英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第38話 ダルモアの失策

~ルーアン市長邸~

 

エステル達が踏み込む寸前、2階の大広間にはダルモア市長とフィリップを傍に控えさせたデュナン公爵が会談をしていた。そこにエステル達が現れた。

不機嫌な表情でエステル達を見ていたダルモアだったが、ヨシュアの『緊急な用件』であるという答えに驚いた。

 

「急な用件か……仕方あるまい。公爵閣下、しばし席を外してもよろしいでしょうか?」

「ヒック……いや、ここで話すといい。どんな話なのか興味がある。」

「し、しかし……」

「いいじゃない♪公爵さんもああ言ってるし。聞かれて困る話でもないでしょ?」

「まあ、それはそうだが……そういえば昨日、テレサ院長が襲われたそうだな。放火未遂事件と同じ犯人だったのかね?」

デュナンも事件の詳細について聞く事にダルモアは戸惑ったが、エステルの言葉に納得して尋ねた。

 

「その可能性が高そうです。残念ながら、実行犯の一部は逃亡している最中ですが……」

「そうか……だが、犯人が判っただけでも良しとしなくてはならんな。ちなみに誰が犯人だったのかね?」

「そうね……おそらく、市長さんが考えている通りの人たちだと思うわよ。」

ヨシュアの言葉に半分浮かない顔をしつつも、犯人が判明したことに安堵するダルモアがそのことを尋ね、エステルが答えた。

 

「そうか……残念だよ。いつか彼らを更正させる事ができると思っていたのだが……単なる思い上がりに過ぎなかったようだな……」

「あれ?市長さん、誰のことを言ってるの?」

無念そうに語っているダルモアにエステルは不思議そうに尋ねた。

 

「誰って、君……『レイヴン』の連中に決まっているだろうが。昨夜から、行方をくらませているとも聞いているしな……」

「残念ですが、彼らは犯人ではありません。むしろ今回に限っては被害者とも言えるでしょうね。」

「な、なに!?」

エステルの疑問にダルモアは確信を持った表情で答えた。しかし、ヨシュアの答えに驚き、思わず声を上げた。彼等が犯人ではない……では誰が犯人だというのか、というダルモアの声なき問いかけにエステルが声を張り上げてその名を言い放った!

 

「今回の一連の事件…孤児院を襲撃した、その真犯人。それは……ダルモア市長、あんたよっ!」

 

「!!!」

エステルの言葉にダルモアは厳しい表情のまま、固まった。

 

「あなたの秘書―――ギルバードさんは既に現行犯で逮捕しました。あなたが実行犯を雇って孤児院放火と、院長先生への襲撃を指示したという証言も取れています。この証言に相違はありませんか?」

「で、出鱈目だ!そんな黒装束の連中など知るものか!」

「あれぇ?あたしたち、黒装束だなんて一言も言ってないんだけど。」

「うぐっ……知らん、私は知らんぞ!全ては秘書が勝手にやったことだ!」

「往生際の悪いオジサンねぇ……というか……」

「な、何だ!?」

「放火未遂の事、何で知っているのかしら?私たち遊撃士しか知らない事実なんだけれど?」

「なあっ!?」

先日会った時の態度、先ほどまでの紳士的な態度は完全に形(なり)を顰め、悪あがきをしているダルモアを見てエステルは溜息を吐いた。そして、それに追撃をかけるかのように放たれたレイアの言葉にダルモアは驚愕の表情を浮かべていた。

 

今回の事は、院長先生や子供達ひいてはマリノア村へ不安を与えかねない……そう判断したレイアやトワはギルド内部に情報を止めたのだ。それを知るということは、遊撃士以外では『今回の実行犯』以外在り得ないことだ。そしてヨシュアはダルモアの退路を断つかのように、話を続けた。

 

「ギルバートさんの証言から……高級別荘地を作る計画のために孤児院が邪魔だったと聞いています。これでもまだ、貴方の容疑を否認しますか?」

「しつこいぞ、君たちっ!確かに、ずいぶんと前から別荘地の開発は計画されている!だが、それはルーアン地方の今後を考えた事業の一環にすぎん!どうして犯罪に手を染めてまで性急に事を運ぶ必要があるのだ!?」

「……莫大な借金を抱えているからでしょう?」

エステル達を援護するかのように姿を見せた意外な助っ人……ダルモアにそう話しながら現れた男性――ナイアルが広間に入って来た。

 

