英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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外伝 白隼の刃、軍馬の剣

~定期飛行船 デッキ~

 

「――以上が、王国中部で起こった事件の顛末さ。」

そう言ったオリビエ。だが、彼の視線の先に人はいない。

彼は耳に何かを押し当て、誰かとの『会話』をしているようだった。事情を知らない人から見れば『痛い人』扱いされかねないものだが……そこからは男の声が聞こえてきた。

 

『まさか、没落した我が国の貴族がそちらにいるとはな……解った。ダヴィル大使には俺から言っておこう。』

「了解したよ。“彼”の子らには会えたけれど、肝心の彼自身はどうやらこの国にいないらしい。そちらでは何か情報は?」

オリビエはエステル達の読んだ手紙を見ており、それを鑑みてもリベールにいないことは確実だった。

数か月ということはそれなりに厄介な事態……オリビエは会話の相手に心当たりがないか尋ねる。

 

『……その関係からは知らないが、三個師団ほど帝国内で動いているらしい。それと、未確認の事ではあるが帝都支部、ひいては帝国内の遊撃士協会が襲撃されたそうだ。』

「成程、“彼”が帝国にいても不思議じゃなさそうだね……ところで、例の二人……」

『ああ。“闘神”に“赤朱の聖女”……それを聞いたときは俺ですら仰天したぞ。』

会話相手ですら驚くその正体……猟兵団のトップとそれを支える副団長の二名が偽名を使いながらも堂々とリベール入りしていたことは既に掴んでいた。

 

「彼らは“娘”に会いに来てたらしいからね。僕の方も“紫刃”に“紅隼”、それとマクダエル市長の孫娘にも会えたよ。」

『何!?……まさか、貴様はいつもの調子でその方達と話をしたのか?』

「いや~、話をしたというか市長の孫娘以外には一発でバレちゃってたみたいだね♪おかげで色々事がうまく運んだけれど。」

『……無理もないか。貴様は“紫刃”に会っていることだしな。』

会話相手は青筋を立てつつも、彼の素性を知る“紫刃”相手では分が悪いと思い、内心ため息をつくような声で答えた。

 

「そう怒らない。“紫刃”は僕を見極めると言った。なら、その期待に応えるだけの働きはするさ。」

『まったく………っと、貴様に伝えることがもう一つあったな。』

オリビエは意味深な笑みを浮かべて話し、相手はオリビエのやっていることが色々ありすぎて頭を抱えたくなったが、気を取り直して言葉を述べる。

 

「ん?何だい?親友の愛のベーゼなら僕はいつでも受け入れるだけの器量はあるさ。」

『ふざけるのも大概にしろ!……“尖兵”からの伝言だ。『借りはいつか返す』とな。』

「フフ……確かに受け取ったよ。僕からも“紫刃”からの伝言がある。『軍馬の尾』に気をつけろ、と。」

オリビエの言葉に相手は怒鳴り、その後一旦気持ちを落ち着けてから“尖兵”からの伝言を伝えた。それを返す形でオリビエは相手に“紫刃”の伝言を伝えた。

 

『了解した。』

「また連絡するよ、親友。」

そしてオリビエは『親友』と読んだ相手との会話をやめ、持っていた物についているボタンを押して懐に戻した。

 

「相変わらずいじり甲斐のある男だね。融通の利かないところが、可愛いというか何というか……くすぐられるよ♪」

「……なるほど、携帯用の小型通信機ね。単なる旅行者がずいぶん洒落たものを持ち歩いているじゃないの。」

「へ……シ、シェラ君?」

飛行船から見える空の風景を見て呟いたオリビエだったが、背後からシェラザードの声が聞こえ、驚いてシェラザードのほうに振り向いた。

 

「ZCFですら実用化していない小型通信機を持っているだなんて、本当に何者なのかしらね?」

「フッ、水くさいことを言わないでくれたまえ。漂泊の詩人にして天才演奏家、オリビエ・レンハイムのことはキミも良く知っているはずだろう?だが、もっと知りたいのであれば所謂(いわゆる)ビロートークというやつで……」

