英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第35話 第四位“那由多”

――猟兵という性は、決して抜けれる物ではない。それは、痛いほど理解していた。

 

幼い頃から戦場に身を窶し、銃弾を潜り抜け、命のやり取りをする……その行いは、彼女にしてみればある意味『呼吸』と同価値のもの……

 

されど、運命の悪戯か星杯騎士……ひいては遊撃士をしている。そんな自分に苦笑しつつ、未だ猟兵の頃の感覚は研ぎ澄まされたまま……いや、人知れず『外法』を狩る点でいえば、その感覚は猟兵以上のものに変わりつつあった。

 

人生というものは面白いものだ……だからこそ、『二度目の生』を生きる……その道が平坦ならずとも、ただ道を切り開くのみ、だと。

 

 

~マーシア孤児院~

 

「……」

真夜中、レイアは目が覚める。起き上がり、ふと窓を見る。

 

「懐かしい夢……」

そう言って、レイアは寝間着姿から仕事着に着替え、子どもたちやテレサを起こさない様一階に下りた。レイアが静かに扉を閉め、辺りの気配を探ると、裏手の方から気配を感じ、足を運ぶ。そこには……

 

「あれ?トワ……」

「あ、レイアちゃん。」

仕事着姿……人前では滅多に見せない“守護騎士”の服を身に纏ったトワだった。彼女もレイアの姿に気づき、声をかけた。

 

「トワがその恰好でここにいるということは、大方“仕事”なの?」

「今終わった所だけれどね。レイアちゃんは?」

「いや~、身体を動かしたかった……はぁ、“ハーシェル卿”……どうやら招かれざる客のようです。」

トワの問いかけに鍛練でもしようかと答えたレイアだったが、覚えのない『気配』にレイアは真剣な表情でトワに告げた。

 

「……数は、三人かな。」

「ええ。行きましょうか。」

「あくまでも、『拘束』だけれどね。」

二人は気配を断って姿を顰め、その気配の正体が判明するのを待った……少しした後、そこに現れたのは黒い兜で顔を隠した黒づくめの装備に身を纏った者たち。そのいずれもそれなりの実力者である風格を漂わせている。

 

「……周囲に、気配はありません。」

「ふむ……よし、計画通りに火を放て。その後は畑を適当に荒らしておけ。」

「了解です。しかし、“紫刃”がこの地方に来ているという情報もあります。」

「だが、放った魔獣の持ち帰った情報では、彼女の姿はなかった。いたのは“重剣”だけ。それに、いかに優れていようともルーアンからここまでは距離がある。」

部下らしき人が言った懸念に対し、部下の上司らしき人物は懸念などないということを話した。飛行船でも徒歩でもルーアン地方には来ていない……そう確信していた。

 

「成程、問題はないということですね?」

「そうそう、問題があるなら貴方達は馬鹿以外の何物でもないってことよ。」

「………えっ」

部下の問いに答えるかのように、彼らの背後から聞こえた声……だが、その答えを返すことなど、彼らにはできなかった。なぜならば、

 

「活心撃・神楽!!」

「「「ぎゃっ!!!??」」」

レイアのクラフト『活心撃・神楽』により、三人諸共気絶させられた。とりあえず、身包みを全て剥いで隠しておき、彼らから情報を直接『覗き』、彼らの身元や命令した人物を割り出した。

 

「えっと、火種に油……放火するための準備は揃ってたってことね。」

「それに、ダルモア市長と秘書のギルバート……彼らが首謀者ですか。」

ルーアン地方を統括する長とその秘書……その二人が実行犯…彼らが何故このような形で孤児院を放火しようとしたのか……これに関しては、証拠を限りなく集めて彼らに叩きつけるしかない。

 

「それじゃ、連行しましょうか。」

「それは困るな……御嬢さん方。」

「……」

二人が拘束した連中を連れて行こうとした時、一人の男性らしき兵が二人に近寄る。

そう言って、二人の前に姿を現したのは仮面とも言えるような兜を身に付けた人間。その素性に関しては既に判明していた。

 

