英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第30話 直感の力

モルガン将軍との話でクーデターが露見し、首謀者の存在も掴んだレイアら四人はモルガン将軍に『人質は助ける』という契約を秘密裏に交わした。

モルガン将軍らはこのまま『彼』に従っておくようお願いをし、捕まえていた構成員を引き取る形で王国軍は去り、四人はラヴェンヌ村で一泊することにした。

時間的にはその少し後……時は既に真夜中、エステル達はある場所に忍びこんでいたのだ。

 

 

~空賊団アジト~

 

オリビエの策……空賊の飛行艇に忍び込み、あわよくばアジトに案内させる……見つかる危険性もあったが、空賊の構成員やあの兄妹ですら四人の存在に気付かなかったのだ。エステル達は飛行艇を出て、愚痴をこぼしていた素早く構成員を次々と気絶させ、ある一室にいた構成員の一人から人質の居場所を聞き出した。

 

「それじゃ、助けに……って、エステル?」

出来るだけ迅速に人質を助けに行こうとヨシュアがエステルを呼んだが、エステルが何かしていることに気付いて、尋ねた。

よく見ると、床に耳を当てて何かをしているようだった。

 

「う~ん……うん、これぐらいなら大丈夫かな。」

だが、本人はかなり集中しており、ヨシュアの声は全く耳に入っていなかった。

そして、何かを確認するとエステルは棒を取り出して構えた。構えた先は……自分の目の前に映る『床』だった。

 

「ちょっと、エステル。一体何を」

「せいやあっ!!」

シェラザードの言葉が言い終わる前に、エステルは棒を高く振り上げ床を突く。その瞬間、エステルらの周りを綺麗な円状の亀裂が入り、エステルらは床ごと下に落ちていったのだ。その光景にヨシュア、シェラザードは呆れ、オリビエは冷や汗をかいていた。

 

「よしっ、うまくいったわ。」

「ね、ねえ、あの子…いつからあんなことができるようになったのよ?」

「その、僕に聞かれても……」

「いやはや、末恐ろしいね。」

「そこ、変な目で見ないの!!」

「いや、無理だから……」

エステルの使った技は『地龍撃』……闘気を込めた武器で突き、闘気を衝撃波として放出することで破壊力を高める技で、その気になればあらゆる形状に破壊することが可能となる……技巧的には八葉一刀流の『奥伝』クラスに匹敵する技を、エステルは直感だけでやってのけてしまったのだ。

家族として暮らしてきたヨシュアもこれには唖然とし、カシウスをよく知るシェラザードですらこれには仰天と言う他なかった。

 

 

~真下の部屋~

 

「な、何だ!?」

「は、柱!?いや、上に誰かが…」

真下の部屋……人質たちがいる部屋の入り口の前に天井から降ってきた柱……正確には抜け落ちた部分の天井部分に驚き、更にその部分に乗っかっていたエステル達に驚いた。

 

「遅い!!」

「はあっ!!」

「ぐはっ!?」

柱から飛び降りたエステルとヨシュアは強襲をかけ、兵たちを迅速に気絶させていった。

 

「人質とは美しくないね。君らに贈るべきは愛の旋律ではなく怒りの銃弾と行こうではないか。」

「ガハッ!?」

「あら、助けは呼ばせないわよ?それっ!!」

それに続いてオリビエは銃で兵たちを的確に撃ちぬいて気絶させ、シェラザードの巧みな鞭裁きで残る兵たちも全員気絶させた。

 

「にしても、エステルもとんだ無茶を……」

「いいじゃない!シェラ姉ぐらいならこれぐらいできるでしょうし……ともかく、この先に人質がいそうだし、行くわよ!」

(いやいや、アガットやアタシですらこんなことは出来ないわよ……この分だと、トップクラスの遊撃士どころか、その先までいきそうだわ……)

今の時点でこの分だと、最終的にはどこまで強くなるのか……エステルの底知れない武の才能を少々不安に思ったシェラザードだった。構成員たちを拘束してから奥の部屋に入ると、そこにはリンデ号が行方不明になり、空賊達に人質にされていた飛行船の船長をはじめとした乗組員達や乗客達がいたのだ。

 

