英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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FC・SC序章~父、旅立つ~
第18話 義弟


~ロレント郊外 ブライト家~

 

「お父さん、遅いね」

「仕方ないわよ、エステル。遊撃士というものは忙しいもの。」

「それは解ってるけれど……いつもだったら連絡ぐらいしてるでしょ?」

「……ま、私たちは信じて待ちましょ。エステル、手伝ってくれるかしら?」

「うん!」

百日戦役から5年の月日が経った。遊撃士であるカシウスは忙しく、中々家に帰ってこないこともあった。ただ、そこまで仕事に打ち込めるのも、家庭とエステルを支えてくれるレナの存在が大きいことは言うまでもなく、カシウスも彼女には頭が下がる思いだ。

 

「ただいま~」

「おかえり~、お父さん!」

すると、カシウスが帰ってきた。家族の帰りにエステルとレナは笑顔で迎えた。

 

「エステル、いい子にしてたか?」

「うん!」

「ええ。ここのところはアスベル君達と一緒に遊んでいますから。」

「そうか(そういえば、最近エステルの棒裁きが洗練されてきたが……まさか、な)」

近所に住んでいるあの四人のことを思い出し、その影響が棒術のキレの良さにも表れていることに内心笑みを浮かべた。良くも悪くも自分の血筋を受け継いだ娘だということに。

 

「それで、それは何?靴?竿?虫取り網?」

「……育て方、間違えたかな。」

「ふふっ、いいではないですか。エステルにもその内解ると思いますよ。」

カシウスの抱えている包みが気になり尋ねたエステル。何と言うか、年頃の女の子の口から出てきていけないような言葉にカシウスは冷や汗をかき、レナは微笑ましい表情で二人を見つめていた。

 

「お土産というのは、これだな」

カシウスがエステルの問いに答えるかのように包みを解くと、一人の少年が現れた。

 

「…………は?」

エステルは茫然とした。

え、何、どういうことなの?お父さんが男の子を連れてきた?……

 

「ど、どういうことなの!?」

「落ち着け、これから事情を……」

「そうですね。じっくり話を聞きましょうか?ア・ナ・タ?」

「はい……」

問い詰めようとするエステルをなだめようとするが、それ以上に凄味のある笑顔で迫ってきたレナにただ返事をすることしかできなかったカシウスであった。とりあえず、少年を二階の空いている部屋に寝かせて、様子を見ることにした。

(※1階の部屋にカシウスとレナの部屋があります)

 

「仕事先で会った子でな。どうやら身寄りがいない様で、俺が引き取る流れになったんだ。急に決まったことで、連絡が遅れたことについては済まなかった。」

「そうだったんですか。私はてっきりあなたが隠し子でもつくっているのかと思いましたよ?」

「何を言っている。お前がいてくれるから、俺は仕事に打ち込めるんだ。それを裏切るようなことはお前もエステルも悲しませることになるからな……それだけお前たちの事が大切だし、俺はいつでもレナ一筋だからな。」

「もう、恥ずかしいですよ。」

傍から見れば新婚気分の抜けない夫婦そのものに近い。それを見ているエステルは『相変わらずだね~』と心の中で微笑ましく思いながら眠っている少年を見つめた。

すると、少年の瞼が開いて、琥珀色の瞳がエステルは感動に近い驚きを感じた。

 

「うわ、綺麗な瞳」

「ここは……」

少年は、自分のおかれた場所に困惑していた。どう見ても自分が知っている場所ではない、と。そして、彼の視界に映る一人の人間――カシウスの存在に気づいて警戒する。

 

「目が覚めたか。ここは俺の家だ。」

「カシウス・ブライト、貴方、どういうつもりで…!」

「どうって言われてもな……遊撃士として人道的に助けなきゃアレだし、ようは成り行きって奴だ。」

その少年ですら予期していなかったカシウスの行動に食って掛かる。第三者から見れば『何らかの理由で敵対していた人がとっ捕まって無理矢理連れてこられたため、納得できずに食って掛かっている』という光景だ……一方のカシウスはのらりくらりと質問をかわす。

 

「ふざけるな!貴方、自分のしたことが…!」

「こらー!!」

彼はさらに質問を続けようとしたところで、エステルに蹴りを入れられる。

 

「なっ、何だ、君は!?」

「エステルよ!エステル・ブライト!」

「俺の娘だ。で、俺の隣にいるのが妻のレナだ。お前には話しただろ?」

「よろしくね。」

少年の問いかけに怒り混じりの言葉で呟くエステル、説明するカシウスに笑みを浮かべて挨拶するレナ。

 

「そ、それは聞きましたが、今はそういうことを聞きたいんじゃ…!」

「だ~か~ら~!!」

少年は質問しようとするも、またもやエステルに止められる。

 

