英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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外伝 帝国ギルド襲撃事件~ある意味予定調和~

~ルーレ市近郊 ザクセン鉱山近く~

 

一方、サラやトヴァル、ヴェンツェルにユンの四人は鉱山近くにある拠点を目指していた。だが、妙な気配を察知してサラが止まる。

 

「ストップ!!」

「サラ?」

「どうか……って、鋼糸?」

行く手を遮るかのように張り巡らされた鋼糸……それも、一本や二本などではなく、まるで森の中に迷路でも描き出したかのような配置がされていた。

 

「わしらの行く手を遮るもの……思い当たる節は、一つじゃのう。」

「どうやら、そのようですね。」

ジェスター猟兵団にここまでの知略ができる人間などいない……つまり、これは例の『結社』……『身喰らう蛇』の人間。それも、単なる一兵ではなく、『執行者』クラスの人間。

 

(ここで、足止めを食らうのはまずいわね……)

サラは苦い表情を浮かべてこの先の行動を思案する。

猟兵団とて愚かではない。自分たちに危機が迫ればあっさりと拠点を放棄するだろう……そうなってしまってはここで強襲をかける意味がなくなってしまう。

その時、後ろから気配を感じた。

 

「……どいて」

「え?」

少女の呟きに対して、ほぼ反射的にその場を飛び退けたサラ。少女は持っていた槍を突き出す……次の瞬間、その空間は抉り取られたかのように吹き飛び、拠点への“最短経路”を形成した。

 

「き、君は?」

「なっ……“絶槍”!?」

「あ、サラだ。おひさ~。」

その少女――“絶槍”と呼ばれた人物の登場にヴェンツェルは驚き、サラはその少女の登場に声を上げて叫び、対照的にその少女は知り合いの姿を見つけると、呑気に挨拶をした。

 

「ほう……その歳であれだけの技巧……興味深いのう。」

「呑気に挨拶してる場合じゃないですよ。クルル、何故ここに?」

「ん。説明するねトヴァル。」

彼女の武に感嘆を上げるユン、それを嗜めつつトヴァルはクルルと呼んだ少女が何故ここにいるのかの説明を促し、それに答えるかのように説明し始めた。

 

現在残っている拠点は四ヶ所……そこで、オルディス近くの拠点にはバルデルとシルフェリティア、バリアハートにはアスベルとアルヴィン、リーゼロッテとリノアの四人、ヘイムダル近郊はレヴァイスとフィー、そしてカシウスとシルフィア……残った拠点にマリクとクルルが援護する形になっている。

 

「ここは『蛇』の連中がいるけれど、他のところは帝国軍や領邦軍が動いてる。ま、大丈夫だと思うけれど。」

「いやいや、何を呑気に!?」

「大丈夫。猟兵団のトップたちは皆『戦車?普通の導力車よりも装甲がちょっと厚い車だろ?』程度にしか思ってないから。」

いや、その言動というか思考回路はおかしい……という感じのツッコミが飛び交いそうな状況だ。ある意味ぶっ飛んだ奴らでないと大勢力の猟兵団を率いるには力不足ということなのだろうか……腑に落ちないことではあるが。

 

「ほう。あ奴らは解っておるみたいだのう。ぜひ手合わせしたいものじゃ。」

「……サラ、俺は夢でも見ているのか?」

「残念ながら現実みたいね……」

「戦車を破壊できるサラが言うかな、それ。」

「この惨状を平然とやってのけるアンタが言うな。」

隣の芝は青い……本人たちの『常識』など、他の人にしてみれば『非常識』にしかなりえない……その言葉をものの見事に再現したクルルにサラはジト目で反論の言葉を述べたのだった。

 

「とりあえず、先に行って。私も後で合流するから。」

「クルル!?……って、もう行っちゃったわね。」

「ま、とりあえず行くとしましょうか。」

「そうじゃな。」

サラたちがクルルの開いた道を進んでいる頃、その当の本人は気配の感じる方向に歩を進める……次の瞬間、森の奥から二人の人影……体格の良い男性とやや細身の女性が対峙するように距離を取り、姿を現す。

 

「っと、お、クルルじゃねえか。」

「やっほ。で、奥にいるのは……」

『翡翠の刃』の団長、“驚天の旅人”マリク・スヴェントの登場に呑気に挨拶を交わしつつ、その奥でマリクと対峙している人物に視線を向ける。一方、対峙している女性はクルルの姿を見つけると嬉しそうな表情で呟いた。

 

「おや……誰かと思えばNo.Ⅶ“絶槍”……クルル様ではありませんか。」

「久しいね、No.Ⅸ“死線”シャロン・クルーガー。今はラインフォルト家のメイドさんだっけ?」

「ええ。今回はちょっとした『お願い』でこうしています。」

久々に会った知り合いに少し笑みがこぼれたクルルだったが、槍を持ち直し、シャロンと向き合おうとする。

だが、それはマリクに遮られた。

 