「みんな、無事!?」

「遊撃士協会の者よ。皆さんを救出しに来たわ。」

「見張りの兵は片付けました。念を押して拘束しておきましたので安心してください。」

「ほ、本当か……!?」

「た、助かったの!?」

見張りを倒し、人質に危害が加えられないよう拘束したというヨシュアの言葉に、人質となっていた人達は半信半疑でありながらも喜んだ。そして人質の中から船長らしき人物が名乗り出てエステル達にお礼を言った。

 

「私は、定期船の『リンデ号』の船長を務めるグラントという。本当にありがとう……何と礼を言ったらいいか……どうかしたのかね?」

だが、エステルとヨシュアはその中に消息を絶った自分の父親の姿がいないことに不思議な表情を浮かべていた……誰かを探しているように見える二人を見て、船長は声をかけた。

 

「えっと……人質ってこれで全部なの?」

「ああ、その通りだが……。人質に取られた『リンデ号』に乗っていた乗客・乗員はこれで全部のはずだよ。」

「う、うそ……」

「カシウス・ブライトという人が定期船に乗っていませんでしたか?遊撃士協会の人間なんですが……」

「カシウス・ブライト……?どこかで聞いたことがあるような……」

エステルは乗客の事を尋ねると、これで全員というグラントの答えを聞いたエステルは呆然とした。ヨシュアの言葉にグラントは首を傾げて思い出そうとした。

 

その時、一人の女性乗務員が思い出してグラントに言った。

 

「あのお客様ではありませんか?ほら、夫婦らしき人と船から飛び降りた……」

「ああ、あの人たちか!」

「って、飛び降りた!?」

「ああ」

グラントが言うには、空賊の襲撃直前に三人の乗客が飛び降りたのを乗客たちが目撃したのだ。名簿には『カシウス・ブライト』『バール・ロランド』『ティア・ロランド』の三人がいないことを確認したとのことだ。

 

「って、普通に考えたら自殺行為じゃない!」

「いや、それがその三人が落ちた方向に雲みたいなものが開いて、下りて行ったんだ。」

「雲みたいなもの?」

「何なのかしらね……導力噴射機みたいなものかしら?」

この世界にはパラシュートという概念など存在しない。バルデルやシルフェリティア、カシウスが持っていたのはアスベルが転生前の知識で得たものを持ってきたに過ぎない。無論使用したパラシュートはすべて回収済みだ。そんなものが出回れば、戦争の概念ですら大きく変わりかねないからだ。

 

「ま、父さんの事だから助かる確信を持って飛び降りたとは思うけれど……その父さんは一体何をしているわけ?これだけの騒ぎになってるのにどうして連絡を寄越さないの!?」

「落ち着いて、エステル。確かにそれは気になるけど、今ここで考えても仕方がない。ここにいる人たちの安全を確保するのが優先だよ。」

未だ混乱しているエステルは周りの者達に意見を求めたが答えは帰ってこず、ヨシュアの意見だけが帰って来た。それももっともな意見であり、カシウスの事に関しては後でも考える時間がある……まずは空賊たちを取り押さえることを優先することにした。

 

「あ……うん。わかった、今は忘れることにするわ。」

ヨシュアの意見にようやくエステルは落ち着いた。落ち着いたエステルを横目で見た後、シェラザードは人質の人達に言った。

 

「皆さん、我々はこれから空賊のボスの逮捕に向かうわ。申し訳ないけど、もう少しだけここで辛抱していてちょうだい。」

「あ、ああ……どうかよろしくお願いする。」

「こうなったら腹くくったわ。ワイらの命、アンタらに預けたる。せやから、あんじょう頑張りや!」

「うん、まかせて!」

船長や乗客の励ましの言葉にエステルは元気良く頷いて、部屋を出て首領達がいる部屋を目指した。

 

 

~首領たちの部屋の前~

 

四人は首領たちの部屋と思しき場所にいた。話し声からしても、あの兄妹ともう一人……おそらく、空賊団の首領と思しき人間だろう。

 

「ここみたいね……って、話し声?」

「どうやら、話し込んでいるみたいだね。」

とりあえず、様子を見るために話を聞くことにした。

 

女王が身代金を出す話までは普通だった………だが、人質の扱いに関しては兄妹とその首領で意見が分かれていた。だが、兄妹の意見がますます食い違ってくることにその兄妹はその首領……二人が『ドルン兄』と呼ぶ人物の様子……とりわけ横柄的な性格へと変わっていることに驚いている様子だった。

