英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第27話 覆しの一手

~ボース マーケット~

 

シオンの功績により、モルガン将軍からギルドとボース市長への謝罪文の確約を取り付け、更に現在判明している情報を貰い、レイアらは別件の依頼をこなした後ボースのマーケットで一息ついていた。

 

「何と言うか、色々驚きなんだけれど」

「それをエリィが言うなよ……エリィだって、市長の孫娘なわけだし。」

「あははは……」

「これぐらいで驚く方がどうかしてるよ。」

「「規格外のレイアが言うな(言わないで)」」

元猟兵団『赤い星座』の遊撃士、王室親衛隊大隊長にして王家の人間、クロスベル市長の孫娘、シスターの皮を被った守護騎士……正体がばれると色々騒動にしかなりえない面子であることは違いない。ただ、当の本人たちにはその自覚など皆無であろうが…

 

「で、これからどうするの?」

「あ、そうだ。俺からの提案なんだが……ラヴェンヌ村に行かないか?」

「ラヴェンヌ?」

「ああ。」

シオンが言うには、ラヴェンヌ村の少年から『鳥みたいなもの』が北側……廃坑となっている旧鉱山の方角へと飛んで行ったらしい。夜に飛ぶ鳥などいたとしてもおかしくはないが、夜行性の鳥は逆に少ない……可能性を信じて、四人はラヴェンヌ村へと足を運ぶことに決めた。ただ、エステル達の情報の事もあるので、一旦合流することにし、お互いに情報交換することにした。

 

 

~レストラン『アンテローゼ』~

 

合流して、情報交換をしている間、オリビエは置かれたピアノを弾き始めた。その腕前は一流の音楽家と比べても遜色なく、彼自身が『演奏家』だと言っていることに違いはないようだ。ただ、エステルとシェラザードは納得いかなそうな表情を浮かべているが。

 

「何か、納得いかないわね……」

「気持ちは分からなくもないけれど。」

「全くです……で、今後の動きなんですが……」

エステル達は南街区で得た情報からヴァレリア湖畔の宿の近くで盗賊らしき姿が目撃されたらしい……エステル、ヨシュア、シェラザード、そして向こうで演奏しているオリビエの四人でその真偽を確かめることにした。レイア、シオン、エリィ、トワの四人はラヴェンヌ村に向かい、シオンの情報とナイアルが伝えてくれた目撃情報をもとに飛行船の行方を追うことにした。

 

「おや、もう行くのかね。なかなかせっかちな人だ。」

「あら、何だったらここでゆっくりしていてもいいのよ?」

「いやいや、僕も協力者だからね。信頼されているからには、必要最低限は働いておかないと。」

オリビエの言葉にシェラザードは皮肉めいた言葉をかけるが、協力者である立場からして契約を反故にできないとオリビエは答えた。

 

それぞれ別行動になった後、シオンはレイアに話しかけた。ハーケン門でのモルガン将軍の態度の不自然さが気にかかり、レイアに何とかできないか確認した。

 

「そうね……あの二人は早くて明日には戻ってくるから、その時に聞いてみる……いや、もう一人動けそうな人がいるかな。」

「もう一人?」

「同じ遊撃士の人。あの人なら確かルーアンにいるはずだから……」

「誰かしら?」

「う~ん……(もしかしたら、あの人ですかね?)」

そう言って、レイアはギルドに向かい三人も彼女について行った。

 

 

~遊撃士協会 ボース支部~

 

レイアはルグランに『彼女』との連絡が取れるようお願いし、ルーアン支部の受付の人に伝言をお願いする形で連絡を取り付けたのだ。

 

