英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第20話 動き出す影

実地試験……課題内容は、地下水路の奥にあるものを回収して戻ってくるという内容だ。二人は無事に見つけ、エステルは中身を空けようとしたが、ヨシュアの正論でそのまま持ち帰ることとなった。

だが、その出口の梯子に一人のローブを纏った人物がいた。その表情は仮面で隠され、表情を窺うことができない。普通じゃない……二人は同時にそう思った時、ローブを纏った人間は二人の方を指さし、呟いた。

 

「ほう……それを回収してくれるとは殊勝な者もいたものだ……」

「なっ、誰よアンタ!」

「そもそも、入り口にはシェラさんがいたはず……」

「フフ、彼女にはしばし眠ってもらった。私としても、無益な殺傷は避けたいものでね……渡すなら、命までは取らぬ。もし、抵抗するのならば……命の責任は取れぬぞ?」

黒装束の人物はどこからかスタンハルバード…衝撃を威力に変換する導力ユニットが取り付けられた武器を構える。

 

「ふ、ふざけないで!ヨシュア!!」

「解ってる、エステル!!」

二人も武器を構える。

 

「我が名は“システィ”。貴殿らの実力、見せてもらうとしよう!!」

システィは武器を構えると、一直線に突撃して振り下ろす。

 

「くっ!」

「っ!!」

二人は咄嗟に後ろに跳び、回避する。

 

「フッ、成程。見習い程度にしてはよくやる……」

「こんの、お返しよ!!」

エステルは戦技『旋風輪』を放ち、システィは咄嗟に防御するものの後ろに飛ばされる。

 

「続いていくよ、はあっ!!」

ヨシュアは間髪入れずに戦技『双連撃』を放つが、システィはその連撃を最小限の動きでいなした。

 

「……ふむ、今のは流石にヒヤリとしたぞ。」

「武器としてはかなりの重さがあるスタンハルバードをあそこまで使いこなしている……エステル」

「短期決戦ってことね。」

ヨシュアとエステルは互いに頷き、構える。

 

「行くわよ!烈波、無双撃!!」

エステルはSクラフト『烈波無双撃』を放つが、その全てが防がれている。

 

「どうした?すべて防がれているではないか?」

「だって、私は囮だから。」

「何?」

エステルの言葉にシスティは首を傾げる。だが、その言葉の意味をこの直後に知ることとなる。

 

「行くよ、断骨剣!!」

システィの背後を取ったヨシュアはSクラフト『断骨剣』を放つ。防御がエステルの方に向いている以上、回避できるはずがない……だが、システィはもう片方に持った武器で防ぐという行動に移った。

 

「なっ!?」

「スタンハルバードの二刀流!?」

「いつから、私の武器は一本だと思っていた?そんな調子では先が思いやられるぞ、エステル・ブライトにヨシュア・ブライト……」

悔しそうにしつつも対峙する二人を見て忠告するかのように言い放つと、システィは突然背を向けた。

 

「え……」

「な、何よ!逃げる気!?」

「何、私はただ“恩人”の頼みを聞いたに過ぎない……遊撃士への道は、そう易くはないぞ?」

そう言い残して、システィは跳躍してその場を後にした。

 

「……一体、何だったのかしら?」

「いや、それ以前にどうしてあのシスティという人は、僕たちを知っていたのかな?」

「う~ん……父さん絡みかしら?あの不良中年、あちらこちらを転々としてるし。」

「不良って……ともかく、僕らも戻ろうか。」

「そうね。」

二人で話しても結局結論は出ず、地上に上がることにした。

 

 

~ロレント 地下水路入り口~

 

地上に上がった二人は、小箱をシェラザードに渡して先程戦った『システィ』という人物について報告した。

 

「ふむ……解ったわ。これに関しては私から報告しておくから。」

「お願いします。」

「にしても、あの武器は何なの?」

「スタンハルバード……近接戦闘用の武器で、導力化が進んでいる正規軍や警備隊などでは一般的に使用されている代物だね。ただ、導力ユニットの関係から両手で扱うのがやっとのはずの代物なんだけれど……」

通常であればその重量故に両手で扱えるのがやっとの代物だ。だが、その人物は二刀流……つまり、片手一本で運用していたということになる。そのことからも、その人物の膂力は人並み外れたものであるということに繋がるのだ。

 

