英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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久々にほのぼの的なタイトルを付けたような気がしますw


第28話 夕暮れのひととき

~ヴァレリア湖畔~

 

エステル達は湖畔で釣りをしていた目撃者、ロイドから夜釣りをしていた時に二人の男女らしき姿を見たという情報を得た。目撃情報自体がまだ少ないことから再び現れるのでは……そう考えた四人は夜まで自由時間とし、待機することにした。シェラザードとオリビエは果実酒を飲みかわし、エステルは釣りをして楽しみ、ヨシュアはベランダで読書に勤しんでいた。

 

「ふ~、もう夕方か。うん、釣果としては上出来ね♪」

魚をまた釣ったエステルは辺りが夕焼けに染まっているのに気付いた。

時間的にはそろそろ夕食の時間だろう。もう少し釣りをしたい衝動もあるが、今は事件の調査の途中での自由時間。今度休みが出来たらまた釣りをしようとエステルはベランダの方に上がって、ヨシュアに釣果を自慢しようと思ったが、肝心のヨシュアの姿が見当たらなかったのだ。

 

「ヨシュアはもう戻ったのかな…あれ?これって……」

テーブルに近づいたエステルは、その上に置いてある本――『実録・百日戦役』を見つけた。そこの席に座っていたのはヨシュア……となれば、彼の忘れ物の可能性が高いだろう。

 

「ヨシュアの忘れものかしらね……いつも澄ましてるクセに割と抜けてるトコがあるのよね~。仕方ない、あたしが届けてやるか。」

エステルはヨシュアを探して歩き周った。すると、外れの桟橋にヨシュアが無言で寂しそうに佇んでいた。

 

「悩み多き少年、こんなところで何を黄昏ておるのかね?」

「はは……別に、たそがれてなんかいないけどね。釣りのほうはいいの?」

「うん。もう少し楽しみたかったけれど、夕食の時間が近いから切り上げてきちゃった。そうだ、はい。」

エステルの声の掛け方に苦笑しつつ、ヨシュアはエステルのほうを振り向いた。

エステルはヨシュアに先ほど見つけた本を差し出した。

 

「読書するとか言って置きっぱなしにしちゃってさ。大体、読書ばかりに夢中なんてしてたら可愛い彼女ができないわよ?」

「大きなお世話だよ……ちょうど読み終わったばかりでさ。目が疲れたから気分転換に散歩してたところなんだ。」

「………ヨシュア?」

「な、なに?」

ヨシュアの様子にエステルはジト目をしてヨシュアに近づき、ヨシュアは珍しく焦って一歩下がった。

 

「また一人だけでなにか溜め込もうとしてるでしょ?分かるんだってば、そーいうの。」

「……」

「大体、フェアじゃないわよ、ヨシュアだってあたしが落ち込んだ時には慰めるクセに。その……あたしじゃ父さんみたいに頼りにはならないと思うけど……それでも、こうやって一緒にいてあげられるんだから。こればかりは父さんだってなかなかできないでしょ?」

ヨシュアの隣に来たエステルは優しい笑顔でヨシュアに言った。

実力的には開きがある……エステルでもそれは自覚していた。けれども、一方的にされっぱなしなのは彼女の性格からすれば納得のいかないことでもある。

 

「………ごめん」

彼女を信頼していないわけではない……けれども、自分の気遣いで彼女を傷つけていたこと……それが伝わってくるエステルの言葉にヨシュアは辛そうな表情で謝った。

 

「こーら、こういう時は『ありがとう』でしょ?ヨシュアって頭はいいけど、ホント肝心なことが分かってないんだから。」

「はは、本当にそうだな。ありがとう……エステル。」

エステルが教えたことにヨシュアはようやく笑い、感謝の意味を込めてお礼を言った。

 

「うむうむ、それでいいの。それでもヨシュアが納得できないんだったらハーモニカを1曲、お礼はそのあたりでいいわよ。」

「おおせのままに……『星の在り処』でいいかな?」

「うん。」

ハーモニカを取り出したヨシュアはなじみ深い曲でいいか尋ね、その問いにエステルが頷き、彼女が桟橋を支えている木の柱に座ったのを見てから、ヨシュアはハーモニカを吹き始めた。ヨシュアのハーモニカの曲は儚げながらも耳に残る曲で、シェラザードやオリビエ達を含め、川蝉亭の客達も皆耳を傾けて聞いていた。

 

 

「えへへ、なんでかな。ハーモニカの音って夕焼けの中で聞くとなんだか泣けてくるよね。」

ヨシュアがハーモニカを吹き終わるとエステルは目元についていた涙を拭った。

 

「……相変わらず、君は何も聞かないんだね。」

「あの時約束したじゃない。ヨシュアが話してくれる気になるまであたしからは聞かない、って。」

エステルから目をそむけているヨシュアにエステルは苦笑して言った。

 

「それに5年も経つんだもん。あたし自身、何かどーでも良くなったし。」

「そう……5年もだよ。どうして何も聞かずに一緒に暮らせたりするんだい?」

 

―――あの日、カシウスに担ぎ込まれたボロボロで傷だらけの子供を……昔のことをいっさい喋らない得体の知れない人間なんかを…………どうしてエステルたちは受け入れてくれたのか……?

