英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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FC・SC第一章~消えた飛行船~
第23話 みえざる力


~ロレント 居酒屋『アーベント』~

 

シェラザードがロレント支部で引き受けている仕事の引継ぎが終わるまで、エステル達は軽食を取りつつ互いの事について話すことにした。

 

「へ~、七耀教会の巡回神父みたいなことをしてるんだ。」

「はい。もっとも、後任者が決まるまでの暫定措置ではありますが。」

「そうだとしても凄いことなんじゃないかな?」

日曜学校のないところでは、巡回神父を派遣することで識字率の向上や学識の習得のみならず七耀教会の貢献による内面的な『根回し』……つまりは、影響力の強化につながっている。現場に携わっている人間ほど、良くも悪くも純粋な原動力であることが多い。

 

「それにしても、レイアが一緒に来てくれるのか……何というか、いろいろ複雑ね。あたしにしてみればどっちの意味でも先輩なわけだし。」

「あはは……遊撃士としての実績から行けば、あの二人には到底及ばないけれど。」

世界には『上には上がいる』とは言うが、普段の付き合いからしてもそういった態度を見たことがないため、エステルにとってみれば『現実離れ』そのものである。

 

「えと、ここの遊撃士はそれほど凄いんですか?」

「確か、S級三人、A級は私を含めて二人、それとB級のシェラさんだね。」

「え………S級って何?」

「確か、A級を超える非公式のランクで、『国際的な事件解決に貢献した遊撃士』に贈られる称号ってシェラさんが言っていたね。」

ゼムリア大陸でも六人しかいない最高ランクの遊撃士……その半数を擁するロレント支部、ひいてはリベール王国の評価は凄まじく、レマン総本部は均衡化を図るべく他国への移住を打診しているが、三人とも個人的な理由でこれを固辞している。

 

実は、あまりにもしつこい要請に、“不破”の異名で呼ばれるアスベルと“霧奏”の異名を持つシルフィア……二人のS級遊撃士がレマン総本部に対して、『直訴』という名の『話し合い』をするためにレマン自治州に行っていることは、エステルらはおろかレイアですら知らなかったのである。

 

「てことは、凄い人ばかりなの、ここって!?」

「な、何でそんなに凄い遊撃士ばかりなんですか?」

「いや、私に聞かれても……」

エステルの驚きとエリィの質問に、レイアは苦笑を浮かべて答えるしかできなかった。彼女にしてみれば、『気が付いたらそうなっていた』としか言いようがない。あの二人に聞いても、似たような答えしか返ってこないだろう。

 

だが、この事態は『異常』ではあるものの……ロレントにとってみれば『利益』なのだ。S級のカシウスやアスベルにシルフィア、A級のセシリアとレイア、B級のシェラザード……一線級の遊撃士が集っていることは、それだけでも『安全』を担保しているも同義なのである。

 

事実、ロレントは百日戦役後における北の地方との交流で発展し、グランセルに次ぐ経済規模と近代的農業の田園都市並びに有数の七耀石の産出地として栄えている。

 

その恩恵を受けているのは、商業都市であるボースを擁するボース地方、王都のあるグランセル地方、ZCFのあるツァイス地方だ。一方で、ルーアン地方は当時の市長の反発からその恩恵を受けていない。そのため、地域間格差がこの10年で顕著に開いていて、ルーアンを治める現市長はルーアン地方の観光地化プロジェクトを大々的に行おうとしているが、全貌が見えない計画プランに加えて開発のための資金調達面での不審点の存在……そのため、周辺地方の市長から不信感を抱かれている。

 

アリシア女王の政策により、ありのままの都市を残すという北の地方……元帝国領現自治州の地域に代わり、ロレントは飛行船による交通でもその役割をグランセルと二分するようになり、導力鉄道運用ノウハウ蓄積の一環として運行されるようになったグランセル-ロレントを結ぶ高速鉄道『グランレント本線』が三年前に開通し、レミフェリア・クロスベル・カルバードと言った北東方面との高速直通便を結ぶ『リベール北の玄関口』としてその役割を果たすようになる。

