英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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零の扉 ~オルフェウスの竪琴~(エピローグ)

~アルテリア法国~

 

法国の星杯騎士団本部……その執務室に、総長であるアイン・セルナートと、守護騎士第五位ケビン・グラハム……そして、先日第五位付従騎士として配属されたリース・アルジェントの三名がいた。ケビンからメルカバで報告した内容の詳細を説明していた。

 

「成程……“七の至宝”絡みなだけはあるということか。」

ケビンの口から語られた『影の国』―――“輝く環”のサブシステムにして、限りない人の願望を際限なく取り込むため、その中に多彩な可能世界を実現すべく自己組織化する世界を生み出し、変化し続ける代物。“輝く環”を失ったそのシステムが目を付けたのはケビンの<聖痕>。それに対して『何故自分が選ばれたのか』といった表情を浮かべているケビン。あの場にはケビンの他にも複数の守護騎士がいた……下手すれば、複数の<聖痕>がコピーされていたとしても何らおかしくはなかったが……それに対する疑問はセレストでも解らないという回答のため、これ以上の詮索は出来ないということで納得する他なかった。そして、『影の王』となったルフィナ・アルジェントの精神…その報告を聞いた総長は静かに笑みを零していた。

 

「―――とまぁ、これが『影の国』の詳しい顛末です……あの、総長?」

「ん?ああ……済まない。珍しくケビンがちゃんとした報告を上げてくれたからな。明日は女神様が降臨されるかもしれないな……リース、いい仕事だな。」

「いえ、私は特に。」

「あのですね……」

ケビンが真っ当な報告を上げてきたのはいつ以来であったか……これは、明日あたり女神の天啓でも降りてくるのかと言わんばかりの口調で総長が呟き、リースもそれに頷きつつ答えを返し、ケビンは冷や汗をかきながら二人の方を見つめた……そんなんで女神が降臨でもされたらこちらの命が持たないと率直に感じていた。

 

「それでケビン、“外法狩り”に代わる渾名はもう決めたのか?」

「ええ……それに関してはリースに相談して決めました。」

「少しは私を労わってほしい……ケビンの出すもの、全部ネタにしかならなかった。」

「うっ……そのことはもう謝ったやろ。」

「あの程度で私の怒りが収まると思ったら大間違い。ケビンには百貨店のパン全種10個ずつ買ってもらう。」

「……せめて9個ずつでお願いします。」

総長に渾名を変えることを伝えた後、ケビンはリースの所を訪れ……それからケビンのボケと言う名の珍ネーム祭と、それに対するリースの冷静なツッコミというコント(?)が繰り広げられ……何とか、アルテリア法国に到着する前に決めることが出来た。

 

「第五位“外法狩り”改め……“千の護手(まもりて)”ケビン・グラハム。宜しくお願いします、総長。」

「成程……姉の意思を受け継ぐか……了解した。リースも引き続き、ケビンの補佐を頼む。」

 

そのようなやりとりが交わされている頃、アルテリア郊外の小高い丘に佇む一組の男女。煌くような銀の髪を持つ男性と……その傍らには炎をイメージさせるような赤い髪の女性が立っていた。彼等の見つめる先はアルテリアの街並み……ふと、男性が口を開いた。

 

「会わなくて、いいのかい?総長からは『会ってもいい』と言われているのだろ?」

「―――いえ、いいの。あの子たちは自分たちで答えを出した……そして、あの場所―――『紫苑の家』で元々死んでいた身。既に死んでいる人間が顔を出して、あの子たちの決意を鈍らせたくない……」

「生真面目だね。」

「私にとっては褒め言葉のようなものよ。」

あの二人―――ケビンとリースは、答えを出した。そして、自らの道に向き合うと決めていた。そこに自分が姿を見せれば、その決意を揺らがすことになってしまう……彼等がこの先も生き抜いていくためには、この方がよいのだと。二人は言葉を交わした後、静かにその場を去ろうとした。去り際に女性は振り向き……心の中でエールを贈った。

 

『頑張って、ケビンにリース。私はいつでも、貴方達を見守っているから』

 

そう内心で呟いた後、女性は男性の後を追う様にその場を去った。

 

 

―――空は、これ以上ないというほどの晴天であった。

 

 

~???~

 

―――私は、生まれた。

 

―――幼い頃から、既に卓越した知識を持っていた。

 

―――その知識を以て、人を助けたい。

 

―――だが、現実はそう甘くはなかった。

 

 

『……何この子。』

 

 

『……化物め。』

 

 

疑いの眼差しを向ける大人たち……まるで魔獣のように扱う……同年代の子供達も、私をのけ者にした。そして……そのまなざしは、やがて彼等だけでなく……

 

『―――ゴメンね。許して………』

 

『―――済まない。………』

 

本来、私を救ってくれるはずの親までもが……私を、殺そうとした。

 

 

―――殺す?誰を?私を?