 

エステルの前向きな言葉にヨシュアは不思議に思い、真剣な表情でエステルを見た。

 

「だって、ヨシュアはあたしにとっての……ううん、あたしや父さん、母さんの家族だし。」

ヨシュアの言葉を気にせず、腰を上げて立ったエステルは事も無げに言った。

 

「………」

「前にも言ったけど、あたし、ヨシュアのことはかなーり色々と知ってるのよね。本の虫で、武器マニアで、あたしなんかよりもやたらと要領がよくて……人当たりはいいけど、他人行儀で人を寄せつけないところがあって……」

「ちょ。ちょっと……」

ヨシュアは彼女の言葉に呆気にとられる間もどんどん自分のことを言うエステルに、ヨシュアは制しようと声を上げたが、

 

「でも、誰よりも面倒見は良くて、実はかなりの寂しがり屋。」

「………」

エステルの口から出てきた言葉に、口を開いたまま黙った。それは、彼女が『自分』という存在――ヨシュアのことを誰よりも知り、誰よりも見続けてきたからこその言葉であることを理解するのにそう時間はかからなかった。

 

「もちろん、ヨシュアの過去も含めて全部知ってるわけじゃないけど……それを言うなら、父さんやお母さんの過去や出会いだってあたし、あんまりよく知らないのよね。だからと言って、あたしと父さんやお母さんが家族であることに変わりはないじゃない?」

エステル自身、自分を生み、育ててくれた両親のことをよくは知らない。そもそも、お互いに『若いころは~』とか子どもに話す性格でもない。ありのままの自分を受け入れ、育ててくれた。今もまた、カシウスに対して不服ではあるが、育ててくれている。彼らの気持ちは正直なものだと、エステルはそう感じていた。

 

「多分それは、父さん達の性格とか、クセとか、料理の好みとか……そういった肌で感じられる部分をあたしがよく知ってるからだと思う。ヨシュアだって、それと同じよ。」

単純な物差しで測れるものではないが、彼女にしてみれば彼女なりの『直感』で、彼を知って受け入れている。そこに難しい理屈など必要ない。受けているからこそ『そういうこと』なのだと。言いたいことを言い終えたエステルは満面の笑みを浮かべてヨシュアを見た。

 

「本当に、君には敵わないな。初めて会った時……具体的には、君の飛び蹴りをくらった時からね。」

「え……あたし、そんな事したっけ?」

感心と驚嘆が入り混じった表情をしつつ述べたヨシュアの言葉にエステルはたじろいだ。

 

「うん、ケガ人の僕に向かって何度もね。」

「あ、あはは……それは、その、幼い頃のアヤマチってことで。」

ハッキリ言ったヨシュアにエステルは苦笑しながら言った。それを思いだしつつ、レイアに昔言われた『感情的になるのは悪くないけれど、自分自身の行動にまで感情を持ちこんだら大変だよ』の言葉を反射的に思いだし、冷や汗をかいた。

 

「はいはい……ねえ、エステル。」

「なに、ヨシュア?」

「今回の事件、絶対に解決しよう。父さんが捕まっているかどうか、まだハッキリしてないけど……それでも、僕たちの手で、絶対に。」

「うん……モチのロンよ!」

ヨシュアの真剣な言葉にエステルは元気良く頷いた。

 

「それじゃ、そろそろ宿に戻ろうか?食事の用意もできてる頃だろうし。」

「うん、お腹ペコペコ~。しっかりゴハンを食べて真夜中に備えなくちゃね。」

 

二人がシェラザードたちの元に来ると、シェラザードは酔いが回っているようで、オリビエに至っては心ここにあらずの状態になっていた。それを証明するかのような空瓶がいくつもテーブルの上に乗っていた。

 

