英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第36話 生じ始めた“焦り”

~ルーアン 遊撃士協会支部~

 

エステルとヨシュアはギルドに来て、仕事の紹介を受けようとしたところ、通信機が鳴ってジャンが応対し……伝えられた内容をエステル達に伝えた。

 

「どうかしたの?ジャンさん」

「レイアからの連絡でね……昨晩、孤児院が放火されそうになったらしい。」

「えっ!?」

「本当ですか?」

「ああ。それも、彼らを現行犯で逮捕したそうだよ。詳しいことはおいおい調べていくみたいだけれど。」

ジャンは二人に、昨日の真夜中マーシア孤児院が放火されるすんでで止めることに成功し、犯人を現行犯で逮捕したと伝えた。

彼らを然るべき場所に引渡し、それからこちらに来るとのことだった。

その30分後、レイア達が来たので情報整理をすることになった。

 

 

~遊撃士支部 二階~

 

「――以上が、彼らから聞き出せた事の顛末ね。」

「……う~ん」

レイアは昨晩起こった内容をかいつまんで話した。流石にレイアやトワの素性までは話せないが……それを聞いたエステルは考え込んでいた。

 

「エステル、どうかしたの?」

「え?……その、率直に思ったんだけれど、孤児院に放火して得をするとは思えないのよね。だって、マリノア村の人には好印象の人が多いみたいだし。」

「まぁ、そうだね。」

「いたずらにしても、バレたら大勢の人に嫌われることをやれるものなのか、って思っちゃったのよね。」

エステルの指摘は、ある意味的を射ている。悪戯心だったとしても、それが後で解れば大勢の人……ルーアン地方全体から非難を一身に受けることにもなりうる。そのようなことを隠れてやったという意味からしても、単なる悪戯とも思えないのは明白だった。

 

「となると、レイヴンのメンバーではないということですね。彼らの容姿と放火しようとした連中の容姿が合わないことからして、それはありえないですし。」

「う~ん……」

「エリィ?どうかした?」

ヨシュアの言葉にエリィは考え込み、彼女の様子が気になったエステルが尋ねる。

 

「え?えと、その、もしかしたらあの話が関わってるんじゃないかって……」

「あの話?」

「少しでも手がかりが欲しいし、話してくれないか?」

「ええ、解ったわ。」

二人の問いかけにエリィは頷き、話し始めた。それは、エリィがリベールに来る二週間前の事だった。

 

 

~クロスベル国際銀行16階 執務室~

 

クロスベル国際銀行……International Bank of Crossbell:通称IBC……西ゼムリアにおいて、その影響力は計り知れない規模と力を持ちうる金融機関の一つ。この銀行による恩恵は周辺の国家…とりわけエレボニア帝国やカルバード共和国もその恩恵を強く受けている。

エリィはこの銀行の総裁であるディーター・クロイスの娘、マリアベル・クロイスの招きで執務室を訪れていた。彼女とはディーターとエリィの父親が旧知の仲であり、その繋がりで彼女らも仲が良い友として付き合っていた。エリィとしては、マリアベルの事は信頼しているのだが、彼女は事あるごとに確認と称して抱き着いてくるため、その点に関しては納得できない部分があるのは事実である……まぁ、今回もその被害を受けたのだ。

 

「まったく、ベルったら……」

「フフフ、相変わらずで何よりですわ。」

「笑い事じゃないわ……って、物凄い書類の量ね。」

ため息をつくエリィに、マリアベルは笑みを浮かべて答えた。それに対してため息をつきたくなったが……彼女の執務室の机の上にある積み上げられた書類の多さに声を上げた。

 

