英雄伝説~紫炎の軌跡~   作:kelvin

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第39話 試験

~ルーアン市長邸 大広間~

 

「ひゃははははははっ!!せいぜい足掻くがいいわ!!」

そう言って、ダルモアは隠し扉があった場所から外に出ていった。

 

「あっ、こら!待ちなさいよ!!」

「くっ……」

「ど、どうすれば……」

エステル、ヨシュア、クローゼが声を上げるが、受け持っている魔獣――ブロンコは容赦などなく三人に襲い掛かる。

 

「……」

レイアは考える。自分が追いかけてもいいが、ここで力を晒すのはまずい。何せ、担ぎ上げられているデュナンがいる。となれば……ツインスタンハルバードを構え、レイアはブロンコとファンゴの間に一撃を入れる形で振りかざして二匹を怯ませると、三人の道を作る。

 

「エステル、ヨシュア、クローゼ!市長を追って!!こっちは援軍が来るまで耐えるから!!」

「レイア!?」

「………エステル、クローゼ。行こう!」

「はい!!」

「あー、もう。わかったわよ!死ぬんじゃないわよ!!」

「お、俺も行かせてもらうぜ!こんなスクープ、逃してたまるかよ!!」

彼女の言葉にエステルは驚くが、ヨシュアは彼女の決意を無駄にしないためにも、二人に声をかけて先行し、クローゼとエステルもそれに続き、ナイアルも三人の後を追って行った。

 

「さあて……公爵さんは気絶してるし、派手にやらせてもらうわ。フィリップさん、公爵を連れて退避してください。エリィ。」

「解ったわ……フィリップさん、非力ではありますが……」

「すみません、マクダエル嬢。お力添えをお願いします。」

気絶しているデュナンをフィリップとエリィが運び出す。それを魔獣らは躊躇いもなく狙うが、

 

「ふっ!!」

「はぁっ!!」

レイアはハルバードで、トワは隠し持っていた法剣でその牙を防いだ。

 

「急いでください!」

「は、はい!この礼はいずれ!!」

「レイア、トワ!無茶はしないで!!」

トワの声にフィリップは軽く会釈をし、エリィは無事を願う言葉をかけて大広間から出た。それを見届けたレイアはトワの方を見、トワもそれを見て頷き、力を入れて魔獣を弾き飛ばす。弾き飛ばされた魔獣は構えを取り、二人を警戒した。

 

「「ガアッ!!」」

魔獣はその鋭き爪と牙で二人を引き裂こうとするが、

 

「っと!!」

「くっ!!」

レイアは軽々と飛んでかわし、トワは屈んでその難を逃れる。そして、二人は魔獣から距離を取り、構える。だが、その表情に焦りの色は見られない。むしろ、これから試そうとしていることに対しての感情の昂りを抑えきれない感じだった。

 

「それじゃあ……あんた達がこの“試験”の最初の餌食よ。いこうか、トワ。」

「うん!!」

「「第七世代型戦術オーブメント『ALTIA(オルティア)』、『導力解放(オーバルブースト)』起動!!」」

そう叫ぶと、オーブメントの中心に嵌められた特殊なクォーツ『マスタークォーツ』が光り、それに呼応するかのように個人の適正に合わせたラインも光る。さらには、はめ込まれたクォーツも光り出し、レイアは緑色のオーラを、トワは金色のオーラを身に纏う。

 

第七世代型戦術オーブメント……『ALTIA(オルティア)』。第六世代型の『ENIGMAⅡ』や『ARCUS』の機能をも取り込み、12年という歳月をかけてZCF――ツァイス中央工房が完成させたアーティファクトクラスの戦術オーブメント。『導力解放(オーバルブースト)』はマスタークォーツのもつ属性と同属性のクォーツが共鳴し、使用者の身体能力を向上させる『ALTIA』の機能の一つ。だが、『オーバルブースト』は単に使用者のみに影響があるわけではない。彼女らの手に持つ武器……ツインスタンハルバードや法剣も彼女らのオーラと同じ色に光り輝く。それを構え、二人は突撃する。

 

「ガウッ!!」

魔獣らは彼らに怯むことなくその爪を二人に叩きつけようとするが、

 

「ガッ!?」

二人の武器と交えているはずなのに、見えない何かに阻まれ、身動きが取れないことに驚愕する。だが、それすらも理解することなく、魔獣たちは軽々と弾き飛ばされた。一方、レイアとトワはその力に感心していた。

 

「へぇ……これは凄いね。」

「そうだね。」

だが、今は感心している時ではない。すぐさま気を引き締め、武器を構える。そして、二人は闘気を高める。

 