 

「これって、どういうことかしら?」

「フム、見るからに『ドルン兄』と呼ばれた人物の普段の様子ではないみたいだね。会話からすると、あの三人は仲がいい関係のようだし。」

「あ、あんですってー!?」

「操られている、とかですか?」

「そこまでは解らないさ。だが、『普通』じゃないってことだろうね。僕らから見ても、彼ら二人から見ても。」

「とにかく、止めるわよ!」

明らかに『普通』ではない……最悪、この先の部屋で派手にやらかすことも覚悟して、四人は部屋の中に入った。

 

「あ、あんたたち!?」

「遊撃士どもっ!?馬鹿な!?ど、どうしてこの場所に……」

エステル達の姿を見たジョゼットとキールは信じられない表情をした。彼らからすれば『招かれざる客』であることに代わりはないのだ。

 

「フッ……薄情なこと言わないでくれ。キミたちがあの船で運んでくれたんじゃないか。」

「バ、バカな……何をふざけたこと言ってる……………………まさか。」

オリビエの言葉に最初は理解できなかったキールだったがある考えが浮かび、その考えを肯定するようにエステルが笑いながら続けた。四人が空賊の飛行艇に忍び込み、何食わぬ顔で潜入に成功したことをはっきりと言ったのだ。

 

「ずっこいぞ!この脳天気オンナっ!!」

「誰が脳天気よ!この生意気ボクっ子!!」

「今は口げんかする場面じゃないから……人質は解放したし他のメンバーも倒しました。残るは、あなたたちだけです。」

エステルとジョゼットの程度の低い口喧嘩……それに呆れつつも、遊撃士として三人に向かって宣言した。

 

「遊撃士協会の規定に基づき貴方達を逮捕・拘束するわ。逆らわない方が身のためよ。」

「キール、ジョゼット……てめぇら、何やってやがる?」

「す、すまねぇ兄貴……」

「ゴメンなさい……」

ドルンの責めるような言葉に二人はすまなさそうな表情で謝った。だが、ドルンはそのようなことを気にも留めていないような表情を浮かべていた。

 

「まあいい。大目に見といてやるよ。今ここでこいつらをブッ殺せば、それで済むわけだからなぁ。」

「あ、あんですって~っ!?」

次に出てきたドルンの物騒な発言にエステルは叫んだ。

 

「がはは、揃いも揃って馬鹿な連中だぜ!その程度の人数でこのドルン・カプアを捕まえようとするとはなぁ!」

ドルンは高笑いをしながら机に飛び乗って、大砲のような物を取り出しエステル達に向けて撃った!

 

「はぁっ!?」

「くっ!?」

四人は後ろに跳び、咄嗟に回避した。だが、ドルンは所構わず撃ちまくっており、味方であるはずのキールとジョゼットにまで被害が及んでいた。

 

「お、おい、兄貴!?」

「ちょっとドルン兄!?僕たちまで巻き添えになっちゃうよ!?」

ドルンの半ば錯乱ともいえる攻撃の嵐に二人ですら本気で余裕がない状態だった。

 

「(カプア……あの一家と出会うことになるとは、これも女神(エイドス)の気まぐれというものかな。)フッ、威力の高い導力砲……その割には狙いが定まっていないではないか。」

「何をっ!?」

「こういうこと、さ!!」

「何いっ!?」

オリビエは彼らの“出自”を思い出しつつ、半ば見え透いた挑発をドルンに向けて放ち、ドルンがその挑発に乗った瞬間、その言葉を証明するかの如くオリビエが放った弾丸はドルンの導力砲を吹き飛ばしていた。

 

「ドルン兄!」

「あら、二人とも足元がお留守よ」

「え、って、うわあ!?」

「妙な真似はしないほうがいいですよ。」

「く、くそぅ……」

ドルンの様子に慌てたキールとジョゼット……だが、ドルンに気を取られていたがために……ジョゼットはシェラザードの鞭で地面に倒され、キールはヨシュアに倒されて刃を突き付けられ、無力化させられた。

 