「あの書類はルーアン地方のプロジェクト計画書よ。」

「プロジェクト計画書って……ベル、そんな簡単に話していいものなの?」

「構いませんわ。何せ、現実味がありませんもの。」

「ようするに、ベルの目から見て『不承認』ってことかしら?珍しいわね、おじ様の話だと滅多な事では不承認なんて出さないベルが。」

ディーター曰く、マリアベルはどれほどの計画であろうとも必要なところは指摘して改善し、最終的には承認する敏腕さがあると指摘し、エリィに対して自慢げに話していた。そのマリアベルですらそう言葉を吐き捨てるほどの『現実離れ』した書類……マリアベルは話し続けた。

 

「確かに、私は必要なところは指摘しますし、妥協ができれば承認しますけれど、あれは最早『駄作』ですわね。私も一度足を運びましたが、あの場所を壊そうとするだなんて正気を疑いますわ。それに、現地の人はそれすら知らないようですから。」

「現地の人ですら知らない、って。」

「事実でしたから。色んな人に話をしましたが、そのいずれもが『知らない』『聞いたことがない』でしたから。」

マリアベルから言わせれば『駄作』……それは、ルーアン地方に別荘地を作り、高所得層の誘致を図る計画。だが、それに必要とされる『土地の権利』や『必要な予算』……肝心ともいえる計画の『柱』が何ら確定していない状態での計画書提出にもはや呆れるほかなかった、というのがマリアベルの言い分だった。

 

「そう言えば、今度の留学先はリベールって言ってましたわね。」

「ええ……ただ、ルーアン地方に行くか解らないけれども。」

「それは解っていますわ。ただ、ダルモア市長にお会いしたら…………と、言っておいてもらえるかしら?」

「……それで私が被害を受けたら、ベルに賠償を要求したいところね。」

マリアベルはその話をしたところでエリィがリベール留学することを思い出し、もし会えたら…ということで伝言を頼み、エリィは行けないかもしれないということを伝え、彼にその言葉を伝えた時の『報復』を考えつつ、マリアベルに答えを返した。

 

「その時は誠心誠意……」

「いや、やっぱりやめておくわ……」

「あら残念。」

ベルの言葉からして、嫌な予感しかしない……そう直感したエリィは答え、マリアベルは少し残念そうに答えた。

 

 

~ルーアン 遊撃士協会支部2階~

 

「――というのが、私の聞いた話ね。」

「あの場所に別荘って……じゃあ、孤児院を放火しようとしたのって……」

「繋がる可能性が高いね。あの時間なら全員焼失しても“不審火”で片づける可能性があるし、レイヴンのメンバーに罪を着せて強引に解決する可能性すらあった。」

「しかも、ジョセフさんの帰国は一週間後……その間に、計画を進めるためには『今』事を起こす必要があった……ってところね。」

レイアとトワ、エリィが泊まっていなければ、テレサや子供たちは全員焼死していた可能性があった……今回の放火未遂……その計画を推し進める立場の人間でないとできないことだ。それも、何らかの形で大きなバックアップを持っていなければできない所業……

 

「ところで、レイア。火をつけようとした人達なんだけれど……何者だったんですか?」

「……言ってもいいけれど、今までの見方が凄く変わるよ?」

「……う、うん。あたしは、知らなきゃいけない気がする。」

「……教えてください。」

ヨシュアは放火をしようとした人物をレイアに尋ね、レイアは真剣な表情でエステルとヨシュアの方を見て、エステルはやや躊躇いがちに、ヨシュアは真剣な眼差しでレイアのほうを見て頷いた。

 

 

「……シオンに身分を確認させた。彼らは間違いなく『情報部』の人間。それも、ダルモア市長ひいてはリシャール大佐の命令を受けた形で。」

「え?あたしから見れば理解のありそうな人たちだったけれど……」

「それと、シェラザードから聞いたけれど、仮面の男…彼はロランス・ベルガー少尉。彼がいわば『実行役の統括』を担っていた人間ね。」

「ロランス・ベルガー……」

レイアの口から出た名前にエステルは信じられない表情で目をパチクリさせ、ヨシュアの表情は一層険しく……特にロランの名前が出た時、普段からすれば見られない悩んだ表情を浮かべていた。