「仮面の男……成程、貴方が『ジェスター猟兵団』絡みの人間……情報部、ロランス・ベルガー少尉。」

その特徴的な出で立ち……彼がリシャール大佐の“お付き”であるロランス。そして、リベールにはおろかジェスター猟兵団にも『その存在』がない“顔無し(ノーフェイス)”……彼の『背後』に関してもある程度察しはつく。

 

「……レイアちゃん。私が戦うね。彼らの監視をお願い。」

「了解。」

トワはいつになく真剣な表情を浮かべ、レイアに拘束した兵を託すとロランスの前に立った。

 

「ほう……その出で立ち、七耀教会の“星杯騎士”とお見受けする。」

「…あの者たちは、貴方の部下ですね?」

「フフ、もしそうだといったら?」

トワの格好を見て、その素性をそれとなく察する言葉をかけるが、トワはそれを気にすることなく先程拘束した兵とロランスの関係を尋ねると、含みを持たせた答えを返した。

 

「決まっています……はあああああああっ!!」

トワは目をつぶり、構える。すると、黄金に光り輝く闘気が彼女を包み込んでいく。その闘気が東方に伝わる、己の力を高める特殊な呼吸法……『麒麟功』の発現に、ロランスは驚愕する。

 

「(な、何だ……この気の高まりは……!)」

自分よりも年下であるはずの少女が纏っていいはずのない巨大な気……それ以上に、周りの自然がまるで彼女に力を貸すように…周囲の木々が囁きかけるかのように揺れ…周囲に風が巻き上がる。

 

「……七耀教会星杯騎士団所属、守護騎士第四位“那由多”トワ・ハーシェル。情報部少尉ロランス・ベルガー……無垢なる子どもたちの居場所を奪おうとした彼らを率いし貴方を“外法”と認定し、排除させていただきます。」

トワは目を見開き、高らかに自分の名を叫ぶ。

 

 

~レグラム アルゼイド邸:ベランダ~

 

アルゼイト邸のベランダでは、一息ついたアスベルとシルフィアがいた。そこから眺める夜空は数多の星が輝き、人の気持ちを落ち着ける加護を与えてくれるかのようだった。

 

「心配か?」

そう言って、アスベルは問いかける。事情が事情なだけに今回ばかりはリベールを離れなければならず、その後事を託す形でセシリアやレイアとシオン、そしてトワにエステル達の事を託したのだ。

 

「……ま、ちょっと心配かな。レイアがいるから心配はしてないけれど……」

「大丈夫。彼女は、俺達が知る技術を叩き込んだ……それに、彼女だって……」

アスベルらが知る限りにおいて、トワの戦闘力はアスベル達よりもやや劣る……一線級の実力者相手でも、彼女は引けを取らないが、彼女は『優しすぎる』……その情が彼女の本来の戦いをさせていない。シルフィアにはそれが気がかりだった。

 

だが、アスベルは安心しきった表情を浮かべ、そう言うと…彼女は『何者』なのかをしっかり告げた…たとえ、優しすぎても彼女がその『本分』を違えたことなどないのだから。

 

 

 

――星杯騎士団“守護騎士(ドミニオン)”、その名に偽りなしの人間なのだから。

 

 

 

 

~マーシア孤児院~

 

「ほう……(くっ……まさか、“守護騎士”がこんな場所にいようとは……)だが、そなたのような者では、私は「『倒せない』……そう言うつもりですか?」なっ!?」

ロランスは感心した言葉を放ちつつも内心は自分が相手にした『存在』に焦燥していた。だが、彼らならば相手への威圧の幻想など容易く見せることができる。そう見たロランスは挑発も込めた言動を放とうとするが、それを先回りする形でトワが呟き……次の瞬間、ロランスとトワには5mほどの間隔があったのだが……それが、『ロランスの目前にトワがいた』のだ。これにロランスは咄嗟に防御しようとするが、既に防御など間に合う状況ではなかった。

 

「せいやっ!!」

「がはっ!?」

腹部に杭でも打ち込むかのようなボディーブロー。これにはロランスも耐えられず、50m程吹っ飛び、地面にたたきつけられる。

 