「マリク?」

「お前はサラたちと共に拠点へ急げ。ここは、俺が引き受けよう。」

「……ん。解った。言っておくけど、シャロンは強いよ?」

「そんなの、解ってるさ。」

クルルの忠告にマリクは笑みを浮かべ、投刃を構える。そして、クルルたちが見えなくなったのを確認すると、シャロンの方を向く。

 

「ずいぶんとあっさり行かせるんだな?」

「私の役目はあくまでも『足止め』ですので。それよりも、ご自分の心配をなされた方がいいかと思いますよ?」

「何……!?」

マリクの言葉に笑みを浮かべるシャロン……その意味を知った時には、彼の手足は鋼糸によって拘束されていた。相手に気付かせることなく、相手を倒す……『死線』の異名は伊達ではないということだ。

マリクは拘束の状態を確かめる…若干の余裕はある。うまくコントロールできれば、外せないこともないが下手を打てば切断されてしまう。

 

「安心してください。自分の死を知る間もなく、逝かせてあげますので。」

そう言って、シャロンはマリクの視界から姿を消した。

マリクは一度深呼吸をし、目を閉じる……彼女の気配は、後ろから感じた。あの少年と比べると、気配が読み取りやすくてある意味幸運だろう。マリクは体を踏んばらせる。

 

 

「では、さよなら。」

その様子を悪あがきとみたシャロンは背後から一気に加速した。

 

 

「……フッ、馬鹿はお前だ。漢なら、背中で語れ!!」

 

 

その刹那、マリクは目を見開き……形勢逆転を示唆するかのような事を言い放った彼の背後に集まる光の粒子。その光にシャロンは驚く。だが、彼女がその先を考える暇もなく………

 

 

「マリクビィィィィィィィム!!」

「キャアァッ!?」

彼の背中から放たれたSクラフト『マリクビーム』……その光の奔流がシャロンに直撃し、彼女は吹き飛ばされた。

 

「っと、上手くいったか……多少の傷はしゃあねえか。」

そして、その衝撃波でマリクを拘束していた鋼糸が切れ、身体のあちこちにかすり傷は出来たが、大した損傷ではなかった。

 

「うぅ………」

一方、彼にとどめを刺そうとして加速したために彼のSクラフトを真っ向から受けてしまい……服はボロボロで、所々生地が破れ、彼女の綺麗な素肌があちらこちら見える形になっていたのである。これにはクラフトを放ったマリクですらも直視できない状態だった。

 

「……あ~、その、とりあえず羽織ってくれ。」

「え……あ、きゃっ!?」

クルルから色々と自重しない性格だと聞いてはいたが、自らの事となると些か初心なところがあるようだ……只でさえ面食らった状況下で、その恰好……まあ、青少年には刺激が強い光景とも言えるだろう。

 

「酷いです、マリク様。か弱い乙女をこのような辱めに合わせるだなんて……」

「元はお前が襲ってきたんだろうが……ん?」

この光景に既視感を覚えたマリク。まるでフラグが成立したかのような……次の瞬間、マリクはその直感が間違いでなかったことを実感することになった。

 

「マリク様……」

「何いっ!?」

シャロンに抱き着かれていた。先程まで敵で、想いっきり刃を交えていた相手に抱き着かれるというのは、腑に落ちないどころか訳が分からない……命の危険を感じたが、先程までの殺気をちっとも感じないのだ。

それ以上に彼女の…女性特有の柔らかさにびっくりしたが、なんとか持ちこたえた。

 

「マリク様。この私を傷物にしたのですから、責任を取っていただかないと困ります。」

「えと……その、本気?」

「ええ。ただ、会長の秘書はしばらく続けようと思います。そちらがクビになったら、マリク様の専属メイドとして就職させていただきますね♪」

「………(何言っているんだコイツ。いや、言動からすれば本気なんだろうが……俺は命の危機が迫ってたから、躊躇いなくブッパしただけだぞ!?)」

最早惚れさせたと言っても過言ではない……今までの経緯なんてある意味『殺し合い』……それがまさか『殺し愛』に変わるとはさしものマリクですら想定外だった。

彼の目に映るのは、上目づかいでこちらを見るシャロンの姿……内心ため息をついて、マリクはシャロンと向き合った。

 

「……解った。ラインフォルト家のメイドは続けてくれ。お前にも色々『楽しみ』があるだろうし。」

「ありがとうございます。そして、宜しくお願いしますね“旦那様”」

「あ~、はいはい。」

この後、シャロン・クルーガーはマリクの右腕的存在……そして、彼を支えるパートナーとして活躍することになるのだが、それはまだ先の事だった。

 

 

~ザクセン鉱山近郊 猟兵団拠点~

 

その頃、遊撃士らとユンにクルルを加えた五人は拠点を強襲し、猟兵たちを次々となぎ倒していった。

 

