英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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外伝 帝国ギルド襲撃事件~詰みの一手~

遊撃士協会帝国支部連続襲撃事件……事態を重く見たレマン総本部は、S級正遊撃士“剣聖”カシウス・ブライトを現地に派遣……だが、それでは不十分と見た同じS級正遊撃士“不破”アスベル・フォストレイトは伝手を利用し、“増援”の許可を要請し総本部も非公式にこれを了承した。

 

ジェスター猟兵団側は巧妙にルートや拠点を隠していた……事態の硬直化は避けられない見通しであったことは、臨時代表に就任したカシウスもある程度予測していた。

 

だが、独自に介入を決めた“不破”アスベル・フォストレイト、“霧奏”シルフィア・セルナート…二名のS級正遊撃士の参戦。

 

そして、猟兵団の『三大勢力』…『赤い星座』『西風の旅団』『翡翠の刃』がアスベル・フォストレイトからの非公式要請という形で依頼を受諾し了承した。

 

さらに、アスベルは『詰めの一手』を打つことにした。猟兵団はおろか帝国ですら無視できない『強力な一手』を。

 

 

~エレボニア北部 ユミル支部~

 

各都市の遊撃士協会支部が襲撃された中、帝国内で生き残った遊撃士協会支部の一つ……ユミル地方シュバルツァー男爵領に置かれたユミル支部。ここが襲撃されなかった理由はこの場所が辺境にあるという理由ではなく、一人の男性の存在が大きかった。それは……

 

 

「先生、身内の危機を救ってくださり、ありがとうございます。」

「なあに、わしと男爵は旧友の仲。その旧友の頼みもあったし、面白い奴とも出会えたからのう。あやつらが一人前になるまでここに定住するのも悪くはない感じじゃな。」

『剣仙』ユン・カーファイの存在だ。彼は事件発生前から不穏な空気を感じ、シュバルツァー男爵のもとで客人として彼の子らに剣術を教える傍ら警戒に当たっていた。彼のお蔭でここの支部は襲撃されずに残っているのだ。

カシウスがユンに深々と頭を下げる光景を見た帝国の遊撃士……トヴァル・ランドナー、ヴェンツェル・アウトウェイ、サラ・バレスタインの三人はその光景に唖然としていた。

 

「カシウスさんが頭を下げてるって、一体どんな御仁なんだ?」

「<剣仙>ユン・カーファイ…八葉一刀流の使い手にして、カシウスさんの師匠にあたるらしい。」

「え……どう見ても青年にしか見えないのだけれど…酒の飲み過ぎかしら?」

「そこは事実だ。」

「というか、仕事中に酒を飲む方がどうかしているだろう…」

「別にいいじゃない。あたしの自由なんだし」

色々面食らう場面ではあるが、サラの酒好きだけはいつも通りだと内心ため息をつくトヴァルとヴェンツェルの二人であった。

 

だが、こんな風にいつまでも談笑していられるわけではない……それは、ここにいる誰もが解っていたことだった。

カシウスは現状について説明する。

 

「帝国内の支部はここを除いてほぼ全滅……幸いにも、アルトハイム自治州パルム支部とレグラム自治州レグラム支部はリベール領のため難を逃れていたが……昨晩、襲撃があったらしい。だが、事前の備えでこれを撃退している。」

「なっ…!!」

カシウスから聞かされた情報に一同は驚く。どうやら、ジェスター猟兵団の一味が現リベール領の支部にまで襲撃をかけたのだ。だが、これを予期していた『人物』により、未遂に終わった。

 

「パルム支部は帝国からの遊撃士三人が、そしてレグラム支部は偶々滞在していたアスベルとシルフィア、そしてヴィクターがこれを撃退し、猟兵団の情報を引き出したそうだ。」

「三人というと、アイツらか……」

「まぁ、確かに頼もしい奴らではあるが……」

「え?あたしは結構好きなんだけれどな~。気が合うし。それよりも、レグラムに何であの二人がいるのよ?偶々いるとは到底思えないんだけれど……」

カシウスの説明に、帝国の遊撃士に心当たりのあるトヴァルとヴェンツェルは、実力を認めつつも何かと『個性的』なあの三人を思い出してため息をつき、サラはその三人を好意的に言いつつS級遊撃士である二人がレグラムにいることが不思議だった。

その疑問に答えるかのようにカシウスが次の言葉を発した。

 

「それに関して総本部経由で連絡があってな。アスベルとシルフィアらはパルム支部の三人と、『協力者』らでジェスター猟兵団の拠点の大半を制圧したそうだ。」

「我々ですら手をこまねいている状況で大半を制圧…!?」

 

