英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第26話 突破口

メイベルから、モルガン将軍より事情を聞きだすために紹介状を書いてもらい、エステルとヨシュア、シェラザードはハーケン門でモルガン将軍と面談するも、エステルがうっかり口を滑らせたことで遊撃士であることが露呈し、モルガン将軍が激昂……結果的に追い出される形となった。

『民間組織ごとき』と言い放ったモルガンに、シェラザードは本気で怒ってこの地方で頻発している盗難事件の解決に軍が全く動かなかったこと、そのために遊撃士が動く事態になったことを指摘すると、モルガンは軍の規律により軽々しく動けないと反論……一触即発の状況で出てきたオリビエの弾き語りで一同の毒気が抜かれる形となり、モルガンは『遊撃士ごときが余計なことをするな』とくぎを刺して、門の中に戻り……エステル達は市長の元に戻って報告したのと同時に、今後の対策について話し合うことにした。

 

その市長邸で取材を申し込もうとしていたナイアルとドロシーの姿があり、ドロシーの不躾な発言で取材をきっぱりと断られる羽目になり、ナイアルがすごすごと帰っていったのをエステルらは苦笑を浮かべて見ていたのであった。

 

 

~ボース市長邸~

 

「そうでしたか…モルガン将軍からは特に、ですか…」

「まったく、失礼しちゃうわよ。遊撃士なんて必要ないなんて言い方はないじゃない。」

「その意見には概ね賛成ね。けれども、困ったわね……」

肝心の王国軍からの情報がない……三人はおろか、メイベル市長ですらも彼の遊撃士嫌いがここまでのものとは思っていなかったのだ。この分だとどうにも動きようがないのは事実だった。

 

「やれやれ、しおらしくしているなんて空気がよどむじゃないか。ここは僕のリュートで……」

「椅子に縛り付けてほしいかしら?今なら椅子も固定してあげられるわよ?」

「スミマセンデシタ」

この暗い空気を払拭しようとしたオリビエが奇行に走ろうとしたところをシェラザードが威圧を込めて言い放ち、オリビエは冷や汗をかき、黙るしかなかった。

 

「それにしても、盗難事件ってここ最近の話ですよね?」

「ええ。実は南街区が一昨日の夜盗難に遭ったばかりなのです。日用品の不当な釣り上げも飛行船が運航していないこともあって、その不満が出たのではと危惧はしていたのですが……」

数か月前から続く盗難事件……どうやら、一昨日にもボース市の南街区で盗難の被害が出ていたようだ。ただ、不幸中の幸いは飛行船の運航停止によって『まだ最小限』の被害で済んでいる。これ以上続けばボース……ひいてはリベール全体の印象に関わってくる。

 

「う~ん……だったら、南街区の人に話を聞いてみない?後、ナイアルさんとドロシーにも。」

「そうね。もしかしたら、いつもと違う点が見られたかもしれないし。」

「けれども、エステルからそんな言葉が聞けるなんて、感激ね。」

「シェラ姉、それってどーいう意味よ!?」

エステルの意外な提案にヨシュアは驚きつつもその提案に賛成し、シェラザードはエステルの言葉に感心し、エステルは不満そうに呟く。

 

「フム、そうと決まれば早めに動くのが得策のようだね。」

「って、アンタも来るわけ?」

その言葉を聞いて早速行動に移すべきだというオリビエの言葉に、エステルは彼がまだ関わることについて疑問視していた。彼は帝国からの観光客(エステル達からすれば)、遊撃士の仕事に関わる義理はないはずだ。

 

「安心したまえ。この件に関して、『協力者』としてレイア君から頼まれたのでね。」

「え、レイアが?」

「失礼します。レイア様達がお見えになりました。」

自身を持って答えるオリビエにシェラザードは彼の言葉が信じられずにいたところ、リラが入り、彼女の後についてくるかのようにレイアとシオン、トワとエリィの四人が入ってきた。

 

「よかった、ここにいたんだ。」

「レイア、彼から聞いたけれど、本当なの?」

「ええ。彼はそれなりの手練れだと解っています。なので、私が協力を申し出ました。」

「というワケなのだよ。」

「ほ、ホントだったんだ……」

レイアにオリビエの言葉の真偽を確かめると、レイアは笑みを浮かべて答え、オリビエも自分の言っていたことが真実であることに自信を持って言い、エステルはため息をついた。

 

「って、そこにいる彼は、“紅隼”!?」

「初めまして、“銀閃”シェラザード・ハーヴェイさん。俺はシオン・シュバルツ。今はしがない軍人ですよ。」

レイアの隣にいるシオンにシェラザードは驚き、声を上げる。一方、シオンは冷静に自己紹介をする。

 

「“紅隼”……成程、貴方が“ラヴェンヌ”の……」

「ラヴェンヌ?」

「ボースの北西にある小さな村だね。でも、何故?」

「ああ、いえ。何でもないですわ。」

メイベルはシオンの異名である“紅隼”とボースの北西にあるのどかで小さな村……ラヴェンヌの名を呟き、エステルはその出てきた地名に首を傾げ、ヨシュアは説明した後メイベルに言葉の意味を尋ねるが、メイベルはバツが悪そうにして答えを濁したのだった。

 

「で、エステルとヨシュア、シェラさんには南街区の聞き込みとナイアルさんから聞き込みをやってほしいの。」

「まぁ、それは元々やるつもりだったし、いいけれど」

「レイアたちはどうするの?」

「私は依頼をこなさなきゃいけないから、調査には加われないけれど……そうだ。飛行船絡みの情報に関しては問題ないよ。」

「問題ないって……レイア、どういうこと?」

レイアの言葉にエステルは頷き、ヨシュアの問いかけには別件があるため調査には加われないことを説明、そして懸念材料だった情報提供の目途がついたことを言い、それに疑問を浮かべたシェラザードが尋ねると、レイアの代わりに答えるかのようにシオンが言葉を発した。

 

「簡単だよ、シェラさん。モルガン将軍に情報を出させるようお願いしておいたからな。」

「えっ!?」

「あ、あんですってー!?」

「ほう……」

「ほ、本当ですか?」

それには一同が驚いていた。先程まで頑なだったモルガンから情報を引き出した方法……それは、

 

 

『今回の件に関しては、遊撃士協会に対して謝罪の文章を送ること。そして、遊撃士協会並びにメイベル市長に対して事件の詳細を報告すること。この二つを早急に実施すれば、今回の件に関しては不問といたします。よろしいですね?』

『承知いたしました、殿下。』

シオンの地位を生かした『頼み』だった。遊撃士でありながらも、王家――とりわけアリシア女王の篤い信任と『王室親衛隊大隊長』の地位を得ているシオンの言葉には、『遊撃士嫌い』のモルガン将軍ですら頭を下げざるを得ない……下手に楯突けば国家反逆罪に問われかねないためだ。

ただ、信憑性やシオンのこともあるので全てをそのまま話すわけにはいかず、ある程度ぼかした上でエステル達に説明した。

 

 

「えと、それじゃ市長さん。あたしたちは話を聞きに行ってみるわね。」

「解りました。私のできる範囲でお手伝いさせていただきますわ。」

「ご厚意に感謝します。」

「それでは、事件解決のために話を聞きに行こうではないか。」

「って、アンタが仕切るな!!」

呆気にとられていたエステル達だったが、気を取り直して南街区に行き、話を聞くために行動を開始した。

 

 

 


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