「せいやっ!!」

レイアがハルバードを振るうと、風の衝撃波が魔獣を切り裂く。

 

「せいっ!!」

「グゥゥ!?」

トワが魔獣を斬ると、斬られた場所の堅さなど関係なしに傷が入り、魔獣は呻く。

 

「風よ荒ぶれ、竜巻の如く!荒れ狂え、雷神の如く!遮るものを断つ刃となれ!!」

「雄大なる力の一端、此処に顕現せよ!」

これから先を戦い抜くために………今できる最大の技を放つ。レイアのツインスタンハルバードから放たれるSクラフトは縦横無尽の斬撃を繰り出す『スコルピオン・ハーツ』……トワの法剣から放たれるのは分離した法剣の刃によるクラフト『インフィニティスパロー』の上位技……Sクラフト『グラール・インフィニティア』。

 

それらが、オーバルブースト……戦術オーブメント『ALTIA』によって進化した、使用者のみが扱える専用のSクラフト……名付けるならば、文字通りの『決め技』……F(フィニッシュ)クラフトがさく裂する!!

 

「斬り裂け、ラグナブラストハーツ!!」

「放て、空刃の嵐!テンペスト・インフィニティア!!」

レイアとトワのFクラフト……『ラグナブラスト・ハーツ』『テンペスト・インフィニティア』が魔獣に命中し、魔獣はそのエネルギーの余波で消滅した。

 

「ふう……何とかなったかな。」

「そうだね。手ごたえは悪くなかったしね。」

レイアとトワは初めて使った機能に満足していた。ただ、乱用は出来ない。ここぞという時に使う『切り札』でないと、いろいろ誤解を招きかねないというのは、二人も理解していた。そうして武器を収めると、エリィが戻ってきた。

 

「二人とも、無事……って、魔獣は?」

「倒したよ。ちゃんとね。」

「え!?その、本当なの?」

「うん、本当だよ。」

エリィは魔獣の姿がないことに首を傾げ、レイアとトワの言葉を聞いても半信半疑の状態だった。とりあえず、エステル達の帰りを待つため、ギルドにいったん戻ることにした。

 

 

~ルーアン市街~

 

エステルたちはヨットに乗って逃亡したダルモアを追う形でボートに飛び乗った。辛うじてナイアルも追いつき、飛び乗ったのだ。小型で軽量な分すぐに追いつき、ダルモアは銃を放つがエステルが棒で弾き、叩き落とした。

しかし、沖合に出たところでヨットが加速した――海の風を受けるための帆があるヨットの方が断然有利になってしまい、その距離は段々離されていった。

 

「くっ、向こうは帆がある分有利か……!」

「冗談じゃないわよ!あと一歩のところで~っ!」

「このままだと高飛びされかねない……なにか手段は……」

ダルモアに追いつけなかった事にナイアルとエステルは悔しがり、ヨシュアはダルモアに追いつく手段を考えたその時、上空からエンジン音が聞こえて来た。

 

「な、なに……?」

「……来た」

謎のエンジン音にエステルは不思議な顔をし、クローゼは静かに呟いた。するとエステル達のボートの上を大きな飛行船が飛んで行った。

 

「フン、逃げたはいいがこれからどうしたものか……やはり、軍の手が回る前にエレボニアに高飛びするしかないか。なに、しばらく我慢すれば『彼』が何とかしてくれる……」

一方逃亡が成功したと思ったダルモアは独り言を呟いた後、念の為に後ろを振り返ると大きな飛行船がダルモアのヨットに向かってきた。

 

「な、な、なああああああっ!?」

飛行船はダルモアのヨットの進路を塞ぐように着水した。飛行船が着水した衝撃でできた水飛沫により、ダルモアのヨットが停止した。

 

「な、な、な……うわあああっ!な、なんだこの飛行船は!王国軍の……いや、この紋章は……」

「……王室親衛隊所属、アルセイユ級高速巡洋艦一番艦『アルセイユ』。それがこの艦の名前だ。」

飛行船に彫ってある紋章を見て驚くダルモアに答えるように、飛行船から王室親衛隊員達を連れた女性士官が現れて答えた。

 

「やれやれ……何とか間に合ったみたいだな。」

「蒼と白の軍服……女王陛下の親衛隊だと!?」

女性士官の軍服……王室親衛隊の制服を見たダルモアは驚いて叫んだ。

 

「その通り。自分は中隊長を務めるユリア・シュバルツ。ルーアン市長モーリス・ダルモア殿……放火未遂、傷害、横領など諸々の容疑で貴殿を逮捕する。」

「これは夢だ……夢に決まっている……うーん、ブクブクブク……」

女性士官――ユリアの宣告にダルモアはショックを受けてヨットの上で気絶した。そのすぐあとにエステル達のボートが到着した。

 