「お望みならいくらでも付き合うわよ?ただし、この前(ヴァレリア湖畔で酔い潰された)のような事態になるわよ?」

「カンベンシテクダサイ……」

オリビエの言葉にシェラザードは少し怒気を含む表情で言い放ち、オリビエはこの前のヴァレリア湖畔での『一件』を瞬時に思いだし、表情が青ざめて謝った。

 

「ったく、こっちはマジな話よ……あたしもうすうす気付いていたけれど、レイアからあらかた事情は聞いたわ。オリビエ・レンハイム……いいえ、オリヴァルト・ライゼ・アルノール。帝国のVIPがこんなところにいるだなんて知ったら、大騒ぎよ。」

「成程、レイア君に事情は聞いているみたいだね。それを抜きにしても僕の正体に薄々勘付いていたとは……あと、それほど心配しなくても僕は“庶子”……元々不世出の人間だったから、知名度は低い方さ。」

シェラザードの真剣な表情で言った質問に、笑みを崩さず答えたオリビエ。

 

「ただまあ、私達と合流する事まで狙っていたとは思えないけど……」

「フフ、そのあたりは想像にお任せするよ。説明しておくと、この装置はオーブメントじゃない。帝国で出土した『古代遺物(アーティファクト)』さ。あらゆる導力通信器と交信が可能で暗号化も可能だから傍受の心配もない。忙しい身には何かと重宝するのだよ。」

シェラザードの言葉に含みを持たせるような答え方をしつつ、オリビエは懐から先ほどまで使っていた装置らしき物を出して説明した。

 

「アーティファクト(古代遺物)……七耀教会が管理している聖遺物か。ますますもって、あんたの狙いが知りたくなってきたわね。あんたも知ってると思うけどリベールはエレボニアが唯一大敗を喫した国……自分達にとってリベール侵攻を邪魔された恨み……強いて挙げるなら、重要人物の誘拐や暗殺かしら?」

オリビエの説明を聞いたシェラザードはますます警戒心をあげ、目を細めてオリビエを睨んだ。

仮にそうだとすればここで拘束することも視野に入れた構えで。

 

「イヤン、バカン。シェラ君のエッチ。ミステリアスな美人の謎は無闇に詮索するものじゃなくてよ。」

「…本物の女に近づきたい?あたしの鞭でよければ、喜んで手伝ってあげるけど。」

オリビエのふざけた態度にシェラザードは鞭を構え、少し怒気を含んだ笑顔で睨んで言った。

 

「や、やだなあシェラ君。目が笑ってないんですけど……まあ、冗談は置いとくとして。」

シェラザードの様子に焦ったオリビエだったが、急に真面目な表情になった。

 

「ったく。最初から素直に話しなさいよ。」

「お察しの通り、僕の立場は帝国の諜報員のようなものさ。だが、工作を仕掛けたり、極秘情報を盗むつもりはない。ましてや『眠れる白隼』を起こすような真似なんてできやしないさ。知っているとは思うけど、エレボニアは圧倒的物量をぶつけたにもかかわらず、全師団兵力の7割を失う格好でリベールに大敗したんだからね。そりゃあ下手に逆らえないよ。それを僕自身が首を突っ込めば、エレボニアは今度こそ滅びかねないしね。僕はただ、ある人物達に会いに来ただけなんだ。」

「ある人物達……?」

シェラザードはオリビエの目的が気になり、先を促した。

 

「キミも良く知っている人物達だよ。一人は『王国軍にその人あり』と謳われた最高の剣士にして、稀代の戦略家。大陸に6人の特別な称号を持つ遊撃士――『剣聖』カシウス・ブライト。そして、彼すらも上回ると目される武と“叡智”とも謳われる難攻不落の知を持つ者たち――『紫炎の剣聖』アスベル・フォストレイト、『霧奏の狙撃手』シルフィア・セルナートその人さ。」

