英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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リクがあったので、書いてみました。


ロイドの扉 ~空の奏人~

人には評価というものがある。その人の評価は、言葉の意味をどう捉えるかにもよるが……

 

 

―――ある者は『天性の交渉人(ネゴシエーター)』と言い、

 

 

―――ある者は『音を具現化するもの(イリュージョンマスター)』と言い、

 

 

―――ある者は『武の神童』と言う。

 

 

一見、どういった繋がりから見ればその言葉が繋がるのだろう……という風に思っても仕方がない。だが、これらは全て一人の人物に対する評価であった。その人の名前はルヴィアゼリッタ・ロックスミス……サミュエル・ロックスミス大統領の実の娘にして共和国でも五指に入るほどの実力を併せ持つピアニスト。そして、東方武術“泰斗流”の師範代の一人である。

 

 

~カルバード共和国 パルフィランス駅~

 

七耀暦1204年2月……クロスベル方面行の大陸横断鉄道を待つロイド・バニングス。そして、その隣にはルヴィアがいた。彼の叔父は仕事の関係で忙しく、親友であるニコルもコンサートの準備で忙しいということで見送りが出来ず、本来ならばルヴィアもそのコンサート絡みで忙しいはずなのだが……何故かそこにいるルヴィアは珍しく、ロイドに対して寂しそうな表情を浮かべた。

 

「そっか、ろっくんも故郷に戻るんだ。ルヴィアさん、寂しいです。」

「ええ……正直言って、ルヴィアと敵対することになるかもしれないけれど。」

「あはは、何を心配してるのかな~?私はいつでもろっくんの味方なのだよ、ワトソン君。」

「誰ですか、ワトソンって……というか、コンサートの準備があるんじゃないですか?」

「私を誰だと思っているのかな~?天下無敵のルヴィアゼリッタさんなのですよ。」

解りやすく結論だけを言うと、リハーサルを抜け出してまでもロイドの見送りに来たのだ。この行動力はロイドにしてみれば『当たり前』のようなもので、とうの昔に諦めていた。言ったところで聞くような人間でもない……

 

ロイド・バニングスとルヴィアゼリッタ・ロックスミス……二人の関係は、三年前に遡る。

 

ガイが(表向き上)亡くなって……クロスベルに身よりの居なかったロイドは彼の婚約者であったセシルの世話になるのは気が引け……親戚の居るカルバードに引っ越すこととなった。元々子どもの居なかった叔父夫婦はロイドを大いに歓迎し、実の子どものように育てていた。記憶の中ではおぼろげにしか残っていない父親と母親との触れ合い……それを思い起こさせるような行為に、ロイドは思わず涙を零した。

 

それから、ロイドは兄と同じ警察官になるべく勉学と鍛練に励んでいた。それから一ヶ月ぐらい経ったある日、思いがけない出会いをすることになる。いつものように朝の日課としてランニングをしていた……その日は、少し余裕があったのでいつものコースとは異なるルートを通っていた時……向こうから自分と同じような動きやすい格好でランニングに励んでいた少年の姿が目に入る。それなりに広い共和国の首都で出会った二人……

 

「へぇ~……警察官になるため、ですか。っと、自己紹介がまだでしたね。ニコル・ヴェルヌと言います。ニコルで構いません。」

「ロイド・バニングスだ。よろしくな、ニコル。って……ヴェルヌって、あのヴェルヌ!?」

「ええ、そうです……とはいっても、僕は会社を継ぐ立場とは程遠いですが。」

自ずと会話が弾み、朝は二人でランニングすることになり……次第に打ち解けていった。それから更に一ヶ月が過ぎたある日……自宅にロイドを招いたニコルは、頼みごとをした。

 

「へ?コンサートの手伝い?」

「ええ。君の叔父さんから話を聞いたのですが、楽器演奏もそれなりにできると聞いて……」

「って、そっちの手伝い!?俺なんかが入って大丈夫なのか?」

その頼みごとを聞いたロイドは内容を察し、驚愕した。そのコンサートは噂程度にロイドも聞いていたが、共和国中のアーティストが一堂に会して執り行う一大イベント。そのようなプロフェッショナルがたくさんいる中に、音楽に関してはアマチュアの自分が入って問題は無いのか?と……その疑問を解決するかのようにニコルが言い放った。

 