 

―――何故だ。何故こんなことになった?

 

―――私はただ、その知識を以て幸せになりたかった。彼等にも、幸せになってほしかった。

 

 

だが、少女の願いとは裏腹に……彼等は武器を取る。それを見た少女は本能的に悟った。そして……

 

 

―――ワタシノ幸セヲ壊スノナラバ………ワタシガ、全テヲ奪ウ。

 

 

燃え上がる家屋……床に倒れ込む血みどろの動かない村人……そして、返り血に染まった少女。彼女にとっての『全て』を壊したその日、彼女は壊れてしまった。その少女の人格……それを直したのは、自分を“魔法使い”と名乗った人間であった。

 

『……彼のようにはしませんが、君のその力……我々のために役立てていただきますよ?』

 

その問いかけに答えることは無く……“俺”は、“白面”によってこの世に生を受けた。それからの人生と言うのは……訓練漬けの毎日であった。特に考えることもなく、ひたすら剣を振り……ただ、彼の命令するままに敵を滅する。その繰り返しの毎日。そんな俺の日常は、“白面”の死をきっかけに変わってしまった。

 

「っ!?………この感覚、まさか……死んだのか?」

俺の中に刻まれた<聖痕>……それは、“漆黒の牙”とは異なり、その主であるワイスマンの生存を確認出来る……その反応があるからこそ、俺は彼に従うしかない。そう思ってきた……いや、それしか知らなかったというべきなのかもしれない。だが、彼の死と共に俺の<聖痕>も砕け散り、それによって抑制された“私”の記憶も蘇る。“俺”と“私”……その人格が混ざり合い……そこにいたのは、“私”でも“俺”でもない人格であった。

 

「………“僕”は、全てを掴もう。たとえ、相手が“漆黒の牙”や“剣帝”であろうとも。」

人に理解されない悲しみを背負った“私”と、彼の言いなりの人形であった“俺”………そこから生れ出た“僕”という人格。その本質を理解できるのは、もはや誰もいない………そして、彼女……“彼”は告げられた。

 

『………。ただ今を以て、貴女を『執行者』No.Ⅱ“流刃”として任命いたします。』

『畏まりました。』

“剣帝”の後継……“流刃”。僕はこの地位を得た。そして、僕は自分の使命を果たそう……

 

 

―――この世に、『御神』の力は一つだけでいい。

 

 

そう思った彼の心の中に響き渡るのは……『独占』。

 

僕は知った。ワイスマンが死ぬとき、彼が見てきた記憶の一部が……その中で、“漆黒の牙”が使っていた技巧は、紛れもなく『御神』の技。そして、ヨシュアのそのスピードについていけていた人間……アスベル・フォストレイト。彼もまた、『御神』の技を知る人間である……七耀教会星杯騎士団『守護騎士』第三位“京紫の瞬光”……その名は、ヨシュアから聞いたことがあった。小太刀二刀術の使い手……間違いなく、彼は『御神』の何かを知っている。それがどこまでかは解らないが……だが、僕の使命のために……彼を殺して、『御神』の技を担えるのは僕だけのものにするために。“漆黒の牙”は歩法ぐらいしか知らないようだから、生かしてやろう……だが、“京紫の瞬光”は惨たらしい死に様に仕上げてあげよう……せめてもの、慈悲としてね。

 

「………」

その光景を傍から見ていた使徒第一柱“神羅”ルドガー・ローゼスレイヴ。“彼”の異常なまでの執着さには、ルドガー自身も頭を抱えていた。以前手合わせした時、彼はルドガーの構えを見て即座に剣を向けてきた。とはいえ、アリアンロードに匹敵しうるルドガーの前には“彼”自身なす術もなかった。そして、その中で聞いた………『御神』という言葉。それで悟った……執着している。『御神』という技の存在に。

 

「(…………)」

悩んだ末にルドガーは静かにその場を離れ、人知れないところで転位した。

 

 

~レミフェリア公国 首都フュリッセラ~

 