「援護する!フレアバタフライ!!」

トヴァルのアーツで猟兵の隊列を崩すと、

 

「ふんっ!」

ヴェンツェルの剣で兵士たちは次々となぎ倒される。猟兵たちはアーツを準備するトヴァルを狙おうとするが、

 

「二の型、『極・疾風』!」

「そこっ!!」

ユンの『極・疾風』、そしてサラが導力銃で兵士たちを引き離し、薙ぎ払う。

 

「援護に感謝するぜ。イグナプロジオン!」

そしてトヴァルは準備ができたアーツを敵の陣中に叩き込む。

 

「遅いね。せいっ!」

そして、討ち漏らした猟兵をクルルが確実にしとめていった。

 

「な、なな、馬鹿なっ……!?き、貴様ら、こんなことして只で済むと……」

気が付けば、残る猟兵たちは数少なかった。彼らは対峙した相手のことを知らなさすぎた。その点でいえば、非常に哀れという他なかった……静かに怒る五人は武器を構えた。

 

「それじゃ、ラストと行こうか……」

「ええ……」

「我らを怒らせたこと……」

「その身を以て知れ」

「受け取るんだね、冥府への片道切符を」

彼らは、その怒りをぶつけるべく、とっておきの技を繰り出す!

 

「集え、地水火風時空幻……七耀の根源たる力、光となりて破邪の剣となれ!!」

トヴァルが構え、彼の足もとに魔法陣が展開され……敵を取り囲むかのように立ち上る光で形成された塔……そして、トヴァルは高らかにその名を叫ぶ。

 

「放て、空駆ける極光!ロード・オブ・セプテリアス!!」

七つの塔の光が中央で収束し、敵に降り注ぐ……トヴァルのSクラフト『ロード・オブ・セプテリアス』で敵は大ダメージを負う。

 

「ヴェンツェルといったか。遅れるでないぞ?」

「承知しました!」

間髪入れずにユンとヴェンツェルが連続攻撃で畳み掛け、そして互いにとどめの一撃を繰り出すため、即席のコンビクラフトを放つ。パワーとスピード……それがうまく融合した合体技。

 

『一閃・疾風撃!!』

即席とはいえコンビクラフトを発動させた二人。それを見たサラはクルルに話しかける。

 

「残りはあたし達で片づけるわよ。元『執行者』なんだから、あたしに付いてきなさいよ!」

「はいはい、了解。」

サラは笑みを浮かべてブレードと導力銃を構え、クルルは苦笑しつつ双十字槍を構えた。

そして、二人同時に蹴りだし、加速した。

 

「まかせたわよ!」

「了解」

サラの的確な銃撃は猟兵を撃ち抜き、銃弾の軌道を予測して敵に詰め寄り、高速の斬撃と突きをお見舞いする。

 

「サラ、パス!」

「オッケー!」

間髪をおかず、サラの雷を纏った剣の衝撃波が縦横無尽に駆け巡り、それを見たクルルは一旦下がり、高く飛び上がる。彼女の十字槍は時属性の黒いオーラを纏っていた。そして、サラもブレードに雷のエネルギーを収束させていく。

 

「これが!」

「私たちの!」

『黒紫雷刃撃!!』

突撃するクルル…そして、敵陣に衝撃波の刃を放ったサラ……コンビクラフト『黒紫雷刃撃』……二人の放ったエネルギーの渦は重なり合い、爆発する……その直後、煙から出てきた無傷のクルルはサラの横に移動し、二人はタッチを交わして互いの健闘を称えた。

 

「ふう……これで、拠点の方は制圧できたか?」

「そうですね。とりあえず、マリクのところに戻りましょう。」

「そうね…苦戦していないといいのだけれど。」

 

その後、マリクにシャロンとの事の顛末を聞き、マリクに対して嫉妬の表情を浮かべるクルル、それを見てたじろぐマリク、そしてそれを傍で見ていたトヴァルとヴェンツェルは頭を抱え、サラは腹を抱えて笑い、ユンに至っては「仲人はわしに任せろー」と悪乗りし、クルルは「納得いかないわよ」と拗ねた表情を浮かべていた……

 

 




てなわけで、ようやく“絶槍”の登場です。名字はまぁ、お察しくださいw
元執行者(完全に袂を分かった)の人って、原作(空の軌跡)だとヨシュアだけなんですよね。“剣帝”のような出鱈目な強さを表現するべく、その設定にしました。
ちなみに、本気を出すとヤバい人の一人です。

そしてシャロンさん……仕方ないじゃないですか!あの技をやろうとしたら『とっておき』になりますよ。色んな意味でw

あと、外伝で一度出たフーリエは『執行者』です。ルドガーと一緒にいた時点であっ…(察し)だとは思いますがwですが、更なる設定を組み込んでいます。原作キャラと繋がりアリです。オルランドではありませんがw

自分でいうのもなんですが、これはひどい(ニヤリ)

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