「ロイドはあくまでもサポート的なものですが……練習はみっちりやりますから、覚悟してくださいね。」

「………ハイ。」

ニコルは普段おとなしい性格なのだが……音楽の事となると、一切の甘えや妥協を許さない鬼軍曹さながらの気迫を見せる。そうなった彼を止める術などない……ロイドに残された選択肢は、彼の依頼を引き受け、無事にコンサートを終わらせるために努力するということだけであった。そんなこんなでニコルの地獄の特訓が始まり、その時にストレスの爆発でリミッターが外れかけたが……何とかこらえて、無事(?)にコンサート当日を迎えることが出来た。そんなロイドの様子というと………

 

「少し、やりすぎましたかね?」

「………(ここを、本番を乗り切れば……終われるんだ…ゴールできるんだ……)」

完全にグロッキーであった。今のロイド・バニングスの奥底にあるのは、コンサートを無事に終わらせることだけ。その様子をフォローしつつも、会場入りする二人……それを見ていた一人の少女がいた。ニコルの姿を見て、笑みを零した。

 

「ニコル君、ようやく参加する気になったんだね。にしても、隣の子は誰なのかな……おっと、いけない。私も行かねば……」

気になることを口にしつつも、見るからに奇抜な格好の少女も彼らの後に続くように会場入りした。

 

一方、カルバードの大統領府では……一騒動起きていた。

 

 

~共和国大統領府 大統領執務室~

 

「―――なんだとっ!?テロリストからの犯行予告だとっ!?」

そう怒号を上げるかのごとく叫んだのはサミュエル・ロックスミス大統領。政務官はその声に驚きながらも、報告を続けた。

 

「は、はい。『ただちに大統領の任を降りろ。さもなくば今日の正午、血塗られた“鎮魂歌(レクエイム)”が流れ、貴殿に悲劇が襲うであろう。』……現在、大統領府の半径100アージュ以内の立ち入りを禁じております。狙撃可能ポイントについては、既にこちらで差し押さえております。」

「ふむ……ひとまずは、安心というべきか。いや、自爆テロの可能性もある。警戒は厳に、と。それと、報道機関を通じて市民に対し、この事態に対して冷静に対応するようにと。ただ、テロリストということは伏せておくように。」

「りょ、了解しました!」

犯行予告の文を読み上げた後、この周辺の狙撃可能場所の徹底的な捜索と、この手紙を送り付けた人間の調査を行っていると告げた。ロックスミス大統領は少し考え込んだ後、指示を出し……それを聞いた政務官が慌てて退室すると、ロックスミス大統領は机の上に残されたテロリストが出したと思しき手紙を見やりつつ、考え込んだ。何故、今回のテロリストは犯行文を送り付けたのか……そして、珍しくも時間指定されたもの。その時間まであと二時間……一体何が起こるのか……それの見当がつかぬまま、時間は刻々と過ぎていく。

 

 

~カルバード共和国歌劇場『トライヴァルケル』~

 

一方その頃、コンサートは開幕し……大統領府の中で起きている騒動などとはお構いなしに、どんどん進んでいき……そして、プログラムは午前の部最後の演目………ルヴィアゼリッタ・ロックスミスとニコル・ヴェルヌの合同セッション。そして、ロイドはそのバックミュージックの一角を担うことになったのだが……

 

「ニコル君のしごきは大変だっただろう?」

「え、ええ、まぁ……」

「ま、気合を入れるのも解るわ。なんたって、“空の奏人”とのセッションなんだもの……それより、君はどういう経緯で?」

「えと、彼の頼みでこうなりまして……(ニコルも結構知られてるんだな……そういや、向こうに座ってるのがその“空の奏人”……どういう人なんだろ?)」

バックミュージックのメンバーにある意味同情と言うか憐みの感情を向けられ、ロイドは困惑した。とはいえ、会場に入る前のグロッキーさは抜けきっており……そういった意味では感謝したいと思った。演奏は始まり、ロイドもそれに付いていこうと懸命にサポートし………演奏が終わり、拍手の雨が降ろうとした瞬間、

 

――― 一発の銃声が響き渡る。

 

観客席中央の通路で硝煙を上げる銃を持つ一人の男性。彼は銃を構えると、ゆっくりとルヴィアゼリッタに近寄る。一方、観客たちはパニック状態となって一目散に逃げ出し、アーティストたちの多くも逃げ出していた。だが、男性に銃口を向けられているルヴィアゼリッタ……その近くにいたニコル……そして、その状況を見てニコルに近づいたロイドの三人がステージ上に残っていた。

 