「くっ……!(トップスピードでは『アイツ』と同等……それでいて、『痩せ狼』並みの拳法……厄介という他ないな。)」

ロランスは立ち上がり、剣を抜く。先程の彼女の速さと拳の威力……それらは彼が知る二人の人間……『漆黒の牙』と同等のスピード、そして『痩せ狼』を髣髴とさせる拳の破壊力……一線級の『執行者』に匹敵するほどの実力。

 

「……今のは警告です。大人しく退かないのであれば、次はもう少し本気でいきます。」

そう言って、彼女は纏っていた気を最小限に……よく目を凝らさねば見えないほどに薄い闘気を纏った状態になった。

 

「面白い……ならば、こちらも行かせてもらうぞ。フンッ!」

ロランスが剣を振りかぶり、

「てい!!」

トワが拳を振り上げ、

 

剣と手甲が激しく火花を散らし……いや、傍からすれば何をしているのか解らず、空間に歪みが出来ていると錯覚させるほどの超高速……その様子は、レイアには全て『視えて』いる。

 

「………」

レイアですら、あの速度について行けるかと言われたら、半分肯定、半分否定だろう。

超高速戦闘を行えるのは、転生前にその技術を習得し、自らそれを上回る技巧を編み出したアスベル、それと十代にして『理』に到達したシオンぐらいだろう。あとの面々では彼らの『一歩手前』までしかいかないのだ。目の前でロランスと戦っているトワは、その彼らの動きを知り、それを己の術として独学で習得した『武の才に溢れた少女』なのだ。

 

「その余裕、いつまで続くかな?」

そう言ってロランスは『分け身』を使い、本体と分身が怒濤の攻撃をかけるが、

 

「はあっ!せいっ!甘いです!!」

トワは防御するのではなく、紙一重でロランスの攻撃を回避しつつ、ロランスに拳を打ち込むが、そのいずれもが分身であり、次の瞬間には消えていた。彼女は辺りを見渡すが、彼の姿は見当たらない。

 

「私でも知らない技巧……」

先ほどロランスが使った『分け身』と、そして姿を隠したロランス……おそらく導力魔法の一種であるとトワは構え、ロランスの気配を探った。

すると、彼女のすぐ背後が歪み……ロランスが姿を現した。彼は『ホロウスフィア』……姿を隠すアーツと殺気を殺し、彼女の真後ろまで接近していた。

 

「フ、捉えたっ!!」

ロランスは剣で彼女を斬った……だが、その刹那、彼女の姿は霞に消える。

 

「なっ!?(手ごたえはあった……分け身か!?)」

自身も使うことのできる『分け身』……それをいとも簡単に使ったことに驚愕していた。

彼女はこう言った。『私でも知らない』……と。その言葉と表情に微塵の嘘など感じなかった。となれば、このわずかな時間で彼女はロランスの技を『視て覚えた』ということになる。

 

 

「危なかったですよ……貴方がそれを見せていなければ、私は地に伏せていましたから。」

 

 

トワの体格は他の者と比べれば遥かに劣るハンデを背負っている。だからこそ、そのハンデを乗り越えるために彼女が選んだ手段は、『誰よりも速く、敵に到達して必殺の一撃を打ち込む』だった。

彼女の家系に伝わる武芸や東方に伝わる武術を取り入れ、更にはアスベルから歩法の基礎を、シルフィアからは空手や中国拳法のノウハウを習い……結果として、誰よりも速いトップスピード……反応速度だけで言えば、アスベルの『神速』使用状態に追随するほどのレベル。そして、戦いの最中に敵の技を己の技として取り込む……その柔軟性と飲み込みの早さは、守護騎士の中でもトップクラスの部類に入る。

 

 

「……いきます」

そう呟いて、トワは駆け出した。その一歩を踏み込んだ瞬間、トワの姿は四人に増えていた。『分け身』……先程覚えた技でロランスに強襲した。

 

「はぁっ!!」

「ぐっ!?」

トワは先程と同様……いや、先程のよりもさらに速い突きでロランスを捉える。その感覚は本物であると感じたトワは、ロランスに考える暇すらなく追撃をかけていく。

 