ヴェンツェルが驚くのも無理はない。

襲撃された関係で帝国全土の状況が掴みにくく、遊撃士同士の連携がままならない状態ながらも彼らの拠点の大半をたった七日で調べ上げ、わずか二日で制圧するというのは並大抵のものではない。

しかも、全拠点の大半はカシウスの予測からしてもかなりの規模……それを遊撃士五人と『協力者』らが成し遂げたというのだ。

 

「けれど、協力者……ですか?この帝国に軍以外で動いてくれる組織が………カシウスさん、まさか!?」

「ああ、トヴァルの察しの通りだ。『赤い星座』、『西風の旅団』、そして『翡翠の刃』が『協力者』として名乗りを上げ、総本部も非公式だがこれを承認した。俺もそれを承認している。」

「カシウスさん、正気ですか!?よりにもよって彼らを使うだなんて…」

「俺はいたって本気だ。それに、奴らも本気らしいぞ。とりわけ、『翡翠の刃』と『西風の旅団』は今回の騒動に『泥を塗られた』形だからな。その背後にいる奴らに一泡吹かせることまで考えているらしい。」

遊撃士と猟兵団……普通からすれば『相容れない』二つの組織……だが、“闘神”や“赤朱の聖女”と話したカシウスは彼らの『決意』を信じ、総本部の決定を受け入れる形ではあるが、自らもこれを承認した。

 

だが、彼らは猟兵団を完膚なきまでに潰すことだけが目的ではない。その背後にいるであろう“組織”に一泡吹かせることまで計算済みだった。

 

「彼らがくれた情報によると、残る拠点はいずれも『要所』のみ。そこを押さえれば、我々の勝利だ。」

ジェスター猟兵団の拠点は残り数か所。カシウスらはそのうちの一つ……ルーレ市郊外ザクセン鉱山近くにある拠点を押さえることになった。

 

「カシウスさん、そうなると残りの拠点は『彼ら』が受け持つ形に?」

「そういうことになるな。先生には申し訳ないのですが……」

「いや、わしも出よう。ここには頼もしい助っ人が来てくれるのでな。」

「助っ人、ですか?」

トヴァルの問いかけにカシウスは頷き、ここの守りとしてユンに頼む予定だったが、ユンはさらに頼もしい助っ人を呼んだらしく、その言葉にカシウスは首を傾げるが、扉が開いて歩み寄ってきた人物を見て驚きと納得の表情を浮かべた。

 

「お久しぶりです、先生にカシウスさん。」

「アリオス!?」

「先生の依頼です。弟子の手ほどきとユミル支部の防衛、との依頼で。あの破格な額には驚きましたが……」

“風の剣聖”アリオス・マクレイン……クロスベル支部のA級遊撃士がこうしてここにいることに驚きを隠せない。アリオス自身もユンの出した依頼という形でここに来たが、彼の出した金額には驚きを隠せない表情で呟く。

 

「なあに、ここの守りとわしが教えているあやつらへの手ほどきを考えれば、安いものじゃ。」

「それで25万ミラはやりすぎです。ミシェルですら『何よ、この額は!?』と驚いていましたからね。」

「……色々ぶっ飛び過ぎよ。」

「まったくだ……」

剣の手ほどきと支部の防衛だけで25万ミラ……適正額に対してエンジンフルスロットルでぶっ飛ばすぐらいの報酬額は、他の遊撃士ですら面食らった状態だ。

 

「それにしても、ここまで鉄道で?」

「いえ、トリスタからは徒歩で。尾行してきた連中がいたもので。」

「流石『情報局』ね……あのしつこさは異常だわ。」

トヴァルの問いかけにアリオスはそう答え、サラは動いている連中に心当たりがあり、皮肉そうに呟いた。

 

「となると……サラ、お前が指揮を執れ。そちらに先生を加える形にする。」

「それは構いませんけれど、カシウスさんは?」

「帝都近郊に奴らの拠点がある。俺はそちらの援護に向かう。アリオス、頼むぞ。」

「兄弟子の頼みと先生の依頼、必ずや。」

カシウスは少し考え、サラに指揮権を任せアリオスに支部の防衛を頼むと、一足先に支部を出た。

サラとアリオスもカシウスのお願いに快く受諾した。

 

 

~ユミル郊外~

 

カシウスは森の中にいた。すると、ぽっかりと空いた空間に停泊する一隻の艦。基本フォルムはアルセイユと似た形状を持ち得ながらも、その配色は白と緑のカラーリングが施されている。これは、秘密裏に譲渡されたアルセイユ級六番艦『デューレヴェント』。『西風の旅団』が運用している高速巡洋艦だ。