「って……そういえば、レイア達に伝えてないのよね。あたしたちの行動。」

「そうだね。彼らには悪いことをしたかな。」

「まあ、その辺は心配しなくてもいいんじゃないかしら。レイア達はラヴェンヌ村の知り合いの家に泊まる予定だし、私たちの方が早く終われば、迎えに行きましょうか。」

エステルはあの四人に連絡していないことにため息をつき、シェラザードは心配する素振りなどなく笑みを浮かべて呟く。

シェラザードは前もってレイアと話し合い……早ければ今日中に空賊を捕まえることを鑑みて、明日合流することで折り合いをつけているのだ。

 

「まあ、解ってはいるけれど……結構飲んでいるシェラ姉が言えた台詞?昼間から飲んでるじゃない……」

「いいじゃない。美味しい酒があれば時間なんて関係ないわよ。」

「……オリビエさん、頑張ってください。」

「え!?ヨシュア君、酷いじゃないか!こんなにも尽くしている健気な僕をあっさりと見捨てるのかい!?あれだけ触れ合った仲間だというのに!!」

シェラザードの言葉に半分納得しつつ、既にテーブルで存在の放っている空き瓶の数々を見るからに説得力など皆無で、エステルはジト目で指摘し、シェラザードはのらりくらりとかわし、彼女の酒の相手になっている演奏家に満面の笑みで呟くヨシュア、そして言葉だけ聞くと誤解しか生みださない言動を発してどうにかして逃げたい心境のオリビエの姿があった。

 

「何言ってるんだか……ヨシュア、あたしたちは向こうに行きましょうか。」

「そうだね。大人の時間を邪魔するのは無粋だろうからね。」

年齢の関係で酒の飲めない二人はカウンターに移動し、その光景を見たオリビエは『生きて帰れるだろうか……』と心なしか自分の安否を思ったとか……

 

その結果……

 

 

~川蝉亭2階 エステル達の部屋~

 

「あーうー……」

「こりゃ完全にグロッキーね。超マイペース男も酔ったシェラ姉には勝てなかったか。」

酔い潰され、魘されているオリビエ。予測はしていたが、こうまでものの見事に的中してしまうと色々複雑な気持ちがある。

 

「いや~、飲んだ飲んだ。最近色々あって飲めなかったから、久しぶりに堪能しちゃったわ♪」

「酔い潰した当の本人はもう完全に素面だし。シェラさん、何か特殊な訓練でも受けているんじゃないんですか?」

「シェラ姉ならあり得そうで怖いわね…」

先程まで酔っぱらった状態だったのはエステルはおろかヨシュアから見ても明らかだった。だが、現にここにいる彼女は酒を飲む前と何ら変わりないのだ。酒限定で次元が捻じ曲がった存在だと言われてもおかしくはないと率直に思った。

 

「酒に関して特殊な訓練なんて受けたつもりなんてないけれどねぇ……うーん、ゲテモノ酒のたぐいは一座にいた頃から飲んでたけど。あと、毎年セシリアのお誘いで参加させてもらってる宴会ぐらいかしら?」

「それはいくらなんでも違うんじゃないかと思いますけれど。というかセシリアさんにまで迷惑をかけたんですか、シェラさん。」

「シェラ姉なら、宴会と聞けば意気揚々と行きそうだものね。」

酒は飲みなれれば慣れる……そんなのは、体質的にもそれだけのキャパシティを持つ人間ぐらいだ。特に、かなりの量を嗜む人にとってみれば。それよりも、彼女の言葉から出た単語に反応し、エステルはジト目でシェラザードの方を見て、ヨシュアは疲れた表情でシェラザードを見つつ、心の中でその人物を哀れんだ。

 

「う、うるさいわね。それに向こうも悪いのよ!」

シェラザードが言うには、今まで飲んだことの無いような高級な酒が湯水のごとく振る舞われ、便乗していただいていたら……結果的に、かなりの量を飲んでいたというオチだった。

 

 

補足しておくと、昨年末の宴会に参加していた面子は……アスベル、シルフィア、レイア、シオン、マリク、宴会場を貸しているヴィクター、彼の妻であるアリシア、ヴィクターとアリシアの子であるラウラ、ヴィクター家執事のクラウス、ヴィクターの招待に叔父の代理として参加する羽目になったミュラー、王国正遊撃士のセシリア、シスター(仮)のトワ、帝国の遊撃士であるトヴァル、サラ、ヴェンツェル、ラグナ、リーゼロッテ、リノア、そしてセシリアに招待される形で参加しているシェラザード。

 

なお、食べ物や酒の調達はアスベル、シルフィア、マリクの三人。必要経費に関しては、予算だけで数百万ミラ単位……“仕事”でマフィアなどを潰して、その資金を根こそぎもらったりするなど『外道』であるが、それらは食材や酒の調達……マフィアの支配下にあった地域で購入しており、経済に“資する”行動原理ではある……やっていること自体は誉められたものではないが。