「とりあえず、そのことはさておいて、報告に戻るわよ。」

シェラザードの言葉に二人は返事をしてギルドに戻り、アイナの報告を済ませた。

そして、シェラザードに頼まれて回収した箱を開けると……そこには、準遊撃士のエンブレムが入っていた。つまり、試験は合格。見習いではあるが、二人は無事に準遊撃士となったのである。ヨシュアは感慨深くエンブレムを見つめ、エステルは大喜びしていた。

 

 

「まったく……少し本気を出し過ぎじゃないかしら?」

二人と別れて、地下水路の入り口にやってきたシェラザードは、周りに人気がないことを確認して、呟いた。

すると、彼女の目の前の空間が歪み、先程二人と対峙した人…“システィ”が立っていた。

 

「すみません。でも、ヨシュアってば本気を出してくるものでしたから」

先程二人と対峙した時とは異なる声質……仮面を外し、ローブを脱ぐと……先程の格好とは正反対の白を基調とした服を身に纏った淡い栗色の髪に翠緑の瞳……レイア・オルランドの姿だった。

彼女が今日の研修を知っていたのは、彼らへの『依頼遂行時における突発的な対応への適切な判断と対処』を見るためのものだった。だが、あまりにも本気を出してきたため、やむなく二刀流で対抗したのだ。

 

「エステルに関しては貴方自身が手ほどきをしたのだから、自業自得よ。」

「ええ、解っています。」

「ちなみに、“不破”と“霧奏”の二人は?」

「二人でしたら、今日の夕方には直行便で戻ってくると。」

アスベルとシルフィアは、それぞれ自治州の支部の応援としてアルトハイムとレグラムに行っている。今日の午後には戻ってくるという連絡を午前中に受けていた。あの二人はリベールでもトップクラスだが、とある事情により最低限の活動に止めているため、Aランクでも下の方である。それでも十分なレベルなのだが。

 

「ただ、あなた達がいてくれるおかげで楽できているのも事実よ。今日はありがとう。お礼に一杯奢るわよ?」

「未成年に酒を勧めないでください……」

シェラザードは笑みを浮かべつつ誘いの言葉をかけるが、レイアはため息をついて呟いた。

 

 

一方、エステル達は雑貨店でリベール通信を買い、家に帰ろうとしたところで子ども達を連れ戻す事態になったが、二人の迅速な行動とカシウスの救援という名の美味しいとこどりによって難なく解決したのであった。そして、報告を終えた後カシウスへの手紙を貰い、家に帰ってカシウスとレナに準遊撃士となった報告と、カシウスにリベール通信と預かっていた手紙を渡したのであった。

 

「………何っ!?」

その手紙を見たカシウスは、驚愕の事実を知ることになる。

 

 

~ブライト家~

 

夕食後、一段落したところでカシウスがレナ、エステル、ヨシュアに遊撃士の仕事で海外出張――エレボニア帝国に行くことを明かした。

 

「え、帝国に?」

「どれくらいで戻れそうなの?」

「ああ、調査でな。一ヶ月ぐらいは戻れなさそうだ。」

「そうなんだ。」

カシウスはそう言っているものの、実際には『調査』という生易しいものではないことをヨシュアは薄々勘付いていた。何と言うか、男としての『勘』のようなものではあるのだが……

 

「さて、俺はアイツらのところに少し出かけてくる。」

「でしたら、これを持って行ってください。」

「解った。」

「アイツらって、アスベル達のところ?」

「ああ。なんたってお隣さんみたいなものだからな。しばらく留守にすることも伝えとかないと。」

「父さんなら大丈夫だろうと思うけれど、気を付けてね。」

三人に見送られ、カシウスはブライト家を出て、アスベル達の家に向かった。

 

 

~フォストレイト家~

 

カシウスの来訪に、四人は驚いていた。いつもであれば、彼が来るのは決まって彼が休みの日ぐらいだ。

 

「こんな遅くに尋ねてすまないな。これ、レナからの差し入れだそうだ。」

「ありがとうございます。先日頂いたシチュー、とても美味しかったですって伝えてください。」

「解った。俺やレナにしてみれば、お前たちも息子や娘みたいなものだからな。」

「あはは、恐縮です。」

一通り談笑した後、席に座ってカシウスの来訪の理由を尋ねる。カシウスが手紙をテーブルの上に出し、事情を説明し始めた。

 