 

「そういえば、エリィ。」

「何でしょうか、ブライトさん」

「う~ん、質問する前にその言葉遣いはやめてほしいな。ブライトだとあたしとヨシュアが該当しちゃうし。あたしのことは名前でいいわ。歳が近そうだし、言葉遣いはタメ語でいいから。」

「え、えーと……」

「僕も同じ意見です。」

「右に同じ」

「ですね」

この子に逆らうのは無駄である……ヨシュアがそれとなく諭し、レイアとトワも続いたため、エリィは半ば諦めて話を続けることを選択したのだった。

 

「はぁ、わかったわ。それでエステル、何か聞きたいことでも?」

「エリィって、名字からするにクロスベルの人でしょ?あたしは行ったことがないから聞いてみたくてね。」

「僕も聞いてみたいですね……いろいろ難しい場所であるとは聞きましたが」

「ええ、解ったわ。」

二人のお願いにエリィは頷き、自分の出身であるクロスベル自治州について話し始める。

 

 

二大国であるエレボニアとカルバード……その激戦地の一つであったのが、クロスベル……現在のクロスベル自治州のある場所だ。その歴史は中世からで、クロスベルは常に二大国の脅威に晒されてきた現実がある。

 

七耀歴1144年、二大国の綿密な摺合せ…互いの腹の探り合い………結果として、事実上『二国の傀儡』とも言うべき独立を『自治州』として果たした。

 

市長と議長…国家を統べる二人の代表の並立、それによる政治の癒着や賄賂の横行、諸外国…とりわけ二大国に対しての罪を厳しく取り締まれない自治州法、軍としての軍事力を持ち得ることができないという枷、裏社会を取り仕切るマフィアの存在によって一応の平和が保たれている現実……余りにも歪過ぎる自治州だ。地勢的にも二大国の狭間にあるため、その力を無視できない……これも、後に支配をたくらむ二大国の思惑だ。

 

「百日戦役後、リベールへの帰属を望んだ自治州の中に、当然クロスベルもあった。市民の世論もリベール帰属が多かったわ。けれど、二大国の影響が強い議会はこれを否決したの。」

「エレボニアとカルバードにしてみれば、『金の卵を産む鶏』を手放したくなかったわけだろうからね。」

「難しい問題ですね……」

経済の中枢ともいえるクロスベルを二国はみすみす失う訳にはいかない。その結果として、百日戦役による恩恵にあずかることができず、歪な状態が続いていた。だが、百日戦役……リベールの存在は、クロスベルにも少なからず影響を与えていたことは事実だ。

 

「けれども、リベールの行動は市民の間でも勇気になったことも事実なの。いえ、その否決が寧ろ契機になったと言うべきね。」

「へ?」

「国土的には、リベールはクロスベルよりも大きいけれど、小国が大国の圧力に屈しなかった……その点かな?」

「ええ。一部ではあるけれど、良識のある人も増えてきたの。お祖父さまが尽力したロレントの協定もそれに一役買った形になり、共和国派や帝国派ではない議員……『市長派』と呼ばれる人たちが少しずつだけれど、増えてきているのよ。」

リベールの勝利は二大国に衝撃を与え、その狭間にいるクロスベルも衝撃を与えた。それは少しずつではあるが、歪みを正すための原動力になりえていた。それだけリベールの与えた影響は大きく、どの国でも無視できない力になり得ていた。

 

 

「ヘンリー市長に直接会ったことがあるけれど、気さくで気丈な人だね。」

「えっ、会ったことがあるの!?」

「ちょっと任務でね。『風の剣聖』ともその時に知り合ったんだよ。(正確には再会とも言うべきなんだけれど)」

 