「怪我人は大人しくしてなさい!」

「いや、だったら怪我人に蹴りは……」

「な・に・か・言・っ・た・?」

「…何でもないです。」

レナの血を引くからか、エステルは凄味のある笑顔を見せて、怒気を含んだ声で言い放った……これ以上問答を続けたら自分の身が持たないことを察知し、少年は押し黙ることしかできなかった。

 

「この家ではレナとエステルに逆らわないことだな。俺ですら勝てない。」

「……ええ、そのようですね。」

笑顔で答えるカシウスに少年は頷いて答えた。

 

「そういえば、何て言うの?」

「え?」

「貴方の名前!こっちはみんな紹介しておいて、そっちの名前を知らないなんて不公平よ!!」

「そうだな、俺も聞いていなかったな。」

「そうですね。これからは一緒に暮らすんですし。」

………最早、少年のブライト家入りは確定的な流れとなっていた。この流れに逆らったら自分の命に関わるのでは……内心諦めつつ、納得して自分の名前を呟いた。

 

 

「…僕……僕の名前…は…――――です。」

 

 

 

 

――百日戦役から10年の月日が経った……

 

 

 

――かつて、理不尽な災厄に見舞われたリベール王国。だが、リベールの底力とその裏で動いた『功労者』により、その災厄を跳ね除けるどころか圧倒した。

 

 

 

――その力を目の当たりにした者たち、その力を見た者は口を揃え……リベールの実力を評するかの如くこう呟いた。

 

 

 

――『眠れる白隼、起こすことなかれ』………と。

 

 

 

七耀歴1202年。第60回女王生誕祭を目前に控えたリベール王国に試練が訪れる。だが、試練を与える者たちはまだ知らない……百日戦役に築いた『絆』……リベールという国の『真骨頂』すらも……

 

 

 

~ロレント郊外 ブライト家~

 

「ふあぁ~……」

栗色の髪の少女、エステルは差し込んでくる朝日で目を覚まし、上半身を起こして体を伸ばす。

 

「もう朝か。今日の当番は確か父さんだったわね……ヨシュアはまだ寝てるのかしら?」

5年前に義弟となったヨシュアの様子が気にかかったが、窓の外から聞こえてくる音……聞き覚えのあるハーモニカの演奏にエステルは気付き、ヨシュアがもう起きていることを察した。

 

「って、ヨシュアはもう起きてるみたいね。さて、支度しなきゃ。」

そう言ってベッドから抜け出すと、いつもの着慣れた服に着替えるとヨシュアがいる方向…2階のベランダへと足を運ぶ。

 

 

2階のベランダに出ると、ハーモニカを演奏しているヨシュアがいた。演奏が終わるとエステルは拍手をしてヨシュアの演奏を褒めていた。

「ひゅ~ひゅ~、やるじゃないヨシュア。」

「おはようエステル、もしかして起こしちゃったかな?」

「ううん、あたしもちょうど起きたところだったし。でも、ヨシュアったらキザよね~お姉さん聞き惚れちゃったわ。」

「何がお姉さんだよ。僕と歳が変わらないくせに。」

からかいがこもった言葉にヨシュアは呆れた表情で呟く。

 

「甘いわね、ヨシュア。同い年でもあたしのほうがこの家にいるのが長いのよ。言うなら姉弟子って奴かしら。」

「はいはい、よかったね。」

これ以上続けたとしても意味がなさそうなので、ヨシュアはため息をついてエステルの言葉に同意した。

 

「それにしても、ヨシュアってばハーモニカ吹くの上手いわよね。あたしもうまく吹けたらいいんだけどな~簡単そうにみえて難しいのよね。」

ハーモニカの演奏は、単純なようで難しい……例えば、リコーダーやピアノやサックス、クラリネットなどといった『特定のキー・指裁き』と必要とする楽器、トランペットやホルンなどのような『少ないキーで多くの音を出す』楽器、バイオリンなどの『指裁きと感覚で音階をイメージする』楽器、それらの多種多様な楽器の中でもハーモニカは『音をイメージして演奏する』楽器である。

 

「君がやっている棒術よりはるかに簡単だと思うけど。ようは集中力だよ。」

「全身を使わない作業って苦手なのよね~……ヨシュアもハーモニカはいいんだけど、もっと積極的に行動していかなきゃ。肝心のヨシュアの趣味って、後は読書と武器の手入れぐらいでしょ。そんなインドアばっかの趣味じゃ、お目当ての女の子のハートは掴めないわよ?」

エステルに趣味のことを軽く攻められたヨシュアは反撃の言葉を呟く。

 

「悪かったね、受けが悪くて。そう言うエステルだって、女の子らしい趣味とは思えないよ?スニーカー集めとか、釣りとか、虫取りとか……流石に男の子がやる趣味じゃないかい?」