オリビエは詩人が物語を紡ぎ謳うような仕草をして、彼自身が会いに来た人物達を語った……

 

 

~グランセル エレボニア大使館~

 

「全くあ奴は……」

通信を終えると、軍服に身を纏った男性……エレボニア大使館の駐在武官であるミュラー・ヴァンダールは怒気を含みつつ、ため息をつく。一体何をしているのかと思えば、ボースの事件に巻き込まれただと……ったく、あのお調子者は嬉々として首を突っ込みにいったに違いない……やれやれ、今度会ったら説教だな。

 

「兄様、どうかされましたか?」

そう言って声をかけたのは、ミュラーと同じ髪と瞳の色をした麗しい姿の少女。その恰好はとても女性らしい姿をしている。

 

「っと、セリカか。ちょっとな……」

「その様子ですと、オリヴァルト様ですね?」

「ああ……あのお調子者がまた首を突っ込んだらしい。」

「なるほど、あのお方らしいですね。」

兄の言葉にあの人物なら当然の行動だと思った少女――セリカ・ヴァンダールは笑みを浮かべて呟いた。

 

「何と言うか、済まないなセリカ。あのお調子者のせいとは言え、このようなことに巻き込んでしまって……」

「私が自ら志願したことですから。それに、お仕えする身よりがいない以上、暇を持て余していましたし。」

「………」

「え、に、兄様!?」

ミュラーは、目の前に映るセリカの言葉を聞き、あのお調子者が妹のように謙虚ならどれほど苦労しなかったことだろうと思い、思わず涙がこぼれた。それを見たセリカは自分が何かしたのかと思い、声が上ずった。

 

「す、済まない……アイツがお前のようだったら、どんなに気が楽か……それを思ったら、な。」

「あはは……でも、ああいう性格だからこそ、良い隠れ蓑になるのではないのですか?」

セリカの言うことにも一理ある。問題はアレが演技ではなく地の性格だということにミュラーは内心頭を抱えたくなった。

 

「……ところで、友達とは?」

「ええ、先程見送りました。私もレグラムの方に足をのばそうかと。」

「解った。ヴィクター殿によろしく伝えておいてくれ。」

「解りました。」

そう言って、セリカはミュラーと別れ、グランセル国際空港に足を運んだ。

 

 

~レグラム直通高速飛行船 デッキ~

 

「レグラム……確か、アルゼイド流の総本山でしたか。」

セリカは胸の高まりを抑えきれず、表情に出ていた。良くも悪くも“ヴァンダール”の人間……かつて帝国の双璧と呼ばれた武術と触れる機会はそうそうないだけに気持ちはより一層高まっていった。

すると、一人の男性が声をかけた。

 

「あれ、どっかで……って、セリカ!?」

「ふぇ?って、シオン!?」

セリカに声をかけたのは、エステル達とボースで別れ、グランセル行きの定期便に乗ったはずのシオン・シュバルツその人だった。

二人は知り合い……正確には『生まれる前から』……転生前からの知り合いだった。転生してからの再会は一年前、シオンが観光でヘイムダルを訪れていた時だった。それからは、ちょくちょく連絡を取り合って近況を知らせていた。

 

「にしても、何でグランセルにいたんだ?」

「大使館の駐在武官です。レグラムは一度興味があって、行ってみたかったものですから。」

「アルゼイド流ね……俺はちょっと遊撃士協会に野暮用があるから、そっちに寄っておくことになるな。」

「ご一緒してもいいですか?流石に初めてなので迷子になりそうですし……」

「ああ、解った。」

“紅隼”と呼ばれたリベール王家の人間、そして“剛剣”の妹を乗せた飛行船は着実にレグラムへと向かっていった。

 

 




てなわけで……オリキャラ一人追加です。
ラウラと対比になるようなキャラを出したかったのですよw

性格的には丁寧な口調+お茶目な性格……時折はっちゃけるタイプのようなものですw
お茶目さはオリビエ譲りw

ミュラーさんは妹に甘く(笑)オリビエに対しては妹の分も含めてきつく当たりますw

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