「ククク……ルヴィアゼリッタ・ロックスミス。貴女に罪はないが、貴女の父親がいけないのですよ?」

「……」

「(ニコル、これって……!?)」

「(恐らくはテロリストです。『反移民政策主義』を掲げる人達……父さんから、話だけは聞いたことがあります。)」

「貴女には人質になっていただきます……お父上が賢明なお方ならば、無事に解放して差し上げますよ。」

そう呟いた男性は指を鳴らすと、数にしておおよそ十人……そのいずれもが、マシンガンを装備していた。この状況を見たロイドは“絶体絶命”であると感じた……だが、ルヴィアゼリッタは違った。

 

「はぁ………ルヴィアさんの邪魔をするなんて……頭、冷やしてあげちゃうよ。」

そう言って飛び退くと……ステージ上に置かれたピアノの背後に回り……片手でそのピアノを“押し飛ばした”

 

「なあっ!?」

それを見たその男の光景は……迫りくるピアノの姿であった。その激突によって巻き上がる粉塵と振動。

 

「ロイド!?」

「この状況だと、ニコルが被害を喰らうことだって考えられる……ルヴィアさんは、俺がフォローして見せる。」

その間にロイドはニコルを安全な場所に避難させた。この状況では、ニコルが被害を被らないという保証などない……一先ず安全な場所に預け、ロイドは“万が一”ということも考えて荷物の中に持ってきていた自分の武器―――『トンファー』を取り出すと、ステージに向かって駆け出していた。正直未熟な腕で彼女の手助けができるのか……そんなことを考えていたロイドは、ステージに戻った時……自分の目に映った光景に疑問を浮かべた。

 

「………へ?」

其処に映ったのは、完全に制圧されたテロリスト。ある者は天井にめり込み、ある者は床に……ある者は壁のオブジェになったかのようにめり込んでいた。一通り制圧が終わった状況……目をパチクリさせて呆然とするロイドの姿をルヴィアゼリッタが気付き、近寄って声をかけた。

 

「あれ、ひょっとしてニコル君の連れかな?」

「え?あ、はい。ロイド・バニングスといいます。にしても……お強いんですね。」

「にゃはは、ある意味私のお父さんのせいなんだけれどね~」

女性が強いというのは別に珍しい話でもないが、こうまで圧倒的実力は流石のロイドでも若干引き気味であった……ともあれ、何事もなくホッとして視線を見上げると……彼女の背後に鈍い煌きを感じた。

 

「(何だ………っ!?)」

よく目を凝らしてみると……それは、拳銃。トリガーを握っているのは、血塗れの男性。ルヴィアゼリッタの飛ばしたピアノの直撃を受けた男の姿であった。その銃口から予測できる銃弾の行く先は―――ロイドの目の前にいるルヴィアゼリッタ。それを悟った瞬間、ロイドの脳裏に過去の記憶がフラッシュバックする。

 

『―――可愛そうに。』

 

それは、自分の兄が亡くなった後……葬式での記憶。だが、それだけではなかった。

 

『―――………!しっかりしろ!!』

 

『―――くそ、こうなるんなら……ロイドと………セシルに………』

 

響き渡る男性の声……その片割れは聞き覚えのある自分の兄の声と、彼のおぼろげな視界…自分には覚えのない記憶。そして、その虚ろの視界に立つ男性……その全体像を見ることは出来ないが……彼が握っていたのは……

 

―――『拳銃』。

 

「!!うあああああああああっ!!!」

自分の全く知らない記憶……その記憶と、拳銃を向けられているルヴィアゼリッタ……その光景が重なり、ロイドの中の『何か』が外れ……思考とは関係なく、身体が反応して……そこで、ロイドの意識は途絶えた。

 

「…………えっ………」

一方、ルヴィアゼリッタは今起こった出来事を整理できずにいた。

ありのままに述べるならば、『ロイドという少年が叫びと共に碧のオーラを纏い、瞳の色が金色に染まるとその場から消え……悲鳴が聞こえて振り向くと、気絶している男の姿とロイドの姿があった』ということなのだが……流石の天才と謳われるルヴィアゼリッタでも全てを理解できなかった……理解できたのは……『この少年に私は助けられた』という事実だけであった。

 

 

「………っ……ここ、は。」

「……目を覚ましたか、ロイド。」

ロイドが次に目を覚ましたのは、叔父夫婦の自分の部屋であった。丁度良く入ってきた叔父に、ロイドは事情を尋ねた。

 