「せいせいせいせいっ!!」

「がああああああっ!?!?」

本体と分け身によるラッシュ攻撃。一時の隙すらない攻撃にロランスは苦痛の悲鳴を上げることしかできない。

 

「終わりにします……轟け、無限の拳閃!光を抱き、敵を撃ち貫け!!」

そう高らかに叫ぶと、彼女の分身は光となって空を駆け抜け、彼女自身の姿も光の如くロランスを捉え、彼の戦力を確実に奪っていく。

 

「ゼロ、ディゾルヴァー!!」

トワのSクラフト『ゼロ・ディゾルヴァー』のフィニッシュブローがロランスに命中し、トワは目をつぶりつつ真剣な表情を浮かべている。

 

「がはあっ!?!?」

ロランスは吹き飛ばされ、木に直撃してようやく停まった。とどめの一撃が来るのかと思いきや、トワはその場を去ろうとした。

 

「なぜ、殺さない。」

その行動にロランスは不思議がった。彼らの行動理念からすれば『外法』扱いされたものは一度の例外などなく殺されている。だが、目の前にいる少女はそれをしようとすらしていない。

 

「それを貴方が言いますか、『結社:身喰らう蛇』の『執行者(レギオン)』No.Ⅱ“剣帝”レオンハルト?」

その質問に答えるかのようにトワが言葉を紡ぐ……すると、彼の仮面に無数の罅が入り……次の瞬間、粉々に破壊され……彼の素顔が露わになった。

 

「なっ!?(何時の間に……!?)」

これにはロランス――いや、レーヴェですら驚愕だった……つまり、もしこのままロランスとして取り繕えば、次は五体満足ではいられない、と……それを暗示させるかのような印象をレーヴェは強く感じた。

 

「私が『外法』と認定したのはロランス少尉です。貴方ではありませんから……今回の件については、『借り』にさせていただきますよ。」

そう言い放つと、トワは先程までの闘気を収め、その場を後にした。

 

「流星の如き速度……音速を超えし者。第四位“那由多”……手も足も出なかった俺が『剣帝』を名乗るなど、これではおこがまし過ぎるな。これが……俺が、まだ修羅になりきれていない証拠か。」

兵たちの事はどうにか取り繕うこととしつつ、レーヴェもといロランスはアーツで体力を回復させると人間離れした動きでその場を去った。

 

 

「はぁ、疲れたよ。」

「お疲れ、トワ。はい、お茶」

「いつの間に淹れてたの!?………ん、美味しい。」

先ほどの戦いぶりからは見る影もないほどに疲れた表情を浮かべるトワに、レイアは彼女を労う形で茶を差し出し、それを見たトワは彼女の手際の良さに感心しつつも、お茶で一息ついた。

 

「明日はエステルちゃんやエリィちゃんにも手伝ってもらおうかな。」

「エリィ……成程、彼女ならそういったところに繋がりがあるかもしれませんね。」

「今日は大体終わったし、寝なおそうか。」

「だね。」

かくして、孤児院の放火は二人の『実力者』の活躍で未遂に終わった。ちなみに……

 

「ん……あ、あれ?」

「う、動けねえ!?」

「だ、誰か、助けてくれー!!」

孤児院への放火を行おうとした三人の『愚か者』は、一時的に人一人が軽々入る樽の中に入れられて敷地の隅に置かれ、盗難防止の鎖と遮音・認識阻害の法術をかけて厳重に管理していた。

 

 




ほぼトワのメイン回。

『銃?あれは飾りです!(キリッ)』となりましたwだって、某捜査官のSクラだって『鉄拳制裁』ですしw

……実際のところは、原作でもかなりのバイタリティと書記官ですら脱帽の仕事ぶりだとすると、これぐらい出来ても不思議じゃないと思いました。
原作チート化キャラはティータ、エステルに続いて三人目になりますね。


閃の軌跡Ⅱのスクショを見ると、ガイウス十字槍二刀流(どこのB○SARA幸村w)とか、ラウラの“獅子のオーラ”とか、カレイジャスに向かって行くアリサとか……やべぇ、テンションアガットしてきましたw

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