~クロスベル市 オルキスタワー建設現場~
七耀歴1201年……クロスベルの超高層ビル『オルキスタワー』の建設現場。そこから『嫌な予感』を感じたアスベルは現場に足を運んだ。土台や鉄骨が組まれた現場の地面に一人の男性が倒れていた。
「あれは……ガイ・バニングス!?」
数年前の制圧作戦で顔を合わせた程度だったが、彼の噂は“仕事”を通じて色々知っていた。その彼が倒れている……急いで駆け寄り、状態を確かめる。
「出血はかなり多い…脈がない…ち、心臓一発とは……」
彼ほどの使い手がそう簡単に不覚を取るとは思えないほどの鮮やかさ……となると、彼が知っている人間の誰かが彼を撃ったということになる。だが、事態は一刻を争う。無くなっている彼の得物などいろいろ考えるのはその後だ。
(どうする?『聖痕』を使って蘇るなんて聞いたこともない……どうすれば……)
だが、有効な手段が浮かばない……そう思っていた時だった。
――『鍵』を使って
「っ!?」
不意に聞こえた声。だが、辺りに気配がない。アスベルは目をつぶり、自分の中に問いかけた。どうすればいいのか、と。すると、答えが返ってきた。
――『鍵』…君の『聖痕』を発動させて、この言葉を紡いで。………と
どこかで聞き覚えのある声……だが、アスベルはその声を思い出せなかった。だが、今は一縷の望みをかけて、『声』に従い、言葉を紡ぐ。
「――我が深淵にて煌めく紫碧の刻印よ。我が求めに応え、戒めを解く鍵となれ。」
アスベルの背中に浮かび上がる『聖痕』。だが、それはいつもと異なり、紫の色合いが強く出ていた。そのことを気にせず、言葉を紡ぎ続ける。
――七耀の理の一端を担う力よ、かの者の理を捻じ曲げ、死を写し身に変えよ。
そう言葉を紡ぐと、ガイの体が淡く光り……光が収まると、
「……はい?」
そこにはガイが『二人』いた。これにはアスベルも驚愕した。よく見ると、片方は拳銃で撃たれた跡がない。すると、無傷のほうのガイが意識を取り戻し、起き上がった。
「俺は確か、撃たれ……あれ?」
ガイは銃撃された箇所……心臓辺りを確認し、撃たれていない状態の自分の体を見て疑問を浮かべる。
「えと、ガイさん……」
「お、アスベルじゃ……って、俺の死体!?俺、死んでるのか!?」
「いや、生きてますから……(むしろ俺が信じられないんですが……)」
躊躇いがちに声をかけたアスベルに気付いて挨拶しようとしたガイだったが、すぐそばにあった自分とそっくりの死体を見て自分が死んだのではないかと慌て、アスベルはため息が出そうな表情で質問に答えた。
どうやら、俺のしたことは『撃たれた直後の記憶を持ちながらも撃たれる前の状態のガイ』を呼び寄せた形になるようだ。そんなの、神の“奇蹟”位にヤバいことである。まさか、『聖痕』だけじゃないのか!?