「帝国からの救援要請……しかも、かなり切羽詰った状況だ。」

帝国の首都、帝都ヘイムダルにある二つの遊撃士協会が襲撃されたとのこと。被害はこれだけではなく、他の都市の遊撃士協会も同様の被害を被っている場所が多い……そこで、S級遊撃士であるカシウスにこの事態の打開を図るべく要請の手紙を出した、とのことだった。

その話を聞いた四人は考え込む。

 

「あの、なぜ私たちにこの話を?」

「そうだな……この状況、君らならばどう見るのか聞きたい。」

「十中八九、罠ですね。恐らく長期間貴方を拘束し、あわよくば『始末』するための。」

「やれやれだな。こんな人間を買いかぶりすぎなのではないか?」

帝国軍の規模自体は全部で22機甲師団……だが、そのどれもが動いていない。

明らかにS級遊撃士であるカシウスをエレボニアへと誘き寄せるシナリオだろう。

 

「実は、俺とシルフィで自治州に行ったついでに『調査』したのですが……エレボニア国内であるにもかかわらず、軍は動かないようです。」

「動けない、のではなく?」

「相手はあの『鉄血宰相』です……今までのイメージからすれば、速やかに軍を動かして首謀者を逮捕、秘密裏に処刑するでしょう。ですが、それをしていない……彼自身、遊撃士協会が撤退するのを望むかのように。この事件の後にでも遊撃士への圧力を強めるのではないかと思われます。」

襲撃の鮮やかさ、対応する素振りすら見せない軍、そして徹底された情報隠蔽…まるで何かを待っているかのような対応…それに連動した事柄を起こす場所を勘案した場合、リベールの可能性が高い……

彼の背後に『結社』がいたとしても、何ら不思議ではない。いや、彼はその『結社』と繋がっている可能性が極めて高い。

 

念のためマリクに連絡を取った所、それほどの襲撃ができるのは『赤い星座』『西風の旅団』『翡翠の刃』の三つだけであり、今回関わっているとみられる集団は、その三つには到底及ばないレベルらしい……彼等の『本来のレベル』であれば、という事実が付け加えられることになるが。

 

「おそらく情報局の人間がマークしてくるでしょう……そして、貴方がリベールを離れた隙に、何かアクションを起こすと思われます……結社『身喰らう蛇』が。」

「成程……それで、対応策は?」

「彼らはまず、このリベールの中でも愛国心の強い連中を扇動する形でクーデターを起こし、貴方を軍に戻して縛り付けるでしょう。そこで……ラッセル博士に例のオーブメントの解析を先行して実施、そのデータを然るべき時に流出させます。それと、こちらでテストしている次世代型の戦術オーブメントも目途が付きました。」

彼らの立てたプランは、『ハーメル』から続く事件や異変を順調に起こしていると見せかけた上で、首謀者を確実に抹殺すること。そして、あわよくば『身喰らう蛇』の持つ技術のいくつかを強奪すること。

そのためには、彼の子であるエステルとヨシュアに色々頑張ってもらわねばならない。

 

「で、トワには『七耀教会』からの依頼として、『巡回神父の旅の同行』という形でエステル達に同行してもらう。具体的には遊撃士の手伝い。依頼主はカシウスさんとアルテリア法王……誰も文句は言えないはずです。それと、セシリアさんには後方でのサポートをお願いします。」

「了解しました、フォストレイト卿」

「解りました。」

そこで、ヨシュアに顔の割れていないトワに同行してもらい、遊撃士の手伝いという形を取る。万が一、エステルとヨシュアの手に負えない相手でも、この二人であれば問題はないだろう。

 

「で、ここからが本題です。既にラッセル博士に話は通してありますが……建造途中で封印されたアルセイユ級四番艦……それの建造再開を秘密裏にお願いしました。」

「四番艦……『カレイジャス』か。」

「それと、二番艦と三番艦についても改修が終わり、今は『目覚め』の時を待っています。あと、こちらのルートから『協力者』をエレボニアに派遣しています。遊撃士の人にしてみれば、受け入れがたい人達でしょうが……」

「協力者……まさか」

彼らの言う協力者に該当者が多く、カシウスは首を傾げるが、遊撃士と折り合いが合わない人間ということに気づき、アスベルの方を見ると、彼は笑みを浮かべて答えた。

 

 

「戦力については保証しますよ。それに、『蛇の道は蛇』……ということですよ。」

 

 


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