その空間にカシウスの姿を現すと、甲板にいた一人の人物がカシウスに声をかける。

 

「お、カシウスさん。久しいな。」

「すまないな、出迎えをさせてしまって。」

「いいってことよ。今回の件はリベールも被害者だ。そういうことなら、女王陛下の意思も反故にはならないだろ?」

声をかけた人物は“猟兵王”レヴァイス・クラウゼルだ。その傍らには、銀髪と琥珀色の瞳を持つ一人の少女がいた。

 

「おや、見慣れない顔がいるな……」

「どうも……(ペコリ)」

「こいつはフィー。俺が拾った奴でな。実力はあの“朱の戦乙女”に引けを取らないぜ。」

「それは買いかぶりすぎ。あの膂力は私でも真似できないし、実力的にかなりの開きがある。」

カシウスの疑問に少女はお辞儀をし、レヴァイスは我が子を自慢するかのように言い、その言葉にその少女――フィーは反論する。

 

フィー・クラウゼル……レヴァイスが拾って育てている子で、その実力は折り紙つき。

 

13歳ながらもそのトップスピードは猟兵団でもトップクラスで“西風の妖精(シルフィード)”の異名を持っている。当の本人は元猟兵で現遊撃士の“朱の戦乙女”の『強さ』『賢さ』『女性らしさ』を目標にして日々努力しているらしい……『女性らしさ』というのは、言うなればスタイル面でのことだ。

フィーですらレイアの膂力は『規格外』どころか『人外』だと思っている。

実際、『赤の戦鬼』で恐れられているシグムントが唯一戦いたくない相手がレイアなのだ。彼女を思い出すだけで冷や汗が流れるほどに。もはやトラウマものである。

 

「で、帝都近郊……ついでにリベールまで送っていくぜ。」

「いいのか?そこまでしてもらって……」

「俺もマリクもジェスターの連中に憤慨してる。で、その背後で動く連中もな。俺らが速く動けば『奴ら』ですら焦ってぼろを出す……そこが狙い目なのさ。」

彼らとしては準備期間が欲しい……だが、こちら側がスピード解決すれば向こう側は焦って足止めなりを使って策を発動させてくる。その動向も焦りが出始め、綻びが生じる……そこを狙い撃ちにする。そのために、できる準備は徹底的にやっておく必要がある。『翡翠の刃』……いや、マリクは既にその計画の一端を発動させている。

 

 

「『身喰らう蛇』のことか……」

「おうよ。そのために俺らは鍛えて来たからな。いずれ来る奴らとの全面戦争……それも覚悟の上でな。」

 

 

~???~

 

見知らぬ場所に立つ一人の少年。彼は通信で誰かと話しているようだった。

 

『そちらはどうですか?』

「教授、こっちはまずいかもしれないよ。当初の予定だと遊撃士だけだったよね?」

『ええ、それが何か?』

「猟兵団が動いた。しかも、三つも。それに、“風の剣聖”“剣仙”“不破”“霧奏”の四人もいるよ。」

『なっ!?』

冷や汗をかきつつ、少年の放った言葉に教授と呼ばれた話し相手は驚く。どうやら、彼の考えているプランには彼らの要素などなかったのだ。

 

「とりあえず、『彼』には連絡したよ。それと『蒼の深淵』や『死線』には声をかけたけれど、足止めになるか疑わしいよ?」

『解りました。しかし、こちらの計画に狂いはない。このまま続行しますよ。盟主にもそのようにお伝えください。』

「はいはい……『調停』や『緋水』は動く気配すらないからなぁ……計画失敗も考慮に入れないと駄目かもしれないね。」

通信を終えると、少年はこの先の計画の狂いも考慮に入れなければならないと苦笑し、どこかに転位した。

 

 

 

 

リベールで顰める『影』……その打破をすべく、歴史を大きく変える『大戦争』……いや、『殲滅劇』が幕を上げる…!




過剰戦力?いいえ、適正戦力です。だって、広大な領土持つ帝国ですから(謎理論)

ヴェンツェルの名字はオリジナル設定です。強い武人のイメージでw他のクロスベルの遊撃士もファミリーネームは決めています。

あと、原作で不足している遊撃士メンバーを何人かオリジナル設定で追加します。どこかで見たようなキャラになるかもしれませんがw

……さて、ジェスター猟兵団は何秒もってくれるのでしょうかね(ニヤリ)

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