「こ、これって……どうなっちゃってるの?」

「ジャンさんが連絡してくれた王国軍の応援だと思うけど……それにしては来るのが早すぎるような……」

「……ふふ………」

「おいおい、高速巡洋艦『アルセイユ』自らお出ましとは…こりゃ、ラッキーだったが…複雑だな、色々と。」

状況を見てエステルとヨシュアは驚き、クローゼはその後ろで静かに笑っていた。そして、王国が誇る『白い隼』の登場に面食らったのか驚きの表情を浮かべるナイアルだった。

 

「やあ、遊撃士の諸君。諸君の協力を感謝する。後のことは我々に任せてほしい。」

こうしてマーシア孤児院放火未遂事件とテレサ襲撃を命じた黒幕、ルーアン市長ダルモアは親衛隊員によって身柄を拘束された。ダルモアの身柄が拘束された後に、エステルとヨシュア、クローゼに連絡を貰ったレイアはルーアン発着場に向かいユリアからその後の話を聞いた。尚、エリィとトワには買い物をお願いしてある。

 

「先程、目を覚ました市長を問い詰めたのだが……どうやら記憶が曖昧になっているようだな。放火や強盗の犯行についてもぼんやりとしか覚えてないらしい。」

「そ、そうなんだ……なんか空賊の首領みたい……」

「あの黒装束たちといい何か関係があるかもしれないね(レイアの言葉も気になるけれど)。」

「また、ですか……」

ユリアの説明にエステルとヨシュアは顔を見合わせ、驚いた。レイアもその報告を聞いて少しため息をつき、その背後にいる『彼ら』を警戒した。

 

「まあ、記憶が曖昧と言っても起こした罪は明白だからな……秘書共々、厳重な取り調べが待っているのは言うまでもない。何か判明したら遊撃士協会にもお知らせしよう。」

「助かります。」

ユリアの言葉にヨシュアはお礼を言った。

 

「ところで中尉さん。1つお願いがあるんですがね。」

「なにかな、記者殿?」

「できれば俺も、そちらの船に乗せてくれませんかねぇ?何と言っても、ツァイス中央工房が世に送り出した『百日戦役』の功労者…その旗頭の飛行船だ。ぜひとも取材させて欲しいんですよ。」

「申しわけないがお断りさせていただこう。この『アルセイユ』は先日、メンテナンスが終わったばかりで最終試験飛行を行っている段階なのだ。」

「そ、そこを何とか!逮捕された市長や秘書からもコメントを貰いたいところだし……」

ナイアルがアルセイユの事を頼むもののユリアに断られるが、その言葉にナイアルは食い下がった。あの『百日戦役』で帝国軍を破った実績のある巡洋艦……記事のネタとしては、これ以上ないほどのものであることは確かだろう。

 

「心配せずとも、判明した事実は王都の通信社にもお伝えしよう。そのあたりで勘弁して欲しい。」

「はあ~、仕方ないか。よし、こうしちゃいられん!記事を書いたら大急ぎで王都に戻るしかっ!そんじゃあ、失礼するぜ!」

ユリアの答えを聞いたナイアルは諦めて溜息をついた後、その場を走り去った。

 

「相変わらず逞しいっていうか、めげないっていうか……」

「はは……でもナイアルさんらしいね。」

「そうだね……」

ナイアルの行動にエステルとヨシュア、レイアは苦笑した。転んでもただじゃ起きないその不屈さには感心させられる部分もあったりする。

 

「『リベール通信』の発行部数は最近うなぎ上りだと聞いている。彼には、プロパガンダに囚われない記事を書いて欲しいものだが……」

「政治的宣伝(プロパガンダ)……?」

「いや……」

首を傾げて気になった言葉を繰り返したヨシュアを見て、ユリアは顔を伏せた。そこにカノーネを連れたリシャールが現れた。

 

「お手柄だったようだね。シュバルツ中尉。」

「こ、これは大佐殿……!」

「ああっ!」

「リシャール大佐……」

「ほう、いつぞやの……。なるほど、ギルドの連絡にあった新人遊撃士、それにお付きの正遊撃士とは君たちのことだったか。」

リシャールはエステル達を見て頷いた。

 

「え……ジャンさんが連絡したのってリシャール大佐のことだったの?」

「ああ、王国軍の司令部があるレイストン要塞に連絡が入ってね。慌てて駆けつけてみればすでに事が終わっていたとはな。見事な手際だ、シュバルツ中尉。」

「は、恐縮です……」

「フフ、でも不思議ですこと。王都にいる親衛隊の方々がこんな所に来ているなんて……どうやら、我々情報部も知らない独自のルートをお持ちのようね?」

「お、お戯れを……」

「………」

カノーネの言葉にユリアは目をそらし、クローゼは目を閉じて何も言わなかった。

 