 

「え、えと、その……本当なの?市長さんが放火を指示したって……」

「ええ。実行犯たちにも聞いたわ。」

あくまでも『平和的』にお話を聞き、彼らに関してはシオンに任せているので、特に問題はないはずだ。エステルの表情から見て、納得いかないということは明らかだろう。彼女にしてみれば、『何故そのようなことをするのか』ということの方が疑問だろう。

 

「水際で止めたのは幸いだったけれど、再発の心配もある……カルナさんにテレサ先生の護衛をシオンからの『依頼』ということで、お願いしてる。」

「そっか……あたしたちはどうしようか?」

レイアの言葉を聞き、エステルは複雑な表情を浮かべつつ、これからどうしようかと考えていた時、受付にいたはずのジャンが2階に駆け上がってきた。

 

「君たち!よかった、まだいたね……」

「ジャンさん!?ど、どうしたの!?そんなに急いできて。」

「……火急の事態ですね。事情を説明してください。」

「ふう……うん、実はね。」

ジャンからエステル達に伝えられた内容……それは、テレサ先生が襲われ、怪我をしたこと。そして、孤児院が襲われたことだった。

 

「あんですってー!?」

「それで、どうなったんですか?」

「テレサ先生に関しては軽傷。カルナも手傷は負ったみたいだけれど、命に別状はないようだし、近くを通りかかった人に治療してもらったそうだ。……それと、仮面を被った男性の姿もあったらしい。」

(あの人、のようですね。やっぱりもう少しきつめにしとくべきでしたか)

テレサを護りつつ、黒づくめの兵やロランス相手に手傷程度で済んだのは、ある意味運が良かったというべきなのかもしれない。それは、彼と戦ったトワが一番よく理解していた。ただ、近くを通りかかった人の存在は気になるが……それはひとまず置いて、ジャンは話し続けた。

 

「それと、孤児院の方だけれど……“重剣”が彼らを追い払ったそうだ。」

「“重剣”……って、誰?」

「“重剣のアガット”…ほら、一年前にエステルは手合わせしたじゃないか。赤毛が特徴的な人。」

「あ~、あの人ね。あたしのことをバカ呼ばわりした人。お返しにボッコボコにしたけれど。」

アガットの異名を聞いてエステルは首を傾げ、ヨシュアの説明にエステルはようやく思いだし、笑顔で言い放った。

 

「(あの“重剣”を倒しただなんて……)とりあえず、急ぎの依頼もないし、君たちにはこの調査をお願いしたい。民間人と遊撃士が襲われたのは看過できないからね。」

「ええ、わかったわ。」

「解りました。」

ジャンの言葉に二人は頷き、席を立って1階に下りた。すると、1階にエステルとヨシュアが見知った姿の少女がいた。

 

「エステルさんにヨシュアさん!」

「クローゼ!?」

「もしかして、事情を聞いてここに?」

「はい……その、私も同行させてください。足手まといには決してなりませんから。」

少女――クローゼの決意は固い。それは、彼女の決意に満ちた表情……それを見ずとも、直感ではっきりと解るほどだった。

 

「そうだものね……どうする?」

「レイアさん、判断をお願いしてもいいですか?……」

「……クローゼ、いいんだね?」

「…はい!」

「それなら、同行を許可します。アガットの奴が何を言っても、私が許したんだから問題ないしね。」

「ありがとう、ございます……!!」

エステルらはクローゼと共に、一路マリノア村へと急いだ。

 

 




てなわけで、色々話が進みまくります。

レイアがエステルとヨシュアに今回の黒幕を言った理由は、先んじて言っておくことで動揺を少なくすること。そして、ひいては『彼ら』に対しての『宣戦布告』です。

次回、一気に事件解決までもっていける……かなぁw
ちょっと文章が長めになるかもしれませんw

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