 

 

「それよりもコイツ、どうするの?この状態じゃ、しばらく使い物にならないわよ。」

ベッドに寝込んでいるオリビエをエステルは疲れた表情を浮かべつつ、どうするか聞いた。酔い潰したのはシェラザードなのだが。

 

「このまま寝かせておきましょう。ここから先、空賊たちと直接対決になる可能性が高いわ。協力者とはいえ流石に民間人を巻き込むのは拙いし。」

レイアから協力者として同行を許されているとはいえ、ただの民間人を巻き込むわけにはいかない。偶発的というか、必然的に酔い潰したことに対しての言い訳にしか聞こえないのはきっと気のせいだろう。

 

「シェラ姉……もしかして。付いて来させなくするために『わざと』オリビエを酔わせたとか?」

「えっ………あ、当たり前じゃない。私の深慮遠謀のタマモノってヤツよ。」

「いや、その間は何なのよ……」

「絶対ナチュラルに楽しんでたんですね、シェラさん。」

「な、何の事かしらね?さて、いきましょうか。」

エステルの発した言葉にシェラザードは少しの間考えた後、笑顔で肯定したが、言い訳以外の何物にも聞こえなかったためエステルやヨシュアは白い目で見た。

 

 

真夜中、ロイドの話通りのカップル――空賊の兄妹が現れ、さらに黒装束の怪しい人間達と会話をし始めた。その中の仮面をした人物に対してヨシュアが今まで見せたことのないような複雑な表情でその人物を見つめていた。

 

空賊達が黒装束達と話をしている隙に空賊艇を抑えるため、一端ヴァレリア湖から離れて飛行艇が停泊できそうな所を探していたところ、昔からある遺跡――琥珀の塔の前に空賊艇が停泊し、さらに空賊達がたき火をたいて自分達を纏めている人物達――キールやジョゼットを待っている姿を確認した。

 

人数的には圧倒的に不利の状況……対応を考えあぐねいていると、酔い潰れたはずのオリビエがエステル達の前に現れた。何でも、胃の中のものを全て吐き出し、冷や水を被ってきたという。その度胸と思い切りの良さに若干感嘆の表情を浮かべた三人だった。

 

「チッ、私もツメが甘かったわね……いっそのこと、火酒を一気飲みでもさせておけば良かったかしら?」

「それは確実に死ねるんで、勘弁してくれたまえ……」

酔い潰した程度では駄目だったかとシェラザードは舌打ちをした後に言い放ち、その言葉に戦慄が走り、勘弁してほしい意味も込めてオリビエが言葉を零した。

 

「それよりもキミたち。ここで空賊たちと戦うのは少々面白くないと思わないか?」

「別に面白くなくてもいいの!」

オリビエの発言にエステルは怒った。しかし、オリビエはエステルの怒りを気にせず、いつものおちゃらけた感じとはかけ離れた、珍しく真面目な表情で自分の意見を言った。

 

「いや、これは真面目な話。ここで戦って、ついでにあの兄妹を捕らえたところで、彼らがアジトの場所について口を割らない可能性が高い。それどころが、人質をタテに釈放を要求してくるかもしれない。あそこにいる彼らや兄妹だけで構成員全員だと断言できないわけだからね。」

「う……」

相手はいわば犯罪者……それも組織。他に仲間がいる可能性が高く、彼らの全容がつかめないことには動きようがない。さらに、飛行船の乗客の事もある。逆上した彼らが乗客や乗組員を人質にする可能性が高く、そうなればその人たちの安否すらも危うくなるのだ。

 

「アンタにしてはまともなことを言うのね。それで、リスクを回避できるいいアイデアでも?」

「勿論だとも……諸君、耳を貸したまえ。」

シェラザードの言葉に対して、そのセリフを待ってましたとばかりにオリビエは不敵な笑いを浮かべ、自分のアイデアを説明した。空賊の捕縛と人質の救出。その二つを同時に成功させるためのオリビエのアイデアに賛成したエステル達は行動を開始した。

 

 




今回、四人ほど新キャラが増えてます。

ヴィクターの奥さん、そして帝国の遊撃士三人。
ヴィクターの奥さんに関してはおそらく死別?だと思われたので、ほぼオリキャラ的な設定。
遊撃士に関しては3rdでのイベントから設定を作って参戦。外伝で色々暴れてもらいます(ニヤリ)



そして、宴会に関してさり気に被害を被っているミュラーさんェ…

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