とりあえず、ガイの亡骸はその場に残し、ガイはアスベルの案内で『星見の塔』に身を隠すことにした。
~星見の塔~
二人が塔の中に着くと、調べ物をしていたシルフィアとレイアが二人に気付き、声をかけた。
「あ、アスベル。おかえりー。」
「ガイさん、お久しぶりです。」
「あ、ああ。シルフィアちゃんにレイアちゃんか。何で二人がここに?」
「この二人にはここの書物を調べてもらってたんです。D∴G教団の資料がないか、という名目で。」
三人は明らかに腑に落ちない教団の資金源……あれだけの拠点を揃えられたことが不自然で、背後にスポンサーなるものがいる……そう考えた三人は制圧事件後、内密に調査をしていた。そして、教団のルーツが500年前クロスベルあたりにいた錬金術師……それを知るために“星杯騎士”として内密に星見の塔を調査していた。
「で、どうだった?」
「ん。錬金術師というか……おそらく、ガイさんの推理通りになるのではないかと。」
「どういうことだ?」
「結論から言うと、教団のスポンサーはクロスベル国際銀行……ううん、クロイス家と言った方がいいかな。」
「なっ!?」
ガイはその名が出てきたことに驚く。自分である程度予測していた物が的中する形となったからである。
「ここにある本は全部錬金術関連……で、彼らは『至宝』の復活を目論んでるみたい。」
「『至宝』?」
「『七つの至宝(セプトテリオン)』……神に近き力を持ち、『奇蹟』を起こすアーティファクトのことです。」
それぞれの属性の“奇蹟”を起こす力…“空の女神”から齎された七つの至宝。
そのうち、幻の至宝である『デミウルゴス』は1200年前に消失したらしい。それを知るのはごく一部の人間だけ……クロイス家は代々『デミウルゴス』を受け継いできた家系だったが、至宝消失後彼らは至宝の復活を目論み、動き始めていた。そのための計画として表では銀行・金融…裏では悪魔を崇拝する教団……二つの顔をもって至宝復活のために活動していた。
「成程な……でも、彼らが関わった証拠がない以上、動きようがないってことか。」
「ええ。彼らは巧妙に隠滅を図っていますから。こうなると『現行犯』で拘束するしかないでしょう。もっとも、ガイさんはそれを知ったがために一度殺されていますし。」
彼らが表立って行動するとき……その時に彼らの悪事を全て明るみにし、拘束……ひいては『処刑』も考慮に入れなければならない。問題はその時期がいつになるか、だ。こればかりはアスベル達ですら読めないことだ。
「だな…だが、何もしないというのは俺の気が済まない。アスベル、シルフィアちゃん、レイアちゃん。俺にできることはないか?」
「そうですね……でしたら、ガイさんの性格なら一番的確なことをやってもらいます。ただ、その前に……」
「??」
ガイの懇願にアスベルは頷くが、その前に……彼には一仕事してもらう必要がある。本当に大事なお仕事が。
~クロスベル大聖堂 墓地~
しめやかに執り行われているガイの『葬式』。その墓の前にいる二人……彼の弟であるロイド・バニングスと、彼やガイとは家族同然の付き合いであるセシル・ノイエスがいた。
「ごめん、セシル姉。手伝いも碌にできないで……」
「仕方ないわよ。貴方にとってはたった一人の家族だもの。」
「それを言ったらセシル姉だって……」
落ち込むロイドに優しく声をかけるセシル。セシルはガイの婚約者であり、来週には結婚式を控えていた……その矢先の悲劇だった。セシルだって辛くないはずがない。ロイドはそのことが気がかりだった。
「そうね……ロイド、貴方が独り立ちするまでは見守らせて頂戴。私にとっては、ロイドも立派な家族よ。」
「セシル姉……」
そう言ったセシルにロイドは驚きと困惑の表情でセシルの方を見つめていた。
葬式の後、ロイドは先に帰り、セシルは一人墓の前にいた。
すると、後ろに気配を感じて振り向くと、一人の少年――アスベル・フォストレイトがいた。
「アスベル君…久しぶりね。」
「ええ、セシルさん……この後、少し時間は取れますか?」
「え?ええ…」
落ち込んだ表情のセシルにアスベルはこの後の事を尋ね、セシルは疑問を浮かべつつも彼の案内で山道の外れの見晴らしがいいところに案内された。
「ここです。」
「一体………えっ………」
微笑むアスベルにセシルは疑問に思うが、目の前に映る背中姿に驚く。見紛うことなどない、見慣れた逞しい姿……その姿を見たセシルの瞳が涙で濡れていた。
「お………すまないな、セシル。」
「ほ、本当に……本当にガイさん?……なの?」
亡骸は何度も確認した。本人だと解っていた。なのに……目の前にいるその姿も声も……彼そのものだ。
「ああ……これなら、証明になるか?」
「あ…」
そう言ってガイが取り出したのは結婚指輪……遺品を整理しても出てこなかった代物。
目の前にいる彼……ガイは間違いなく本物なのだと。
「『待たせてゴメン……でも、ガイ・バニングスが世界で一番愛しているのはセシル・ノイエスだ。』あの日の事は本当に俺自身が情けないな……散々悩んで、結果的に遅刻しちまって、それでもセシルは笑って許してくれた。俺なんかには、本当にもったいないぐらい最高に優しい女神様だよ、セシルは。」
プロポーズの言葉と、その日の出来事を軽く説明し、そして彼女への愛の言葉を紡ぐガイ。彼は本物であると、セシルは直感で思った。そして……
「ガイさん………ガイさん!!……もう、会えないかと思ってた……!!」
「セシル…本当に、ごめん…」
彼に抱き着き、涙を流すセシル。その姿を見て、少し罪悪感を感じつつも彼女を優しく抱きしめていた。
(いい風景だね。私もアスベルに抱き着いていいかな?)
