』をまとめることとなった。そして……この戦いに関与しなかった『翡翠の刃』が突如その姿をくらましたという。

 

「捜索はこちらで内密にやっている……とはいえ、場所が場所だからな。」

彼等が衝突したのはアイゼンガルド連峰……過酷な条件のフィールドでの一騎打ちというのは流石にアスベルも凍り付いたのは言うまでもない。『翡翠の刃』が姿をくらました理由は解らないものの、心当たりはあった。それは、クロスベル……あの場所に関わるとなれば、いずれ姿を見せる可能性がある……アスベルはそう感じつつも、レイアの頭を撫でた。彼女は……涙を零して泣いていた。

 

「まったく、いつもは大胆不敵なくせに……変なところで泣き虫だな、レイアは。」

「だって……だってぇ………」

「……泣きたいときは泣いていい。それでこそ、人間なのだから。」

あんな人間でも、自分の両親なのだと……それを悲しむレイアをアスベルは慰めていた。

 

 

~アイゼンガルド連峰~

 

「バラバラになっちまったか……状況は?」

「『デューレヴェント』やそのクルーは無事ですが……こちらは被害甚大ですね。」

「そのようだな……生き残ってるのは?」

「戦いに出たのでは団長を入れて十名ほど……クルーを合わせても二十名ほどです。その他は生死が掴めていない状況です。」

レヴァイスは自身の団の状況を聞くと、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。そして……思考すると、

 

「お前ら……もし、俺があの地で旗揚げすると聞いたら……ついてきてくれるか?」

「無論ですよ、あなた。」

「ん。勿論。」

彼の言葉に生き残った面々は頷き、それを見たレヴァイスは苦笑を零した。だが、これも一つの『道』なのだと……

 

「解った。マリクの奴に連絡を……『翡翠の刃』に合流する。」

そう呟いたレヴァイスの見つめる先は……南東の方角を向いていた。火種が燻る混迷の地……その戦いは、既に始まりの鐘を告げていた。

 

 

 

 




ちょっと早めのイベント消化も兼ねています。

関係ないですが、ライノの花とアルノール家のライゼのミドルネーム……ヴァンクール大通りとヴァンダール……何か関係がありそうですね(凄く邪推)。

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