北国レミフェリア公国……冬を迎え、肌寒い時期……首都の一角の酒場に、ルドガーと彼が呼び出した相手―――アスベル・フォストレイトの存在があった。正直、『幻焔計画』の事は伝えられないにしても、『このこと』だけは伝えておかないといけない。

 

「アスベル……新しい『連中』が増えた。その中の一人が、お前を狙ってるようだ。」

「………“向こう”から渡ってきた、ということか?」

「そうみたいだな……“教授”のおかげで、大変なことになったが……奴は、『御神』に執着してる。その言葉の意味はよく解らんが……」

俺としては、『使徒』として敵に売るような真似はしたくない。けれども、同じ転生を果たした“仲間”を見殺しにはできない……だからこそ、一番信頼の置けるアスベルだけを呼んだ。俺の言葉を聞いたアスベルは少し黙り込んだ後……

 

「そっか……悪いな。」

そう一言だけ返した……聞き遂げて勘定の代金を置き、立ち去っていくルドガー。扉が閉まる音を聞き終えると、アスベルはまるで『予め予測していた』かのような表情を浮かべていた。アスベルは勘定をテーブルに置き、酒場を後にした。

 

 

~???~

 

一方……クロスベル自治州からそれほど遠くない場所に、歴戦の勇士の風格を覗かせる一人の男性―――猟兵団『翡翠の刃』団長、“驚天の旅人”マリク・スヴェンド。そして、その隣にいたのはマリクと同格と噂される猟兵団『西風の旅団』団長、“猟兵王”レヴァイス・クラウゼルの両名であった。

 

「聞いたぞ、一騎打ちのこと。」

「ああ……今にして思えば、『罠』だったんだな。つくづく俺がバカだ……そして、バルデル(あ い つ)もそう思ってるだろう。」

『西風の旅団』の副団長“西風の聖女”アルティエス・クラウゼル……そして、『赤い星座』の副団長“赤朱の聖女”シルフェリティア・オルランドの負傷。不幸中の幸いにも双方ともに大した怪我もなかったのだが……その際に得られた証言から双方の印象が悪化し……団長同士による一騎打ちをきっかけとした全面戦争に発展。その際のルールとして“アイゼンガルド連峰の中で行うこと”としたことが、互いのプライドを上手く刺激した形となり……結果的に民間人への被害は0で済んでいた。

 

「気にすることは無い……全員死んだわけではないから、立て直そうと思えばできる……バルデルは?」

「怪我としては俺と同等だったが、あの高さから落ちたんだ……生きていてほしいと思うが。」

実力的に完全に拮抗していたバルデルとレヴァイス……バルデルは谷底に落ちていった。その光景をレヴァイスは黙って見れるはずもなかったが、バルデルと戦いの前にかわした約束が彼を思い止まらせた。

 

『手助けは無用。結果はどうあろうとも、その結果を粛々と受け止める。』

 

“猟兵”としてのプライド……それが理由であった。そのプライドが大切なことも解っている……それでも、レヴァイスには納得できかねる部分があった。特に、彼の娘にはどう説明したものか悩んでいた……豪胆に見えて実は繊細……というのは、良くあることだ。実際、実の娘のような“彼女”もそのような雰囲気を感じることがある。

 

「そういえば、“絶槍”が姿を消したと聞いたが?」

「ああ………アイツは、アイツなりに考えたんだろう。その答えを探すために、旅に出る……そう書置きがあった。」

一ヶ月前……書置きと共に、クルルは姿をくらました。その行先は解らないが、マリクに一番忠誠を誓っていた人間が姿を消す理由……彼のやろうとしていることを知り、その為に必要なことを見出すために……手紙にそういった言葉がなくとも、その手紙に託したであろう彼女の気持ちは、マリクもそれとなく察していた。尤も、肝心な部分の感情に関しては気付いていないのであるが。

 

「ともあれ、必要な段取りは整った。いやぁ、あの爺さんには頭が上がらないな。」

「……最初聞いたときはどんな裏技使ったんだと思ったがな。だが、悪くはない。俺とお前の野望……実現させてやろうぜ。」

「おう。(……あの野郎は、どんな表情をするのだろうな。驚く顔が目に見えるな。)」

『翡翠の刃』と『西風の旅団』……その二つの猟兵団は表舞台から姿を顰めた。その二ヶ月後……クロスベル市の港湾区……クロスベル通信社ビルの隣に一件の店が開かれる。その名前は……

 

―――総合雑貨『セディティエスト』

 

