英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第33話 ルーアン市

エステルらはテレサの招きで孤児院の中へと案内された。温かみのある感じで、どことなく落ち着ける雰囲気だった。先程のお詫びも兼ねてハーブティーとアップルパイをご馳走に与ることになった。すると、テレサはエリィの姿に気づき、声をかけた。

 

「あら、貴女は……エリィさんなのですか?」

「お久しぶりです、テレサ先生。」

「あれま、知り合い?」

「ええ……11年前の事ね。」

11年前、家族旅行で訪れていたエリィは物珍しさに村の外へと出てしまい、迷子になってしまった。途方に暮れていたところを通りかかったテレサと彼の夫であるジョセフが見つけ、一時的とはいえ保護し、孤児院に連れて帰ったのだ。そこでハーブティーやパイなどをご馳走してもらったことは今でも忘れられず、彼女にとっては第二の故郷とも言うべき場所だ。

 

「そういえば、この前ジョセフさんにお会いしました。本人は今すぐにでも退院できるぐらい元気でした。担当医の先生が言うには、経過も良好で一週間後には退院できると。」

「そう……本当に、ありがとう。聞けば、費用も貴方のお祖父様が出してくれたと…本当にありがとう。」

「いえ。私にとっても親みたいなものですし、お祖父様曰く『わしの孫の恩人には少ない礼だ』と言っておりました。」

テレサの夫、ジョセフは数年前、突然倒れたが…偶然近くにいたシルフィアと、手配を手伝ったセシルのお蔭で一命を取り留め、現在は長いことベッドでの療養から衰えた身体能力回復のためのリハビリを受けていて、ようやく退院の目途が立ったのだ。

その費用に関しては……アスベル、シルフィア、レイア、セシリア、トワ、そしてシオンが個人的に顔を知っているマクダエル市長を通じてその全額を出しているが、そのことを知るのは名前を挙げた七人のみだ。

 

懐かしい場所で積もる話もあるだろう、ということでエリィとトワ、レイアは孤児院で一泊してからルーアンに行くことを伝え、エステルとヨシュアはテレサに別れを告げて、クロ―ゼと共に孤児院を出た。

 

 

~マーシア孤児院 入口~

 

「それにしても、テレサ院長って暖かい感じのする人よね。あたしのお母さんのような感じがしたもの。」

「そうだね……確かに、お母さんって感じの人かな。」

「ふふ、テレサ先生は、子供たちにとっては『本当のお母さん』と同じですから。」

三人がテレサの事について話していた時、白ハヤブサのジークが来てクロ―ゼの肩に止まった。

 

「ジーク。待っていてくれたの?」

「ピュイ」

「うん、そうなの。悪い人たちじゃなかったの。エステルさんとヨシュアさんっていってね。あなたも覚えていてくれる?」

「ピューイ!」

「ふふ、いい子ね。」

「す、すごい。その子と喋れるの?」

ジークと会話している風に見えるクロ―ゼを見てエステルは驚いた。

 

「流石に喋れませんけど、何が言いたいのかは判ります。そうですね……お互いの気持ちが通じ合ってるっていうか……そんな感じですね。」

「ほえ~……」

会話というよりも、ジークの伝えたいことを『感覚』で理解しているというクロ―ゼの言葉にエステルは感心した。

 

「以心伝心……いわば、相思相愛ってわけだね。」

「はい。」

ヨシュアの言葉をクロ―ゼは否定せず頷いた。

 

「こんにちは、ジーク。あたしエステル、よろしくね♪」

「ピュイ?……ピュイ―――――ッ」

ジークに話しかけたエステルだったがジークは飛び立って行った。

 

「ガーン!……しくしく、フラれちゃった。」

「はは、残念だったね。」

その様子を見て残念そうな表情を浮かべて肩を落とすエステルに、ヨシュアは苦笑を浮かべた。三人は道中で魔獣に襲われるも、簡単に撃退した……撃退したのだが……

 

(ヨシュアさんはまだしも……アスベルさんやシオンみたいに、ある意味『規格外』ですよ、エステルさん……)

ヨシュアはまぁ、それなりに理解できたのだが、エステルの棒捌きにクローゼはよく知る二人を思い浮かべ、内心冷や汗ものだと感じていた。

そんなこともあったが、三人は無事ルーアン地方最大の都市、ルーアンに到着した。

 

 

~ルーアン市内 北街区~

 

海の青、建物の白……眩しいくらいのコントラスト。まさに海港都市といわんばかりの光景……初めて見るルーアンの景色にエステル達は見惚れた。

 

「ルーアンは色々と見所の多い街なんです。すぐ近くに、灯台のある海沿いの小公園もありますし。街の裏手にある教会堂も面白い形をしているんですよ。でも、やっぱり1番の見所は『ラングランド大橋』ですね。」