「どうだった、ルグラン爺さん。」

「うむ。ジャンの奴から『彼女ならもう少しで戻ってくる』と言っていたから、問題はないじゃろ。」

「ありがとう」

「あの、レイア。貴女が頼んだ相手って……」

「セシリア・フォストレイト。私と同じA級遊撃士だよ。」

セシリア・フォストレイト……“黎明”の異名を持つA級正遊撃士。その名前は偽名で、本名はルフィナ・アルジェント……数年前の事件で『死んだ』人物なのだが不思議な因果か生き残り、現在は姿を隠し遊撃士として活動している。彼女が星杯騎士として磨いてきた事件解決能力は一線級で、リベールの遊撃士であるクルツ・ナルダンと同格かそれ以上の実力者と言われている。

 

「……クロスベルも凄いと思ったけれど、リベールも凄いわね。」

「ははは…カルバードには“不動”、エレボニアには“紫電(エクレール)”もいるから、どっこいどっこいだよ。」

レイア自身はそう語っているが、S級がこんなにいること自体『おかしい』のだ。当の本人らを知っている彼女にしてみれば『当然』なのだろうが……

 

「何にせよ、シオンのお蔭じゃな。それで、シオンはこれからどうするのじゃ?」

「この事件の解決までは手伝うよ。その後はグランセルまで戻らないといけないけれど。」

「それはありがたいわね。それじゃ、行きましょうか。」

四人はギルドを後にし、西ボース街道を経由してラヴェンヌ村へと向かった。

 

 

~遊撃士協会 ルーアン支部~

 

リベール王国西部に位置するルーアン地方、その管轄都市である港湾都市ルーアンにあるギルドに、一人の女性――セシリアが戻ってくる。彼女の姿を見ると、受付の男性――ジャンが声をかける。

 

「戻りました。」

「お疲れ様、セシリア。さっき、ボースから連絡があってね。」

「ボースというと、レイアから?」

「ああ。」

ジャンはセシリアに先程の連絡の内容を伝えた。

 

「(成程……確かに、王国軍の動きが鈍いのは気にかかるわね)ジャンさん、ここの仕事が一段落したら王都の方に向かいます。」

「了解したよ。エルナンには僕の方から連絡しておくよ。」

「解りました。」

セシリアはその後、ジャンに依頼達成の報告を行い、泊まっているホテルへと戻っていった。

 

(さて……空路は拙いわね。かと言って……いざとなれば、合流も視野に入れておきましょう。)

 

“黎明”……ひいては“千の腕”と呼ばれた人間の、王国軍……いや、その背後にいる『蛇』との『知恵比べ』が始まろうとしていた。

 

 

~ラヴェンヌ山道~

 

レイアら四人はラヴェンヌ村へ続く道、ラヴェンヌ山道を歩いていた。すると、山道を下りてくる人物に気付く。

 

「お?」

下りてきた人物……赤毛の男性はレイアに気付いて声をかける。

 

「誰かと思えば、レイアじゃねえか。見るからに護衛のように見えるが?」

「護衛じゃないよ。むしろ調査のために来てるんだよ。」

「へ~……どう見ても、お前以外の三人に関しては腕が立つとは思えないぞ?」

「………」

男性はシオン、エリィ、トワを見て鼻を鳴らし、自分がよく知る彼女以外が到底戦力になるとは思えなかった。その言葉にレイアは目を細め、男性を睨む。

 

「な、何だよレイア?」

「初めてエステル達と会った時と同じね……その後の模擬戦でエステルにボコボコにされてたけれど。」

「あ、あの時は調子が悪かっただけだ!あのガキに、『次は負けない』と言っておけよ。」

「あ~、はいはい。解ったわよアガット。」

この男性……名はアガット・クロスナー。シェラザードと同じB級正遊撃士で、『重剣』の異名を持つ。

 

実は、エステル達とはカシウス繋がりで一年前に出会っていて、その際エステルを馬鹿にし、その後の模擬戦でボコボコにされた苦い経験の持ち主だ。

 