他の店とは異なり、レミフェリア公国とリベール王国で作られた農作物や工芸品などを専門に取り扱うお店。風の噂では、この店の登場に警戒感はおろか恐喝をかけてきた人間もいたのだが……それを悉く病院送りにし……更には、『ルバーチェ商会』の本部まで殴り込みをしたという噂まであった……あまりにも現実離れした噂であったため、都市伝説レベルではあるがある意味タブー化している代物だった。

 

 

~港湾区 『黒月貿易公司』~

 

同じ区にある『黒月貿易公司』……一見すると貿易会社であるが、その実はダミー会社。カルバード共和国の東方人街の巨大な犯罪組織『黒月(ヘイユエ)』のクロスベル進出のための拠点。その3階の執務室で、側近の報告を受けている若き男性がいた。

 

彼の名前はツァオ・リー……“白蘭竜”の異名を持つ実力者で、二十代半ばでありながら、その卓越した頭脳と腕っぷしを駆使して幹部にまで上り詰めた人間。無論、彼はその地位で満足しているわけではない。彼の最終目標は無論、『黒月』のトップ……それは、彼がライバルと称し、そして互いに高め合った戦友にして親友の存在がいたからに他ならない。

 

「ご苦労様です、ラウ。して、やはり彼らは?」

「ええ。『翡翠の刃』と『西風の旅団』のメンバーのようです。我らとは異なり、真っ当に商売をしている……その中心人物の存在は認められませんが。」

「成程……『ルバーチェ』に“驚天の旅人”……もしかすると、“猟兵王”もいる……この街は“魔都”と呼ばれる所以になるでしょうね。」

“赤炎竜”の死……生死の隣にいることが常の『この世界』では別に珍しくもない。だが、その死をラウから聞かされた時、内心は悲しんだが表情に出さなかった。そして、彼の亡骸が埋められた墓前でツァオは誓いを立てた。

 

『私は貴方の分まで戦いましょう……この組織の頂点に君臨するまでは、這ってでも生き延びます。』

 

「ともあれ、最近は『ルバーチェ』の動きも気になります……ですが、目立った動きは避けるよう徹底してください。こちらから火の粉を蒔く様な動きは避けたいですから。」

「はっ。それと、『赤い星座』がどうやら共和国の方に向かったようで……ツァオ様に一時的な召還命令が出ております。」

「……やれやれ、あの方々も相当な臆病のようだ。ラウ、“留守”中は任せます。」

「解りました。ツァオ様も御武運を。」

 

この数か月後……共和国で『赤い星座』と『黒月』が大規模な戦闘を引き起こす事態にまで発展することとなる。

 

 

 

―――『オルフェウス最終計画』が第二幕、『幻焔計画』。

 

 

 

―――鐘交わる地で響き渡る音色。

 

 

 

―――それに呼応する西ゼムリア全体を覆う戦乱の焔。

 

 

 

―――『激動の時代』を生き抜くために、世界を渡る者同士がぶつかり合う。

 

 

 

―――『七の至宝』……『聖天兵装』……そして、『忘れ去られた奇蹟』。

 

 

 

―――今こそ、全ての決着をつけるために……全ての因縁を……ここで断ち斬るために。

 

 

 

―――その狼煙があがるのは……そう遠くない未来であった。

 

 

 




敵側に一人追加しました。まぁ、具体的な実力は伏せたままですが。
『こういう可能性』だってあるのを具現した結果ですね。











さて、この小説ですが、これにて一区切りとさせていただきます。

コメントを読んで再考したのですが……

私自身『矛盾』だと感じていないところ、気付いていない部分が多いのでは、と思います……このまま続けて私自身がその『矛盾』に気づいたときには手遅れである……正直に言いますと、細かい描写や説明の不足……私の力不足です。

投げっぱなしと言う部分には否定できませんし、非難や批判も当然あると思います。それに対しては申し訳ありません。ただ、削除はしません。

零・碧・閃編については、まったくの白紙です。続きを書く予定は今のところ在りません。

と、ここまでが小説の事情で、もう一つ私個人の事情もあります。

とはいっても仕事の関係なのですが、指を酷使することが多く、時には鈍い痛みを感じるほどです(病院には行っております)。その影響でこちらの執筆にも影響が出ていて、この先を考えると大事に至る前に指の負担を軽くした方がよい……そういった個人的事情も含めての一区切りとなります。


このような拙作を読んでいただき、誠にありがとうございました。


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