「ナ、ナイアル!?」

「どうしてここに……」

「何、そこの市長さんを取材しようと屋敷まで来たらお前たちが入っていくじゃねえか。こりゃ何かあるなと思ってお邪魔してみたらこの有様だ。いや~。一部始終聞かせてもらったぜ♪」

驚くエステルとヨシュア。それにはとびっきりのネタを見つけたかのように、ナイアルは上機嫌で答えた。

 

「な、なんだね君は!?」

「あ、『リベール通信』の記者、ナイアル・バーンズといいます。実はですねぇ、最近のルーアン市の財政について調べさせてもらったんですが……ダルモア市長、あなた……市の予算を使い込んでますね?」

「……そ、それは……別荘地造成の資金として……」

ナイアルの確認の言葉にダルモアは顔を青褪めさせた。

 

「そいつは通りませんぜ。工事は一切始まってないんですからね。で、ちょいと妙だと思ったんで飛行船公社まで足を伸ばしてあなたの動向を調べたんですよ。すると一年ほど前に、共和国方面に度々いらっしゃってますね?」

「……た、ただの観光だ……」

「……というのは表向きの理由。本当の理由は、あちらの相場に手を出して大火傷を負ったからでしょう?」

「!!!」

どんどん追い詰められている事に気付いたダルモアは無意識に両手の拳を握り、誤魔化したがナイアルはすぐに否定し、本人しか知りえないと思っていた『ナイアルが言い放った事実』に表情が凍り付いた。

 

「えっと……相場ってなに?」

「市場の価格差を利用してミラを稼ぐ売買取引です。簡単に言えば、これから値段が上がりそうなものを買い込んで、高くなったら売っていくことで利益を得る方法ですよ。」

「説明ありがとう、クローゼ。それでナイアル、この市長さんはどれだけ損しちゃったわけ?」

「共和国にいる記者仲間に調べてもらった限りでは……およそ1億ミラってとこらしい。」

「い、1億ミラぁ~!?」

「……犯罪に手を染めても不思議ではない金額ですね。」

クローゼの説明にエステルは納得してナイアルに尋ね、その答えにエステルは驚いて声を上げ、ヨシュアは驚いた後ダルモアが犯罪に手を染めた理由に納得した。

 

「流石ですねナイアルさん。ですが、それだけではありませんよ……ダルモア市長、貴方が提出した計画書……IBCは一切それを承認しないと回答を頂いております。」

「なっ!?こ、小娘が何をぬかす!」

「これは、IBC総裁…『ディーター・クロイス』から預かった伝言です。しかも……私の友人が個人的に調べた貴方の取引損失額は6億ミラほど。損しかしない人間に貸す金はない、という言葉も預かっています。」

「ろ、6億ミラ!?」

「おいおい、1億ですら驚きだっていうのに…こりゃ、大スクープものだぞ…!!」

続けて放たれたエリィの言葉にダルモアは声を荒げるが、臆することなく言い放った事実にエステルは驚愕し、自分が聞いた額もその一部であったことにナイアルは愕然とした。

 

「そして、その計画書の最大の欠陥……それは、ルーアン地方で建設が進んでいる医療機関の敷地まで入っていることです。」

「えっ!?」

「なっ!?」

「その計画書は国家主導のもの。対して、こちらは市主導のもの……これでは、貴方は国家の決定に反するもの――『国家反逆』の意思あり、と疑われますよ。」

「!!!」

現在、マリノア村の奥で建設が進んでいる医療施設……リベールとレミフェリアの共同事業として、クロスベルにある聖ウルスラ病院に追随する医療機関の設立が決定され、現在工事が進んでいる。別荘地の候補は、その敷地内にまで食い込んでいるのだ。これでは、いくら申請したところで通るはずなどない。

 

「6億とはな……私もミラ使いは荒い方だがさすがにおぬしには完敗だぞ。」

「くっ……」

「な~に競ってるんだか。(スケールが大きすぎて、正直どっちもどっちに思えちゃうのは、あたしだけかしら……)」

逃げ場を完全に失ったダルモアは顔を歪め、エステルはデュナンの言葉に呆れて溜息を吐いた。

 

「そこの御嬢さんの話には俺も驚いたが……ともかく、莫大な借金を返すために市の予算に手を出したはいいが、問題を先送りにしただけだ。どうするものかと思っていたらまさか放火未遂や襲撃までして別荘地を作ろうとするとはね。何と言いますか……行き当たりばったりですなあ。」

「ふん、そんな証拠がどこにある。憶測だけで記事にしてみろ。名誉毀損で訴えてやるからな!」

「あらま、ある程度予想していたとはいえ、こうも見事に開き直るとは。」

強気になったダルモアを見てナイアルは目を丸くした。

 