「えと、俺はどうして……」

「ニコル君が運んでくれた。事情は彼から一通り聞いている。」

あの後、一応病院で精密検査を受けたが、特に身体の大きな損傷はないということでニコルが知り合いに頼んでここまで運んだとのことだ。それを聞いてロイドは納得したものの、体中に鈍い痛み……筋肉痛のような痛みを感じていた。あの時自分が見たもの……そして、視界がまるでスローモーションになったかのような感覚……それが何なのか……今まで感じたことの無いものに、ロイドは考えたものの、答えが出るわけでもなく……一先ずは休むことを優先することにした。

 

 

~パルフィランス~

 

それから二日後……筋肉痛も取れ、朝のランニングを再開したロイド。すると、いつも合流する場所に“二人”いることに気付く。一人は親友とも言えるニコル。もう一人は……先日のコンサートで初対面だったルヴィアゼリッタの姿であった。

 

「あ、ロイド!もう大丈夫なんですか?」

「おはよう、ニコル……って、ルヴィアゼリッタさん!?」

「ハロハロー、ろっくん。おひさ~♪」

「な、何ですかその『ろっくん』って……ニコル、どうしてここにこの人がいるんだ?」

気さくに挨拶してくるルヴィアゼリッタ……そこまでの関係になった覚えのないこともそうだが、彼女のロイドの呼び名に疑問を呈しつつ、ニコルに尋ねた。

 

「実は、ロイドの事をしきりに尋ねられまして……で、『ロイドのことを紹介してくれたら、新曲提供する』という条件で教えたのですよ。」

「俺の個人情報はルヴィアゼリッタさんの新曲の価値と同じってどういうことだよ!?」

「失敬だなぁ。私の曲は億単位の価値があるのだよ、ホームズ君。」

「そういう意味で言ったんじゃありませんから!というか、ホームズって誰ですか!?……ああもう……何で、俺の事を?」

もうツッコミが追い付かない……ため息しか出てこないロイドであったが、根本的な質問を尋ねた。その問いに対して……

 

「そうだね~……私、こう見えて飽きっぽい性格でね………今やってることも、楽しいからやってるんだ………でも」

 

 

―――あの時のろっくん、カッコよかった。面白そうだとかそんなんじゃなくて……私、本気で『好き』になっちゃったかも。

 

 

「……………」

その答えにロイドは茫然とし…………そして、

 

「え”!?」

引き攣った表情を浮かべた。聞くからに一目惚れ……しかも、彼女は現在の大統領の娘。下手すると逆玉の輿になりかねない。だが、ロイドは困惑する一方であった。

 

「あはは……」

これにはニコルも苦笑を浮かべる他なかった………

 

 

~パルフィランス駅 ホーム~

 

『―――間もなく、クロスベル・エレボニア方面行き大陸横断鉄道が参ります。危ないですので、安全なエリアまでお下がりください。』

「……それじゃ、お別れかな。ありがとうルヴィア。休みが取れたら遊びに来るよ。」

「むぅ……向こうはエリィちゃんがいるし、よろしくやっちゃうんでしょ。」

「いや、意味わからないから。」

ぶっ飛んだ会話をいなしつつ、到着した列車に乗り込むロイド。そして、ルヴィアゼリッタのほうを向き直ると、ロイドは小さな箱を彼女に向けて投げ渡し、ルヴィアゼリッタはそれをキャッチする。

 

「色々騒がしかったけれど、俺なりの感謝の気持ちだよ。」

その言葉と共に扉が閉まり、列車はクロスベルに向けて静かに動き出していった。それを見送ったルヴィアゼリッタは投げ渡された箱を開けると……小さな銀耀石(アルジェム)が埋め込まれたブレスレットだった。それを見たルヴィアゼリッタは笑みを零した。

 

「まったく、無自覚にもほどがあるんじゃないかな、ろっくんは。こうやって女の子を口説いちゃうんだもの……うん、ルヴィアさんも一肌脱ぐときが来たようだね。ちょ~っと時間はかかっちゃうけれど……エリィちゃんに負けてられないからね。」

 

そう言葉を零し、決意したルヴィアゼリッタ……その意味を、ロイドはこの数ヶ月後に知ることとなる。

 

 




共和国と言う殆ど描写されていない場所なので、オリ設定です。

ネックとして考えたのはロイドが警察学校に行っていた時期ですが……そこら辺も考えてかなりぼかした書き方にしています。

ロイドが見た光景は『鍵』となります。

音楽やってる人がそんなことしていいのか?という疑問もありますが……非常時であれば、「何を使おうが生き残ればいい」が優先されます。相手は命すら厭わない相手ですので。

そもそも、テロリストがこんな時期から活動していたのかという疑問もなくはないのですが……お察しください、としか言えませんが。

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