三年前……レイアはレミフェリアで騒がれていた魔獣騒ぎの調査に来ていた。その際、襲撃してきた猟兵ともやりあったが、『正当防衛』という形で問答無用で滅していた。その時、別件で来ていたアリオスとも久しぶりに会い、非常時ということで協力し、……最終的に古代遺物(アーティファクト)が暴走して発生した公都凍結事件……『氷絶事件』は二人の尽力によって解決した。アーティファクトについてはレイアが回収している。

その後、アルバート大公から勲章が送られ、アリオスは辞退したがレイアは受けとっていた。

 

『……何故、勲章を受け取ったのだ?』

アリオスに勲章の事を聞かれたレイアは、

 

『レミフェリアに対価を支払ったわけではないですし、お褒め下さって与えられたものです。素直に受け取っておくのが大公さんも納得されるのでは?』

と答えていた。それを聞いたアリオスは苦笑していたが……

 

その事件に偶然ともいえる形で巻き込まれたヘンリー市長を助け、ヘンリー市長から個人的な礼として恩赦を受けたのだ。

 

 

「ちなみに、私やあの二人はアリオスさんと手合わせしたことがあるけれど、全員手加減した状態で勝ったことがあるよ。」

「ええっ!?」

「『風の剣聖』といえば、クロスベルでもトップクラスの遊撃士ですよ!?」

「……冗談、ということではなさそうですね。」

以前、ちょっとした用件でクロスベルに滞在した際アリオスと手合わせすることになり、アスベルは八の型『無手』限定、シルフィアは本来の得物ではないハルバードで、レイアに至ってはスタンハルバード二刀流という、いろんな意味で加減しているのかしていないのか解らない『手加減』をしつつも、勝利している。

 

「私としては、風の剣聖よりも受付の人に戦慄したよ……」

「あはは……」

その際受付の人から猛烈にクロスベルへの転属をしないかということで迫ってきたが、丁重にお断りしている。あれはいろんな意味で『個性的』すぎる……

 

 

「ま、それはともかく……マクダエル市長はよく頑張ってる人だと思ったかな(それ故に危ういんだけれど…)」

断定はできないものの、暗殺されない可能性などない。下手をすれば……それに関しては、何とか考えるしかないのだが……

 

 

~レマン自治州 遊撃士協会総本部~

 

 

『支える籠手』……その権威である遊撃士協会の総本部。

 

その総本部の中は、ある意味大惨事だった。

 

 

「た、助けてくれ……!!」

「平和的に陳情しようとしたら、拘束しようとした人間が言うことですか?」

「そもそも、(ゼムリアストーン製の)ハリセンごときで吹っ飛ぶ方がどうかしてますけれど?」

法術で拘束されている人事担当の課長らしき人、笑顔なのだが凄味がある表情をしているアスベルとシルフィア。色々ツッコミが入りそうなのは承知だが、今論ずるべきは『なぜこうなったのか』ということだ。

 

最初は受付の人にお願いしただけだ。なのに、来たのは武装した連中。『連行する』とかいったので、正当防衛で峰打ちにした。

 

どうやら、アリオスをS級へと昇格させようとして、一部の過激派が俺らとアリオスに繋がりがあることを知り、人質にしようとした。全くもってはた迷惑な話である。本人が固辞しているのだからどうしようもないことだ。それらに巻き込もうとした時点で納得できかねる話だ。とりあえず、コイツでは話にならないと判断し、気絶させた。

 

「……帰るか」

「そうだね」

一定の目的は果たした。これ以上長居するのも無用のため、リベールに帰ることにした。

 

『………』

この出来事以降、アスベルらへの移住要請はなくなったのは言うまでもなく、仕事もはかどるようになったのである。そして、『二人が来たら素直に応対すること』という暗黙のルールが出来上がってしまったのである。

 

 




本編すすまねぇorz

『隣の芝は青い』……言うなれば、そんな感じですw

レミフェリアの事件に関しては、零でミシェルが言っていた、アリオスが関わった『事件』のことです。ほぼオリ設定ですがw

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