「……さて、僕のお膳立ては済んだ。行きたまえ、可憐な少女よ!今こそ華麗なる旋律を奏でたまえ!!」

「アンタのお膳立てというのには些か不満だけれど……いくわよ!今閃いた必殺技!!」

「なっ!?」

オリビエの言葉に対して不満げに呟いたエステルだったが、武器が手元にないドルンを抑えるチャンスは今を置いて他にはない……そのことは直感で解っていたエステルは闘気を纏い、回転してドルンに突撃する。

 

「まだまだ、ドンドン行くわよー!!」

突撃しても止まらぬ回転……いや、ドルンの周りを回転しつつも回っていく速度はさらに上がり、一陣の竜巻を形作るかのような軌跡を描き出している。『無にして螺旋』……その理の事などエステルは知らないし、教わってもいない。だが、先程の『地烈撃』のことで、エステルの中の何かが繋がり、自分が今まで使える技をも超えるSクラフトを編み出した……

 

 

「これが私の奥義!桜花大極輪!!」

 

 

「ぐっ……」

エステルの新Sクラフト『絶招・桜花大極輪』……その軌跡が止むと、そこにいたのは……真剣な表情で棒を構えるエステル。そして、その威力に耐え切れずに崩れ落ちたドルンの姿だった。

 

「うん、いっちょあがり!」

「いやはや、流石わが友。」

「……(レイア、アンタって人はエステルに何を吹き込んだのよ……)」

「あはは……(僕が守るというよりは守られてる気がするよ……いろいろ複雑だけれど)」

オリビエは感心してエステルを見つめ、シェラザードは彼女に棒術を教えたレイアの事を思い出して内心頭を抱え、ヨシュアに至っては苦笑しつつも女性に守られているような感覚に対して、男性として納得がいかないような印象を強く受けた。

 

この後、三人を拘束した。目が覚めたドルンは先程のと反転したかのような言動でその変貌っぷりを見せていた……エステル達が空賊の飛行艇に戻ると、王国軍と情報部の部隊がおりモルガン将軍は不満げな表情を浮かべたが、リシャールの言葉を聞いてモルガン将軍はその場を去り、後は情報部の管轄でどうにかするということで一定の折り合いが付き、エステル達四人はその場を後にした。

 

「正直な気持ちを言うと、彼らに美味しいところを根こそぎ持っていかれた気分だね。」

「確かにね……あのボスっぽい人はあたしが倒したわけだし。」

「いいじゃないの。遊撃士の本分は縁の下の力持ちというもの。まぁ、アンタの場合はそれを差し引いてもかなりの大手柄だったわけだし。」

残念そうな表情をしているエステルにシェラザードは本来のやるべきことは達成したと慰めた。遊撃士は困ったことを解決するためのスペシャリスト……今回の件にしてもあくまで『調査』であり、逮捕までこぎつけることができたのは運が良かった方だろう。それとは別に彼女の『直感』……一年前の『重剣』との模擬戦で彼を打ち破った実力はある意味本物だとシェラザードは感じた。

 

「確かにそうですね。父さんもそのあたりには気を配っていたみたいですし。」

「あれ、そうだったっけ?……あっ、父さん!」

ヨシュアの言葉に先ほどはひとまず置いていた人物……カシウスのことを思い出した。

 

「その問題を考えなくちゃね。父さんが今、どこにいて何をしているのか……」

「うん……」

未だ消息が解っていないカシウスの事を思い出し、エステルとヨシュアは俯いた。彼らにしてみれば、おそらく生きてはいるだろうが……これまでの彼ならば連絡を欠かすことはなかったという。それはレナから聞いていたのでよく知っている。だが、今回はその連絡がない……それが一体何を意味しているのかは、彼らにしてみれば謎だった。

 

「ここで、私達が出来ることはもう無さそうね。先生の事はひとまず置いといて、ボースに戻って事件の報告をしておきましょう。」

人質となっていた乗組員や乗客達に関しては王国軍に任せることとし、四人は引き揚げることにしたのだった。

 

 




エステルですが、
下に行く→ショートカットできないかな→穴をあける→レイアとの訓練で似たようなことあったっけ……あっ(閃き)

みたいな感じですw理屈というよりは直感で技を編み出す感じに……できてるといいなぁw

『棒でつついたら陥没するでしょう!』ってツッコミが入りそうですが、ラムダドライバみたいな感じですよ(超絶謎理論)

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