(意味わからん……)
(むぅ……私なら、いくらでも抱き着いていいのに)
(シルフィ?)
(な、何でもない!)
その光景を微笑ましく見つめていた三人……レイアはアスベルに抱き着こうとし、アスベルはそれを制止し、シルフィアは羨ましそうにしながらも中々踏み出せず、アスベルの問いに否定という形で反論した。
「セシル……俺はしばらく、クロスベルを離れることになる。俺の知ったことでお前やロイドが危ない目に遭うのは見たくない……俺の我侭だが、それが全部終わった時……俺と結婚してください。」
少し距離を取り、セシルに向けて真剣な表情でガイは言った。その言葉を一字一句噛み締めるように聞き、彼が言い終わるとセシルは先程の葬式の時の諦めた笑みではなく、満面の笑みでガイに答えを返した。
「ロイドには隠し事が出来ちゃうけれど、命に係わるなら仕方ないわね……不束者ですが、どうぞよろしくお願いします。私は、いつまでも待ってるからね。」
そう言って、セシルはガイの唇に口づけをする。
「セシル、ありがとう。」
「いいのよ。アスベル君、シルフィアちゃん、レイアちゃん…ガイさんの事、宜しくお願いしますね。」
「はい」
「ええ。」
「解りました。」
セシルのお願いに三人は頷いて答え、セシルを送り届けた後、ガイを伴って『メルカバ』でクロスベルを離れた。
~バニングス家~
「ただいま、ロイド」
「おかえり……」
「ん?どうかしたの、ロイド?」
「いや、その……何かいいことでもあったの?」
「そうね……ちゃんとお別れの挨拶が言えたから、かしらね」
「???」
葬式の時とは異なるセシルの表情にロイドは尋ね、セシルは微笑んで答えを返すと、それを見たロイドはセシルに何が起きたのかすら想像できず首を傾げた。
ガイは髪と瞳の色を変え、『クラトス・アーヴィング』の名でリベールの武器職人……今までとは異なる職業として働くこととなった。武器の精錬には知識のあったアスベルが全ての技術を教え……半年足らずで武器のみならず、様々なものを作りだし、警官の時と同様に自らの足で精力的に歩きまわり、人々の生活に貢献する職人……『不屈の匠』の異名で呼ばれるようになる。
というわけで、生存フラグ1個追加ですww
原作だと死んでいますので、ああいう展開にしています。セシルにだけ明かしたのは『天然っぽいけれど、義理堅そう』なところを個人的に感じたからです。ロイドに話すとバレてしまいそうですし、その後の物語が成立しなくなりますからねw
なぜ職人なのかって?遊撃士だとバレる可能性が高くなりますから。特にあの人相手だとwあと、誰よりも『諦めない』からこそ、誰よりもより良いものを作れるのでは?と……すごく勝手な理由ですがw