「はは、カノーネ大尉。あまり絡むものではないな。ただ、陛下をお守りする親衛隊が他の仕事をするのも感心はしない。後の調査は我々が引き継ぐからレイストン要塞に向かいたまえ。そこで、市長たちの身柄を預からせてもらうとしよう。」

「は……了解しました。」

「我々はこれで失礼するよ。親衛隊と遊撃士の諸君。それから制服のお嬢さん……」

「………………………………」

リシャールは一瞬クローゼに意味ありげな顔を向けて言った。顔を向けられたクローゼは何も言わず笑顔で会釈をした。

 

「……機会があったらまた会うこともあるだろう。それでは、さらばだ。」

「フフ、ごきげんよう。」

そしてリシャールはカノーネを連れて発着場から去った。

 

「気のせいかもしれないけど……リシャール大佐、クローゼの方を見ていなかった?」

「そ、そうでしょうか?」

「………確かに、こういう場所に君みたいな学生がいるのはあまりないことだろうからね。不思議に思われたのも無理ないよ。」

「あ、あはは……本当にそうですよね。ちょっと反省です……」

「うーん、そんな雰囲気じゃなかったような……」

「………」

ヨシュアの言葉にクローゼは苦笑し、エステルは腑に落ちていない様子だった。そして、レイアは目を伏せて黙って聞いていた。

 

「……自分に言わせれば君たちだって充分驚きの対象だ。いくら遊撃士とはいえその若さでここまで活躍するとは……できれば親衛隊にスカウトしたいくらいさ。」

「や、やだな~。そんなにおだてないで下さいよ。今度の事件だって色んな人に助けてもらったし。」

ユリアの賛辞にエステルは照れながら答えた。今回のことだってアガットやセシリア、レイアにトワにエリィといった面々の助けがなければ、此処まですんなりいくものではなかっただろう。

 

「そう謙遜するものではない。まだ準遊撃士のようだが正遊撃士は目指さないのかな?」

「あ、今ちょうどそれを目指して修行中なんです。」

「女王生誕祭が始まるまで一通り国内を回ってみるつもりです。」

ユリアの問いかけにエステルは今正遊撃士を目指して旅をしている最中であることを伝え、ヨシュアも同調するように答えを返した。

 

「そうか……自分も応援しているよ……ところで、“紫刃”…いや、レイア。久しいな。」

「久しぶりですね、ユリアさん。」

「って、知り合い!?」

「シオンと知り合った関係でね。クローディア姫やアリシア女王とも顔見知りだし。」

「へぇ~、レイアって凄いのね。」

「それは意外だね。」

「ふふっ、そうですね。」

ユリアの言葉にレイアも礼をして言葉を交わす……その光景にエステルは驚いて声を上げ、レイアは苦笑しつつも彼女だけでなく、アリシア女王やクローディア姫とも顔見知りであることを伝えると、エステルは感嘆し、ヨシュアも彼女の交友の広さに感心していた。そして、クローゼもその意外性に笑みを浮かべて頷いた。

 

「あはは……(ユリアさん、これを。シオンから話は聞いていると思いますが……)」

レイアは苦笑しつつも、三人が聞こえないように小声で話し、ユリアの懐に手紙を忍ばせた。

 

「ふむ、かなり強くなったようだな。王国にいる身としてこれほど嬉しいことはない(解った。あとで読ませてもらおう。)」

ユリアもレイアの事を褒めつつ、手紙の事については軽く頷き、返事をした。その時、アルセイユから親衛隊員がユリアを呼んだ。

 

「ユリア隊長!出航の準備が整いました。」

「ああ、わかった。エステル君、ヨシュア君、レイア……それとクローゼ君も。そろそろ我々は失礼する。機会があったらまた会おう。」

「あ、はい!」

「その時は宜しくお願いします。」

「頑張ってください!」

「……ありがとうございました。」

エステル達の別れの言葉を聞いたユリアは親衛隊員達が待つアルセイユのデッキに戻った。

 

「隊士一同、敬礼!」

ユリアがそう言うと、ファンファーレを鳴らしながら、親衛隊員達が敬礼をした。

 

「わわっ……」

「王室親衛隊所属艦、『アルセイユ』―――離陸(テイクオフ)!」

 

そしてアルセイユはエステル達に見送られ、飛び立って行った…………

 

 




……さて、原作を知る人ならば『順番が逆』だと気付くでしょう。

ええ、この章のタイトルである『アレ』をやりますw

しかも、ある意味豪華な登場人物達ですw

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