「貴様らもそうだ!市長の私を逮捕する権利は遊撃士協会にはないはずだ!今すぐここから出て行くがいい!!」

「む、やっぱりそう来たか。」

「さすがに自分の権利はちゃんと判っているみたいだね。」

同じようにエステル達にダルモアは怒鳴った。怒鳴られたエステルとヨシュアは厳しい表情でダルモアを見た。

 

「………市長、1つだけ……お伺いしてもよろしいですか?」

「なんだ君は!?王立学園の生徒のくせにこのような輩と付き合って……とっとと学園に戻りたまえ!」

「………」

「うっ……」

静かに問いかけたクローゼを怒鳴ったダルモアだったが、クローゼの凛とした眼差しに見られて怯んだ。

 

「どうして、ご自分の財産で借金を返さなかったんですか?確かに6億ミラは大金ですが……ダルモア家の資産があれば――この屋敷などを売り払えば、何とか返せる額だと思います。」

「ば、馬鹿なことを……!この屋敷は、先祖代々から受け継いだダルモア家の誇りだ!どうして売り払う事ができよう!」

「あの孤児院だって同じことです。多くの想いが育まれてきた思い出深く愛おしい場所……その想いを壊す権利なんて誰だって持っていないのに……どうして貴方は……魂を悪魔に売り渡すような……あんなことが出来たのですか?」

「あのみすぼらしい建物とこの屋敷を一緒にするなああ!!」

クローゼの言葉にダルモアは怒り心頭で吠えた。

 

「そうですか……あなたは結局、自分自身が可愛いだけです。ルーアン市長としての自分……ダルモア家の当主としての自分……己の地位を愛しているだけに過ぎません。本当に、可哀想な人……」

「………よくぞ言った、小娘が。こうなったら後のことなど知ったことか!」

クローゼに哀れみと軽蔑が込めた視線で見られたダルモアは凶悪な顔で笑い、立ちあがって後ろの壁にあるスイッチを押した。すると壁の一部が動き、隠し部屋が出来た。

 

「ファンゴ、ブロンコ!エサの時間だ、出てこい!」

ダルモアが叫ぶと、隠し部屋から何かの足音が聞こえて来た。

 

「な、なんなの……」

「獣の匂い……!」

エステルとヨシュアは隠し部屋から歩いて来る何かを警戒した。そして隠し部屋から二体の四足巨大魔獣が現れた!

 

「「グルルルル………」」

「な、なんだああッ!?」

「ま、魔獣ううううう!?うーん……ブクブクブク……」

「こ、公爵閣下!?」

巨大魔獣を見てナイアルは驚き、気絶したデュナンにフィリップが駆け寄った。

 

「信じられません……魔獣を飼ってるなんて……」

「くくく……お前たちを皆殺しにすれば事実を知るものはいなくなる……こいつらが喰い残した分は川に流してやるから安心したまえ。ひゃ―――――――はっはっはっ!」

「く、狂ってやがる……」

険しい表情で魔獣とダルモアを見るクローゼ。狂ったように笑い叫ぶダルモアにナイアルは後ずさった。二体の巨大魔獣は唸りながらエステル達に襲いかかる態勢になった。

 

「ふふふ……ダルモア市長、貴方は馬鹿ですね。」

「何!?」

「その魔獣をここに放つ……そして、貴方の先程の発言。状況的に民間人である方々を襲う意思ありと判断……遊撃士規約第二項『民間人の保護』に基づき、ルーアン市長モーリス・ダルモア……貴方を逮捕させていただきます。」

口元に笑みを浮かべてそう話したレイア。ダルモアのした行動は『ここにいる全員を皆殺しにする』……本人がそう言っていることは、最早疑いようのない事実。そうなれば、公的機関への干渉が何だろうが、『民間人』であるナイアル、エリィ、トワを保護する名目で、彼等に危害を与えようとする『ダルモア市長の逮捕』という口実を彼自身が生み出してしまったことは彼の失策である。

 

「……エステルとヨシュア、クローゼ。一匹頼める?」

「え?う、うん!」

エステル、ヨシュア、クローゼに片割れ――ブロンコを任せて、レイアはエリィとトワと共にもう一体の魔獣―――ダルモアがファンゴと呼んだ魔獣と相対する。

 

「トワ、エリィ。めんどいから10秒で終わらせるよ!」

「(久々に聞いたね、レイアのその言葉…)了解!」

「わかったわ!」

六人はそれぞれ魔獣に向かい、戦闘態勢に入った!!

 

 


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