「『ラングランド大橋』?」

観光名所を挙げていったクロ―ゼの言葉のある部分が気になったエステルは首を傾げて尋ねた。

 

「こちらの北街区と川向こうの南街区を結ぶ大きな橋です。巻き上げ装置を使った跳ね橋になっているんですよ。」

「へ~、跳ね橋か……それはちょっと面白そうだな。」

クロ―ゼの答えを聞いたヨシュアは興味深そうに呟いた。

 

「あと、遊撃士協会の支部は表通りの真ん中にあります。ちょうど大橋の手前ですね。」

「オッケー。まずはそっちに寄ってみましょ。」

そしてエステル達はルーアンの支部に向かった。

 

遊撃士協会に行くと、受付に人はおらず、同業者であるカルナと出会った。受付の人は取り込み中らしく、時間を潰すためにエステル達はクロ―ゼの案内でルーアン市内の見物を始めた。その後クロ―ゼの案内でさまざまな所を見て廻ったエステル達はギルドに戻るために南街区と北街区を結ぶラングランド大橋に向かおうとした時、ガラの悪そうな男性三人に呼び止められたが、ルーアン市長のダルモアと市長秘書のギルバートがやってきた。そして、エステルとヨシュアの二人が遊撃士だということにそこでようやく気づき、結果として三人はお約束のような捨て台詞を吐いてその場を去っていった。

 

「済まなかったね、君たち。街の者が迷惑をかけてしまった。申し遅れたが、私はルーアン市の市長を務めているダルモアという。こちらは、私の秘書を務めてくれているギルバード君だ。」

「よろしく。君たちは遊撃士だそうだね?」

「あ、ロレント地方から来た遊撃士のエステルっていいます。」

「同じくヨシュアといいます。」

話しかけて来たダルモアとギルバートにエステル達は自己紹介をした。

 

「エステル君にヨシュア君……受付のジャン君が有望な新人達が来るようなことを言っていたが……ひょっとして君たちのことかね?」

「えへへ……あたしたちが有望かどうかは、自分でもよく判らないですが。」

「しばらく、ルーアン地方で働かせて貰おうと思っています。」

「おお、それは助かるよ。今、色々と大変な時期でね。君たちの力を借りることがあるかもしれないから、その時はよろしく頼むよ。」

「大変な時期……ですか?」

ダルモアの言葉が気になったヨシュアは聞き返した。

 

「まあ、詳しい話はジャン君から聞いてくれたまえ。ところで、そちらのお嬢さんは王立学園の生徒のようだが……」

「はい、王立学園2年生のクローゼ・リンツと申します。お初にお目にかかります。」

その話は後でも聞けるということを述べた後、ダルモアは制服を着ているクローゼが目に入り、視線に気づいたクローゼは簡単に自己紹介をした。

 

「そうか、コリンズ学園長とは懇意にさせてもらっているよ。そういえば、ギルバード君も王立学園の卒業生だったね?」

「ええ、そうです。クローゼ君だったかい?君の噂は色々と聞いているよ。生徒会長のジル君と一緒に次席の座を争っているそうだね。優秀な後輩がいて僕もOBとして鼻が高いよ。」

「そんな……恐縮です。」

ギルバートの言葉にクロ―ゼは自分の事を謙遜して答えた。

 

「ははは、今度の学園祭は私も非常に楽しみにしている。どうか、頑張ってくれたまえ。」

「はい、精一杯頑張ります。」

「うむ、それじゃあ私たちはこれで失礼するよ。先ほどの連中が迷惑をかけたら私の所まで連絡してくれたまえ。ルーアン市長としてしかるべき対応をさせて頂こう。」

丁寧な対応と言葉遣いで言い、ダルモアとギルバードは去っていった。

 

「うーん、何て言うかやたらと威厳がある人よね。」

「確かに、立ち居振る舞いといい市長としての貫禄は充分だね。」

去って行ったダルモアの後ろ姿、威厳のあるさまを見てエステルとヨシュアは感心した。

 

「ダルモア家といえばかつての大貴族の家柄ですから。貴族制が廃止されたとはいえ、いまだに上流貴族の代表者と言われている方だそうです。」

「ほえ~、なんか住む世界が違うわね。しかし、それにしてもガラの悪い連中もいたもんね。」

「そうですね。ちょっと驚いちゃいました。ごめんなさい、不用意な場所に案内してしまったみたいです。」

「君が謝ることはないよ。ただ、わざわざ彼らを挑発に行く必要はなさそうだね。倉庫区画の一番奥を溜まり場にしていみたいだからなるべく近づかないようにしよう。」

「うーん……。納得いかないけど仕方ないか。」

ヨシュアの言葉にエステルは腑が落ちてない様子で頷いた後、エステル達は一端ギルドに戻った………

 

 


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