『で、だ・れ・が・バ・カ・で・す・っ・て?』

『……ち、ちくしょう……』

『………(と、父さん……)』

『………(何も言うな、ヨシュア……)』

その光景を目の当たりにしたカシウスとヨシュアは『彼女を本気で怒らせないこと』を心の中で誓ったとか……カシウスが教えた基礎、そしてレイアが教えたあらゆる技巧……後は、技の応用が柔軟にできるようになればいいが……それを差し引いても、エステルの実力は正遊撃士クラス……それも、問答無用でB級以上のものになりうるのだ。

 

「というか、カシウスさんがいなくなったっていうのに、平然としてるね。」

「相当頭がキレるあのオッサンが賊如きに遅れをとるとも思えねえよ。それじゃ頑張れよ。」

「はいはい、小娘たちに負けた『重剣』さん。」

「てめえ、いつか負かしてやるから、覚悟しとけよ!!」

レイアの冗談にアガットは遠吠えのような言葉を吐いて、その場を去っていった。

 

「むぅ、さっきの言葉は酷いよ。」

「ええ、全くよ。レイア、あの人も遊撃士なの?」

「うん。」

「へ~……(あの身なり…ひょっとして、あの時の?)」

先程のアガットの発言に、頬を軽く膨らまして納得いかない表情を浮かべるトワと怒りが混じった表情を浮かべるエリィ、エリィの質問に頷いて答えるレイア、そして彼の姿を思い出し、昔会ったことのあるような印象を覚えたシオンだった。

 

四人はアガットの言葉を受けての鬱憤晴らし……正確には、レイアが道中で襲い来る魔獣を棒でホームランしたり、シオンが剣の衝撃波で魔獣の胴体に穴をあけたり、トワに至ってはアーツで容赦ない攻撃を浴びせ……その光景を見つつ、銃で的確に魔獣を仕留めていくエリィは周りの人の『異常さ』に困惑していた。

 

(……この人たち、本当に『人間』よね?)

自分の中の『常識』と『非常識』が最早飾りにしかなっていないような気がしたのだった。

 

 

~ラヴェンヌ村~

 

ボース地方の長閑な村で、果樹園が形成されている。この村はかつて七耀石の産出で盛んだったが、鉱山が廃坑となってからは果樹園による農業で生計を立てているのだ。

 

「なんだかアルモニカ村を思い出すわね。」

「アルモニカっていうと、クロスベルの」

「そうね。そこで採れる蜂蜜はかなりの評価を受けているわ。」

エリィの言うアルモニカ村は、蓮根と蜂蜜で生計を立てているクロスベル北東部にある村。そこの蜂蜜はかなりの評価を受けており、自治州内外を問わず、商品価値は高い部類に入るだろう。事実、リベールも少数ながら入ってきており、かなりのいい値……高級ブランドと比肩するほどの部類に入っている。

 

すると、向こうにいた赤毛で制服を身に纏った女性が四人に気づき、声をかけてきた。

 

「あれ?レイアさんにシオン!」

「ミーシャ、久しぶりね。」

「久しぶりだな。今日は休みか?」

「うん。あ、そうだ。さっきお兄ちゃんに会わなかった?多分お兄ちゃんのことだから色々キツイことを言っちゃったかもしれないけれど……気分を悪くしてたら、ごめんなさい。」

「あはは、アイツの言動はいつもの事だから気にしてないよ。」

「ミーシャのせいじゃないから。」

ミーシャと呼ばれた女性は兄がすれ違った時にキツイことを言ったのではないかと危惧し、謝っていた。一方、その様子をなだめていたレイアとシオン、呆気にとられた様子のエリィとトワだった。

 

「兄って……貴女は?」

「そうでした、そちらの二人とは初対面ですね。私はミーシャ・クロスナー、『重剣』アガット・クロスナーは私の兄です。」

 

 




というわけで、原作ブレイクの一人が登場です。

年齢が解らなかったため、百日戦役時点で大体6~7歳程度にしています。
で、制服で気が付きますが……それはお楽しみにw

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