「失礼ね、虫取りは卒業したわよ。それに、最近はお菓子作りだってするようになったんだから!」

「………」

「な、何よ?そんな意外そうな表情を浮かべて。」

ヨシュアの反撃から出たエステルの女の子らしい趣味に唖然とし、エステルはそんな彼の様子に納得できず質問を投げつける。

 

「いや、全身を使わない運動や作業は苦手と言っていたよね。そんなエステルがお菓子作りだなんて、どういう心境の変化だい?」

「うっ……しょ、しょうがないじゃない!『手先を器用に動かせることも修行の一環』だって言われたんだから!!」

エステルの言っている答えは半分ぐらい正解だった。攻撃・防御・回避…武術においては、手先の僅かな感覚を研ぎ澄ませることで、あらゆる状態からの『斬り返し』を行えるようになる。彼女が使う『棒』は、使いこなせばあらゆる方向からの攻撃を可能とする。

正解のもう半分は、近くに住んでいる年上の少年の作った菓子に女としてのプライドを折られたことによる対抗心のようなものだが。

 

そこにカシウスが二人を呼びにベランダの下から声をかけた。

 

「2人とも。朝食の用意ができたから、レナが冷めない内に来いと言ってるぞ。」

「は~い」

「わかったよ、父さん」

そして2人はそれぞれ食卓につき、朝食を食べ始めた。

 

「ごちそうさま~」

「ごちそうさまです。」

「はい、おそまつさまでした。」

「朝からよく食べるなぁ……父さん並じゃないか。」

朝食を食べ終えた後、ヨシュアはエステルの食べっぷりに感心した。

それを証明するかのように皿の数はヨシュアの向かいに座っているカシウスと同じぐらいの皿の数だった。

 

「別にいいじゃない、よく食べてよく寝ることは大事よ。それに、お母さんのオムレツは大好きだしね。」

「ふふ、ありがとう、エステル。」

娘からの褒め言葉にレナは笑顔で答えた。

 

「ま、しっかり食って気合を入れておくんだな。2人とも、今日はギルドで研修の仕上げがあるんだろう?」

カシウスは二人が受けている研修……ギルドの遊撃士研修のことを2人に確認した。

 

「うん、そうね。ま、かる~く終わらせて準遊撃士になってみせるわ。」

「エステル、油断は禁物だよ。最後の試験があるんだから。」

「え……?試験ってなに?」

意気揚々と張り切るエステルだったが、ヨシュアの言葉の中に出てきた『試験』という単語に反応して呆然となり、ヨシュアに尋ねる。

 

「シェラさんが言ってたよ、合格できなかったら追試だって。」

「……やっば~完璧に忘れてたわ……(もしかして、昨日の鍛錬が軽めだったのは、そのせいかしら?)」

エステルは昨日のことを思い出す………

 

 

~前日~

 

「はい、今日はここまで。」

「あ、ありがとうございます……」

淡い栗色に翠の瞳の少女は平然とする一方で、エステルはかなりへばっていた。

 

「な、何だか納得いかないわね…レイアとは同い年なのに。」

「しょうがないよ。私やエステルじゃ“経験”が違うもの。それでも、ここまでこれたのは『才能』が大きいと思うよ。」

少女……エステルにとっては友であり、棒術の師匠的存在であるレイア・オルランドは棒をしまい、エステルに話しかける。その一方で、エステルはここまで理不尽な実力差に驚きを隠せない。世界は広いものだと実感させられる要因の一端にレイアの存在があったのは言うまでもない。

 

「ま、今日は『明日』のこともあるし、ちゃんと柔軟をしてから休んでね。」

「『明日』?そりゃ、ギルドの研修の仕上げはあるけど?」

「……ちゃんと学識も身に付けないと、恥をかくことになっちゃうよ?」

「お、大きなお世話よ…!」

ジト目でエステルのこれからを不安視するレイアの言葉に、エステルは恥ずかしそうに反論した。

 

 

~今に戻る~

 

「(全く……あれ?でも、何で遊撃士でもないレイアが『そのこと』を知ってたんだろ……)ま、何とかなるでしょ。」

「まったく、君は……」

昨日の事を思い出しつつ同時に疑問も浮かんだが、それは後に置いておくことにした。一方、彼女の根拠のない言葉にヨシュアはため息をつく。

 

「エステル、そろそろ行こうか。」

「ええ。行って来るね、お父さん、お母さん!」

「じゃあ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい、気をつけてね。」

「頑張って来い、2人とも。」

両親から応援の言葉を聞いた2人は家を出て、ロレント市のギルドへ向かって歩いた。

 

 




ようやく原作開始です。歴史大幅に変わっちゃってますがw

ここからできるだけ原作準拠ですが、一部原作人物の性格が変わっています。あの人とかw

あと、オリキャラは色々動き回ります(黒笑)

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